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身辺
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終業間際の副社長室には鷹野と安野、そして多田がいた。
硬い武骨なソファに座る鷹野の対面には、冨樫調査事務所の所長が座っている。
何枚にも渡る調査報告書。
その一枚を凝視する。
「この狐塚というのは人によってまるで印象が違うのだな」
「そうですね。品行方正、正義感が強く優しい子という子もいれば、表裏の激しい奴、不気味な奴といった子も少なからずいましたね。教師からの覚えは良かったようです」
「対して、鴨井は」
「いわゆる不良ですね。誰に聞いてもいい噂は聞きません。狐塚との繋がりもその塾帰りに見たって子だけです。今、なにをやってるのかも掴めませんでした」
冨樫徹は同じように報告書を見ながら言う。
今回の依頼『乾太郎の身辺調査』はなんとも気持ち悪いの悪いものであった。
以前、依頼された時には表面をなぞる様なものでよかった。
しかし、今回はもっと突っ込んでの調査だ。
一度打ち切られた調査を再開するのは珍しいことではないし、金に糸目はつけないというのもありがたい。
けれど、乾のことを聞けばセットのように狐塚の名前が出てくる。
それによって乾の印象が変わる。
狐塚の回りには大なり小なり不穏の芽がある。
それを摘み取るのはもちろん狐塚だ。
・紛失した大事なものを探して見つけくれた
・痴漢されたところを助けてくれた
・根も葉もない噂の火消しをしてくれた
・一人ぼっちだと優しく声をかけてくれた
・いじめられそうになったのを庇ってくれた
他愛もないこともそうでないこともあるが、多感な年頃だとどうだろう?
落として、持ち上げる。
知らないだけでもっともっとあるのではないか?
「御しやすい子とそうでない子の見る目に長けた子という印象ですね。そうでない子には必要以上に近づいていません」
「自作自演だと思うか?」
「さぁ、そこまでは。実際感謝している子もいましたしね」
「この寝盗られたというのは、鴨井のことか?」
「いや、別の男子生徒だったようです。αではなくβだったようですね。狐塚自身がβですし」
「本当だろうか」
「あくまで噂の範疇ですからねぇ」
あぁ、と思い出したように冨樫がタブレットを取り出す。
「眼鏡の細身の男でしたっけ?茶髪の長めの髪の」
「あぁ、そいつが『気をつけて』と太郎に言ったんだ」
「これ、アルバムを借りる事は出来ませんでしたけど写真には撮ってきました。この中にいますか?」
冨樫から渡されたタブレットの中の卒業アルバムを見ていく。
そこには茶髪ではなく坊主頭の分厚い眼鏡の男がいた。
容姿はだいぶ変わっているが、面影は残っている。
「峯田和孝、こいつだ」
「あぁ、その子は今入院してるみたいで会えなかった子ですね」
パラパラと黒い手帳を捲りながら冨樫が言う。
なんでも階段から落ちたみたいで、と。
太郎に会った後の事故か?となんとも腑に落ちない気持ちになりながらも、鷹野はそのままタブレットを操作してあるところで手を止める。
「これは?」
「はい?あぁ、鴨井を調べた時に出てきたんですよ。鴨井の母親綾の死亡記事。結局は事故死みたいですが、詳しく調べましょうか?」
「頼む。峯田にも会って話しが聞きたい」
そう言って鷹野は地方新聞の小さな記事を何度も読んだ。
──風呂場で溺死?事件か、事故か。
鴨井綾さん(35)が都営住宅の一室で溺死状態で発見・・・・・・
「わかりました。あと狐塚ですが、今はH女子大の三年ですね。アポとってありますが一緒にお会いになられますか?」
鷹野がチラリと安野を見やると、大きく頷いた。
「あぁ、同席させてもらおう。出来れば俺の運命だとかほざく鴨井にも会いたかったがな」
薄ら笑いを浮かべる鷹野を見て、敵に回したくはないなと冨樫は思った。
硬い武骨なソファに座る鷹野の対面には、冨樫調査事務所の所長が座っている。
何枚にも渡る調査報告書。
その一枚を凝視する。
「この狐塚というのは人によってまるで印象が違うのだな」
「そうですね。品行方正、正義感が強く優しい子という子もいれば、表裏の激しい奴、不気味な奴といった子も少なからずいましたね。教師からの覚えは良かったようです」
「対して、鴨井は」
「いわゆる不良ですね。誰に聞いてもいい噂は聞きません。狐塚との繋がりもその塾帰りに見たって子だけです。今、なにをやってるのかも掴めませんでした」
冨樫徹は同じように報告書を見ながら言う。
今回の依頼『乾太郎の身辺調査』はなんとも気持ち悪いの悪いものであった。
以前、依頼された時には表面をなぞる様なものでよかった。
しかし、今回はもっと突っ込んでの調査だ。
一度打ち切られた調査を再開するのは珍しいことではないし、金に糸目はつけないというのもありがたい。
けれど、乾のことを聞けばセットのように狐塚の名前が出てくる。
それによって乾の印象が変わる。
狐塚の回りには大なり小なり不穏の芽がある。
それを摘み取るのはもちろん狐塚だ。
・紛失した大事なものを探して見つけくれた
・痴漢されたところを助けてくれた
・根も葉もない噂の火消しをしてくれた
・一人ぼっちだと優しく声をかけてくれた
・いじめられそうになったのを庇ってくれた
他愛もないこともそうでないこともあるが、多感な年頃だとどうだろう?
落として、持ち上げる。
知らないだけでもっともっとあるのではないか?
「御しやすい子とそうでない子の見る目に長けた子という印象ですね。そうでない子には必要以上に近づいていません」
「自作自演だと思うか?」
「さぁ、そこまでは。実際感謝している子もいましたしね」
「この寝盗られたというのは、鴨井のことか?」
「いや、別の男子生徒だったようです。αではなくβだったようですね。狐塚自身がβですし」
「本当だろうか」
「あくまで噂の範疇ですからねぇ」
あぁ、と思い出したように冨樫がタブレットを取り出す。
「眼鏡の細身の男でしたっけ?茶髪の長めの髪の」
「あぁ、そいつが『気をつけて』と太郎に言ったんだ」
「これ、アルバムを借りる事は出来ませんでしたけど写真には撮ってきました。この中にいますか?」
冨樫から渡されたタブレットの中の卒業アルバムを見ていく。
そこには茶髪ではなく坊主頭の分厚い眼鏡の男がいた。
容姿はだいぶ変わっているが、面影は残っている。
「峯田和孝、こいつだ」
「あぁ、その子は今入院してるみたいで会えなかった子ですね」
パラパラと黒い手帳を捲りながら冨樫が言う。
なんでも階段から落ちたみたいで、と。
太郎に会った後の事故か?となんとも腑に落ちない気持ちになりながらも、鷹野はそのままタブレットを操作してあるところで手を止める。
「これは?」
「はい?あぁ、鴨井を調べた時に出てきたんですよ。鴨井の母親綾の死亡記事。結局は事故死みたいですが、詳しく調べましょうか?」
「頼む。峯田にも会って話しが聞きたい」
そう言って鷹野は地方新聞の小さな記事を何度も読んだ。
──風呂場で溺死?事件か、事故か。
鴨井綾さん(35)が都営住宅の一室で溺死状態で発見・・・・・・
「わかりました。あと狐塚ですが、今はH女子大の三年ですね。アポとってありますが一緒にお会いになられますか?」
鷹野がチラリと安野を見やると、大きく頷いた。
「あぁ、同席させてもらおう。出来れば俺の運命だとかほざく鴨井にも会いたかったがな」
薄ら笑いを浮かべる鷹野を見て、敵に回したくはないなと冨樫は思った。
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