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クリスマス
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ゆらゆらと揺れる小舟の上でとろとろと眠るのが好きだ。
それがいつの間にか鷹野の胸の上だと太郎が気づいたのは本格的に寒くなってきてからだった。
寝ぼけながらよじ登ってるらしい。
上下する胸と、トクトクと脈打つ心臓が子守唄になってまた眠ってしまう。
いつの間にか降ろされて、けれどその逞しい腕に抱かれて目覚めるのは最高に気分が良い。
だから、その日の朝もそうやって目覚めるのだと思っていたら違った。
目覚めて手に触れるのは、カサリと音を立てた封筒だった。
その傍には小さなクリスマスブーツが置いてあり、そこにはキャンディが二個入っていた。
太郎が封筒を開けてみると、『予約票』が入っており期限は来年のクリスマスで『キャンセル・返品不可』と印字してある。
キャンセルも返品もするもんか、と太郎はベッドに転がる。
そうして、それを胸に押し抱く。
枕元にプレゼント、という夢にまで見たクリスマスの朝。
「希望に添えたかな?」
振り向くと、戸口にもたれ掛かるようにして鷹野が笑っている。
「ありがとう」
大きな声で、精一杯の笑みで返す。
気を抜くと泣いてしまいそうになるから。
「じゃぁ、ここからは俺があげたいプレゼントだ」
「どういうこと?」
鷹野はゆっくり歩いて太郎の隣りに腰をおろして、その目元を親指で擽った。
そして、手を取りその腕にピンクゴールドのバングルを嵌めた。
細身でシンプルなそれにはダイヤのような小さな石が一つだけついている。
「ダイヤ?」
「そう」
そう言って手の甲を撫でる鷹野の腕にもバングルが嵌めてある。
シルバーのそれは太郎のよりもやや太めで同じように石があしらってあった。
「それはなんていうの?」
「ピンクダイヤ」
「お揃い?」
「そう、お揃い」
ありがとう、の言葉は今度こそ涙声で掠れてしまった。
よしよし、とその腕に閉じ込められて涙が止まらない。
「太郎、石言葉は知ってるか?」
「知ってるわけない」
「ダイヤは永遠の絆を贈るって意味だ。来年もその先もずっと一緒にいような?」
「・・・鷹野は、俺を喜ばす天才だな」
そうだろう?と優しいキスを何度もされて涙がぴたりと止まる。
太郎から鷹野へのクリスマスプレゼントは水族館で買ったクジラのキーホルダーだった。
嬉しいよ、と目を細める鷹野に太郎は口を尖らせて文句を言う。
「なんでもある鷹野に何を贈ればいいのかわからなかったから。そんなの、貰ったものに比べたらそんな喜ぶもんじゃない」
「太郎が自分で選んで贈ってくれたことが嬉しいんだ」
「じゃ、クジラは嬉しくない?」
「これは、あれだろ?ほら、体がでかい」
「大きな口で食べるのが似てるって思ったからだよ・・・」
その日は太郎の希望で一日家で過ごした。
太郎はひたすらゴロゴロとソファに寝転がり、時折腕を上げてバングルを見ている。
飾り棚にあるバスボール生まれの恐竜はクリスマスブーツに入っている。
そこには同じくバスボール生まれの、三毛猫と文鳥が脇を固めていた。
「本当にどこも出かけないのか?」
「出かけたら疲れて、セックス出来なくなるけどいい?」
「そ、れは・・・」
「なんで昨夜しなかったんだ?」
「したかったか?」
「だって昨日は世界中がセックスする日だろ?」
がばりと起き上がり、胡座をかいてキョトンとする太郎に鷹野は大笑いした。
さすがに世界中はしてないだろ、と。
「今からするか?」
「する」
今度は鷹野がキョトンとしてしまった。
昼食を食べ終わったばかりで外はまだ明るい。
発情期は昼夜問わず抱き合うが、それ以外は夜だけだ。
なぜなら、夜にするもんだろ?と太郎が言うから。
「昼間だぞ?」
「悪いことしてるみたいでいいね」
「手加減しないぞ?」
「俺もしない」
ふふん、と笑う太郎は蠱惑的でペロリと唇を舐める仕草は妖艶で鷹野は一瞬で我を失った。
ぐったりと意識を飛ばしているのにグウと鳴る太郎の腹の虫に気づけばすっかり夜だった。
二人の初めてのクリスマスは何かあったような無かったような、けれど特別な夜だった。
それがいつの間にか鷹野の胸の上だと太郎が気づいたのは本格的に寒くなってきてからだった。
寝ぼけながらよじ登ってるらしい。
上下する胸と、トクトクと脈打つ心臓が子守唄になってまた眠ってしまう。
いつの間にか降ろされて、けれどその逞しい腕に抱かれて目覚めるのは最高に気分が良い。
だから、その日の朝もそうやって目覚めるのだと思っていたら違った。
目覚めて手に触れるのは、カサリと音を立てた封筒だった。
その傍には小さなクリスマスブーツが置いてあり、そこにはキャンディが二個入っていた。
太郎が封筒を開けてみると、『予約票』が入っており期限は来年のクリスマスで『キャンセル・返品不可』と印字してある。
キャンセルも返品もするもんか、と太郎はベッドに転がる。
そうして、それを胸に押し抱く。
枕元にプレゼント、という夢にまで見たクリスマスの朝。
「希望に添えたかな?」
振り向くと、戸口にもたれ掛かるようにして鷹野が笑っている。
「ありがとう」
大きな声で、精一杯の笑みで返す。
気を抜くと泣いてしまいそうになるから。
「じゃぁ、ここからは俺があげたいプレゼントだ」
「どういうこと?」
鷹野はゆっくり歩いて太郎の隣りに腰をおろして、その目元を親指で擽った。
そして、手を取りその腕にピンクゴールドのバングルを嵌めた。
細身でシンプルなそれにはダイヤのような小さな石が一つだけついている。
「ダイヤ?」
「そう」
そう言って手の甲を撫でる鷹野の腕にもバングルが嵌めてある。
シルバーのそれは太郎のよりもやや太めで同じように石があしらってあった。
「それはなんていうの?」
「ピンクダイヤ」
「お揃い?」
「そう、お揃い」
ありがとう、の言葉は今度こそ涙声で掠れてしまった。
よしよし、とその腕に閉じ込められて涙が止まらない。
「太郎、石言葉は知ってるか?」
「知ってるわけない」
「ダイヤは永遠の絆を贈るって意味だ。来年もその先もずっと一緒にいような?」
「・・・鷹野は、俺を喜ばす天才だな」
そうだろう?と優しいキスを何度もされて涙がぴたりと止まる。
太郎から鷹野へのクリスマスプレゼントは水族館で買ったクジラのキーホルダーだった。
嬉しいよ、と目を細める鷹野に太郎は口を尖らせて文句を言う。
「なんでもある鷹野に何を贈ればいいのかわからなかったから。そんなの、貰ったものに比べたらそんな喜ぶもんじゃない」
「太郎が自分で選んで贈ってくれたことが嬉しいんだ」
「じゃ、クジラは嬉しくない?」
「これは、あれだろ?ほら、体がでかい」
「大きな口で食べるのが似てるって思ったからだよ・・・」
その日は太郎の希望で一日家で過ごした。
太郎はひたすらゴロゴロとソファに寝転がり、時折腕を上げてバングルを見ている。
飾り棚にあるバスボール生まれの恐竜はクリスマスブーツに入っている。
そこには同じくバスボール生まれの、三毛猫と文鳥が脇を固めていた。
「本当にどこも出かけないのか?」
「出かけたら疲れて、セックス出来なくなるけどいい?」
「そ、れは・・・」
「なんで昨夜しなかったんだ?」
「したかったか?」
「だって昨日は世界中がセックスする日だろ?」
がばりと起き上がり、胡座をかいてキョトンとする太郎に鷹野は大笑いした。
さすがに世界中はしてないだろ、と。
「今からするか?」
「する」
今度は鷹野がキョトンとしてしまった。
昼食を食べ終わったばかりで外はまだ明るい。
発情期は昼夜問わず抱き合うが、それ以外は夜だけだ。
なぜなら、夜にするもんだろ?と太郎が言うから。
「昼間だぞ?」
「悪いことしてるみたいでいいね」
「手加減しないぞ?」
「俺もしない」
ふふん、と笑う太郎は蠱惑的でペロリと唇を舐める仕草は妖艶で鷹野は一瞬で我を失った。
ぐったりと意識を飛ばしているのにグウと鳴る太郎の腹の虫に気づけばすっかり夜だった。
二人の初めてのクリスマスは何かあったような無かったような、けれど特別な夜だった。
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