上 下
25 / 35

雨の贈り物

しおりを挟む
蛍光灯の明かりで逆光になって暗いが朝陽の顔がみるみる赤くなっていくのがわかった。
あ、あ、と二の句が告げないのをなんだか可愛いなと思う。

「したい?したくない?」
「そりゃ、して、けど」
「ん、わかった。準備してくるからどいて」

覆い被さる大きな胸を押すとすんなりとどいてくれた。
よいしょと身を起こして見ると正座して縮こまっていてそれもまたなんだかな、と思う。
二段ベッドの上段の衣装ケースにはローションもゴムも準備のなにもかもが置き土産のように置いてある。
部屋を出る前に見ると朝陽はまだ正座したままだった。


静まり返ったトイレの個室で思い出されるのは、あの海だ。
一瞬だけ触れた唇に驚いた、男相手にそんなことができるのかと。

「いい感じじゃーん」

コスタリカーナでみゃーちゃんはそう言った。
黒くならずに赤くなるだけの肌は隠しようもなく洗いざらい吐かされた。

「なっちはなにが駄目なの?」
「なにがって言うか、あいつはもうすぐ第一寮に帰るんだよ」
「離れて寂しいって?」
「違う、そうなったら接点なんて無いってこと。初めて見たゲイのことなんてすぐに忘れるよ」
「ふぅん、じゃさ忘れないうちに一発ヤっといたら?」

みゃーちゃんは人差し指と親指で作った輪っかにもう片方の人差し指をズボズボ突き刺した。
なんでそうなんの?と呆れた声が出る。

「朝陽くんにとってなっちが最初で最後の男になるじゃん」
「んなの別に嬉しかないわ。それ言うなら先輩だって僕がそうだと思うし」
「なっち、男運ないよねー」
「みゃーちゃんに言われたくない」
「ほんとに嫌ならうぜぇ、ばーか、ぶーすって言えばいいじゃん」
「ブスではない」

そこなんだ、とみゃーちゃんはケラケラ笑う。
嫌じゃない、ただ困るんだ。
あんなに真っ直ぐな思いをぶつけられても返せるものが何もない。
窮屈な肩身の狭い思いをしてほしくない、いつでもいつまでもキラキラ輝いてほしい。
そしていつか自分のことは若気の至りだったなぁ、と酒を飲みながら笑い話にでもしてほしい。

「なっち、今年の誕生日どうすんの?またご飯行く?奢ってあげるよ」
「んー、どうしようかな」

大学一年目は先輩と、二年目はみゃーちゃんとママ、三年目の今年はどうしよう。
誕生日に祝われるというのは、生まれてきて良かったねと言われているようで嬉しい。
こんな自分でも受け入れてもらえるという場所が、それを祝ってもらえる事実が嬉しい。

「なっち、好きな人が自分のこと好きってすごいことだよ」
「そんなんじゃないってば」
「相手の気持ちは信じなくてもいいけど、自分の気持ちは信じてあげようよ」

そんなの可哀想だよ、そう言ってみゃーちゃんは寂しそうに眉を伏せた。
苦い恋なんていうものはマイノリティに限ったことじゃなくて、誰にでも訪れる可能性がある。
可哀想可哀想と哀れんでみても立ち止まっている限り、その先へは行けない。
空は広くずっと続いている、そう気づけたのに。

「久しぶりだけど、意外といけるもんだな」

後孔には自分の指が三本入っている。
気持ちいいのか悪いのか、もうよくわからない。
ただ、柔らかく解して広げるのに必死だった。
雨が降らなければきっとこんなことにはなってなかっただろう。
今年のプレゼントはこの雨なのだ。


尻に若干の違和感を感じながら部屋に戻ると朝陽がまだ正座していた。
結構待たせてしまったと思うんだけれど大丈夫だろうか?

「朝陽?」
「あ、なち、ごめ、ごめん、違う、そんなつもりじゃ」

慌てふためいた朝陽が立とうとするが、足が痺れたのかその場に倒れた。

「ほんま阿呆やな。まぁ、ちょうどええから寝とき」

ローションやらなんやら入ったビニール袋を置いて、朝陽を仰向けにするとそのままハーフパンツを下着と共に下ろした。
当たり前だが全く反応してないそこに苦笑する。
いやしかし、手持ちのゴムでこれはいけるのだろうか。

「朝陽、ゴム持ってる?」
「いや、なち?もうやめよう。そういうんじゃないんだ」
「どうせ、財布とかに入れてるんやろ」

朝陽の黒のボディバッグの中の財布を検めると案の定ひとつ忍ばせてあった。
さすがモテ男くん、那智はひっそりと笑って朝陽に向き合った。

「目ぇ瞑っとき」

なぜか少し兆してきたそこを軽く扱き、舌を這わせた。
双玉は重くやわやわと揉みしだきながら、亀頭と裏筋は丁寧に舐めた。
鈴口を舌先で刺激し零れてきたカウパーを舐め取り、尿道をちゅうと吸い上げた。
舌を絡めながらゆっくり口に含んで動くと朝陽のそれが完全に勃ちあがった。
硬く芯を持っているし、これならいけそうと思うが果たして予想より大きいこれが入るのだろうか。

「なち・・・」
「ん、ちょっと待って」

こういうのは勢いだと思う、ゴムをつけて跨って一気に腰を下ろす。
舐めている間それだけを頭の中で必死で考えていた。
だから朝陽がどんな顔をしていたのか知らないし、何を言っていたのかも耳に入ってこなかったんだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】催眠なんてかかるはずないと思っていた時が俺にもありました!

隅枝 輝羽
BL
大学の同期生が催眠音声とやらを作っているのを知った。なにそれって思うじゃん。でも、試し聞きしてもこんなもんかーって感じ。催眠なんてそう簡単にかかるわけないよな。って、なんだよこれー!! ムーンさんでも投稿してます。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

同情で付き合ってもらっていると勘違いして別れを切り出す話

よしゆき
BL
告白するときに泣いてしまって、同情で付き合ってもらっていると勘違いしている受けが別れを切り出す話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】波間に揺れる

谷絵 ちぐり
BL
生まれ変わってもあなたを好きになる。 ※全五話 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※緩い設定ですので、細かいことが気になる方はご注意ください

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...