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第壱拾八話
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太陽は頂点より少し下辺りまで登った頃、私は空腹を覚えていた。でもまだ辺りには何も無い。そんな中彩雲に空腹を訴えるのは、流石に申し訳ないし失礼かなと思って黙っていた。だけどそんな遠慮とは裏腹に、私のお腹は空腹を伝えようと音を立ててしまった。
「あ……」
恥ずかしさと申し訳なさが入り交じって、私は顔が熱くなるのを感じながら、何も言わずに俯いた。
「星河お腹空いたの?」
「みゅ、みゅー…………」
恥ずかしい。唯ひたっすらに恥ずかしい。その上変な言葉まで出てしまったのだから、もう顔を上げられない。
そんな私の頭を撫でながら彩雲は笑った。
「生理現象だよ、仕方ない仕方ない。でもそうだね、己等もそろそろお腹空いてきたし、何か食べ物探してくるよ。」
ちょっと待っててと私をその場に降ろし、雷の音が聞こえると、彩雲の姿が消えて、少ししてまた現れた。その手には直前まで無かった筈の栗が幾つも乗っていた。
「栗が落ちてたから、焼いて食べよっか。」
「うん。」
焚火の準備をしないと。そう思った直後、足音が聞こえて振り返った。其処にはボロボロの一枚布を羽織った、覚束ない足取りで杖を突いて歩いている女の人がいた。
彩雲は私を引っ張ると、自分の後ろに私を隠した。
女の人は彩雲に気が付くと、杖を投げ捨てて走って来た。その形相があまりにも必死で、私は軽く恐怖していた。
ふと、女の人が何か言っている事に気が付いた。
「食べ物……食べ物!!」
あ、この人、彩雲が持ってる栗に気付いて走って来たんだ。
しかし、女の人は彩雲の目の前まで来た所で倒れてしまった。
まさか、まさか死んでしまった?そう心配していると、彩雲はしゃがんで女の人の首筋に指を当てて暫く黙っていた。
「あ、良かった生きてる。気を失っただけだ。」
そんな彩雲の一言を聞いて、安心して大きく息を吐いた。
「それにしても、如何しようかこの子。」
「大分お腹空いてる様子だったし、何か食べさせてあげよ?」
「そうだね。」
彩雲は栗を懐に入れて女の人を担ぐと、私を抱き上げた。
「や、私自分で歩くよ?」
「良いの良いの。」
自分で歩くと何回言っても、彩雲は遠慮しないでとか、もっと甘えて良いよとか言って、全く降ろす素振りを見せず、結局私が折れた。
少し歩いて川沿いに出ると、彩雲は私と女の人を芝生に降ろした。
「じゃあ焚火の為の枝集めて来るから、星河はその子診ててあげて。」
「分かった。」
彩雲は木の枝を集めて来ると、定期的に私の方を見てきた。
さて、その間私は何をしていよう。流石に彩雲に何もかも任せっぱなしは申し訳ないし。取り敢えず近くの落ち葉でも集めておこう。
木の枝、落ち葉、ある程度の物が揃って、さぁ焼こうと思ったけど、その時気付いた。
「彩雲、火は?」
火種になる様な物、一切持ち合わせていない。
「あー、大丈夫だよ。」
何か持ってるのかな。そう思ったけど、如何やら違うらしい。
彩雲は木の枝達に手を向けると、小さい雷を放った。
雷の熱で火種が出来ると、其処に落ち葉を置いたりして、少しずつ火を大きくしていった。そういえば確かに、雷が落ちた木が燃えたりするなぁ。
「さてと、焼こっか。」
栗に余った木の枝を刺して、火で炙っていると、段々と良い匂いがしてきた。
その直後、女の人が目を覚まして、凄い勢いで飛び起きてきた。あまりの凄さに、私は驚いて持っていた栗を落としてしまった。
女の人はその栗を拾い上げようと手を伸ばしたけど、その手が触れる直前に、彩雲が拾い上げてしまった。
「まだ焼けてないから、ちょっと待って。君の食べる分もあるから、安心して。」
優しい声で彩雲がそう言うと、女の人は落ち着いてその場に座った。
「あ……」
恥ずかしさと申し訳なさが入り交じって、私は顔が熱くなるのを感じながら、何も言わずに俯いた。
「星河お腹空いたの?」
「みゅ、みゅー…………」
恥ずかしい。唯ひたっすらに恥ずかしい。その上変な言葉まで出てしまったのだから、もう顔を上げられない。
そんな私の頭を撫でながら彩雲は笑った。
「生理現象だよ、仕方ない仕方ない。でもそうだね、己等もそろそろお腹空いてきたし、何か食べ物探してくるよ。」
ちょっと待っててと私をその場に降ろし、雷の音が聞こえると、彩雲の姿が消えて、少ししてまた現れた。その手には直前まで無かった筈の栗が幾つも乗っていた。
「栗が落ちてたから、焼いて食べよっか。」
「うん。」
焚火の準備をしないと。そう思った直後、足音が聞こえて振り返った。其処にはボロボロの一枚布を羽織った、覚束ない足取りで杖を突いて歩いている女の人がいた。
彩雲は私を引っ張ると、自分の後ろに私を隠した。
女の人は彩雲に気が付くと、杖を投げ捨てて走って来た。その形相があまりにも必死で、私は軽く恐怖していた。
ふと、女の人が何か言っている事に気が付いた。
「食べ物……食べ物!!」
あ、この人、彩雲が持ってる栗に気付いて走って来たんだ。
しかし、女の人は彩雲の目の前まで来た所で倒れてしまった。
まさか、まさか死んでしまった?そう心配していると、彩雲はしゃがんで女の人の首筋に指を当てて暫く黙っていた。
「あ、良かった生きてる。気を失っただけだ。」
そんな彩雲の一言を聞いて、安心して大きく息を吐いた。
「それにしても、如何しようかこの子。」
「大分お腹空いてる様子だったし、何か食べさせてあげよ?」
「そうだね。」
彩雲は栗を懐に入れて女の人を担ぐと、私を抱き上げた。
「や、私自分で歩くよ?」
「良いの良いの。」
自分で歩くと何回言っても、彩雲は遠慮しないでとか、もっと甘えて良いよとか言って、全く降ろす素振りを見せず、結局私が折れた。
少し歩いて川沿いに出ると、彩雲は私と女の人を芝生に降ろした。
「じゃあ焚火の為の枝集めて来るから、星河はその子診ててあげて。」
「分かった。」
彩雲は木の枝を集めて来ると、定期的に私の方を見てきた。
さて、その間私は何をしていよう。流石に彩雲に何もかも任せっぱなしは申し訳ないし。取り敢えず近くの落ち葉でも集めておこう。
木の枝、落ち葉、ある程度の物が揃って、さぁ焼こうと思ったけど、その時気付いた。
「彩雲、火は?」
火種になる様な物、一切持ち合わせていない。
「あー、大丈夫だよ。」
何か持ってるのかな。そう思ったけど、如何やら違うらしい。
彩雲は木の枝達に手を向けると、小さい雷を放った。
雷の熱で火種が出来ると、其処に落ち葉を置いたりして、少しずつ火を大きくしていった。そういえば確かに、雷が落ちた木が燃えたりするなぁ。
「さてと、焼こっか。」
栗に余った木の枝を刺して、火で炙っていると、段々と良い匂いがしてきた。
その直後、女の人が目を覚まして、凄い勢いで飛び起きてきた。あまりの凄さに、私は驚いて持っていた栗を落としてしまった。
女の人はその栗を拾い上げようと手を伸ばしたけど、その手が触れる直前に、彩雲が拾い上げてしまった。
「まだ焼けてないから、ちょっと待って。君の食べる分もあるから、安心して。」
優しい声で彩雲がそう言うと、女の人は落ち着いてその場に座った。
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