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がんばれ!鷹野くん
鷹野寿人の長い一日 ③
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12:32 ━
今、来たとこ、だと・・・?
ふんふんと太郎の匂いを嗅ぐとシナモンの匂いとなにか甘酸っぱい匂いがする。
手に持った紙袋は明らかにさっきまで買い物をしてました、と主張している。
「・・・違うだろ」
「あ、これは、鷹野へのプレゼント」
えへらえへらと笑う顔が可愛い、いかん盗撮されるかもしれんと鷹野はニット帽を目深に被らせ顔を隠すようにその場を離れようとした。
その時、ポンと肩を叩かれ振り向くと知った顔があった。
「ちょっといいかな?」
ニコニコと笑うのはあの年配警官で、交番の目の前だった。
パイプ椅子に座らされ、太郎は婦人警官と別室に連れて行かれてしまった。
「あの子とはどんな関係?」
「はぁ、私の婚約者ですが」
なんだその、疑ってます!の顔は、と憤慨する鷹野をよそに年配警官はポリポリと頬をかいた。
「・・・条例」
「成人してますから!!」
思わず立ち上がったと同時にパイプ椅子がバタンと倒れ、ついでに別室への引き戸も開いた。
13:05 ━
うぷぷと笑いを堪えながら太郎は鷹野の腕にぶら下がっていた。
「もう笑うな」
「だって、拉致だって、拉致!」
ひゃははと大口を開けて笑うのを見て鷹野は嘆息した。
誘拐されるかもしれない、そう思い必死に探し当てたらまさか自分が誘拐犯扱いされるとは。
あの交番での出来事は最悪だったが、たったひとつ良かったことは──
『その人、俺の番で大好きな人です』
あれは良かったな、と思っているとぐぐぅと太郎の腹が盛大に鳴った。
「なにが食べたい?」
「カニ!」
なん・・・だと・・・?
13:47 ━
「本当にここでいいのか?」
「なにがダメなの?」
なにって、と鷹野は店内を見渡した。
昼時を逃したとはいえ休日のファミレスはまだまだ混雑している。
太郎は『かに!カニ!蟹まつり!』と書いてあるメニューとにらめっこしていた。
あぁ、ちゃんとした蟹を食べさせてやりたい。
北陸かどこかへ行って、採れたての美味しいやつを。
太郎のためならいくらでも剥いてやる。
焼きもしゃぶしゃぶも、刺身も太郎の好きな寿司も腹いっぱい食べさせてやりたい。
「決めた!この『蟹の身たっぷり餡掛けチャーハン』にする。鷹野は?」
「ん?あぁ、じゃあ同じ・・・ものじゃなくて、そうだな。この蟹クリームコ・・・でもなくてだな。蟹のトマトクリームパスタ・・・はやめておこうか」
メニューを言おうとする度に眉間に皺がよっていく。
どれだ、太郎が悩んでチャーハンにしたもうひとつの候補は!
「・・・太郎のおすすめはあるか?」
「えー、俺のおすすめはね、このジャンボエビフライ!」
・・・・・・蟹じゃなかった。
14:56 ━
二人はゲームセンターにいた。
そこで太郎が惹かれたのは一匹のカバだった。
UFOキャッチャーの中には、カバなのに口ひげを生やしてシルクハットを被り手にはステッキ、ギラギラのスパンコールのベストに蝶ネクタイをしている。
なんとベストは四色展開だ。
「欲しいのか?」
「うん」
「カバなのに二足歩行でスパンコールだぞ?」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」
だが、太郎はUFOキャッチャーが壊滅的に下手くそだった。
見かねた鷹野が3000円ほど使ってカバを取った。
鷹野もまぁまぁ下手くそだった。
「次はどこ行くんだ?」
「次はねぇ・・・」
太郎は緑のギラギラカバを嬉しそうにリュックにしまった。
16:12 ━
「ここか?」
「そう、ここでたこ焼きを買って、あそこの広場で鷹野は五個、俺は三個食べる」
「やけに具体的だな。好きなだけ食べたらいいじゃないか」
太郎はギクリとした、なぜならゲームセンターもたこ焼きもあのドラマのデートのワンシーンだったからだ。
UFOキャッチャーでは猫のぬいぐるみを、その後たこ焼きは一舟を二人で食べていた。
口の端についたソースをハンカチで拭いてあげてもいたから、今日は抜かりなくハンカチも持ってきた。
「本当にひとつでいいのか?」
そう言いながら鷹野がソース味のたこ焼きを買った。
本音はねぎポン酢がいいがここは仕方がない。
そう思い太郎はじっと鷹野がたこ焼きを口に運ぶのを見ていた。
なかなかソースがつかない、口が大きいので一口でペロリといってしまう。
このままではハンカチの出番がない。
「お、ついてるぞ」
太郎の口の端についたソースを鷹野の親指が拭って、ペロリと舐めた。
ずるい!ずるい!太郎は顔を覆って足をじたばたさせた。
17:04 ━
「夕飯はどうする?」
駅に向かって歩きながら鷹野が言う、なにが食べたい?とも。
「それは家で食べる」
「もう帰るか?」
「うん」
それじゃ、と太郎は駅構内へと入っていく。
改札の向こうとこっちで手を振りあって別れてデート終了だ。
あのまだもっと一緒にいたいのに、という演技は良かったと太郎が噛み締めていると首根っこを掴まれた。
「待て」
今度はちゃんと太郎を捕まえた鷹野だった。
※もういっちょ続きます
思ったより長くなってしまった(´・ω・`)
今、来たとこ、だと・・・?
ふんふんと太郎の匂いを嗅ぐとシナモンの匂いとなにか甘酸っぱい匂いがする。
手に持った紙袋は明らかにさっきまで買い物をしてました、と主張している。
「・・・違うだろ」
「あ、これは、鷹野へのプレゼント」
えへらえへらと笑う顔が可愛い、いかん盗撮されるかもしれんと鷹野はニット帽を目深に被らせ顔を隠すようにその場を離れようとした。
その時、ポンと肩を叩かれ振り向くと知った顔があった。
「ちょっといいかな?」
ニコニコと笑うのはあの年配警官で、交番の目の前だった。
パイプ椅子に座らされ、太郎は婦人警官と別室に連れて行かれてしまった。
「あの子とはどんな関係?」
「はぁ、私の婚約者ですが」
なんだその、疑ってます!の顔は、と憤慨する鷹野をよそに年配警官はポリポリと頬をかいた。
「・・・条例」
「成人してますから!!」
思わず立ち上がったと同時にパイプ椅子がバタンと倒れ、ついでに別室への引き戸も開いた。
13:05 ━
うぷぷと笑いを堪えながら太郎は鷹野の腕にぶら下がっていた。
「もう笑うな」
「だって、拉致だって、拉致!」
ひゃははと大口を開けて笑うのを見て鷹野は嘆息した。
誘拐されるかもしれない、そう思い必死に探し当てたらまさか自分が誘拐犯扱いされるとは。
あの交番での出来事は最悪だったが、たったひとつ良かったことは──
『その人、俺の番で大好きな人です』
あれは良かったな、と思っているとぐぐぅと太郎の腹が盛大に鳴った。
「なにが食べたい?」
「カニ!」
なん・・・だと・・・?
13:47 ━
「本当にここでいいのか?」
「なにがダメなの?」
なにって、と鷹野は店内を見渡した。
昼時を逃したとはいえ休日のファミレスはまだまだ混雑している。
太郎は『かに!カニ!蟹まつり!』と書いてあるメニューとにらめっこしていた。
あぁ、ちゃんとした蟹を食べさせてやりたい。
北陸かどこかへ行って、採れたての美味しいやつを。
太郎のためならいくらでも剥いてやる。
焼きもしゃぶしゃぶも、刺身も太郎の好きな寿司も腹いっぱい食べさせてやりたい。
「決めた!この『蟹の身たっぷり餡掛けチャーハン』にする。鷹野は?」
「ん?あぁ、じゃあ同じ・・・ものじゃなくて、そうだな。この蟹クリームコ・・・でもなくてだな。蟹のトマトクリームパスタ・・・はやめておこうか」
メニューを言おうとする度に眉間に皺がよっていく。
どれだ、太郎が悩んでチャーハンにしたもうひとつの候補は!
「・・・太郎のおすすめはあるか?」
「えー、俺のおすすめはね、このジャンボエビフライ!」
・・・・・・蟹じゃなかった。
14:56 ━
二人はゲームセンターにいた。
そこで太郎が惹かれたのは一匹のカバだった。
UFOキャッチャーの中には、カバなのに口ひげを生やしてシルクハットを被り手にはステッキ、ギラギラのスパンコールのベストに蝶ネクタイをしている。
なんとベストは四色展開だ。
「欲しいのか?」
「うん」
「カバなのに二足歩行でスパンコールだぞ?」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」
だが、太郎はUFOキャッチャーが壊滅的に下手くそだった。
見かねた鷹野が3000円ほど使ってカバを取った。
鷹野もまぁまぁ下手くそだった。
「次はどこ行くんだ?」
「次はねぇ・・・」
太郎は緑のギラギラカバを嬉しそうにリュックにしまった。
16:12 ━
「ここか?」
「そう、ここでたこ焼きを買って、あそこの広場で鷹野は五個、俺は三個食べる」
「やけに具体的だな。好きなだけ食べたらいいじゃないか」
太郎はギクリとした、なぜならゲームセンターもたこ焼きもあのドラマのデートのワンシーンだったからだ。
UFOキャッチャーでは猫のぬいぐるみを、その後たこ焼きは一舟を二人で食べていた。
口の端についたソースをハンカチで拭いてあげてもいたから、今日は抜かりなくハンカチも持ってきた。
「本当にひとつでいいのか?」
そう言いながら鷹野がソース味のたこ焼きを買った。
本音はねぎポン酢がいいがここは仕方がない。
そう思い太郎はじっと鷹野がたこ焼きを口に運ぶのを見ていた。
なかなかソースがつかない、口が大きいので一口でペロリといってしまう。
このままではハンカチの出番がない。
「お、ついてるぞ」
太郎の口の端についたソースを鷹野の親指が拭って、ペロリと舐めた。
ずるい!ずるい!太郎は顔を覆って足をじたばたさせた。
17:04 ━
「夕飯はどうする?」
駅に向かって歩きながら鷹野が言う、なにが食べたい?とも。
「それは家で食べる」
「もう帰るか?」
「うん」
それじゃ、と太郎は駅構内へと入っていく。
改札の向こうとこっちで手を振りあって別れてデート終了だ。
あのまだもっと一緒にいたいのに、という演技は良かったと太郎が噛み締めていると首根っこを掴まれた。
「待て」
今度はちゃんと太郎を捕まえた鷹野だった。
※もういっちょ続きます
思ったより長くなってしまった(´・ω・`)
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