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ピアスホール

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パラパラという音で目が覚めた。
ゆっくり瞼を開けると外はまだ暗い。
けれど、背後から抱え込まれているので暖かい。

「寝てた?」
「ん、ちょっとだけね」
「なんの音?」
「雨とあられかな」
「そういえば家の人は?」
「だいぶ前に街に引っ越したからいないよ」
「そう」

しとしとパラパラ、ひゅうと風の音も鳴る。
もぞもぞと正面から一穂の顔を見てから、胸に顔を埋める。

「風呂入る?」
「うん」
「一緒に入る?」
「うん」
「もう一回していい?」
「うん」
「寝ぼけてる?」
「起きてる」

肩を揺らすと、同じように頭上から笑い声が降ってくる。
こしょこしょと耳を擽られて、お返しに脇を擽って足をバタバタさせて声をたてて笑う。
きゃあきゃあと子どものような戯れに涙が出そうになる。

「好きだよ」

甘い声と、熱いキスと優しい抱擁にまた翻弄される。

「今日、会った時からずっといい匂いがしてる。まだ青いりんごの甘酸っぱいような、熟した桃みたいに喉にくる甘さというか、なんか複雑な匂い」
「一穂からは葉っぱの匂いがする」
「それは・・・いいのか?」
「森林浴してるみたいで好き」

なんだそれ、とクスクス笑い合う。

「頭撫でてくれるのも好きだし、鼻筋のへこんだ所にキスされるのも好きだし、手を繋いでくれるのも好きだし、目もとの黒子も好きだし、好きって言ってくれるこの口も好きだし、ドキドキしてるこの心臓も好き」
「・・・もう黙って」
「ん、その低すぎない声も好き」
「はぁぁ、可愛すぎてどうにかなりそう」
「それはあんまり嬉しくない」
「なんで?」
「男だし、恥ずかしい」

眉間の皺にキスをして、鼻筋のへこんだ所にキスをして、唇は全て飲み込むようなキスをする。
絡めた指が触れる足先が、荒れた呼吸が乱れた髪が、その全てがこんがらがってもう誰にも解けなければいいのに、と思う。
雨とあられと時おり吹く風。
閉じ込められた空間で切にそう願う。









左の耳朶を冷やして消毒する。
耳朶の感覚が無くなったような気がする。

「1、2、3で、開けるよ」

深呼吸して頷く。

──1、2、バチン

カッとなる熱さに思わず顔を顰めた頬に軽いキスが贈られる。

「・・・1、2、3て言ったのに」
「体が強ばる前に、と思って」

ワハハ、と笑うのを睨んでしまう。
目尻のちいさな涙を掬って、そんなに痛かった?と見つめられる。
痛くはない。
熱くてじんじんする。
それが耳なのか心臓なのかわからない。 

「これはもう塞いだら駄目だよ。俺がつけた一生治らない傷だから」
「一穂も誰かに開けてもらった?」
「いや、俺は自分でバチンと」
「ふうん」
「これ、塞ぐから稔が新しく開ける?」
「開けない」
「そう?」
「だって、また運命が変わると困る」
「熱烈な告白だなぁ」

後頭部を強く支えられて、優しく何度も食むようなキスをされる。
角度を変えて何度も何度も、どんどん深くなっていくそれを受け入れる。

「今度、お揃いのピアス買いに行こうか」

いつもいつも欲しい言葉をくれるところが好きだ。
多分、見透かされていたのだろう。
だから、僕から運命を奪ったなんて言わないで。
そんなもの、もういらないから。
今、手の中にあるこれをずっと離さないから。

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