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明日への扉

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※終盤かなり情けないかつ気持ち悪いかと思います。お気をつけください。



クズことジェフリーは暗闇の中にいた。
硬い椅子に座らされ、手足は縛られているようでなぜか寒い。
肌に直接空気が触れているような感覚をジェフリーは感じていた。
口も覆われているようで声も出せない。
近くで女の声がする。
カチャカチャとなにか陶器が触れ合うような音もする。

「あら、起きたみたい」

という女の声は誰のものだろう。
身に覚えのない女の声に体が震えた。
どうしてこんなことに・・・
今日はリルーシェがどうしても茶会に招きたいと、そう言ったから、それで・・・それで・・・

「尋問を開始します」

女の声と共に口元にある布が取り払われた。

「質問には正確に答えるように」
「なんなんだ!これは!お前ら誰なんだ、こんなことしてただで済むと・・・ひぃっ」
ジェフリーの肩に一滴の冷水が落とされた。
「あなたはリルーシェ・タイラーの婚約者ですか?」
「は?それがどうしたってんだ。これを解け!」
「自分は婚約者にふさわしいと思いますか?」
「は?なんだよ、それ・・・ひいっ」
今度は太ももに一滴の冷水が落とされる。
「あなたは数々の不誠実な行為を婚約者に対して行ってますが、それに対して申し開きはありますか?」
「・・・んだよ、意味わかんねぇひっ。それ、それやめてくれよ」
項にポトンと一滴。
「あなた、ご自分の立場はわかってる?」
「は?」
爪先に冷水が一滴。
「公爵家に必要なのは婿であってじゃないのよ?」
「・・・っっ!!なんだよひゃぁっ」
鎖骨に一滴。
「今、婚約が破棄になったらあなたどうするの?侯爵家は継げないでしょう?悪いのは全てあなたよ?公爵を敵に回してあなたを守ってくれる人はいる?」

つむじに冷水が一滴。背中に一滴、ポトンポトンと落とされるそれ。
暗闇の中で不意に訪れるそれはただの冷水とわかっていても肌を刺すように痛い。震えるジェフリーは寒いのか、怖いのかそれすらもわからない。
ハッハッと浅い息しかできない。



得体の知れない女の声に追い詰められる。
顔からは血の気が引き、唇は震え、歯がカチカチとなる。

「多額の慰謝料が必要ね?侯爵家の領地で幽閉かしら?それとも貴族籍剥奪されて追放とか?あぁ、男娼館もあるわね」
耳元で知らない女がクスクス笑いながら囁く。
「あなた、女の人好きでしょう?」
冷水がポツンと太ももに。
ふっと耳に息を吹きかけられ、サラリと肩口に髪が落ちる。甘い果実のような良い匂いが鼻先を掠める。
「これからどうするのかな?どうなるのかな?」
甘い甘い声が耳から脳へじわじわ這い上がる。
「あ、あ・・・あぁ・・・あぁぁあああ」
腹に、一滴。
「や、やめて、、やめて、あやまるーあやまるからっ」
「だ れ に ?」
「リルーシェ!リル!リルっ」
涙は目元の布に全て吸い取られ、鼻水は流れるままに、カラカラの喉からは掠れた叫びが。
「あ、あ、あぁリルリルごべん、ごべんなざい、ほ、ほんとはリルすき。すき。し、しってる、しっでる!リルはっリルはっおおおおれじゃなくても、、むこいりずるひどならだれでもいいーためしてごべん、ごべんなざいー。とって。このめのやつとってー」

ずるりと水分を含んだ布が取り払われ、恐る恐る目を開けるとそこは薄ぼんやりした見慣れぬ場所で。
ジェフリーの目の前には豪奢な椅子に腰掛けた美しい婚約者が微笑んでいた。
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