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クリスマス

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──しのぶちゃんへ
  くすりますぱてーをします。
  きてね。
       かいと──

画用紙に書かれた文字をそっとなぞる。
指先に青いクレヨンの色が移る。
画用紙の隅には赤い帽子をかぶった人。
つい顔が綻ぶ。


「忍ちゃん、これ持っていって」
「なんですか?」

覗くとタッパーがいくつか入っている。

「ぶり大根と大根ときゅうりとハムの中華サラダと豆もやしのピリ辛よ」
「・・・恵子さん、クリスマスパーティなんですが」

恵子はキョトンとした顔をして、知ってるわよと言った。
うふふと笑う恵子に、ありがとうございますと忍もつい笑ってしまう。


里中を出て上木ガラス工房までの道のりを歩く。
ダウンジャケットは暖かく、スニーカーは足に馴染んできた。
手には恵子からの差し入れと海斗へのクリスマスプレゼントともうひとつ。
商店街入口の小ぶりなツリーの前には黒いロングコートの男。
目が合うと軽く手を挙げ白い息を吐いた。

「しのぶちゃん、メリークリスマス」
「はい、メリークリスマス」

一穂はネイビー系のブリティッシュチェックのマフラーを忍に巻いた。

「プレゼント。よく似合う」
「・・・ありがとうございます」

実は僕も、と忍は屈んでもらった一穂にぐるぐるマフラーを巻く。
鮮やかなイエローのマフラー。

「うん、よく目立ちます」
「ありがとう」

はははと声に出して笑った一穂はマフラーに顔を埋めた。
嬉しいな、と思わず出した声は忍には届かなかった。

「それ何?」
「海斗くんへのプレゼントと恵子さんからの差し入れです」

一穂はするりと荷物を奪い取り中身を確かめた。

「ぶり大根です」
「クリスマスなのに?」
「クリスマスなのに、です」

重い差し入れはもう一穂の手の中にある。
束の間、目を合わせ同時にぷッと吹き出して笑う。
そのまま歩きながら話す。

「でも俺、ぶり大根好き」
「僕も」
「芯から味が染みた茶色の大根好き」
「僕も」

あっという間に上木ガラス工房の看板が見えてくる。



「しのぶちゃん!メリークリスマス!!」

海斗が嬉しそうにギュッと忍に駆け寄りそのまま抱きついた。
メリークリスマス、と忍も抱きしめた。

「海斗、俺にはないのか」
「しのぶちゃん、いこう?」
「無視か」

海斗は忍の腕をとりグイグイ引っ張っていく。
遅れて一穂がリビングにたどり着くと、忍が三角帽子を被らされている所だった。
リビングには小さなクリスマスツリーがピカピカと光っている。
エプロンを付けた陸がキッチンから出て二人を迎える。

「忍さん、金ちゃんいらっしゃい」
「陸、飯炊いてある?里中のおやっさんのぶり大根持ってきた」
「っ炊かなきゃ!何合炊く?五合?五合いっとく?」
「蒼太は?」
「工房!」

陸はパタパタとキッチンへ。
一穂もその後を追う。
勝手知ったる上木家のキッチンで皿を出す。
ぶり大根は鍋に入れ、中華サラダと豆もやしは皿へ盛り付ける。
陸は米を研ぎながら、すぐ炊いちゃっていいよねと炊飯器にセットする。
ぶーり、ぶーり、ぶり大根♪とぶり大根の歌も歌う。


「しのぶちゃん!このサンドイッチね、ぼくがはさんだんだよ!きゅうりとツナマヨ!ぼくがいちばんすきなやつ!」
「きょうね、ようちえんにサンタさんきた!」
「あ!おとうちゃん、おむかえにいこう」

海斗に強引に手を引かれキッチンに声もかけられず外に出る。
手を繋いで工房までの短い道のりをゆっくり歩くと、つと海斗が足を止める。

「しのぶちゃん。おとこがあかちゃんできるのってへんなの?」
「変じゃないよ」
「けーくんがへんっていった。おとうちゃんとおかあちゃんがおとこなのもへんだって」
「変じゃないよ」
「ほんと?」
「本当」
「へんじゃない?」
「変じゃない」
「よかった」
「うん」
「おとうちゃんとおかあちゃんにはないしょね」
「うん、内緒」

工房に付いた小さな明かりの前の小さな約束。
月は雲が隠し、星がちらちらと瞬く聖なる夜。
うふふ、と笑う小さな手を柔らかい手で包む。
変だなんてそんなことあるもんか、と忍は白い息と共に吐き出した。




※ぶり大根の歌はちゅーるの歌で歌ってください。
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