24 / 52
第5章
ただいま。またね。(3)
しおりを挟む
うう、大丈夫かなあ? 大臣に情報が伝わって、候補者選びに悪い影響が出ないといいんだけど……せっかくエンドから出られたのに、別の場所に捕まったりしないでしょうね?
不安を抱く一方で、あたしには思わぬ収穫もあった。ここからは奇跡のお話だ。
レオッカがシロクさんの腕を振り払った拍子に、その奇跡は起こっていた。
なんと、シロクさんのシャツの一番下のボタンが外れ、はだけたのだ。
露わになったのは、期待通りのシックスパック。我知らず、あたしは拳を握り締める。
やっ、やりましたよアニイセンパイ! 腹筋、バッキバキですぅーっ!
己の腹部に注がれる、焼き尽くすような熱い視線。それに気が付いたのか、シロクさんの獣耳がぴくりと動いた。そして速やかにシャツを直すと、こちらに向かって浅く頭を下げる。
「……すまない、マトリ。見苦しいものを見せてしまったな」
「と、とんでもないです! 逆に助かりましたというか、なんというか……でも、よかったんですか? あの万年筆、レオッカにあげちゃって……」
「……致し方ない。我が一家には『志を同じくする者には、協力すべし』という掟があるんだ。レオッカは、オレと同じく王子候補としてここにいる。きっかけはどうであれ、王子候補になるという覚悟を持った時点で、それはミグハルドの発展を願っているということだろう。ライドを……この国をより良くしたいという志は、我が一家と同じだ」
「そ……そうデスカ……」
そんな掟まであったとは。やはり忍一家、恐るべし。一体、あと何項目掟があるんだか。
ともかく、シロクさんが深く広く物事を捉えてくれるひとでよかったね、レオッカ。
「いいなあ、オレもこんな足に生まれたかったなー」
ナナシはシロクさんの右脚の甲を、ドアをノックするようにコンコン、と叩いた。
「……いや。これは生まれつきではない。おれも生まれたときは、ナナシと同じ普通の脚だったんだ」
「えっ! じゃあ、いつからこうなったの?」
「……子供の頃だ」
「なんで? もとの足は、どこいったの?」
「……悪魔女に吹き飛ばされた」
あたしは思わず「えぇっ?!」と大きな声を漏らした。ナナシと検査員から注目を浴び、慌てて口を押さえる。
「す、すみません、びっくりして……悪魔女って、あのライドの悪魔女ですよね? この国を乗っ取ろうとした、あの悪い魔女……」
「……ああ。昔の話になるが……ライドで悪魔女と直接対峙……戦った時、魔法でやられたんだ」
「そ、そうだったんですか……」
それっきり、あたしは何も言えなかった。
彼はずっと、悪魔女の支配していたライド区で、区民を守る組織に属してきた。二十一歳という年齢からして、まだ悪魔女が生きていた時代も乗り越えてきたのだ。当時のライド区の実情がどのようなものだったか、あたしは知らない。けれど、ライド区民であり、悪魔女と戦う道を選んだ時点で、常に彼の身が危険にさらされていたであろうということくらいは想像できる。
その中で、彼は右脚を失った。一区民の誰がいつ負傷した、なんて、教科書に書かれることはない。きっと、ニュースにすらならなかったんじゃないだろうか。少なくとも、あたしたちフロンド区民には、なにも知らされなかった。でも、これが現実なんだ……。
凄惨な過去を示す、右脚の輝き。あたしはその眩しさから視線をそらすように、固く目を閉じてしまった。
「……おれはもう長年、この身体で生きてきた。良い技師……つまりこの金属の脚を作る職人にも出会い、今では何も不自由……困った事はないんだ。だから、マトリがそんな顔をする必要はない」
「は、はい……」
シロクさんの諭すような声に、あたしは開眼する。シロクさんは僅かに右脚を引いた。銀色が、部屋のライトの光を反射して瞬く。それはまるで、ライド区民として生き抜いてきた彼の歴史がこぼした涙のように見えた。
これまで数日間行動を共にしてきたあたしが言われなければ気付かなかったほど、シロクさんはレンガ銀の脚を自分のものにしている。ここまでくるのには、きっと大変な努力をしたんだろう。
「おれ、シロクの脚、かっこよくてスキだな!」
弾むような声でそう言うと、ナナシは「にっ」と笑った。シロクさんは一瞬間を開けたあと、「……そうか」とつぶやくように言い、ゆっくりと瞬きをする。
あたしはほっとした気持ちで、ふたりを見つめた。
自由で空気を読まないナナシのおかげで、あたしが深刻にしてしまった場が和やかになった。シロクさんは、自分の話であたしが落ち込むことなんて、望んではいなかったに違いない。
それを察したのか天然なのかは分からないけれど、言葉を選んでしまうあたしなんかには、到底かなわない感覚をナナシは持っている。旅の途中、奔放な彼の行動に戸惑うことも多かったけれど、本当に暖かくて優しい子だと改めて思う。
「あのーう……そろそろお着替えの方を進めていただきたいのですが……」
部屋の隅に身を寄せていた案内係が、恐る恐る声をかけてくる。
あたしは今さら部屋を出て行くのもおかしい気がして、ナナシの着替えを手伝うことにした。シロクさんも手早く自分の衣装を整える。すでに着替え終わっているレオッカは、壁際のテーブルでたくさんの実験器具のようなもの使ってお楽しみ中だ。
ナナシの着替えが完了すると、あたしは感嘆を漏らした。
黒いシックなスーツに身を包んだ彼は、いつもよりずっと男性的に見えて見違える。
「えー、この服変だよ。なんか苦しいし、嫌だなー」
本人はお気に召さないようだけど、あたしはよく似合ってると思う。
さらに似合っていたのはシロクさんだ。
その姿は、休憩用のお茶とお菓子を運んできてくれたメイド服姿の女性までも、彼を見るなり頬を染めていたほどだ。
堅い装いは、彼の持つシャープかつスマートな外的特徴をさらに引き上げ、高貴な空気さえ漂わせていた。さらに、ウエストの絞られたデザインが、筋肉質で引き締まったバランスの良い体躯を際立たせて見せている。
メイド服の女性は、小さなパンケーキの上にフルーツとクリームが盛られたものがいくつか乗ったお皿を音も立てずにテーブルに置いた。彼女はパンケーキに飛び付くナナシを見てくすりと笑うと、シロクさんに甘美な視線を送ってから、お辞儀をして部屋を出て行った。
案内係が硬く笑みながら歩み寄ってくる。
「お荷物は、こちらに置いていって下さいね。では皆様。これより白の地に――……」
コツ、コツ。
ノックの音と共に、「失礼」という低い声が聞こえた。木製のドアが開かれ、大臣が現れる。
あたしの身体は自然に立ち上がり、背筋を伸ばした。
ななななんで大臣が? 急に重役登場って、ちょっと心臓に悪いんですけど!
「……ご苦労だったな、マトリ・シュマイルズ」
「は……はいっ」
大臣はあたしに視線をくれたあと、ナナシ、シロクさん、レオッカの顔を、順番にゆっくりと見つめる。
「ようこそ、王子候補諸君。わたしはミグハルド王国の大臣を務めるミハイドン・カイファーだ」
「おうじこうほしょくん、って?」
無垢なナナシを無視して、大臣は続ける。
「諸君には、このあと『白の地』にて、祓いの儀を行ってもらうことになっているのだが……その前に、シロク君。これからきみにはわたしと共に、別室に来てもらいたい。ナナシ君とレオッカ君は、我々が戻るまで――そうだな、おそらく2、30分程度だ。マトリ・シュマイルズとここで待っていてくれたまえ」
あたしはその言葉に疑問を感じ、それを大臣に投げかけた。
「え……? 待ってください。別室……って、シロクさんだけ、何でですか?」
「マトリ・シュマイルズ。きみには関係のないことだ」
「か、関係ない、って……」
何? その引っかかる言い方。不信感を持ち、シロクさんを隠すように彼の前に立つ。
「彼は、あたしの探してきた王子様候補です。関係ないことはないと思いますけど……」
後ろから、落ち着いた声が聞こえてくる。あたしにしか聞こえないような、小さな声だ。
「……マトリ、案ずるな。彼から殺気は感じない。これが試験の一環ならば、従うのみだ」
シロクさんは自ら歩を進め、大臣と一緒に部屋を出て行った。
不安を抱く一方で、あたしには思わぬ収穫もあった。ここからは奇跡のお話だ。
レオッカがシロクさんの腕を振り払った拍子に、その奇跡は起こっていた。
なんと、シロクさんのシャツの一番下のボタンが外れ、はだけたのだ。
露わになったのは、期待通りのシックスパック。我知らず、あたしは拳を握り締める。
やっ、やりましたよアニイセンパイ! 腹筋、バッキバキですぅーっ!
己の腹部に注がれる、焼き尽くすような熱い視線。それに気が付いたのか、シロクさんの獣耳がぴくりと動いた。そして速やかにシャツを直すと、こちらに向かって浅く頭を下げる。
「……すまない、マトリ。見苦しいものを見せてしまったな」
「と、とんでもないです! 逆に助かりましたというか、なんというか……でも、よかったんですか? あの万年筆、レオッカにあげちゃって……」
「……致し方ない。我が一家には『志を同じくする者には、協力すべし』という掟があるんだ。レオッカは、オレと同じく王子候補としてここにいる。きっかけはどうであれ、王子候補になるという覚悟を持った時点で、それはミグハルドの発展を願っているということだろう。ライドを……この国をより良くしたいという志は、我が一家と同じだ」
「そ……そうデスカ……」
そんな掟まであったとは。やはり忍一家、恐るべし。一体、あと何項目掟があるんだか。
ともかく、シロクさんが深く広く物事を捉えてくれるひとでよかったね、レオッカ。
「いいなあ、オレもこんな足に生まれたかったなー」
ナナシはシロクさんの右脚の甲を、ドアをノックするようにコンコン、と叩いた。
「……いや。これは生まれつきではない。おれも生まれたときは、ナナシと同じ普通の脚だったんだ」
「えっ! じゃあ、いつからこうなったの?」
「……子供の頃だ」
「なんで? もとの足は、どこいったの?」
「……悪魔女に吹き飛ばされた」
あたしは思わず「えぇっ?!」と大きな声を漏らした。ナナシと検査員から注目を浴び、慌てて口を押さえる。
「す、すみません、びっくりして……悪魔女って、あのライドの悪魔女ですよね? この国を乗っ取ろうとした、あの悪い魔女……」
「……ああ。昔の話になるが……ライドで悪魔女と直接対峙……戦った時、魔法でやられたんだ」
「そ、そうだったんですか……」
それっきり、あたしは何も言えなかった。
彼はずっと、悪魔女の支配していたライド区で、区民を守る組織に属してきた。二十一歳という年齢からして、まだ悪魔女が生きていた時代も乗り越えてきたのだ。当時のライド区の実情がどのようなものだったか、あたしは知らない。けれど、ライド区民であり、悪魔女と戦う道を選んだ時点で、常に彼の身が危険にさらされていたであろうということくらいは想像できる。
その中で、彼は右脚を失った。一区民の誰がいつ負傷した、なんて、教科書に書かれることはない。きっと、ニュースにすらならなかったんじゃないだろうか。少なくとも、あたしたちフロンド区民には、なにも知らされなかった。でも、これが現実なんだ……。
凄惨な過去を示す、右脚の輝き。あたしはその眩しさから視線をそらすように、固く目を閉じてしまった。
「……おれはもう長年、この身体で生きてきた。良い技師……つまりこの金属の脚を作る職人にも出会い、今では何も不自由……困った事はないんだ。だから、マトリがそんな顔をする必要はない」
「は、はい……」
シロクさんの諭すような声に、あたしは開眼する。シロクさんは僅かに右脚を引いた。銀色が、部屋のライトの光を反射して瞬く。それはまるで、ライド区民として生き抜いてきた彼の歴史がこぼした涙のように見えた。
これまで数日間行動を共にしてきたあたしが言われなければ気付かなかったほど、シロクさんはレンガ銀の脚を自分のものにしている。ここまでくるのには、きっと大変な努力をしたんだろう。
「おれ、シロクの脚、かっこよくてスキだな!」
弾むような声でそう言うと、ナナシは「にっ」と笑った。シロクさんは一瞬間を開けたあと、「……そうか」とつぶやくように言い、ゆっくりと瞬きをする。
あたしはほっとした気持ちで、ふたりを見つめた。
自由で空気を読まないナナシのおかげで、あたしが深刻にしてしまった場が和やかになった。シロクさんは、自分の話であたしが落ち込むことなんて、望んではいなかったに違いない。
それを察したのか天然なのかは分からないけれど、言葉を選んでしまうあたしなんかには、到底かなわない感覚をナナシは持っている。旅の途中、奔放な彼の行動に戸惑うことも多かったけれど、本当に暖かくて優しい子だと改めて思う。
「あのーう……そろそろお着替えの方を進めていただきたいのですが……」
部屋の隅に身を寄せていた案内係が、恐る恐る声をかけてくる。
あたしは今さら部屋を出て行くのもおかしい気がして、ナナシの着替えを手伝うことにした。シロクさんも手早く自分の衣装を整える。すでに着替え終わっているレオッカは、壁際のテーブルでたくさんの実験器具のようなもの使ってお楽しみ中だ。
ナナシの着替えが完了すると、あたしは感嘆を漏らした。
黒いシックなスーツに身を包んだ彼は、いつもよりずっと男性的に見えて見違える。
「えー、この服変だよ。なんか苦しいし、嫌だなー」
本人はお気に召さないようだけど、あたしはよく似合ってると思う。
さらに似合っていたのはシロクさんだ。
その姿は、休憩用のお茶とお菓子を運んできてくれたメイド服姿の女性までも、彼を見るなり頬を染めていたほどだ。
堅い装いは、彼の持つシャープかつスマートな外的特徴をさらに引き上げ、高貴な空気さえ漂わせていた。さらに、ウエストの絞られたデザインが、筋肉質で引き締まったバランスの良い体躯を際立たせて見せている。
メイド服の女性は、小さなパンケーキの上にフルーツとクリームが盛られたものがいくつか乗ったお皿を音も立てずにテーブルに置いた。彼女はパンケーキに飛び付くナナシを見てくすりと笑うと、シロクさんに甘美な視線を送ってから、お辞儀をして部屋を出て行った。
案内係が硬く笑みながら歩み寄ってくる。
「お荷物は、こちらに置いていって下さいね。では皆様。これより白の地に――……」
コツ、コツ。
ノックの音と共に、「失礼」という低い声が聞こえた。木製のドアが開かれ、大臣が現れる。
あたしの身体は自然に立ち上がり、背筋を伸ばした。
ななななんで大臣が? 急に重役登場って、ちょっと心臓に悪いんですけど!
「……ご苦労だったな、マトリ・シュマイルズ」
「は……はいっ」
大臣はあたしに視線をくれたあと、ナナシ、シロクさん、レオッカの顔を、順番にゆっくりと見つめる。
「ようこそ、王子候補諸君。わたしはミグハルド王国の大臣を務めるミハイドン・カイファーだ」
「おうじこうほしょくん、って?」
無垢なナナシを無視して、大臣は続ける。
「諸君には、このあと『白の地』にて、祓いの儀を行ってもらうことになっているのだが……その前に、シロク君。これからきみにはわたしと共に、別室に来てもらいたい。ナナシ君とレオッカ君は、我々が戻るまで――そうだな、おそらく2、30分程度だ。マトリ・シュマイルズとここで待っていてくれたまえ」
あたしはその言葉に疑問を感じ、それを大臣に投げかけた。
「え……? 待ってください。別室……って、シロクさんだけ、何でですか?」
「マトリ・シュマイルズ。きみには関係のないことだ」
「か、関係ない、って……」
何? その引っかかる言い方。不信感を持ち、シロクさんを隠すように彼の前に立つ。
「彼は、あたしの探してきた王子様候補です。関係ないことはないと思いますけど……」
後ろから、落ち着いた声が聞こえてくる。あたしにしか聞こえないような、小さな声だ。
「……マトリ、案ずるな。彼から殺気は感じない。これが試験の一環ならば、従うのみだ」
シロクさんは自ら歩を進め、大臣と一緒に部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
とある中年男性の転生冒険記
うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
お題小説
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
ある時、瀕死の状態で助けられた青年は、自分にまつわる記憶の一切を失っていた…
やがて、青年は自分を助けてくれたどこか理由ありの女性と旅に出る事に…
行く先々で出会う様々な人々や奇妙な出来事… 波瀾に満ちた長編ファンタジーです。
※表紙画は水無月秋穂様に描いていただきました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる