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旅館
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さわさわと風は木立を揺らし、ピーヒョロロロと鳶の鳴く声が高く聞こえる中、向かい合って静かにお茶を飲む。
「夕飯まで時間あるからその辺散歩にでも行く?」
「行く」
マフラーをお互いに巻いてあげて、そっと鼻先だけスリスリと合わせる。
「機嫌治った?」
「別に怒ってない」
「うん、知ってる」
ムッと口角が下がると、すかさずそこに音を立ててキスをされる。
そのままキュッと抱きしめられて甘く優しい声が耳元を襲う。
「夕飯はすごく良い肉が出るから」
ぷっと吹き出してゲラゲラ笑い合う。
もっともっとお腹を空かせなくては、と笑い合う。
鼻筋のへこんだ所にキスをされて離れを出る。
「ここから少し登った所に滝がありますよ。標識出てるのですぐにわかります」
女将に教えてもらい、いってきますと宿を後にする。
ピュウと吹く風が思いのほか冷たくてぶるりと身が震える。
サクサクと枯葉が覆う細い道を登っていく。
「山の中だから冷えるな」
「あ、なんかある」
駆け出した稔に一穂の笑みが零れる。
あったよ、と木で作られた矢印型の標識を指さしながら振り向く稔にシャッターを切る。
近づいてまた一枚シャッターを切る。
ぐぬぬ、と悔しそうな顔に一穂はつい笑ってしまう。
標識には『望天の滝1.2km』と黄色いペンキで書いてあった。
「なんて読むんだろう?ぼうてん?」
「さあ、なんだろうな」
なだらかな細い坂道を転ばないようにしっかり手を握って歩く。
途中、知らない鳥や蔦がぐるぐる巻きついている大きな木の写真を撮る。
パシャパシャと微かな水音が聞こてきて、どちらからとも早足で進んで、いつの間にか競走になった。
坂道の途中、こぶのようになった場所に鉄の柵がありそこから滝を見る。
「滝ってもっと勢いよく流れてるんじゃないの?」
「そうだな」
目の前の滝は岩肌にそって少ない水が流れていた。
それがパシャパシャと音を立てている。
暫く眺めていたが、立派な崖から流れる貧相なそれが無性におかしくて声を立てて笑う。
一応撮っておこう、と言って一枚撮ってから今度は二人で撮る。
「ちゃんと撮れてるかな」
「現像したら、二人の頭だけだったりして」
想像するとおかしくてまた笑った。
カサカサパシャパシャザワザワと静かな山の中に二人の笑い声が響く。
「夏になったらもっと勢いあるのかな」
「じゃ、また夏に来よう」
下りは少しだけ足が早くなってしまうのを、そっと止めてくれてゆっくり歩く。
ちょっとしたことで心が弾んで恥ずかしい。
たくさん歩いたからか、あんなに寒かったのに体がポカポカ暖かい。
「あら、水流れてませんでした?それは悪いことでした」
女将さんのせいじゃないです、と謝り合戦をする。
離れまでの廊下で中庭の写真も撮る。
「内風呂と露天風呂があるけど、どっち入る?」
寝室の窓から出てすぐの所に檜風呂が設置してあり乳白色の湯が仄かに湯気を立てている。
「一緒に入る?」
「うん。これは一人で入ったらつまらないと思う」
思い切り足を伸ばして、手も上にぐんと伸ばす。
熱めのお湯が体にどんどん染み渡ってとても気持ちがいい。
あああぁぁ、と思わず声が漏れてしまう。
「おっさんみたいだな」
「どっちが」
クスクス笑って肩を並べて湯に浸かる。
どこからかチチチと鳥の声が聞こえて、見上げると鳶が旋回している。
ザザっと葉の擦れ合う音がして、ピチョンと水滴も落ちる。
「ありがとう。連れてきてくれて」
そっと肩にもたれ掛かる。
「うん、ありがとう。着いてきてくれて」
寄り添いあってのんびり湯に浸かる。
触れる肌が、まとわりつく湯が、頬にあたる冷たい空気が気持ちよくて目を閉じる。
「あ、滝の名前聞くの忘れた」
「もう『ぼうてん』でいいだろ」
笑い合って擽りあって見つめ合う。
なんとなく抱き合って、これからを思う。
「夕飯まで時間あるからその辺散歩にでも行く?」
「行く」
マフラーをお互いに巻いてあげて、そっと鼻先だけスリスリと合わせる。
「機嫌治った?」
「別に怒ってない」
「うん、知ってる」
ムッと口角が下がると、すかさずそこに音を立ててキスをされる。
そのままキュッと抱きしめられて甘く優しい声が耳元を襲う。
「夕飯はすごく良い肉が出るから」
ぷっと吹き出してゲラゲラ笑い合う。
もっともっとお腹を空かせなくては、と笑い合う。
鼻筋のへこんだ所にキスをされて離れを出る。
「ここから少し登った所に滝がありますよ。標識出てるのですぐにわかります」
女将に教えてもらい、いってきますと宿を後にする。
ピュウと吹く風が思いのほか冷たくてぶるりと身が震える。
サクサクと枯葉が覆う細い道を登っていく。
「山の中だから冷えるな」
「あ、なんかある」
駆け出した稔に一穂の笑みが零れる。
あったよ、と木で作られた矢印型の標識を指さしながら振り向く稔にシャッターを切る。
近づいてまた一枚シャッターを切る。
ぐぬぬ、と悔しそうな顔に一穂はつい笑ってしまう。
標識には『望天の滝1.2km』と黄色いペンキで書いてあった。
「なんて読むんだろう?ぼうてん?」
「さあ、なんだろうな」
なだらかな細い坂道を転ばないようにしっかり手を握って歩く。
途中、知らない鳥や蔦がぐるぐる巻きついている大きな木の写真を撮る。
パシャパシャと微かな水音が聞こてきて、どちらからとも早足で進んで、いつの間にか競走になった。
坂道の途中、こぶのようになった場所に鉄の柵がありそこから滝を見る。
「滝ってもっと勢いよく流れてるんじゃないの?」
「そうだな」
目の前の滝は岩肌にそって少ない水が流れていた。
それがパシャパシャと音を立てている。
暫く眺めていたが、立派な崖から流れる貧相なそれが無性におかしくて声を立てて笑う。
一応撮っておこう、と言って一枚撮ってから今度は二人で撮る。
「ちゃんと撮れてるかな」
「現像したら、二人の頭だけだったりして」
想像するとおかしくてまた笑った。
カサカサパシャパシャザワザワと静かな山の中に二人の笑い声が響く。
「夏になったらもっと勢いあるのかな」
「じゃ、また夏に来よう」
下りは少しだけ足が早くなってしまうのを、そっと止めてくれてゆっくり歩く。
ちょっとしたことで心が弾んで恥ずかしい。
たくさん歩いたからか、あんなに寒かったのに体がポカポカ暖かい。
「あら、水流れてませんでした?それは悪いことでした」
女将さんのせいじゃないです、と謝り合戦をする。
離れまでの廊下で中庭の写真も撮る。
「内風呂と露天風呂があるけど、どっち入る?」
寝室の窓から出てすぐの所に檜風呂が設置してあり乳白色の湯が仄かに湯気を立てている。
「一緒に入る?」
「うん。これは一人で入ったらつまらないと思う」
思い切り足を伸ばして、手も上にぐんと伸ばす。
熱めのお湯が体にどんどん染み渡ってとても気持ちがいい。
あああぁぁ、と思わず声が漏れてしまう。
「おっさんみたいだな」
「どっちが」
クスクス笑って肩を並べて湯に浸かる。
どこからかチチチと鳥の声が聞こえて、見上げると鳶が旋回している。
ザザっと葉の擦れ合う音がして、ピチョンと水滴も落ちる。
「ありがとう。連れてきてくれて」
そっと肩にもたれ掛かる。
「うん、ありがとう。着いてきてくれて」
寄り添いあってのんびり湯に浸かる。
触れる肌が、まとわりつく湯が、頬にあたる冷たい空気が気持ちよくて目を閉じる。
「あ、滝の名前聞くの忘れた」
「もう『ぼうてん』でいいだろ」
笑い合って擽りあって見つめ合う。
なんとなく抱き合って、これからを思う。
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