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もっと近づく文化祭

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侑は三年二組の教室前の廊下の窓際にもたれながら、教室内や廊下の窓から見える景色を写真に収めていた。
ひっきりなしに人が行き交う廊下、三年一組は『和茶屋』と看板が出ており緑茶と和菓子が楽しめるという。
和菓子は三種類あり、そのうちのひとつ豆大福に侑は惹かれていた。
メイド喫茶を覗くと和明が客と写真を撮ったり、コーヒーを運んだりと忙しそうだ。
ふむ、と考えたのは一瞬で侑はすぐさま和茶屋の方へ足を向けた。
小ぶりな豆大福と紙コップに入った緑茶、甘いカップケーキを食べた後だけに緑茶が染み渡りあんこの自然な甘さが舌に優しい。
うまうまと頬張っていると、なにやってんすかと呆れた声が頭上から降ってきた。

「お?和明、おつかれさん」

見上げた侑の口の回りには大福の粉がふいていて、はぁと息を吐いた和明はそれをハンカチで払ってやった。
口元を払っているだけなのに、ギュッと目まで瞑る様が幼くて可愛いと和明の胸がキュッとなる。

「あんがと、食う?」

侑が差し出したそれはもう一口分も残っていない大福で、眉根を寄せた和明はそれをぱくりと口に入れた。
指先に残った粉も舐めとって、ニヤリと笑う和明。

「お前、大福好きなんか。頼むか?」

はぁぁああぁ、と大きく嘆息した和明はその場にしゃがみこんで侑を見上げた。
きょとんと目を丸くするそれを見て、和明はまたぞろ大きく嘆息してくしゃくしゃと髪をかき混ぜた。

「あ、ちょ、待て待て、乱すな。写真撮らせろ」
「…僕の写真、欲しいの?」

そうだよ、と侑は和明がぐしゃぐしゃにした髪をかきあげなんとかセットする。
柔い指の腹が頭皮を滑る感覚、和明の胸の奥が疼く。

「よし、こんなもんだろ。お前のクラス戻んぞ」
「…なんで?」


なんで?と聞いた和明は、あぁそうと呆れながら侑のスマホカメラに収まっていた。

「和明、ムスッとすんな、横の友達みたいに笑え!ピースしろ、あれだ、あの指ハートもしろ」

引き攣った笑顔の和明となんのこっちゃわからないクラスメイトとの写真撮影。
男子は面白がり、女子は軒並みはにかんでいた。

「お兄さんは一緒に撮らないんですか?」
「ん?撮らないよ、メインは和明だからな」

写真の撮れ高を確認した侑は満足してボディバッグにそれをしまう。
声をかけたのは和明の友達で上村かみむらといって和明はムラと呼んでいた。

「ムラ、僕ので撮って」

ぽいと投げられたスマホを受け取ってムラはオッケーとスマホを構えた。
ん?と首を傾げる侑の肩を抱き寄せ、和明はこてりとその頭に自分の頭を乗せる。
それは今まで侑が撮ったどの写真よりも温和な笑みで、教室内がざわついた。
およ?と落ちた侑の間抜けな声に和明が白い歯を零して、今度はどよめきが教室内を満たしていった。


その頃、大和と卯花は手芸部の展示を見るべく歩みを進めていた。
勝手に回ってこい、と言う侑に押されて武尊と周平は早々にその場を後にし大和と卯花は二人だけになった。
連れ立って歩く姿はとても目立ち、大和はかっこいい人だものねぇと思っていた。
実際は男前の卯花と同じく、そして穏やかな空気を纏った大和の二人共が注目を浴びていた。

「卯花さんは高校の時はクラブ活動とかしてたんですか?」
「いや、生徒会に入っていたくらいでなにも。松下君は?」
「図書委員でした。運動とか苦手で」

そうか、とふふっと笑う卯花に大和も同じように笑い返す。

「手芸部とかは無かったの?」
「あってもきっと入部はしなかったと思います」
「それはどうして?」
「だって、僕こんなのだから」

へらと笑う表情は眉が下がり、それがコンプレックスなのだと物語っているようだった。
そんなことないよ、と言いかけて言葉が詰まる。
自分だって小柄で腕にすっぽりと収まってしまうような可憐な子がタイプだったのに、と卯花は目を伏せた。
けれど、大和の内面に触れるたびに胸がギュッと締め付けられるのだ。
大和は優しい、それも上面ではなく芯のある優しさだ。
簡単な慰めの言葉をかけたりしない、突き放すのではなく背中を押すような飾り気のない言葉。
一生懸命頑張って、と自分の足で踏み出す力を与えてくれる優しさ。
歪な過去を聞いても辛かったね、悲しかったねと、安易に言わない姿勢は心の奥底にじんわりと染みた。
そんなことは本人が一番わかっている、それを知った上で一生懸命になれと言う。
あなたにはまだその力があるよ、諦めないでと言われているようだった。
幾度となく背中を撫でられた手は温かく力強かった。

「…卯花さん?どうしたんですか?」
「え?あぁ、ごめん、俺は松下君が好きだよ」
「へ?」
「やっ、違っ、その違わないっ、あのっ、」

しどろもどろになる卯花に大和はくすりと笑って、ありがとうございますと言った。
慰めの言葉だと思われたのだろう、好きにも種類がある。
真意が伝わってほしかったのか、それともまだそれは早いと思うのか。
もどかしくて堪らない。
そんな風に歩いてたどり着いた多目的室は静かで、保護者らしき人がちらほらいるだけだった。

「あ、パッチワークもあるんだ。上手だなぁ」

キラキラと目を輝かせて展示物を見る大和を卯花は横目で見ていた。
中には刺繍作品もあって、大和の作るそれとは全然違った。
それでも、色使いが良いだとかデザインが素敵だとか大和はどれも目を細めて褒めていた。
刺繍作品にはどれも製作者のだろうイニシャルが刺してあり、それを見た大和があっと声をあげた。

「卯花さんのそのハンカチ、良ければ名前を刺しましょうか?たくさん良いものをもらったお礼に」

をもらって居るのはこちらの方だ、と思いながら卯花は是非と答えたのだった。
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