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俺の
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気をつけの形でベッドにうつ伏せになっている太郎をどうしたものか、と鷹野は考える。
帰路の車内でも、俯いて黙りこくっていた。
眉をさげ、口はへの字にとなんともいえない顔をしていた。
そして、帰るなりベッドに直行して今に至る。
「あんなことは気にするな。確かに騒ぎにはなったがどうとでもなる」
髪を梳きながらできるだけ明るく声をかける。
「それより、俺の為に言ってくれたんだろ?嬉しいよ」
埋めていた顔を横に向けてじっとりと睨まれた。
「あ?何言ってんだ?」
「落ち込んでたんじゃないのか?」
「落ち込んでる。あのスプーンにのったキラキラしたゼリーみたいなの食べたかった。四角いせんべいにサーモンがのってるやつも食べたかったし。ガラスのコップに入った小さいパフェみたいなのも食べたかったし、目の前で切ってくれる肉も食べたかったー!!」
太郎は両手両足をバタバタして本気で悔しがっている。
「なんだよ、次から次に挨拶かなんか知らんが来やがって!一人になるなって言うから我慢したのに」
「・・・頭突きしたことじゃないのか?」
「はぁ?あんなのやられて当然だろ。ニヤニヤニヤニヤ笑いやがって、もう一発やってやれば良かった」
またもバタバタして本気で悔しがっているのを見てもう耐えられなくなった。
ゲラゲラと腹を抱えて笑っているのを見る太郎の顔は不思議そうで、本気で何もわかってないらしい。
笑いながら抱き上げて、膝にのせて力いっぱい抱きしめるとグエェと色気のない声を出す。
「お前には驚かされてばっかりだ」
「意味がわからないんだけど」
「わからなくていい」
「なんだそれ」
バカにしてんのか?と拗ねたように尖らせた唇にキスをする。
合わせるだけのキスをして、まだ赤みの残る額に唇を寄せて止めた。
ほんの微か、鼻を寄せてやっとわかるくらい微かに鷲尾の匂いがする。
「先に風呂入ろう」
頭から足の先まで念入りに洗う。
いつ触れても滑らかで吸い付くような肌、赤く色付いた胸の先をいたずらしたくなるがグッと我慢する。
項をそっと撫でるように洗うと身を捩らせるのにそそられる。
ふっと漏れる吐息に欲情するが、それも我慢する。
「次、洗ってやるよ」
これが好きだからだ。
いつだったかの言葉通り、動ける時は世話をしてくれる。
力任せに洗っていた髪も今では優しく洗って、こそばゆかった背中はゴシゴシと力を入れて洗ってくれる。
世話をするのもこれ以上ないくらい楽しいが、されるのもまた至福の時だ。
湯船では安心しきったように体を預けてくれるのが好きだ。
「今日、会わせたかった奴ってあいつ?」
「ん?あぁ、いや・・・あのパーティには両親も来ててな。一度お前に会わせろってうるさくて・・・その、かしこまった場は太郎も苦手だと思って」
「ふうん」
「先に言うと緊張するかと思って言えなかった。すまない」
「いいよ、俺のこと考えてくれたんだろ?」
いつでも会うよ、そう言って太郎は沈んでいった。
どんな表情でそれを言ったのかわからない。
言わせてしまったのにチクリと胸が痛む。
けれど、そう言ってくれたのが嬉しいとも思う。
その日は殊更ゆっくり丁寧に抱いた。
泣きそうな顔に何度もキスをして、好きだよと伝える。
くしゃりと顔を歪ませて涙をほろりと零すのをそっと吸い上げる。
「俺も好き」
首に回る手が、受け入れてくれる体が愛おしい。
何度抱いても飽きることは無く求めてしまうし、もうここまでと思っていてもまた好きになる。
俺の、俺だけの可愛いΩ。
帰路の車内でも、俯いて黙りこくっていた。
眉をさげ、口はへの字にとなんともいえない顔をしていた。
そして、帰るなりベッドに直行して今に至る。
「あんなことは気にするな。確かに騒ぎにはなったがどうとでもなる」
髪を梳きながらできるだけ明るく声をかける。
「それより、俺の為に言ってくれたんだろ?嬉しいよ」
埋めていた顔を横に向けてじっとりと睨まれた。
「あ?何言ってんだ?」
「落ち込んでたんじゃないのか?」
「落ち込んでる。あのスプーンにのったキラキラしたゼリーみたいなの食べたかった。四角いせんべいにサーモンがのってるやつも食べたかったし。ガラスのコップに入った小さいパフェみたいなのも食べたかったし、目の前で切ってくれる肉も食べたかったー!!」
太郎は両手両足をバタバタして本気で悔しがっている。
「なんだよ、次から次に挨拶かなんか知らんが来やがって!一人になるなって言うから我慢したのに」
「・・・頭突きしたことじゃないのか?」
「はぁ?あんなのやられて当然だろ。ニヤニヤニヤニヤ笑いやがって、もう一発やってやれば良かった」
またもバタバタして本気で悔しがっているのを見てもう耐えられなくなった。
ゲラゲラと腹を抱えて笑っているのを見る太郎の顔は不思議そうで、本気で何もわかってないらしい。
笑いながら抱き上げて、膝にのせて力いっぱい抱きしめるとグエェと色気のない声を出す。
「お前には驚かされてばっかりだ」
「意味がわからないんだけど」
「わからなくていい」
「なんだそれ」
バカにしてんのか?と拗ねたように尖らせた唇にキスをする。
合わせるだけのキスをして、まだ赤みの残る額に唇を寄せて止めた。
ほんの微か、鼻を寄せてやっとわかるくらい微かに鷲尾の匂いがする。
「先に風呂入ろう」
頭から足の先まで念入りに洗う。
いつ触れても滑らかで吸い付くような肌、赤く色付いた胸の先をいたずらしたくなるがグッと我慢する。
項をそっと撫でるように洗うと身を捩らせるのにそそられる。
ふっと漏れる吐息に欲情するが、それも我慢する。
「次、洗ってやるよ」
これが好きだからだ。
いつだったかの言葉通り、動ける時は世話をしてくれる。
力任せに洗っていた髪も今では優しく洗って、こそばゆかった背中はゴシゴシと力を入れて洗ってくれる。
世話をするのもこれ以上ないくらい楽しいが、されるのもまた至福の時だ。
湯船では安心しきったように体を預けてくれるのが好きだ。
「今日、会わせたかった奴ってあいつ?」
「ん?あぁ、いや・・・あのパーティには両親も来ててな。一度お前に会わせろってうるさくて・・・その、かしこまった場は太郎も苦手だと思って」
「ふうん」
「先に言うと緊張するかと思って言えなかった。すまない」
「いいよ、俺のこと考えてくれたんだろ?」
いつでも会うよ、そう言って太郎は沈んでいった。
どんな表情でそれを言ったのかわからない。
言わせてしまったのにチクリと胸が痛む。
けれど、そう言ってくれたのが嬉しいとも思う。
その日は殊更ゆっくり丁寧に抱いた。
泣きそうな顔に何度もキスをして、好きだよと伝える。
くしゃりと顔を歪ませて涙をほろりと零すのをそっと吸い上げる。
「俺も好き」
首に回る手が、受け入れてくれる体が愛おしい。
何度抱いても飽きることは無く求めてしまうし、もうここまでと思っていてもまた好きになる。
俺の、俺だけの可愛いΩ。
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