諦めない俺の進む道【本編終了】

谷絵 ちぐり

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対峙

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──付き合わない?

つきあう?月会う?突き合う?付き合う!?
開いた口をゆっくり閉じて乾いてしまった口と鼻を押さえて息を止める。
息を止めて考える。
考えて考えて、嫌な記憶も全部思い出してぶはっと息も嫌な事も忘れるように吐き出す。

「ば」
「ば?」
「ばば」
「婆?」
「ば、罰ゲーム?」

大柄な男のキリリと太い眉が跳ね上がり、猫みたいな目が眇られる。
一歩距離が近づいて上から見下ろされる。

「なんの?」

苛ついた様子にグッと喉がなって目が逸らせない。
奥歯を噛み締めてなんとか言葉を探すも何も出てこない。
なんでこんなに怒ってるんだろう。

「たろちゃん?」

固まった体が解けて声の方、大柄な体の後ろに目をやる。

「晴臣、と黒崎」

俺はおまけかよ、と黒崎が笑うのに反応して鷹野が振り向く。
笑っていた黒崎の目が丸くなって驚きに満ちた顔になる。
晴臣が駆け寄り、大丈夫?と聞いてくるのにホッと息をつく。

「太郎君の言ってた人って鷹野さん?」
「黒崎さん、まさかこんな所で会うとは」

何やら談笑する二人を見て、知り合い?と晴臣に聞いてみる。
さあ、と晴臣も首を傾げる。

「それより、もう食べた?何食べた?」
「あ!今、大トロ半額だって。また一緒に行こ」

晴臣は傍にある『くる寿司』の看板を見てここ?と指さすのでうんと頷く。
高いやつ奢らせた、とコショコショと耳打ちする。

「たろちゃんは、ばかわいいねぇ」

ぐしゃぐしゃと頭をぐわんぐわん掻き回されふらついてしまう。
頭のてっぺんに鳥の巣ができる。

「今ね、太郎君に交際を申し込んだんだよ」

ね?となぜか圧のかかる笑顔に呆気にとられて晴臣の腕をギュッと掴む。

「たろちゃん、これはどう?」
「・・・なんか怖くて」

相手が、じゃない。
自分が、怖い。
あの匂いにのまれてしまうのが怖い。
気づけばまた鼻を塞いでいた。

「・・・だって。他あたってよ」
「君は太郎君のかな?」
「親友で兄でこいつのこと一番よくわかってる奴だよ」

自分より体躯のいい‪α‬に真っ向から挑む晴臣は強く美しい。
バチバチと音がしそうな程睨み合う二人。

「はいはい。ここだと迷惑になるから『よっちゃん』にでも行こう」

パンパンと手を叩きながら黒崎がのんびりと割って入る。
道行く人々がチラチラとこちらを見ながら通り過ぎていくのに今更気づく。
ね、鷹野さん?と黒崎は全く笑っていない笑顔で言う。
柔らかい声音の裏には、俺の番に何してくれてんだという怒りがほんのり滲んでいる。

「・・・黒崎って‪やっぱりαなんだ‬」
「太郎君、俺は財布だけど‪α‬でもあるんだよ」

そう言って二ヒヒと笑う黒崎は、すっかりいつもの黒崎に戻っていた。



4人で『よっちゃん』に移動する。
晴臣、黒崎、そして『よっちゃん』というホームのような安心感にいつも通り生ビールを頼む。
お通しはきゅうりの浅漬け200円。
ポリポリ食べて、ビールを一口飲んだところで痛い視線に気づいた。

「あっ・・・乾杯してなかった」
「違う、そうじゃない」

晴臣に鳥の巣になった頭をまたぐしゃぐしゃされて、一回り大きい鳥の巣がまた出来てしまった。
通りかかる店員がギョッとしている。

「で?鷹野さんはなんでたろちゃんと付き合いたいの?一時の感情で振り回さないであげてよ」

なあ?と顎をクイと晴臣にもちあげられる。

「だって、運命だから」

ポカンと無言になる晴臣を無視して鷹野はニコニコと太郎を見つめながらジョッキを持った。

「かんぱーい」

太郎のジョッキにカツンと合わせて一気に呷る。
唇についた泡をペロリと舐めとる仕草は獰猛で、頭が鳥の巣の太郎にはとてもじゃないが太刀打ちできそうになかった。

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