15 / 35
それはなんていうか浪漫です
しおりを挟む
部活を終えて急勾配を登って見上げた寮部屋に明かりはついていなかった。
まだ帰ってないのか、それともまた帰らないつもりなのか。
朝陽は頭を振って、ただいま帰りましたーとその扉を開けた。
おかえりーと寮監室から顔を出した雨森に那智のことを聞いてみる。
「なち、帰ってきました?」
「えー、どうだろ。靴箱見たら?だいたいその端っこのとこ使ってるよ」
見れば白とグレーのしましまのスリッパが置いてあった。
その隣にはショートブーツとサンダルがある。
なちは今日スニーカーだったから、帰ってないんだなと思った。
「月城くん、ご飯食べるでしょ?」
「いただきます」
「ラップかけてあるからチンして食べて。味噌汁は自分で温めてね」
はーい、と返事して食堂で一人で食べた。
なんだか味気ない、那智と食べたご飯は美味しかったなと黙々と食事を終えた。
その夜、那智は遅くに帰ってきた。
アルコールの匂いが薄ら臭うのでバイト上がりなのかもしれない。
その前髪にヘアピンは無い。
「おかえり、なち」
「・・・ただいま」
「シャワー行く?」
ふんっと鼻を鳴らして那智は昼間買ったTシャツが入った袋とプラ籠の風呂セットを持って無言で部屋を出ていった。
スマホの準備をして待とう、スマホカメラを起動して武士のように座して待つ。
目を閉じて耳を澄ませて、心の中を落ち着かせながらカウントダウンする。
パタパタとスリッパの音が聞こえて、あれは階段を二段飛ばしで登ってるようだ、一瞬乱れた足音は足を滑らせたのかもしれない。
大きくなる足音にスマホを構えて、すかさず撮る!撮る!撮る!
「なにしてくれとんじゃー~ーっこれっなんやねん!」
湿った髪をオールバックにして、怒りに滲んだ目は薄ら膜が張っており手に持ったプラ籠はガシャンと音を立てて床に落ちた。
「んー、彼シャツ?」
「スマホを下ろせー!」
「シーー~っ」
朝陽は人差し指を那智の唇スレスレに持っていき、もう遅いよと小さく言った。
ビクッと肩を揺らした拍子に肩からTシャツがずり落ちる。
XLのそれは那智にはだいぶ大きい、裾は膝上まであってハーフパンツが少しだけ覗いていた。
「俺さ、何回も聞いたよね?」
「そ、やけど、まさかこん、こんなんやと思わへんやろ・・・てか、写真撮った?」
「撮った」
「消せ、今、すぐ、ここで!僕の目の前で消せ!」
「いいよ」
ホッと息を吐く那智は、ずずいと朝陽に詰め寄った。
視線はスマホを持つ朝陽の手元に注がれている。
「早くして」
「これを消す代わりに連絡先の交換しよ」
「嫌」
「じゃ、消さない。明日、友だちに見せよっと。なちが彼シャツ着てくれたって」
「この、、卑怯者が・・・。いや、別にええんちゃう?男がちょっとサイズの合わへんTシャツ着てるだけやもんな」
「そうだな。じゃ、ロック画面にしよう」
ひどい、と那智は泣き崩れた。
両手で顔を覆い、うっうっと唸りながら座り込む。
「あ、なち、なち?」
「うっうぅっ、嫌がることするなんてひどいよ・・・」
ごめんやり過ぎた、と傍に寄り背中を撫でさすろうとする朝陽の隙をついて那智はスマホを奪った。
「ばーかばーか」
「っ嘘泣きとか卑怯だぞ!」
「どっちが」
スマホを操作しようとする手元のスマホを上からひょいと朝陽が取り上げる。
「あ、ずるいぞ」
「どこが」
「身長差あるやん!」
「俺が俺のを取り返すのにずるいも何もないだろ」
ぐぬぬと真っ赤な顔した那智がジャンプして高く掲げられたスマホを奪おうとするが、あと一歩届かない。
ほーらほーら、とゆらゆら揺らしながら逃げる朝陽を那智は追いかける。
狭い部屋の中をくるくると回りながら、待て待たないと言い合う。
「簡単だろ?ちょっとフリフリするだけ」
「だって、絶対しょうもないメッセージ送ってくるやろ」
「すごい、よくわかってんね」
「わからいでか」
なぜか得意気な那智の声に朝陽はくるりと振り向いた。
わぷっと勢いで飛び込んできた那智を抱きとめる。
「急に止まんなや、鼻折れるやんけ」
「んなわけないだろ。なち、連絡先教えて?」
「・・・嫌や。離せ」
「お願い。じゃないとこのまま背骨を折る」
「・・・しょうもないメッセージ送るなや」
「しょうもなくなかったらいい?」
「ああ言えばこう言う」
必死なんだよ、と言う朝陽の声音に那智は声を上げて笑った。
釣られて笑った朝陽が、相性いいじゃんと言う。
調子のんな、と叩かれた胸のドキドキが治まらない。
またひとつ那智に近づいた気がする、そんな夜更けの出来事。
まだ帰ってないのか、それともまた帰らないつもりなのか。
朝陽は頭を振って、ただいま帰りましたーとその扉を開けた。
おかえりーと寮監室から顔を出した雨森に那智のことを聞いてみる。
「なち、帰ってきました?」
「えー、どうだろ。靴箱見たら?だいたいその端っこのとこ使ってるよ」
見れば白とグレーのしましまのスリッパが置いてあった。
その隣にはショートブーツとサンダルがある。
なちは今日スニーカーだったから、帰ってないんだなと思った。
「月城くん、ご飯食べるでしょ?」
「いただきます」
「ラップかけてあるからチンして食べて。味噌汁は自分で温めてね」
はーい、と返事して食堂で一人で食べた。
なんだか味気ない、那智と食べたご飯は美味しかったなと黙々と食事を終えた。
その夜、那智は遅くに帰ってきた。
アルコールの匂いが薄ら臭うのでバイト上がりなのかもしれない。
その前髪にヘアピンは無い。
「おかえり、なち」
「・・・ただいま」
「シャワー行く?」
ふんっと鼻を鳴らして那智は昼間買ったTシャツが入った袋とプラ籠の風呂セットを持って無言で部屋を出ていった。
スマホの準備をして待とう、スマホカメラを起動して武士のように座して待つ。
目を閉じて耳を澄ませて、心の中を落ち着かせながらカウントダウンする。
パタパタとスリッパの音が聞こえて、あれは階段を二段飛ばしで登ってるようだ、一瞬乱れた足音は足を滑らせたのかもしれない。
大きくなる足音にスマホを構えて、すかさず撮る!撮る!撮る!
「なにしてくれとんじゃー~ーっこれっなんやねん!」
湿った髪をオールバックにして、怒りに滲んだ目は薄ら膜が張っており手に持ったプラ籠はガシャンと音を立てて床に落ちた。
「んー、彼シャツ?」
「スマホを下ろせー!」
「シーー~っ」
朝陽は人差し指を那智の唇スレスレに持っていき、もう遅いよと小さく言った。
ビクッと肩を揺らした拍子に肩からTシャツがずり落ちる。
XLのそれは那智にはだいぶ大きい、裾は膝上まであってハーフパンツが少しだけ覗いていた。
「俺さ、何回も聞いたよね?」
「そ、やけど、まさかこん、こんなんやと思わへんやろ・・・てか、写真撮った?」
「撮った」
「消せ、今、すぐ、ここで!僕の目の前で消せ!」
「いいよ」
ホッと息を吐く那智は、ずずいと朝陽に詰め寄った。
視線はスマホを持つ朝陽の手元に注がれている。
「早くして」
「これを消す代わりに連絡先の交換しよ」
「嫌」
「じゃ、消さない。明日、友だちに見せよっと。なちが彼シャツ着てくれたって」
「この、、卑怯者が・・・。いや、別にええんちゃう?男がちょっとサイズの合わへんTシャツ着てるだけやもんな」
「そうだな。じゃ、ロック画面にしよう」
ひどい、と那智は泣き崩れた。
両手で顔を覆い、うっうっと唸りながら座り込む。
「あ、なち、なち?」
「うっうぅっ、嫌がることするなんてひどいよ・・・」
ごめんやり過ぎた、と傍に寄り背中を撫でさすろうとする朝陽の隙をついて那智はスマホを奪った。
「ばーかばーか」
「っ嘘泣きとか卑怯だぞ!」
「どっちが」
スマホを操作しようとする手元のスマホを上からひょいと朝陽が取り上げる。
「あ、ずるいぞ」
「どこが」
「身長差あるやん!」
「俺が俺のを取り返すのにずるいも何もないだろ」
ぐぬぬと真っ赤な顔した那智がジャンプして高く掲げられたスマホを奪おうとするが、あと一歩届かない。
ほーらほーら、とゆらゆら揺らしながら逃げる朝陽を那智は追いかける。
狭い部屋の中をくるくると回りながら、待て待たないと言い合う。
「簡単だろ?ちょっとフリフリするだけ」
「だって、絶対しょうもないメッセージ送ってくるやろ」
「すごい、よくわかってんね」
「わからいでか」
なぜか得意気な那智の声に朝陽はくるりと振り向いた。
わぷっと勢いで飛び込んできた那智を抱きとめる。
「急に止まんなや、鼻折れるやんけ」
「んなわけないだろ。なち、連絡先教えて?」
「・・・嫌や。離せ」
「お願い。じゃないとこのまま背骨を折る」
「・・・しょうもないメッセージ送るなや」
「しょうもなくなかったらいい?」
「ああ言えばこう言う」
必死なんだよ、と言う朝陽の声音に那智は声を上げて笑った。
釣られて笑った朝陽が、相性いいじゃんと言う。
調子のんな、と叩かれた胸のドキドキが治まらない。
またひとつ那智に近づいた気がする、そんな夜更けの出来事。
1
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
どうしようもなく甘い一日
佐治尚実
BL
「今日、彼に別れを告げます」
恋人の上司が結婚するという噂話を聞いた。宏也は身を引こうと彼をラブホテルに誘い出す。
上司×部下のリーマンラブです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる