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再開

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バタバタと足音が聞こえ、次いでバタンと乱暴に応接間の扉が開かれる。
いつもは隙なく着こなしてるスーツは首元が少し乱れ、髪も乱れている。
母の手を離し思わず立ち上がってしまう。
大きく広い胸に抱きしめられる。

「少し太ったか?」
「父さんは少し痩せた?」

髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜられて、額に頬に肩に腕に、存在を確かめるように触られる。

「心配かけやがって」
「ごめんなさい」

赤くなった目元を親指でそっと撫でられる。
両親に挟まれてソファに座り、ニコニコ笑う田崎が新しくアイスティーを置いて下がっていく。

「・・・すまなかった」
「父さんが謝ることなんてひとつもないよ」

三人で肩を寄せあってポツリポツリと話す。
Ωとしての息子を守りたかったこと、家だけでなく会社も繋がればいざという時に役だつと思ったこと、そこに野心がないか?と問われれば無いとは言いきれないこと、自分達が見合いでも幸せだったこと、何不自由なく幸せになってほしかったこと、息子可愛さに囲い込みすぎてしまったこと。

「うん、全部知ってる、わかってる。それをわかってて逃げてしまったのは僕の弱さだ」
「それは違う。俺らが思う幸せのレールってやつに無理やり乗せようとした。そこにお前の意思があるかどうか考えが足りなかった。俺らはもっと稔を信じて見守らなきゃいけなかったんだ・・・今、お前を守ってるそのフェロモンの奴みたいにな」
「・・・そうなの?」
「あぁ、お前が愛しい、守りたいと優しくお前を包んでるよ」

顔を覆う指の隙間から涙が溢れる。
会わせてくれるか?と優しく頭を撫でられて頷く。

「多分、どこかその辺にいると思う」
「・・・その辺」

母が呟き、父が吹き出し三人で笑ってしまった。
どこかその辺にいると思われるその人に連絡すると、うろうろしすぎて迷ってしまった、と返ってきた。

「稔、そいつは大丈夫なのか?」
「・・・多分」

久しぶりの自室は出て行った時のままだった。
埃っぽくないのは田崎が毎日掃除してくれているのだろう。
父から渡されたスマホを起動する。
メッセージアプリには、大事な幼馴染二人からのメッセージで溢れていた。
既読のつかないそれに毎日一言づつメッセージが届いている。

──今日はとてもいい天気だよ。みぃちゃんも同じ空を見てる?
──今日、初めて自力でひとつ契約が取れたよ。稔、祝ってくれるか?

喉元にこみ上げる塊を飲み下し、窓を開ける。
見下ろすと来た時とは全く違う方向から、コートに手を突っ込み黄色のマフラーを揺らしながら歩くその人。

「一穂!」

キョロキョロと辺りを見回し、見上げて相好を崩しながら手を振る。
駆け出し、転げるように階段を走り抜け靴を履くのももどかしく踵を踏んで玄関を抜ける。
開いたままになっている門扉の傍にへらりと笑って立つその人に向かって走って、飛びつくようにその大きな胸に収まる。

「おお!熱烈な歓迎だな」

上手くいった?と頭のてっぺんにチュッと音を立ててキスをされる。
胸元にグリグリと頭を押し付けながら、ありがとうと告げる。

「俺、なんもしてないけど」

ハハハ、と笑いながら抱きしめ合う。
肩をポンポンと叩かれ振り向くと両親、その奥には既にエプロンで涙を拭っている田崎がいた。

「僕の大切な人」

大輪の花が咲くように笑う稔に呆気にとられる両親。
一穂は稔の背後で、楢崎に向かって人差し指を唇にそっと当てた。

「初めまして、遠山一穂です」

微笑みながらペコリと頭を下げるのを振り返って稔はまた笑った。




手を繋いで何やら楽しそうに会話しながら歩く後ろ姿を見送る。

下位αが台頭してきている。
そう聞いて驚いた事をよく覚えている。
最初は小さいゲーム会社、そこから裾野を伸ばして貪欲に会社を広げていく。
上位に食い込んであわよくば食らってやろう、そんな気概をもつ男。
上位に運命を奪われたと噂に聞いた時には、なるほどと思った。
上位はフェロモンでもなんでも真っ向から対峙するが、奴はヘラヘラ笑って躱す、笑う瞳の奥には仄暗い何かを飼っていて、躱しながら刺してくる。
一年ほど前に消えた、と聞いていたが生きていたのか。

「行かせて良かったの?」
「ん?これからはいつでも会えるしな」

何年か前のパーティで一度挨拶しただけだったが、そうか、俺の事を覚えていたのか。
稔に向けて笑いかけるその顔が素なんだろう。
あの時の笑顔に隠されたゾッとするような暗い影はどこにも見当たらない。

「優しそうな人だったね」
「・・・そうだな」

あれは全身全霊をかけて稔を守るだろう。
彼が縛られていた何かから解き放たれていればいい、そう思いながら楢崎は最愛の息子を見送った。
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