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再会
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ディアドリは街を歩きながら求人募集の貼り紙がないかを探した。
前の街では商店などの扉にそれが貼ってあることが多かったから。
「なかなか無いなぁ」
うろうろと歩いて駅前の花壇の煉瓦に座り込んだ。
露店からは揚げ芋の油の匂いがぷんと漂ってきて、それを買う親子連れに視線が引き寄せられる。
昔は自分もああやって父に買ってもらってたな、と思い出す。
適当な大きさに切った芋を素揚げして、バターを落として食べるそれはホクホクしてバターがジュワっと染みてとても美味しい。
あまりにじっと見つめ過ぎたのか、揚げ芋屋の親父と目が合ってディアドリはもぞもぞと尻を動かして方向転換した。
そして、ふと駅のゴミ箱に目が止まった。
新聞が捨ててある。
求人載ってるかな、ディアドリはゴミ箱から新聞を取り出して広げた。
一面には『プルート家のご令嬢見つかる!!』と大々的に報じていた。
プルート家という家のご令嬢が誘拐されたが、無事見つかり犯人も逮捕されたという記事だった。
ふぅんと読み進めて『トルナード部長刑事大活躍!』の文字とともに知った顔があった。
「あの海のやつ刑事だったのか」
あぁだから自分が自殺するかも、と止めに入ったのか。
ただのお人好しかと思ったけど、仕事だからかとディアドリは納得した。
それから求人募集の記事を読み込む。
どれも十八歳以上の募集だ。
しかも『性証明書』が必要、と書いてある。
肉屋は父の紹介で働き出したのでそんなものは必要なかった。
普通は証明書がいるのか、どこでもらえるんだろうか。
それには金がかかるんだろうか。
胸ポケットの財布をギュッと握って、無駄遣いはしたくないと思う。
「上手くいかないもんだな」
ずっと煉瓦に座っていたので尻が痛い。
証明書のいらない職場、探せばあるかもしれない。
新聞に載せるくらいの職場はきっと大きいところだからどこか小さな商店とか、海に近いから船の荷下ろしとかあるかもとディアドリは立ち上がった。
「ひったくりよぉーー!」
立ち上がったディアドリの耳に入る甲高い大きな声。
そちらを見ると一人の男がこちらに向かって猛然と駆けてくる。
「捕まえてーーー!」
と言うので、ディアドリはちょうど目の前に来た男の足を引っ掛けた。
まんまと引っかかった男がごろんごろんと二回転して止まったと同時に笛の音が聞こえてきた。
制服警官が二人、笛を吹きながら駆けて来るのを見てディアドリはその場を後にした。
警察なんかに関わっていい事なんてない。
見捨てた父のことが露見したら、そう思うとディアドリの足も知らず早くなる。
すたすたと潮の香りが強い方へと歩く。
街の中心を抜けて大きな木戸を抜けるとそこは港だった。
大小の船が停泊し、一際大きな船には『パブリック号』と書いてあった。
屈強な男たちがパブリック号から荷を下ろしている。
木箱には羊の絵が書いてあるから羊肉かもしれない。
ということは冷凍船か、とディアドリは船を横目に港の中を歩く。
どこに行けばいいのかなぁ、港湾労働組合かそれとも波止場の持ち主か?
いやその前に、あのでかい木箱を自分に下ろせるのか?
無理な気がする、とディアドリは落ち込みとぼとぼとその場を後にした。
自分にできることってなんだろうか、下級学校はかろうじて卒業したので読み書きと簡単な四則演算ならできる。
「それだけじゃぁ、駄目だよなぁ」
結局、元の駅前の花壇の前に帰って来てしまった。
腰を下ろして鞄から硬いパンを出して食べる。
道行く人は皆、行先があるんだろうなと思うと今の自分が惨めで仕方ない。
今日のところは先に簡易宿泊所を探そうかな、とパンをしまって立ち上がったところで肩を叩かれた。
「君、探したよ」
「え?」
「ひったくりを転ばしたのは君だろう?おかげで捕まえることができたよ」
ニコリと笑う制服警官にディアドリの顔は強ばる。
なぜ、どうしてと言葉にならない。
「揚げ芋屋が見てたんだよ。それで、今また君が現れたって」
チラと揚げ芋屋を見ても親父は知らん顔で芋を揚げている。
ディアドリはぎゅうと鞄を抱え込み、つま先を見つめた。
ボロボロの擦り切れた靴。
茶色だったそれは今は白茶けていて粉を吹いているようだった。
「あのね、別に君をどうこうしようってんじゃないよ?あの鞄を取り返したご婦人がね、君に礼をしたいって」
「そ、そんなのいりません!」
俯いたまま声をあげて、じりじりと後退する。
早くここから去らなければ、そればっかりが頭の中をぐるぐると回る。
距離を詰めてくる警官から逃げるように踵を返すとぽすっと抱きとめられた。
「今度はちゃんと捕まえた」
は?と見上げるとあの海で出会った男が見下ろして笑んでいた。
「あ、あんた・・・」
「覚えててくれたんだね。あんな別れ方をしたからずっと気になってて」
あんなってなんだ、なんか関係があるみたいじゃないか。
制服警官の視線が疑問に満ちていて嫌になる。
「トルナードさん、あの・・・」
「あぁ、グリーン婦人のところへは私が連れて行くよ。君は署に戻っていいよ」
それだけ言うと、行こうかと肩を掴まれた。
逃げられない。
なんだかお尻がもぞもぞして落ち着かない。
はぁ、とディアドリは諦めて一歩踏み出した。
前の街では商店などの扉にそれが貼ってあることが多かったから。
「なかなか無いなぁ」
うろうろと歩いて駅前の花壇の煉瓦に座り込んだ。
露店からは揚げ芋の油の匂いがぷんと漂ってきて、それを買う親子連れに視線が引き寄せられる。
昔は自分もああやって父に買ってもらってたな、と思い出す。
適当な大きさに切った芋を素揚げして、バターを落として食べるそれはホクホクしてバターがジュワっと染みてとても美味しい。
あまりにじっと見つめ過ぎたのか、揚げ芋屋の親父と目が合ってディアドリはもぞもぞと尻を動かして方向転換した。
そして、ふと駅のゴミ箱に目が止まった。
新聞が捨ててある。
求人載ってるかな、ディアドリはゴミ箱から新聞を取り出して広げた。
一面には『プルート家のご令嬢見つかる!!』と大々的に報じていた。
プルート家という家のご令嬢が誘拐されたが、無事見つかり犯人も逮捕されたという記事だった。
ふぅんと読み進めて『トルナード部長刑事大活躍!』の文字とともに知った顔があった。
「あの海のやつ刑事だったのか」
あぁだから自分が自殺するかも、と止めに入ったのか。
ただのお人好しかと思ったけど、仕事だからかとディアドリは納得した。
それから求人募集の記事を読み込む。
どれも十八歳以上の募集だ。
しかも『性証明書』が必要、と書いてある。
肉屋は父の紹介で働き出したのでそんなものは必要なかった。
普通は証明書がいるのか、どこでもらえるんだろうか。
それには金がかかるんだろうか。
胸ポケットの財布をギュッと握って、無駄遣いはしたくないと思う。
「上手くいかないもんだな」
ずっと煉瓦に座っていたので尻が痛い。
証明書のいらない職場、探せばあるかもしれない。
新聞に載せるくらいの職場はきっと大きいところだからどこか小さな商店とか、海に近いから船の荷下ろしとかあるかもとディアドリは立ち上がった。
「ひったくりよぉーー!」
立ち上がったディアドリの耳に入る甲高い大きな声。
そちらを見ると一人の男がこちらに向かって猛然と駆けてくる。
「捕まえてーーー!」
と言うので、ディアドリはちょうど目の前に来た男の足を引っ掛けた。
まんまと引っかかった男がごろんごろんと二回転して止まったと同時に笛の音が聞こえてきた。
制服警官が二人、笛を吹きながら駆けて来るのを見てディアドリはその場を後にした。
警察なんかに関わっていい事なんてない。
見捨てた父のことが露見したら、そう思うとディアドリの足も知らず早くなる。
すたすたと潮の香りが強い方へと歩く。
街の中心を抜けて大きな木戸を抜けるとそこは港だった。
大小の船が停泊し、一際大きな船には『パブリック号』と書いてあった。
屈強な男たちがパブリック号から荷を下ろしている。
木箱には羊の絵が書いてあるから羊肉かもしれない。
ということは冷凍船か、とディアドリは船を横目に港の中を歩く。
どこに行けばいいのかなぁ、港湾労働組合かそれとも波止場の持ち主か?
いやその前に、あのでかい木箱を自分に下ろせるのか?
無理な気がする、とディアドリは落ち込みとぼとぼとその場を後にした。
自分にできることってなんだろうか、下級学校はかろうじて卒業したので読み書きと簡単な四則演算ならできる。
「それだけじゃぁ、駄目だよなぁ」
結局、元の駅前の花壇の前に帰って来てしまった。
腰を下ろして鞄から硬いパンを出して食べる。
道行く人は皆、行先があるんだろうなと思うと今の自分が惨めで仕方ない。
今日のところは先に簡易宿泊所を探そうかな、とパンをしまって立ち上がったところで肩を叩かれた。
「君、探したよ」
「え?」
「ひったくりを転ばしたのは君だろう?おかげで捕まえることができたよ」
ニコリと笑う制服警官にディアドリの顔は強ばる。
なぜ、どうしてと言葉にならない。
「揚げ芋屋が見てたんだよ。それで、今また君が現れたって」
チラと揚げ芋屋を見ても親父は知らん顔で芋を揚げている。
ディアドリはぎゅうと鞄を抱え込み、つま先を見つめた。
ボロボロの擦り切れた靴。
茶色だったそれは今は白茶けていて粉を吹いているようだった。
「あのね、別に君をどうこうしようってんじゃないよ?あの鞄を取り返したご婦人がね、君に礼をしたいって」
「そ、そんなのいりません!」
俯いたまま声をあげて、じりじりと後退する。
早くここから去らなければ、そればっかりが頭の中をぐるぐると回る。
距離を詰めてくる警官から逃げるように踵を返すとぽすっと抱きとめられた。
「今度はちゃんと捕まえた」
は?と見上げるとあの海で出会った男が見下ろして笑んでいた。
「あ、あんた・・・」
「覚えててくれたんだね。あんな別れ方をしたからずっと気になってて」
あんなってなんだ、なんか関係があるみたいじゃないか。
制服警官の視線が疑問に満ちていて嫌になる。
「トルナードさん、あの・・・」
「あぁ、グリーン婦人のところへは私が連れて行くよ。君は署に戻っていいよ」
それだけ言うと、行こうかと肩を掴まれた。
逃げられない。
なんだかお尻がもぞもぞして落ち着かない。
はぁ、とディアドリは諦めて一歩踏み出した。
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