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炒飯
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目覚めると目の前にはここ最近でよく見慣れた天井があった。
飴色の木目も見えるような木の天井。
畳にひかれた布団の中からそれを見る。
「いった・・・いてて」
布団から出ようとするとふくらはぎが痛い。
忍は筋肉痛になっていた。
起こした体をボスンとまた布団に預けそのまま天井を見る。
「情けない」
片腕を目に押しやり、ほぅと一息つく忍。
「何が情けないの?」
突然の声にがばりと起き上がる。
そろそろと横を見る。
ニコニコ笑っている福福しい顔。
「・・・女将さん」
『民宿 里中』の女将、恵子が枕元にちょんと座っていた。
「昨夜、いっちゃんが連れて来てからあんまり起きないから見にきたのよ。もうお昼前よ」
「・・・すみません」
忍は深々と頭を下げて謝った。
何言ってんだい、と恵子はカラカラ笑いながら手を振った。
「朝にチェックアウトしたお客さんが、まさかその日の夜にまたチェックインするなんて、面白い経験したわ」
ご飯食べるだろ?と恵子はよいしょと立ち上がった。
「歩ける?持ってこようか?」
「いきます!」
大きな声も出せるんだねぇ、とまた恵子は笑った。
恵子を見送った忍はもそもそと布団から這い出て、ふくらはぎを揉んだ。
カサリと音がし、ズボンのポケットを探るといちご飴が三つ。
その飴に忍は微笑んでまたポケットに戻した。
よたよたと階段を下りる忍を、階下から見上げる恵子と慎太。
ニヤニヤ笑う二人に忍はへにょりと笑った。
卓袱台には炒飯。
紅しょうがではなく福神漬けが添えてある。
油揚げと大根の味噌汁に中華くらげときゅうりの酢の物。
三人で手を合わせて食べる。
「今度はいつまでいるの?」
「えっ・・・と、まだ決めてなくて」
「あぁ、嫌とかそういうんじゃなくてね、金谷さんがいい人なのはもうわかってるし。ね?」
黙々と食べながら頷く慎太。
「シーズンオフだし、週末に釣り客が来るくらいしかないからさ、好きなだけ居たらいいよ。まあ、お代はもらうけど」
洗濯はしてあげる、と恵子はワハハと笑う。
「どこか僕でも働ける所ありますか?」
そうねぇ、と恵子は頬に手を当て考えた。
夏だったら、今はねえ、等とブツブツ呟く恵子。
忍はそっと目を伏せて炒飯を食べた。
小さくカチャカチャと食器の音だけがする。
食べ終わった慎太がカチャンとれんげを皿に置く。
「うちを手伝えばいい。掃除したり買い物行ったり飯作るの手伝ってくれりゃあいい。まぁ、宿代と相殺だがな」
「もう!あんたはまたそんな勝手なこと言って」
「いいじゃねえか。動ける猫がきたと思えば」
「・・・いいんですか?」
「かまわねえよ。・・・忍」
慎太はニヤリと笑って空いた食器を持ち厨房に消えて行った。
キョロキョロと恵子と慎太の消えた厨房を見る困り顔の忍。
「もう!あれは仕事おっつけてパチンコ行ってやろうって思ってる顔だわ。ほんとにもう、あの人は・・・」
恵子は独り言のように厨房に向けて悪態をついてから、くるりと忍と顔を合わせた。
「まあ、そういうわけだから。これからよろしくね。忍ちゃん」
ウインクをしたつもりの恵子は両目をパチリと瞑った。
忍は慌てて座布団から外して両手をついて頭を下げた。
「女将さん。よろしくお願いします」
恵子さんって呼んで、と朗らかに笑う。
忍も笑った。
「炒飯、とっても美味しいです」
「かまぼこ、いいでしょ?」
ネギと卵とかまぼこだけの炒飯。
全ての皿を空にして、二人で手を合わせる。
「「ごちそうさまでした」」
飴色の木目も見えるような木の天井。
畳にひかれた布団の中からそれを見る。
「いった・・・いてて」
布団から出ようとするとふくらはぎが痛い。
忍は筋肉痛になっていた。
起こした体をボスンとまた布団に預けそのまま天井を見る。
「情けない」
片腕を目に押しやり、ほぅと一息つく忍。
「何が情けないの?」
突然の声にがばりと起き上がる。
そろそろと横を見る。
ニコニコ笑っている福福しい顔。
「・・・女将さん」
『民宿 里中』の女将、恵子が枕元にちょんと座っていた。
「昨夜、いっちゃんが連れて来てからあんまり起きないから見にきたのよ。もうお昼前よ」
「・・・すみません」
忍は深々と頭を下げて謝った。
何言ってんだい、と恵子はカラカラ笑いながら手を振った。
「朝にチェックアウトしたお客さんが、まさかその日の夜にまたチェックインするなんて、面白い経験したわ」
ご飯食べるだろ?と恵子はよいしょと立ち上がった。
「歩ける?持ってこようか?」
「いきます!」
大きな声も出せるんだねぇ、とまた恵子は笑った。
恵子を見送った忍はもそもそと布団から這い出て、ふくらはぎを揉んだ。
カサリと音がし、ズボンのポケットを探るといちご飴が三つ。
その飴に忍は微笑んでまたポケットに戻した。
よたよたと階段を下りる忍を、階下から見上げる恵子と慎太。
ニヤニヤ笑う二人に忍はへにょりと笑った。
卓袱台には炒飯。
紅しょうがではなく福神漬けが添えてある。
油揚げと大根の味噌汁に中華くらげときゅうりの酢の物。
三人で手を合わせて食べる。
「今度はいつまでいるの?」
「えっ・・・と、まだ決めてなくて」
「あぁ、嫌とかそういうんじゃなくてね、金谷さんがいい人なのはもうわかってるし。ね?」
黙々と食べながら頷く慎太。
「シーズンオフだし、週末に釣り客が来るくらいしかないからさ、好きなだけ居たらいいよ。まあ、お代はもらうけど」
洗濯はしてあげる、と恵子はワハハと笑う。
「どこか僕でも働ける所ありますか?」
そうねぇ、と恵子は頬に手を当て考えた。
夏だったら、今はねえ、等とブツブツ呟く恵子。
忍はそっと目を伏せて炒飯を食べた。
小さくカチャカチャと食器の音だけがする。
食べ終わった慎太がカチャンとれんげを皿に置く。
「うちを手伝えばいい。掃除したり買い物行ったり飯作るの手伝ってくれりゃあいい。まぁ、宿代と相殺だがな」
「もう!あんたはまたそんな勝手なこと言って」
「いいじゃねえか。動ける猫がきたと思えば」
「・・・いいんですか?」
「かまわねえよ。・・・忍」
慎太はニヤリと笑って空いた食器を持ち厨房に消えて行った。
キョロキョロと恵子と慎太の消えた厨房を見る困り顔の忍。
「もう!あれは仕事おっつけてパチンコ行ってやろうって思ってる顔だわ。ほんとにもう、あの人は・・・」
恵子は独り言のように厨房に向けて悪態をついてから、くるりと忍と顔を合わせた。
「まあ、そういうわけだから。これからよろしくね。忍ちゃん」
ウインクをしたつもりの恵子は両目をパチリと瞑った。
忍は慌てて座布団から外して両手をついて頭を下げた。
「女将さん。よろしくお願いします」
恵子さんって呼んで、と朗らかに笑う。
忍も笑った。
「炒飯、とっても美味しいです」
「かまぼこ、いいでしょ?」
ネギと卵とかまぼこだけの炒飯。
全ての皿を空にして、二人で手を合わせる。
「「ごちそうさまでした」」
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