35 / 63
やり直し
しおりを挟む
目が覚めるとすっかりお馴染みになっている天井だった。
飴色の木目まで見えそうな天井。
瞼が腫れているのか、視界がいつもより狭く感じる。
昨日僕はあれから・・・
「おはよう」
「うわぁっっ!」
驚いて飛び上がり、そろそろと横を伺うと福福しい顔が笑っている。
「もうお昼前よ?」
このやり取りも二回目ねぇ、と恵子はコロコロ笑った。
着替えて早くおりてらっしゃい、と恵子はひと足先に部屋を出ていった。
階下に降りると、慎太が卓袱台でお茶を飲んでいる。
「ひでぇ顔だなぁ」
「・・・すみません」
そんなこと言わないの、と恵子が冷やしたタオルを渡してくれる。
冷たいタオルが目にじんわり染み込んでとても気持ちがいい。
「一穂になんかひどいことされたのか?」
「だからそんなに泣いたの?忍ちゃん」
「え?」
驚きでポトリとタオルが落ちる。
いつになく真剣な眼差しにオロオロしてしまう。
「違いますっ。僕の方こそ迷惑かけたんです」
「本当か?」
「はい。昨日は本当に僕がダメな奴で・・・迷惑ばっかりかけちゃって」
「そうか」
よいせ、と慎太は立ち上がり背後の襖をカラリと開けた。
恵子も同じように立ち上がり部屋を出ていく。
「だってよ、一穂」
「だから何もしてないって何回も言っただろうが」
襖を開けた先には不貞腐れたような一穂が正座をしていた。
目が合うとひらひらと手を振ってくるので、こちらも思わず手を振ってしまう。
「あのな、寝てる忍をお前が連れて帰って来たのこれで二回目だぞ?疑うなって方がおかしいだろう」
「だーかーらー、疲れるとあの子寝落ちするんだって」
「疲れるようなこと」
「してねぇっ!」
ね?とこちらに目配せする一穂に何度も首肯していると、ポンと肩を叩かれ見上げる。
「いってらっしゃい。忍ちゃん」
恵子に立たされ、ほらほらと背中を押される。
ダウンジャケットを着せられ、マフラーをぐるぐる巻きにされる。
ポイと外に出され、ガラガラピシャンと締め出されてしまう。
「あの・・・」
「歩く?ドライブする?それかバスに乗る?・・・それとも、駅に行く?」
「・・・ドライブします」
了解、と一穂は嬉しそうに笑った。
車は海から離れ、いつか通った道をするすると進んで行く。
「昨日はすみませんでした」
「なにが?」
「・・・みっともないとこ、たくさん見せてしまって」
「気にしてないよ」
「・・・・・・やり直ししてもいいですか?」
「もちろん」
大きく深呼吸する。
心臓がドキドキする。
僕は今やっと僕を取り戻す。
「楢崎稔。二十四歳。誕生日は10月4日、B型で身長は160cm体重は計ってないからわからない。足のサイズは25cm。好きな食べ物は和食で嫌いなのはパクチー。W大卒・・・です」
言い終わらないうちに、ガタガタと振動と共に砂利の駐車場に入って行く。
「お昼はここで食べようか」
「得体の知れない奴から知ってる奴になりましたか?」
「うん、知ってることが増えて嬉しい」
稔って呼んでいい?と笑う彼に、僕は涙を堪えるので必死になる。
泣かないようにグッと眉間にチカラを入れる。
笑いながらグリグリと親指で眉間の皺を伸ばされてしまう。
泣いてしまうからやめてほしい。
きっとこの人は過去の僕を知ってもこうやって受け入れてくれるんだろう。
僕はそれが怖い。
怖いのになぜか嬉しい。
やっぱり涙が零れてしまって、彼にそっと拭われる。
やっぱり僕の涙腺は昨日から馬鹿になってしまったらしい。
嬉しいのか怖いのか、わけのわからない涙が次から次へと出てくる。
もうずっとこの人には惑わされている気がする。
それが嫌じゃないのが困る。
飴色の木目まで見えそうな天井。
瞼が腫れているのか、視界がいつもより狭く感じる。
昨日僕はあれから・・・
「おはよう」
「うわぁっっ!」
驚いて飛び上がり、そろそろと横を伺うと福福しい顔が笑っている。
「もうお昼前よ?」
このやり取りも二回目ねぇ、と恵子はコロコロ笑った。
着替えて早くおりてらっしゃい、と恵子はひと足先に部屋を出ていった。
階下に降りると、慎太が卓袱台でお茶を飲んでいる。
「ひでぇ顔だなぁ」
「・・・すみません」
そんなこと言わないの、と恵子が冷やしたタオルを渡してくれる。
冷たいタオルが目にじんわり染み込んでとても気持ちがいい。
「一穂になんかひどいことされたのか?」
「だからそんなに泣いたの?忍ちゃん」
「え?」
驚きでポトリとタオルが落ちる。
いつになく真剣な眼差しにオロオロしてしまう。
「違いますっ。僕の方こそ迷惑かけたんです」
「本当か?」
「はい。昨日は本当に僕がダメな奴で・・・迷惑ばっかりかけちゃって」
「そうか」
よいせ、と慎太は立ち上がり背後の襖をカラリと開けた。
恵子も同じように立ち上がり部屋を出ていく。
「だってよ、一穂」
「だから何もしてないって何回も言っただろうが」
襖を開けた先には不貞腐れたような一穂が正座をしていた。
目が合うとひらひらと手を振ってくるので、こちらも思わず手を振ってしまう。
「あのな、寝てる忍をお前が連れて帰って来たのこれで二回目だぞ?疑うなって方がおかしいだろう」
「だーかーらー、疲れるとあの子寝落ちするんだって」
「疲れるようなこと」
「してねぇっ!」
ね?とこちらに目配せする一穂に何度も首肯していると、ポンと肩を叩かれ見上げる。
「いってらっしゃい。忍ちゃん」
恵子に立たされ、ほらほらと背中を押される。
ダウンジャケットを着せられ、マフラーをぐるぐる巻きにされる。
ポイと外に出され、ガラガラピシャンと締め出されてしまう。
「あの・・・」
「歩く?ドライブする?それかバスに乗る?・・・それとも、駅に行く?」
「・・・ドライブします」
了解、と一穂は嬉しそうに笑った。
車は海から離れ、いつか通った道をするすると進んで行く。
「昨日はすみませんでした」
「なにが?」
「・・・みっともないとこ、たくさん見せてしまって」
「気にしてないよ」
「・・・・・・やり直ししてもいいですか?」
「もちろん」
大きく深呼吸する。
心臓がドキドキする。
僕は今やっと僕を取り戻す。
「楢崎稔。二十四歳。誕生日は10月4日、B型で身長は160cm体重は計ってないからわからない。足のサイズは25cm。好きな食べ物は和食で嫌いなのはパクチー。W大卒・・・です」
言い終わらないうちに、ガタガタと振動と共に砂利の駐車場に入って行く。
「お昼はここで食べようか」
「得体の知れない奴から知ってる奴になりましたか?」
「うん、知ってることが増えて嬉しい」
稔って呼んでいい?と笑う彼に、僕は涙を堪えるので必死になる。
泣かないようにグッと眉間にチカラを入れる。
笑いながらグリグリと親指で眉間の皺を伸ばされてしまう。
泣いてしまうからやめてほしい。
きっとこの人は過去の僕を知ってもこうやって受け入れてくれるんだろう。
僕はそれが怖い。
怖いのになぜか嬉しい。
やっぱり涙が零れてしまって、彼にそっと拭われる。
やっぱり僕の涙腺は昨日から馬鹿になってしまったらしい。
嬉しいのか怖いのか、わけのわからない涙が次から次へと出てくる。
もうずっとこの人には惑わされている気がする。
それが嫌じゃないのが困る。
268
お気に入りに追加
2,088
あなたにおすすめの小説
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【番】の意味を考えるべきである
ゆい
BL
「貴方は私の番だ!」
獣人はそう言って、旦那様を後ろからギュッと抱きしめる。
「ああ!旦那様を離してください!」
私は慌ててそう言った。
【番】がテーマですが、オメガバースの話ではありません。
男女いる世界です。獣人が出てきます。同性婚も認められています。
思いつきで書いておりますので、読みにくい部分があるかもしれません。
楽しんでいただけたら、幸いです。
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる