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番外編 ちょっとした寄り道
世界はそれを
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カーテンを開けると秋晴れの空が広がっていて、窓を開けると澄んだ空気が一気に部屋を満たしていく。
すよすよとベットで眠るその人に覆いかぶさり鼻筋のへこんだ所にキスを落とす。
「稔、起きて」
ぱちぱちと目を瞬かせ、朝から近い、と呟きまた目を閉じる。
「お誕生日おめでとう」
顔中に口づけながら言うと、途端にパチリと目を開けてふにゃと笑う。
嬉しい、と首に腕を回しぐりぐりと肩口に顔を埋める。
朝食は稔の好きな和食。
豆腐とほうれん草の味噌汁、焼き鮭に里中直伝のひじき煮。
千切りきゅうりと鶏ササミと梅肉を和えて、ほかほかの白ご飯で出来上がり。
いただきます、と一緒に手を合わせて微笑みあう。
「デートしようね」
大きく頷くのにあわせて広がる未熟な林檎の香り。
丹念に剪定された紅葉、傍にある岩も根元の苔の緑も敷き詰められた丸い白い小石も、なにもかもが心を打つ。
先端から薄ら色づいている紅葉。
緑と赤のコントラストが美しい。
飛び石の上を一つ一つ歩く。
「綺麗」
「うん」
写真撮る?と聞く前に稔はスマホのシャッターを切っていた。
ホーム画面に設定して口元がピクピク動いている。
「大満足」
呟く声に腰に回した手がピクリと反応して、それに反応して見上げるのにキスをひとつ。
恥ずかしそうにしながらも、えへへと笑うのにまた好きになる。
紅葉のよく見える大きな一枚ガラスのティールームでお茶をする。
薄い白磁のカップをそっと持ち上げて珈琲を飲む。
ほぅ、と一息ついて景色を楽しむ。
「一穂が淹れたやつの方が美味しいね」
「光栄です」
内緒話のような小さな声。
胸に手を当てて軽く会釈するのを見て、ふふふと二人で笑う。
ディナーは有名ホテルで。
恭しくエスコートすると、ぷッと笑いがお互い込み上げて肩を揺らして笑ってしまう。
遠くに見える東京タワー、眩い夜景。
赤ワインは血赤珊瑚の色に似て、デザートのシャーベットに乗ってるミントはペリドット。
二人で過ごすなにもかもが嬉しくて、楽しくて、目が合うだけでまたひとつ好きになる。
ベタだけど、と前置きの後で取り出したるはクリーム色のベルベットのリングケース。
直線的でシンプルな指輪には小さなペリドットが埋まっている。
「結婚してくれますか?」
「はい」
輝く笑顔は何にも代え難く、付けて?と差し出される左手は小さく震えている。
指先に手の甲に手のひらに口づけて指輪を嵌めて、最後に手首に口づける。
「俺にもしてくれる?」
破顔して頷いて、同じように嵌めてくれる。
笑いあって見つめ合う頬には赤みがさし、目は潤み、薄く開いた唇から零れるのは熱い吐息。
早く家に帰りたい、望みを叶えるべく家路を急ぐ。
レストランからここまで、徐々に濃くなる匂いに頭がクラクラして叫び出したいような気持ちを堪える。
体が熱くて、マグマのようにボコボコと腹の内の何かが暴れ狂う。
森の中に密かに実っていた未熟な若い林檎は、満を持して一気に熟し芳醇な香りを立ち昇らせている。
熟れた桃は熟し過ぎてどろどろに溶けて芳醇な香りと混じり合う。
始まりの人類の気持ちがよくわかる。
嗚呼、食べずにいられない。
例え不幸になろうとも、その瑞々しい果実に歯を立てたい。
ガブリと歯を立てれば口に広がる禁断の味。
森の中のたったひとつはその瞬間に勢いよく花を付け実を成し、森と一体になる。
むせるような二つの香りは混じり合いただひとつの楽園を作る。
絡み合う指には赤と緑の石が小さく輝いている。
運命に翻弄された二人は、運命を置き去りに高みへ昇る。
人はそれを愛と呼ぶのだろう。
窓から見えるオガタマノキは月明かりに照らされて大きく葉を揺らしている。
二人の門出を祝福するように揺れている。
二人を見守ってくれてありがとうございました*𖤣𖠿𖤣𖥧𖥣。
すよすよとベットで眠るその人に覆いかぶさり鼻筋のへこんだ所にキスを落とす。
「稔、起きて」
ぱちぱちと目を瞬かせ、朝から近い、と呟きまた目を閉じる。
「お誕生日おめでとう」
顔中に口づけながら言うと、途端にパチリと目を開けてふにゃと笑う。
嬉しい、と首に腕を回しぐりぐりと肩口に顔を埋める。
朝食は稔の好きな和食。
豆腐とほうれん草の味噌汁、焼き鮭に里中直伝のひじき煮。
千切りきゅうりと鶏ササミと梅肉を和えて、ほかほかの白ご飯で出来上がり。
いただきます、と一緒に手を合わせて微笑みあう。
「デートしようね」
大きく頷くのにあわせて広がる未熟な林檎の香り。
丹念に剪定された紅葉、傍にある岩も根元の苔の緑も敷き詰められた丸い白い小石も、なにもかもが心を打つ。
先端から薄ら色づいている紅葉。
緑と赤のコントラストが美しい。
飛び石の上を一つ一つ歩く。
「綺麗」
「うん」
写真撮る?と聞く前に稔はスマホのシャッターを切っていた。
ホーム画面に設定して口元がピクピク動いている。
「大満足」
呟く声に腰に回した手がピクリと反応して、それに反応して見上げるのにキスをひとつ。
恥ずかしそうにしながらも、えへへと笑うのにまた好きになる。
紅葉のよく見える大きな一枚ガラスのティールームでお茶をする。
薄い白磁のカップをそっと持ち上げて珈琲を飲む。
ほぅ、と一息ついて景色を楽しむ。
「一穂が淹れたやつの方が美味しいね」
「光栄です」
内緒話のような小さな声。
胸に手を当てて軽く会釈するのを見て、ふふふと二人で笑う。
ディナーは有名ホテルで。
恭しくエスコートすると、ぷッと笑いがお互い込み上げて肩を揺らして笑ってしまう。
遠くに見える東京タワー、眩い夜景。
赤ワインは血赤珊瑚の色に似て、デザートのシャーベットに乗ってるミントはペリドット。
二人で過ごすなにもかもが嬉しくて、楽しくて、目が合うだけでまたひとつ好きになる。
ベタだけど、と前置きの後で取り出したるはクリーム色のベルベットのリングケース。
直線的でシンプルな指輪には小さなペリドットが埋まっている。
「結婚してくれますか?」
「はい」
輝く笑顔は何にも代え難く、付けて?と差し出される左手は小さく震えている。
指先に手の甲に手のひらに口づけて指輪を嵌めて、最後に手首に口づける。
「俺にもしてくれる?」
破顔して頷いて、同じように嵌めてくれる。
笑いあって見つめ合う頬には赤みがさし、目は潤み、薄く開いた唇から零れるのは熱い吐息。
早く家に帰りたい、望みを叶えるべく家路を急ぐ。
レストランからここまで、徐々に濃くなる匂いに頭がクラクラして叫び出したいような気持ちを堪える。
体が熱くて、マグマのようにボコボコと腹の内の何かが暴れ狂う。
森の中に密かに実っていた未熟な若い林檎は、満を持して一気に熟し芳醇な香りを立ち昇らせている。
熟れた桃は熟し過ぎてどろどろに溶けて芳醇な香りと混じり合う。
始まりの人類の気持ちがよくわかる。
嗚呼、食べずにいられない。
例え不幸になろうとも、その瑞々しい果実に歯を立てたい。
ガブリと歯を立てれば口に広がる禁断の味。
森の中のたったひとつはその瞬間に勢いよく花を付け実を成し、森と一体になる。
むせるような二つの香りは混じり合いただひとつの楽園を作る。
絡み合う指には赤と緑の石が小さく輝いている。
運命に翻弄された二人は、運命を置き去りに高みへ昇る。
人はそれを愛と呼ぶのだろう。
窓から見えるオガタマノキは月明かりに照らされて大きく葉を揺らしている。
二人の門出を祝福するように揺れている。
二人を見守ってくれてありがとうございました*𖤣𖠿𖤣𖥧𖥣。
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