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Jackpot

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こないだ見立ててもらったから、と一穂は忍の服を選んでいく。
あれこれ試着させられたがカーキのダウンジャケットとスニーカーを手に入れた。
スニーカーはその場で履き替えた。

「これで前より疲れずにどこでも歩いて行けるよ」

会計は一穂がもった。
誕生日プレゼントだから、と。

「誕生日じゃありません」
「うん。早いか遅いかわからないけど贈らせて?」
「・・・10月4日、です」
「じゃ、遅くなったけど誕生日おめでとう」

ありがとう、と消え入りそうな声で忍は言った。
短くなった髪は赤くなった顔を隠すことはできなかった。


「お昼はお礼に僕がご馳走します」
「別にいいのに」
「だって、無職ですよね?」
「っ今はね!今だけだから!ちゃんと働いてたから!」

あはは、と笑う忍。
フードコートにはたくさんの店があり、忍はキョロキョロと忙しなかった。
ハンバーガーショップ、ラーメン、うどんそば、カツ丼や天丼に親子丼、たこ焼きに焼きそばお好み焼き、ドーナツにフライドチキン。

「す、好きなもの選んでください」
「・・・うん、しのぶちゃんもね」
「笑わないでください!」

迷うねぇ、と頷きながら笑いをこらえる一穂。
忍は大いに迷った。 
迷った挙句、天丼とメロンソーダを頼んだ。
一穂は、忍が最後まで見ていたたこ焼きと照り焼きチキンバーガーのセットにした。

「なんか中高校生のデートみたいだな」
「そうなんですか?」
「うん、併設されてる映画館で映画見て、ここで食べてゲーセンで遊んでウィンドウショッピングすんの」
「・・・中学生」
「そう、ごめんね。いい大人なのに」

忍は首を振りズズズッとメロンソーダを飲んだ。
たこ焼きもポテトも食べて、と差し出されたそれに嬉しそうに手をつける。

「ポテトは細長いやつと太いやつとどっち好き?」
「えっと、細長いやつでしなしな」
「え!カリカリの方が美味しい!」
「しなしなです」
「えー、共通点増やそうと思ったのに」
「二人で食べたら喧嘩しなくてすみますよ」

ニコニコ嬉しそうにたこ焼きを頬張って言う。
今度は一穂の顔が真っ赤になって忍は首を傾げた。

食後は、忍のリクエストでゲーセンに行った。
一穂がメダルを50枚買ってやると、すぐさまジャックポットしていた。
溢れるメダルにうわぁーと歓喜の声をあげる忍は誰よりも可愛かった。
対戦型のカーレースは下手くそだった。
バナナを投げると忍は本気で怒っていた。
怒った顔も可愛いなぁ、と見蕩れていると負けた。
クレーンゲームでは、太ったペンギンのぬいぐるみを取るのに熱くなっていた。
もう一回!と何度も挑戦してようやく取れたぬいぐるみは一穂のものになった。

「遅くなったけど誕生日プレゼントです」

好きだなぁ、と一穂は思った。
忍が何者でも、出会ったのが今じゃなくても過去でも未来でも、自分はきっとこの可愛い美人に恋に落ちるのだろうと思った。
帰り道は海に夕陽が沈んでいくのが見えた。
とても美しかったが、忍は寝こけていた。
αとしても男としても意識されてないんだなぁ、と一穂は悲しくなった。




後日、いっちゃんが置いていったのよと恵子がダンボール箱や紙袋を忍の部屋に持ってきた。
中身はウィンドブレーカー、セーター、カーディガン、シャツ、長袖Tシャツ、靴下、パンツ三本、ショートブーツ・・・
ピンク色のチューリップの絵が描いてある丸い缶のハンドクリーム。
同封されていたバースデーカードには

『今まで渡せなかった全部
 誕生日おめでとう』

と書いてあった。
ピンクのチューリップの花言葉は『愛の芽生え』
ハンドクリームは優しい匂いがした。





※サイズは試着させた時に全て把握済です。αって怖いね!
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