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蜜柑
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日が落ち、シャッターが降りた商店街をカツカツとヒールを鳴らし歩く。
商店街を抜け、家路に向かう。
ふと児童公園を見やると誰かベンチに座っている。
くたびれたグレーのスウェットの上下。
恐らく今日は髪に櫛をいれていないのだろう、寝癖がそのままついている。
何か小さなものをつまんでは口に放り込んでいた。
「忍、あんたなにやってんの?」
「ん?ママおかえり。みかん食べてる」
そう言うと忍はまた一房つまんで食べた。
「あ、こちらみかんをくれたおばあちゃん」
「寺田さん、いつ忍と知り合ったの?」
「あれ?ママ知ってるの?」
昔から住んでるしね、とママは言って忍の膝の上から一房つまんで食べた。
寺田さんはニコニコしている。
「このみかんね、一年ぶりのお礼なんだ」
「どういうこと?」
「ほら、僕がママに拾ってもらった日。あの日、電車でおばあちゃんがけっこうな大荷物で大変そうだったから僕がここまで運んであげたんだ。僕、暇だから。そしたら、おばあちゃんがお礼するからここで待っとけってそれで待ってたけど、おばあちゃん来なかったの」
「はぁ??おっ前はどんだけお人好しだよ」
「ママ、男に戻ってる」
忍がクスクス笑って、寺田さんもあらあらなんて言って笑った。
「しのぶちゃんは首輪してるってことはΩなの?」
「そうだよ」
「やっぱりΩの子って綺麗なのねぇ」
寺田さんは、ほぅと手のひらを頬にあてて小さく息を吐いた。
「私があと二十年若かったらねぇ」
「五十年の間違いだろ。んで、寺田さんβだろ」
「ママ、デート楽しかった?」
「あ?何言ってんのお前」
忍はニヨニヨ笑って見上げ、その隣で同じようにニヨニヨ笑う寺田さん。
「うるせぇ、帰るぞ」
「うん。おばあちゃん、またね」
みかんありがとう、とスーパーの袋を持ち上げた。
忍は差し出された手をとりそのまま手を繋いで帰る。
ヒュウっと風が吹き二人は身を竦ませた。
まばらに付いた外灯の下を二人で歩く。
「忍、お前まだ発情期こないの?」
「うん。薬飲まなくていいから楽チン」
「お前はそれでいいのか?」
「・・・なにが?」
忍が立ち止まり自然に手が離れる。
振り向くと忍は俯いていた。
「発情期がないってことはフェロモンもでてないんだろ?」
「・・・自分じゃわかんない」
ふるふると首を横に降ってズボンをギュッと握る。
外灯の光が届かない中では忍がどんな顔をしているのかわからない。
「おいで」
美樹のその声音はどこまでも優しく、暖かい。
忍はこくりと頷きまた手を繋いだ。
ガサガサとみかんが入った袋だけが音を発していた。
発情期がこない、フェロモンが出ないまるでβのような忍。
楽チンだと笑う忍。
首輪を取らないのは何故だ?
いつか突然、予期せぬ発情期が訪れた時の為か?
何にも執着しないと思ってきたけれど、Ωか?と問われ、そうだよとなんでもないように即答する忍。
あぁそうか、何の執着もないようなお前でもたった一つ捨てきれないものがあったんだな。
何もかも捨てたように見えてΩという性だけは捨てきれなかったんだな。
何がお前をそうさせたんだ、忍。
運命とやらがあるのなら早く忍を見つけてやってくれないか。
運命でなくても、誰か忍を見つけてやってくれないか。
寂れた街の片隅でひっそり息をしてる忍の手を誰かとってくれないか。
忍、私はお前のことを考えると何故か泣きたくなるよ。
何度も思うよ、お前のことが心配でたまらない。
商店街を抜け、家路に向かう。
ふと児童公園を見やると誰かベンチに座っている。
くたびれたグレーのスウェットの上下。
恐らく今日は髪に櫛をいれていないのだろう、寝癖がそのままついている。
何か小さなものをつまんでは口に放り込んでいた。
「忍、あんたなにやってんの?」
「ん?ママおかえり。みかん食べてる」
そう言うと忍はまた一房つまんで食べた。
「あ、こちらみかんをくれたおばあちゃん」
「寺田さん、いつ忍と知り合ったの?」
「あれ?ママ知ってるの?」
昔から住んでるしね、とママは言って忍の膝の上から一房つまんで食べた。
寺田さんはニコニコしている。
「このみかんね、一年ぶりのお礼なんだ」
「どういうこと?」
「ほら、僕がママに拾ってもらった日。あの日、電車でおばあちゃんがけっこうな大荷物で大変そうだったから僕がここまで運んであげたんだ。僕、暇だから。そしたら、おばあちゃんがお礼するからここで待っとけってそれで待ってたけど、おばあちゃん来なかったの」
「はぁ??おっ前はどんだけお人好しだよ」
「ママ、男に戻ってる」
忍がクスクス笑って、寺田さんもあらあらなんて言って笑った。
「しのぶちゃんは首輪してるってことはΩなの?」
「そうだよ」
「やっぱりΩの子って綺麗なのねぇ」
寺田さんは、ほぅと手のひらを頬にあてて小さく息を吐いた。
「私があと二十年若かったらねぇ」
「五十年の間違いだろ。んで、寺田さんβだろ」
「ママ、デート楽しかった?」
「あ?何言ってんのお前」
忍はニヨニヨ笑って見上げ、その隣で同じようにニヨニヨ笑う寺田さん。
「うるせぇ、帰るぞ」
「うん。おばあちゃん、またね」
みかんありがとう、とスーパーの袋を持ち上げた。
忍は差し出された手をとりそのまま手を繋いで帰る。
ヒュウっと風が吹き二人は身を竦ませた。
まばらに付いた外灯の下を二人で歩く。
「忍、お前まだ発情期こないの?」
「うん。薬飲まなくていいから楽チン」
「お前はそれでいいのか?」
「・・・なにが?」
忍が立ち止まり自然に手が離れる。
振り向くと忍は俯いていた。
「発情期がないってことはフェロモンもでてないんだろ?」
「・・・自分じゃわかんない」
ふるふると首を横に降ってズボンをギュッと握る。
外灯の光が届かない中では忍がどんな顔をしているのかわからない。
「おいで」
美樹のその声音はどこまでも優しく、暖かい。
忍はこくりと頷きまた手を繋いだ。
ガサガサとみかんが入った袋だけが音を発していた。
発情期がこない、フェロモンが出ないまるでβのような忍。
楽チンだと笑う忍。
首輪を取らないのは何故だ?
いつか突然、予期せぬ発情期が訪れた時の為か?
何にも執着しないと思ってきたけれど、Ωか?と問われ、そうだよとなんでもないように即答する忍。
あぁそうか、何の執着もないようなお前でもたった一つ捨てきれないものがあったんだな。
何もかも捨てたように見えてΩという性だけは捨てきれなかったんだな。
何がお前をそうさせたんだ、忍。
運命とやらがあるのなら早く忍を見つけてやってくれないか。
運命でなくても、誰か忍を見つけてやってくれないか。
寂れた街の片隅でひっそり息をしてる忍の手を誰かとってくれないか。
忍、私はお前のことを考えると何故か泣きたくなるよ。
何度も思うよ、お前のことが心配でたまらない。
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