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彼シャツ

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ゆっくり意識が浮上してパチリと目を開ける。

「知らない天井だ」

何日ぶり二度目の知らない天井。
声は掠れていて、寝返りをうつと腰がズキリと痛んでなんで?と思う。
真っ白いシーツは相変わらず肌触りが良くてさすさすと撫でてしまう。
大きなベッドとクローゼット、サイドテーブルは空っぽでカーテンは濃紺だった。
カーテンの隙間からはオレンジの光がさしていて夕方なんだなと気付く。
枕に顔を埋めるとレモンの匂いがして、ついググイと強く押し付ける。

「目ェ気にならないんかな」

ならないよ、と声がして勢いよく振り返ると声の主がドアにもたれてこちらを見ていた。

「・・・いつから?」
「知らない天井だ、から」

最初からじゃん!と恥ずかしくなって掛布に潜り込む。
足音が近づいてきて、ヒィィィと悲鳴に似た声がつい出てしまって慌てて手で口を押さえる。
ボスンとベッドが沈んで息を止める。

「ちょっとは落ち着いたか?」

埋まっているところをポンポンと叩かれる。

「な、なんでいるの?」
「俺ん家だから」

え?でも、と考える。
一生懸命記憶を辿る。

「・・・受付みたいな所あったけど」
「あぁ、コンシェルジュ?」
「コ、コン、コン?シュ?」
「コンシェルジュ」

ふぅん、と答えるが全くわからん。
もそもそと掛布の中で動いて、はたと気付く。
今更だがシーツも綺麗だし、自分もなんだかサラサラしている。
後始末をさせてしまったのか、と血の気が引いていく。
掛布をはね飛ばして土下座する。

「ごめんなさい!」

全裸で土下座はかなり間抜けだが仕方ない。
何を謝ってるんだ、と旋毛をグリグリされる。
痛いが文句を言える立場ではないので甘んじて受け入れる。
しばらくグリグリされていたが腋に手を入れられて、ぐいと持ち上げられそのまま膝に乗せられてしまった。
服を着てる人と全裸の人。
向かい合っているそれはかなり間抜けな絵面だろうと思う。

「なんで謝った?」
「後始末させてしまったから」
「そりゃぁ俺の仕事だから」
「仕事は副社長だろ?」

全くもってわからない。
何を言ってるんだ、と思っているとブハッと盛大に笑われてきつく抱きしめられてぐえっと声が出る。
肩口に頭を乗せられて撫でてくれる手が気持ちいい。

「ここがスタートラインだから。今までの事は忘れるんだ。な?」
「はぁ」

なんだかよくわからないが怒ってはないらしいので返事はしておく。
生返事がすぐにバレてしまって、またひょっとこにされてしまったら鷹野とのあれこれが急激に押し寄せてきた。
顔から火が出るくらい恥ずかしい。
この体勢でも交わった気がする。
そう思うと恥ずかしくて堪らない。

「どうした?またきた?」
「ち、違っ、あの、その」

酸欠の金魚になった気分だ、言葉が上手く出ない。
改めてじっくり体を見ると至る所にキスマークがあって、またもやヒィィっと声が出る。

「赤くなったり青くなったり忙しい奴だな」
「ふふふ服!服着させて!」

どうせまた脱ぐのに、とぶつぶつ言いながら鷹野は自分が着ていたTシャツを脱いでそれを頭からズボッと着せてきた。
てるてる坊主のようなそれに呆気にとられているとまた担ぎあげられて、寝室からリビングへと移動する。
ソファに座らされて袖から手を出したが、どう考えたって大きすぎるだろと嘆息する。


彼女が自分の大きなシャツを着てるのを見るとグッときますね(30代 男性)   Yafooニュースより


あ、あ、アホかー!!
頭を抱えて、なんだこれなんだこれとぐるぐる巡らす。
ほら、の声に隣りを見るととてもいい笑顔でアイスティーを差し出す彼。
どうも、とアイスティーを受け取り喉を潤す。
冷たいのが滑り落ちていって染み渡る。

「うん、いいな。・・・グッとくる」

ブーッとアイスティーを噴き出す。

「・・・30代男性」
「20代男性だけど」

言いながらシャツの裾で顔を拭かれて、この人アホなんだと思った。
その後、とろりとした茶色のスープや柔らかいパンを食べさせられた。
そう、文字通り食べさせられて鳥のヒナになったような気分になった。
何が楽しいのかニコニコ笑う鷹野を見て、やっぱりこの人アホなんだと思った。
そして、あの日から2日経っていると聞いて休憩を挟みながらでも2日もセックスしていたのかと思うともう完全に思考停止してしまった。
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