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※同日のことなので、2話同時投稿してます。
※虫の描写はありませんが、言葉として出てきます。苦手な方はご注意ください。
たい焼きを食べているΩ二人を見ている。
店先のベンチにちょんと並んで座る小柄な二人。
パクリと口に入れるたびに満足そうな笑顔になる。
あーん、とお互いのたい焼きを一口づつ交換したりもしている。
二人とも甘味が好きなのだ、漂う空気が柔らかい。
それに目をとめ、足を止める人もいる。
たい焼きの売れ行きがいい。
とても良い宣伝になっているようだ。
当の二人は全く気づいていない様子だが。
「危なっかしいと思わないか?田山君」
「はぁ。俺のことまで知ってるんですね」
ため息とも返事ともつかぬものを吐いて田山は鷹野を見やった。
二人は今、たい焼き屋から死角になる位置で太郎と上田を見ている。
上田と映画に行くと言うのに、ついてきてはいけないと言われた。
ついてきたら安野に言い付けるとまで言われたが、送迎だけは絶対に譲れない。
「また拐われたらどうするんだ!」
「・・・いや、さすがにもう無いと思うけど」
不思議そうに首を傾げるのを見てもっと危機感を持て、と強く思う。
せっかくの休みなんだから好きなことをしろ、と言うのでその通りにしようと思う。
死角になる位置で二人を見ていると、同じように見ている男に気づく。
ここで、冒頭に戻る。
たい焼き屋を後にした二人は次はクレープ屋でクレープを食べている。
その後はフレッシュジュースの店でジュースを飲んでから焼きたてワッフルを食べている。
食べている姿が無防備すぎる。
それにしてもあんなに食べたら昼食が入らないのでは?と思いながら鷹野はついて行く。
なし崩しに田山も一緒だ。
「あれが二人の昼飯ですよ」
呆れたように田山が言う。
「あれがか?」
「ええ。上田は母親、乾は多分あなた。普段はちゃんと栄養管理したものを食べさせてるんでしょう?」
「あ?あぁ」
「だから、ああやって羽目を外してるんですよ。あの顔見てくださいよ、隠れて悪いことしてる、でもそれが楽しいって顔してます」
見ると本当に楽しそうに笑っている。
あんな風に無邪気に笑うのを見たのは久しぶりのようで胸がチクリと痛む。
「君はあの子が出掛ける時はいつもそうしてるのか?」
「そんなストーカーみたいなことしてませんよ。ただ、今回はだいぶ浮かれてたみたいだからちょっと心配で」
「太郎と出かけるのがそんなに?」
「あれにも友達がいたんだけど、αと番ってから疎遠になったみたいで。乾が久々にできた友達なんです」
だから、と田山は鷹野を正面から見据えて腰を折って頭を下げる。
「乾と番になってもたまにはああやって会わせてやってください」
お願いします、と頭を下げ続ける田山にわかったよと声をかける。
腰を上げ見せた顔は安堵の表情だった。
「君はあの子のことを」
「なんともなりません。わかるでしょう?」
「そんなのは関係ないんじゃないかな」
「αに言われたくありませんね。行きますよ」
鷹野と田山の二人は目の前のΩ二人を追う。
匂いでバレないようにと鷹野は抑制剤も飲んでいるのに、不意に振り返る太郎にドキリとしてしまう。
チラチラと視線をあちこちにやってから前を向く。
その度に田山に痛い視線を投げかけられる。
鷹野が見つかると必然的に田山も見つかるので、道連れはごめんだと田山は思っていた。
駅前の大きなシネコンを通り過ぎ路地へ入り、また大通りへ出てからまた違う路地へ行く二人に、田山も首を傾げている。
辿り着いた先は、古い小さな映画館だった。
ウキウキとチケットを買って、館内のポスターを期待を込めた目で見ている二人。
田山はげぇと顔を顰めた。
気持ちはわかる、と鷹野も同調する。
『帰ってきた!恐怖のカマキリ男VS破滅のムカデ男!!~学園大パニック~』
帰ってきた、というからには続編なんだろう。
太郎、お前いつパート1を見たんだ。
※虫の描写はありませんが、言葉として出てきます。苦手な方はご注意ください。
たい焼きを食べているΩ二人を見ている。
店先のベンチにちょんと並んで座る小柄な二人。
パクリと口に入れるたびに満足そうな笑顔になる。
あーん、とお互いのたい焼きを一口づつ交換したりもしている。
二人とも甘味が好きなのだ、漂う空気が柔らかい。
それに目をとめ、足を止める人もいる。
たい焼きの売れ行きがいい。
とても良い宣伝になっているようだ。
当の二人は全く気づいていない様子だが。
「危なっかしいと思わないか?田山君」
「はぁ。俺のことまで知ってるんですね」
ため息とも返事ともつかぬものを吐いて田山は鷹野を見やった。
二人は今、たい焼き屋から死角になる位置で太郎と上田を見ている。
上田と映画に行くと言うのに、ついてきてはいけないと言われた。
ついてきたら安野に言い付けるとまで言われたが、送迎だけは絶対に譲れない。
「また拐われたらどうするんだ!」
「・・・いや、さすがにもう無いと思うけど」
不思議そうに首を傾げるのを見てもっと危機感を持て、と強く思う。
せっかくの休みなんだから好きなことをしろ、と言うのでその通りにしようと思う。
死角になる位置で二人を見ていると、同じように見ている男に気づく。
ここで、冒頭に戻る。
たい焼き屋を後にした二人は次はクレープ屋でクレープを食べている。
その後はフレッシュジュースの店でジュースを飲んでから焼きたてワッフルを食べている。
食べている姿が無防備すぎる。
それにしてもあんなに食べたら昼食が入らないのでは?と思いながら鷹野はついて行く。
なし崩しに田山も一緒だ。
「あれが二人の昼飯ですよ」
呆れたように田山が言う。
「あれがか?」
「ええ。上田は母親、乾は多分あなた。普段はちゃんと栄養管理したものを食べさせてるんでしょう?」
「あ?あぁ」
「だから、ああやって羽目を外してるんですよ。あの顔見てくださいよ、隠れて悪いことしてる、でもそれが楽しいって顔してます」
見ると本当に楽しそうに笑っている。
あんな風に無邪気に笑うのを見たのは久しぶりのようで胸がチクリと痛む。
「君はあの子が出掛ける時はいつもそうしてるのか?」
「そんなストーカーみたいなことしてませんよ。ただ、今回はだいぶ浮かれてたみたいだからちょっと心配で」
「太郎と出かけるのがそんなに?」
「あれにも友達がいたんだけど、αと番ってから疎遠になったみたいで。乾が久々にできた友達なんです」
だから、と田山は鷹野を正面から見据えて腰を折って頭を下げる。
「乾と番になってもたまにはああやって会わせてやってください」
お願いします、と頭を下げ続ける田山にわかったよと声をかける。
腰を上げ見せた顔は安堵の表情だった。
「君はあの子のことを」
「なんともなりません。わかるでしょう?」
「そんなのは関係ないんじゃないかな」
「αに言われたくありませんね。行きますよ」
鷹野と田山の二人は目の前のΩ二人を追う。
匂いでバレないようにと鷹野は抑制剤も飲んでいるのに、不意に振り返る太郎にドキリとしてしまう。
チラチラと視線をあちこちにやってから前を向く。
その度に田山に痛い視線を投げかけられる。
鷹野が見つかると必然的に田山も見つかるので、道連れはごめんだと田山は思っていた。
駅前の大きなシネコンを通り過ぎ路地へ入り、また大通りへ出てからまた違う路地へ行く二人に、田山も首を傾げている。
辿り着いた先は、古い小さな映画館だった。
ウキウキとチケットを買って、館内のポスターを期待を込めた目で見ている二人。
田山はげぇと顔を顰めた。
気持ちはわかる、と鷹野も同調する。
『帰ってきた!恐怖のカマキリ男VS破滅のムカデ男!!~学園大パニック~』
帰ってきた、というからには続編なんだろう。
太郎、お前いつパート1を見たんだ。
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