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お子さまランチ

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生クリーム。
さくらんぼの缶詰。
赤いウィンナー。
りんご。
好きなおやつ。

もう24歳なんだけども、と思いながら稔は『nisiyama』のお菓子コーナーで悩んでいた。
稔はラングドシャが好きだ。
そのままでもいいが、クリームをはさんだやつも好きだ。
新作のロイヤルミルクティー味のクリームとコーヒークリーム。
どちらにしようか。
手に取りじっと眺める。

一穂はどっちが好きかな。
やっぱり、コーヒーかな?
甘いものは好きかな?


「・・・陸さん、勝手なアテレコやめてください」
「ん?えらい悩んでるなぁと思って。ちなみに金ちゃんは甘いものもそうでないものも好き」
「そんなこと全然思ってませんから」

いつから居たんですか?、と言いながらロイヤルミルクティーの方を籠に入れる。
ちょっと前だよ、えへへと笑う陸。
籠を覗き不思議そうな顔をする。

「今日来るお客さんが急にお孫さんを連れて来ることになったみたいで」
「なるほど、お子様ランチか。そのウィンナーはタコになるし、りんごはうさぎになるよ」
「へぇ。僕も手伝うから楽しみです」
「いいね。そのりんごいい匂いがするからきっと甘くて美味しいよ」

ふふふ、と笑い合って連れ立ってレジへ行く。
買い物を済ませ、店先の錆びた赤いベンチに座る。

「金ちゃん、いつ帰ってくるの?」
「さぁ、予定では明後日みたいですけど」
「寂しい?」
「全然」
「本当は?」
「・・・やめてくださいよ、もう」

両手で顔を覆う稔の頭をわしゃわしゃと陸はかき混ぜた。
素直じゃないねぇ、と言いながら。

「期待するのは苦手なんです」
「そっか。大丈夫、帰ってくるよ。多分、準備してるだけだから」
「準備?」
「そう、準備。ちゃんと金ちゃんの口から聞きな?」

わけがわからないがとりあえず頷く。
首に巻いたマフラーの余った部分をギュッと握る。
先日積もった雪は日陰の雪を残して、すっかり溶けてしまった。
日陰の雪は表面が汚れていて、カチカチに固まっている。
春までそのままなんだろうか、と毎日観察する。



赤いバスの形の立体的な器にお子様ランチを作る。
プリンの型で形作ったチキンライス、エビフライにミニハンバーグ、ポテトサラダは丸く山のようにしてミニトマトも添える。
赤いウィンナーはタコになってブロッコリーに寄り添っている。
チキンライスに小さなイギリス国旗を立てる。
それとは別に、ガラスで出来た深いデザート皿にプリンを乗せる。
生クリームを絞ってさくらんぼを飾る。
りんごはうさぎにしてプリンの横に添える。
料理は全て慎太が作ったが、盛り付けは稔が任された。
かなりいい出来なのではないか?とあらゆる角度から見る。
知らずニマニマと笑う。
つまみ食いしたりんごはシャクシャクしていて甘く爽やかな味がした。

そうっと食堂を覗く。
海斗と同じくらいの男の子がお子様ランチを食べている。
チキンライスの旗はプリンに刺さっていた。
ニコニコ食べているのを見て、むふふと頬が緩んでしまう。

──寂しい?

ふと陸の言葉を思い出す。
今までだって毎日会ってたわけじゃない。
寂しくなんてない、頭を振って追い払う。
今日寝たら、明後日が明日になる。
待ってなんかない、期待したりしない。
ただいつもより早く寝よう、そう思うだけ。
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