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「蘭子、お前尾行されてたのかよ」
「もしそうならもっと早く登場してたはずでしょ?俊くんが下手打ったんじゃない?」
クスクス笑いながら孤塚は太郎をじっと見た。
太郎はまだ呆けたように固まっている。
「・・・そうねェ、靴かしら?」
「はぁ?わかるかよ、んなもん」
「まずは俊くんの負けね」
孤塚は目を細め終始楽しそうだ。
鴨井は鷹野から隠すように座る太郎の前に立つ。
「君が鴨井か」
「・・・だったら何?」
「今日は君たちに釘を刺しに来たんだ。もう二度と俺たちの前に現れないって」
「俺たち?」
「俺とそこで君が隠してる太郎だよ」
ふっと鴨井が息を吐き捨て、次いで笑いだす。
腹を抱えてあははとさも可笑しそうに。
「毛色の違う猫が珍しいだけだろ?あんたの周りにゃもっと毛並みの良い血統書付きがいるんじゃないの?」
はぁはぁと笑い疲れた風で解放してやれよ、と吐き捨てるように言う。
「言いたいことはそれだけか?今なら不法侵入だけで済む」
「は?」
「誘拐・監禁罪も追加されたいか?」
「はっ、何言ってんだ。こいつは今縛られてるか?ここに鍵はかかっていたか?逃げようと思えばいつでもそう出来たんだ。それをしないってことは帰ってきたんだ、オレのところに」
カタンと小さな音がして戸口で安野が呆気にとられている。
注目を浴びたことで、何やってるんですかとハッとしたように歩みを進め鷹野に制された。
「乾君、見つかったんでしょう?だったらもう行きましょう」
「いや、それじゃ駄目なんだってことがわかった」
「は?どういうことです?乾君!迎えに来ましたよ、行きましょう」
「うるさいわね。外野は黙ってなさいよ」
「なっ、はっ?え?」
孤塚は安野を一瞥し、また視線を鴨井に戻した。
鷹野は、そういうことだと安野の肩を押して戸口に戻す。
その顔は真剣で安野はもうなにも言えなくなってしまった。
「あの、ごめんなさい」
我にかえって太郎が立ち上がろうとするのを鴨井が押し戻す。
黙ってろ、とは鴨井の言葉。
謝ることなんてない、とは鷹野の問いかけ。
二人の言葉を受け太郎はしどろもどろになってしまう。
「あらあら、これはまた俊くんの負けかなァ?」
「お前も黙ってろ!」
孤塚は首を竦め太郎にウインクして笑いかける。
「いつもそんな感じだったのか?」
「・・・なにが」
「そうやって押さえつけてたのか?」
「オレらのことにあんたは関係ないだろ?」
「関係あるから聞いている」
「はぁ?」
「委縮してるじゃないか」
「いつもそうよ。だって、俊くんはそのやり方しか知らないもの」
「っ蘭子!」
はいはい、と孤塚は両手をちょいとあげて降参した。
鷹野からは鴨井が邪魔して太郎の表情が見えない。
鴨井が見せまいとしようとしているのがわかる。
「俺の前では美味そうに飯を食うぞ。あと俺に対して文句も言うし、クイズ番組で先に答えると睨むし。そうだ、カリブ海が舞台の海外ドラマが好きなんだ。いつかそこへ連れて行く。知ってたか?酢豚にはパイナップルを入れて欲しがるし、餃子を包むのは下手だ。風呂上がりにはオレンジジュース飲むし、ただいまって帰ればおかえりって返してくれる。それにな、俺の前では笑うんだ。俺はすごく楽しい。太郎といると嬉しくてつい顔が緩むんだ」
君はどうだ?と鷹野は鴨井を見つめる。
「君の記憶にある太郎はどんな顔をしている?君は太郎にどんな顔をしていた?」
鴨井の顔からは表情が抜け落ち、孤塚はくつくつと笑っている。
雨は小雨になって、風が揺らす窓だけがカタカタと鳴っていた。
「もしそうならもっと早く登場してたはずでしょ?俊くんが下手打ったんじゃない?」
クスクス笑いながら孤塚は太郎をじっと見た。
太郎はまだ呆けたように固まっている。
「・・・そうねェ、靴かしら?」
「はぁ?わかるかよ、んなもん」
「まずは俊くんの負けね」
孤塚は目を細め終始楽しそうだ。
鴨井は鷹野から隠すように座る太郎の前に立つ。
「君が鴨井か」
「・・・だったら何?」
「今日は君たちに釘を刺しに来たんだ。もう二度と俺たちの前に現れないって」
「俺たち?」
「俺とそこで君が隠してる太郎だよ」
ふっと鴨井が息を吐き捨て、次いで笑いだす。
腹を抱えてあははとさも可笑しそうに。
「毛色の違う猫が珍しいだけだろ?あんたの周りにゃもっと毛並みの良い血統書付きがいるんじゃないの?」
はぁはぁと笑い疲れた風で解放してやれよ、と吐き捨てるように言う。
「言いたいことはそれだけか?今なら不法侵入だけで済む」
「は?」
「誘拐・監禁罪も追加されたいか?」
「はっ、何言ってんだ。こいつは今縛られてるか?ここに鍵はかかっていたか?逃げようと思えばいつでもそう出来たんだ。それをしないってことは帰ってきたんだ、オレのところに」
カタンと小さな音がして戸口で安野が呆気にとられている。
注目を浴びたことで、何やってるんですかとハッとしたように歩みを進め鷹野に制された。
「乾君、見つかったんでしょう?だったらもう行きましょう」
「いや、それじゃ駄目なんだってことがわかった」
「は?どういうことです?乾君!迎えに来ましたよ、行きましょう」
「うるさいわね。外野は黙ってなさいよ」
「なっ、はっ?え?」
孤塚は安野を一瞥し、また視線を鴨井に戻した。
鷹野は、そういうことだと安野の肩を押して戸口に戻す。
その顔は真剣で安野はもうなにも言えなくなってしまった。
「あの、ごめんなさい」
我にかえって太郎が立ち上がろうとするのを鴨井が押し戻す。
黙ってろ、とは鴨井の言葉。
謝ることなんてない、とは鷹野の問いかけ。
二人の言葉を受け太郎はしどろもどろになってしまう。
「あらあら、これはまた俊くんの負けかなァ?」
「お前も黙ってろ!」
孤塚は首を竦め太郎にウインクして笑いかける。
「いつもそんな感じだったのか?」
「・・・なにが」
「そうやって押さえつけてたのか?」
「オレらのことにあんたは関係ないだろ?」
「関係あるから聞いている」
「はぁ?」
「委縮してるじゃないか」
「いつもそうよ。だって、俊くんはそのやり方しか知らないもの」
「っ蘭子!」
はいはい、と孤塚は両手をちょいとあげて降参した。
鷹野からは鴨井が邪魔して太郎の表情が見えない。
鴨井が見せまいとしようとしているのがわかる。
「俺の前では美味そうに飯を食うぞ。あと俺に対して文句も言うし、クイズ番組で先に答えると睨むし。そうだ、カリブ海が舞台の海外ドラマが好きなんだ。いつかそこへ連れて行く。知ってたか?酢豚にはパイナップルを入れて欲しがるし、餃子を包むのは下手だ。風呂上がりにはオレンジジュース飲むし、ただいまって帰ればおかえりって返してくれる。それにな、俺の前では笑うんだ。俺はすごく楽しい。太郎といると嬉しくてつい顔が緩むんだ」
君はどうだ?と鷹野は鴨井を見つめる。
「君の記憶にある太郎はどんな顔をしている?君は太郎にどんな顔をしていた?」
鴨井の顔からは表情が抜け落ち、孤塚はくつくつと笑っている。
雨は小雨になって、風が揺らす窓だけがカタカタと鳴っていた。
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