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がんばれ!鷹野くん
プレゼント選びは悲喜交々 前
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「上田さん、ほんとにここ?」
「こここ、ここだよ!」
二人が今見上げているのは高級ジュエリーショップの看板だった。
モコモコのダウンジャケットはお揃いなのか?と思わせるもので太郎は白、上田は青だった。
似たような黒のリュックを背負い、太郎は細身のジーンズで上田はグレーのゆったりしたチノパンだ。
スニーカーは所々汚れていて、とてもじゃないが高級ジュエリーショップに入店する格好ではない。
「やっぱり知樹さん呼んだ方が良かったんじゃない?」
「むむむ無理だよ。きっと忙しいよ」
「じゃあ、鷹野呼ぶ?」
「だめ!田山さんにバレる」
「あの二人そんなに仲いいの?」
キョトンとする太郎に上田はつい先日の話を聞かせた。
「こないだ乾君に勧めた映画あったじゃない?」
「あぁ、デビルサンタ~聖なる夜を血祭りに~ってやつ?面白かったよ?」
「それだよ、鷹野さんがつまらんものを勧めるなって田山さんに言っちゃって。なんか乾君のことになるとすぐに田山さんに連絡くるんだよ」
「えーっ!!なにそれ、叱っとくよ」
「やめてよー、僕が言いつけたってまた言われちゃうよ」
ピカピカに磨かれたショーウィンドウに映る二人。
太郎のすっぽりと被ったニット帽の先に付いてるボンボンが揺れている。
「・・・入る?」
「入る!」
自動ドアを潜って入った先は落ち着いた雰囲気ながらもあちこちキラキラしていた。
高級そうなスーツを着た男性や着飾った女性、これから清掃バイトに赴く二人は明らかに場違いだった。
うわぁとキョロキョロする二人に声をかける店員はいないが、監視するような視線だけは感じる。
「で?田山さんはどれを見てたの?」
「・・・わかんない」
「は?」
「何見てるの?って聞いたらサッとその雑誌を隠されたんだ。でもチラッと見えたのは確かにこの店だった」
「それだけ?」
うん、と頷く上田に太郎はため息を吐いた。
事前に上田に聞いた話とだいぶ違うからだ。
上田からは、田山のクリスマスプレゼントを買いに行くから付き合ってほしいと言われたのだ。
そう言われれば買うものが決まっているか、田山からなんらかのリクエストがあったものだと思っていた。
なのに蓋を開けてみればなんとあやふやなことか。
「出直した方がよくない?」
「ゔっ・・・で、でもちょっと見て回ろうよ」
「いいけど」
せっかくここまで来たのだからなにかめぼしいものを、という田山の気持ちもわかるので太郎は頷いた。
上田は太郎の腕にしがみつきショーケースの中をひとつひとつ見て回った。
指輪にピアスにイヤリング、ネックレスにブレスレットと整然と並んでいるアクセサリー達。
「あっ、あれ田山さんに似合いそう」
「どれ?・・・あのイヤーカフってやつ?」
ぶんぶんと首を縦に振る上田に笑ってイヤーカフをよく見てみる。
シルバーのそれは細かい意匠が掘られ、真っ赤な石がひとつだけ付いていた。
田山に似合うかどうかは太郎には全くわからないが確かにかっこいい。
へぇと眺めてその下のプレートを見て目を剥いた。
「ううう上田さんっ!」
上田を見るとぽやっと空を見つめている。
きっと田山があれをつけたところを想像しているんだろう、しかしそんなことしてる場合ではない。
「ちょ、よ、よく見て」
「ん?・・・いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅう・・・に、二十三万!?」
ひぃぃと二人が青ざめたその時、手に取ってご覧になられますか?と綺麗な女性店員に声をかけられた。
ニコニコと笑う顔は目が笑っていない、払えんのか?お?とどこか挑戦的でもある。
ゴクリと同時に息を飲んだ二人は・・・逃げた。
そりゃもうスタコラサッサと逃げた。
店を飛び出しそのまま走り続け目に付いた裏路地に飛び込んだ。
はぁはぁと息を乱したまま壁にもたれ掛かる。
「はぁーー、上田さんあれ払えるの?」
「む、無理すれば、なんとか・・・貯金崩して・・・」
「そこまでして田山さん喜ぶかなぁ」
田山はきっと喜ばない、上田は思う。
自分も田山も極々普通の一般庶民なのだ。
一人暮らしの田山は自炊をして、節約できるところは節約しているように見える。
そんな所へ高価なプレゼントをされても困惑するのではないだろうか?自分なら恐れ多くて縮こまってしまう。
じっと見つめる先は汚れたスニーカーで、これも二人で洗ったことがある。
天気の良い日、靴用のブラシでゴシゴシとベランダで洗った。
石鹸の匂いが漂って、たまにあがるしゃぼん玉はどちらが遠くへ飛ばせるかとふぅふぅと息を吐いた。
そんな庶民的な自分たちにあれは似合わないかもしれない。
「・・・違うのにする」
「うん、それがいいと思うよ」
ね?と顔を見合せて笑い合う二人は気づいていない。
「てか、あんなちっこいのに高いのな」
「そうだよー、びっくりしたね」
ジュエリーショップからこっちずっと二人を追いかける視線に気づいていない。
「あの赤い石が高いんかな」
「きっとルビーだよ」
「すごい!わかるんだ?」
「乾君、赤と言ったらルビーだよ」
チッチッチッと人差し指を振りながら得意気な上田とはぇーと尊敬の眼差しの太郎。
そんな自分たちに大きな影が伸びていることにまだ気づいていなかった。
※お忘れの方→知樹はたろちゃんが頭突きした鷲尾の婚約者のΩの方です。
久しぶりの登場ですね、名前だけですが・・・
※上田回みたいになってしまいました。
すみません。
上田とたろちゃん好きなんです( ߹꒳߹ )
「こここ、ここだよ!」
二人が今見上げているのは高級ジュエリーショップの看板だった。
モコモコのダウンジャケットはお揃いなのか?と思わせるもので太郎は白、上田は青だった。
似たような黒のリュックを背負い、太郎は細身のジーンズで上田はグレーのゆったりしたチノパンだ。
スニーカーは所々汚れていて、とてもじゃないが高級ジュエリーショップに入店する格好ではない。
「やっぱり知樹さん呼んだ方が良かったんじゃない?」
「むむむ無理だよ。きっと忙しいよ」
「じゃあ、鷹野呼ぶ?」
「だめ!田山さんにバレる」
「あの二人そんなに仲いいの?」
キョトンとする太郎に上田はつい先日の話を聞かせた。
「こないだ乾君に勧めた映画あったじゃない?」
「あぁ、デビルサンタ~聖なる夜を血祭りに~ってやつ?面白かったよ?」
「それだよ、鷹野さんがつまらんものを勧めるなって田山さんに言っちゃって。なんか乾君のことになるとすぐに田山さんに連絡くるんだよ」
「えーっ!!なにそれ、叱っとくよ」
「やめてよー、僕が言いつけたってまた言われちゃうよ」
ピカピカに磨かれたショーウィンドウに映る二人。
太郎のすっぽりと被ったニット帽の先に付いてるボンボンが揺れている。
「・・・入る?」
「入る!」
自動ドアを潜って入った先は落ち着いた雰囲気ながらもあちこちキラキラしていた。
高級そうなスーツを着た男性や着飾った女性、これから清掃バイトに赴く二人は明らかに場違いだった。
うわぁとキョロキョロする二人に声をかける店員はいないが、監視するような視線だけは感じる。
「で?田山さんはどれを見てたの?」
「・・・わかんない」
「は?」
「何見てるの?って聞いたらサッとその雑誌を隠されたんだ。でもチラッと見えたのは確かにこの店だった」
「それだけ?」
うん、と頷く上田に太郎はため息を吐いた。
事前に上田に聞いた話とだいぶ違うからだ。
上田からは、田山のクリスマスプレゼントを買いに行くから付き合ってほしいと言われたのだ。
そう言われれば買うものが決まっているか、田山からなんらかのリクエストがあったものだと思っていた。
なのに蓋を開けてみればなんとあやふやなことか。
「出直した方がよくない?」
「ゔっ・・・で、でもちょっと見て回ろうよ」
「いいけど」
せっかくここまで来たのだからなにかめぼしいものを、という田山の気持ちもわかるので太郎は頷いた。
上田は太郎の腕にしがみつきショーケースの中をひとつひとつ見て回った。
指輪にピアスにイヤリング、ネックレスにブレスレットと整然と並んでいるアクセサリー達。
「あっ、あれ田山さんに似合いそう」
「どれ?・・・あのイヤーカフってやつ?」
ぶんぶんと首を縦に振る上田に笑ってイヤーカフをよく見てみる。
シルバーのそれは細かい意匠が掘られ、真っ赤な石がひとつだけ付いていた。
田山に似合うかどうかは太郎には全くわからないが確かにかっこいい。
へぇと眺めてその下のプレートを見て目を剥いた。
「ううう上田さんっ!」
上田を見るとぽやっと空を見つめている。
きっと田山があれをつけたところを想像しているんだろう、しかしそんなことしてる場合ではない。
「ちょ、よ、よく見て」
「ん?・・・いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅう・・・に、二十三万!?」
ひぃぃと二人が青ざめたその時、手に取ってご覧になられますか?と綺麗な女性店員に声をかけられた。
ニコニコと笑う顔は目が笑っていない、払えんのか?お?とどこか挑戦的でもある。
ゴクリと同時に息を飲んだ二人は・・・逃げた。
そりゃもうスタコラサッサと逃げた。
店を飛び出しそのまま走り続け目に付いた裏路地に飛び込んだ。
はぁはぁと息を乱したまま壁にもたれ掛かる。
「はぁーー、上田さんあれ払えるの?」
「む、無理すれば、なんとか・・・貯金崩して・・・」
「そこまでして田山さん喜ぶかなぁ」
田山はきっと喜ばない、上田は思う。
自分も田山も極々普通の一般庶民なのだ。
一人暮らしの田山は自炊をして、節約できるところは節約しているように見える。
そんな所へ高価なプレゼントをされても困惑するのではないだろうか?自分なら恐れ多くて縮こまってしまう。
じっと見つめる先は汚れたスニーカーで、これも二人で洗ったことがある。
天気の良い日、靴用のブラシでゴシゴシとベランダで洗った。
石鹸の匂いが漂って、たまにあがるしゃぼん玉はどちらが遠くへ飛ばせるかとふぅふぅと息を吐いた。
そんな庶民的な自分たちにあれは似合わないかもしれない。
「・・・違うのにする」
「うん、それがいいと思うよ」
ね?と顔を見合せて笑い合う二人は気づいていない。
「てか、あんなちっこいのに高いのな」
「そうだよー、びっくりしたね」
ジュエリーショップからこっちずっと二人を追いかける視線に気づいていない。
「あの赤い石が高いんかな」
「きっとルビーだよ」
「すごい!わかるんだ?」
「乾君、赤と言ったらルビーだよ」
チッチッチッと人差し指を振りながら得意気な上田とはぇーと尊敬の眼差しの太郎。
そんな自分たちに大きな影が伸びていることにまだ気づいていなかった。
※お忘れの方→知樹はたろちゃんが頭突きした鷲尾の婚約者のΩの方です。
久しぶりの登場ですね、名前だけですが・・・
※上田回みたいになってしまいました。
すみません。
上田とたろちゃん好きなんです( ߹꒳߹ )
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