【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
上 下
16 / 63

嵐到来

しおりを挟む
ずびずびと鼻水を啜る忍。

「美人は鼻水垂らしてても美人だわー」
「陸、言い方」

拭いたげる、海斗は忍の鼻水をティッシュでゴシゴシ拭く。
忍の鼻の回りはもう真っ赤だ。

「落ち着いたら食べな?ノルマ一人二枚ね」
「・・・はい」

忍は食べた。
豚玉と海老玉の二枚をペロリとたいらげた。
あ、僕けっこう食べますよと忍は食べ終わりごちそうさまでしたと手を合わせた。


「片付け手伝います」
「いいよ。蒼太と海斗がやるから。忍さんはゆっくりしてて」

陸は忍の背を押してリビングのテーブルに誘導した。
テーブルに頬杖をついてニマニマと忍を見る陸。

「ほんとに海だけ見に来たの?」
「・・・そうです」
「じゃあ、海見てどうだった?」
「陸やめろ」
「なんでー?洗い物しとけよ。Ω会に入って来ないで」
「女子会みたいに言うな。ごめんな、忍君、これ飲んで」

マグカップから立ちのぼる湯気はほのかにオレンジの香りがした。

「忍さんは、なにかから逃げてきたの?」
「に・・・逃げて・・・るのかな?」
「だって、着の身着のままって感じだったって里中のおばちゃん心配してたよ」

──運命に出会ったんだ。
──ずっと前から好きだったんだ。
──慰謝料は払う。
──みぃちゃん
──稔
──俺たちはずっと稔の味方だ。
──すまない。
──どうしようもないんだ。
──みぃちゃん私たち結婚する。

「・・・忍さん?」
「あ、えと、僕は、僕はどうやったら・・・」

忍は視線をさ迷わせ、陸はそれをじっと見ていた。
忍は陸の視線から逃げるように、頭を下げギュッとズボンを握る。

ガラララッ───

掃き出し窓が突然開き、男がおいーすと言いながら窓に手をかけ靴を脱いでいた。

「いやぁー、今日の初号機は絶好調よ!めっちゃ強かったわー!」

男は靴を脱ぎズカズカと上がり込み、驚きで目を丸くしている忍に目をとめた。

「は?なに?めっちゃ可愛い子いる!え?すごい美人!誰?この町にこんな子いなかったでしょ、どこに隠れてたの?うわー、ほんと可愛い!可愛い!可愛い!」
「金ちゃん、やめろ!蒼太!」

男は忍をぎゅうぎゅう抱きしめまくし立てた。
忍はされるがままに目だけを陸に合わせ、助けてと小さく呟いた。

「なに?助けてほしいの?何から?俺が助けてあげるよ!なにしたらいい?誰かぶっ飛ばしてきたらいいの?」
「お前だ!お前から助けてほしいんだよ!離れろ、こら!」
「・・・そ、蒼太さん」
「あ、俺、遠山一穂とおやまいちほ。一穂でも、いっくんでも、いっちゃんでも好きに呼んで?ね?」
「あの、と・・・遠山さん」
「なにキョロキョロしてんだよ!遠山はお前しかいないだろ!はよ、離れろ!」

蒼太が二人の間に入ろうとするが一穂は忍を抱え込み離さない。

「なんで、蒼太は名前で呼ぶの?」
「ここには三人上木がいるからだろ!」
「じゃあ、俺も上木になる!上木一穂です。よろしく。一穂って呼んで?呼ばないと離さない」
「いっ、一穂さん!離して!」

一穂は体は離したが、大きな両手は忍の肩をぐっと掴んで離さなかった。

「てか、服ダサいね!いや、一周回って新しいのかな。どこで買うの?」
「に、nisiyama」
「あ、あのスーパー?え?あそこで買ったの?じゃ、明日俺と一緒に買いに行こ!俺の服選んでよ!ね?ね?」

満面の笑みで忍を見下ろし、その瞳は忍を捉えて身動きがとれない。

「あ、名前なんていうの?」



嵐を呼ぶ二十八歳児 遠山一穂 降臨───
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… ※カクヨムにも投稿始めました!アルファポリスとカクヨムで別々のエンドにしようかなとも考え中です!  カクヨム登録されている方、読んで頂けたら嬉しいです!! 番外編は時々追加で投稿しようかなと思っています!

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

処理中です...