上 下
22 / 82

ふたつのバトル

しおりを挟む
──やめてくれる?

武尊は自身を屈服させるかのような重い威圧をひと睨みで霧散させた。

「取り込み中って言いましたよね?高熱なんです、早く寝かせてあげないと」
「ここには、オメガが三人いるだけのはずだ。君は一体・・・」

オメガが三人のところで武尊の眉がピクリと動いた。
目の前のアルファが周平のことも知っている、そう思うとふつふつと腹が煮えてくる。

「お前が誰だか知らないが失せろ」
「君、嘘だろ・・・まさか、九鬼くきのはぐれ者か」
「失せろ」

ガクガクと膝が震えているアルファを押しのけて武尊は玄関の鍵を開けてピシャリと閉めた。
待たせたね大和君、と二階への階段をあがって大和の部屋のベッドに寝かせて、さてどうしようと首を捻った。
おでこにぺったんこするやつを貼ればいいんだろうか。
風邪なんかひいたことがないからわからないが、そんなCMを見たことがある。
シュウに電話しよっとウキウキで階段を降りた武尊だったが、玄関の磨りガラス越しにまだ人影が見えた途端チッと舌打ちをした。
ガラガラと玄関扉を開けて男を威圧する。

「失せろって言ったよね?」
「あ、いや、その松下君は・・・」

「なにしてんの?」

「シュウ!大和君、ちゃんと寝かせたよ!」

男に見せた表情とは打って変わって、ぱぁっと顔を綻ばせた武尊が靴も履かずに周平に駆け寄った。

「やまちは?」
「寝かせた。今、おでこぺったんこするやつどこか聞こうと電話しようと思ってたとこ」
「なんか履け」

ペちと額を叩かれた武尊はそれでも嬉しそうにでれでれと周平にまとわりついた。

「卯花編集長、なにか御用ですか?」
「シュウ、これ誰?まさか・・・」
「元カレとかじゃないから」

良かった、と笑う周平を卯花は呆然と見つめていた。
さっきまでの威圧はどうした、どこへやった?やにさがった表情とほんの少し前の刺すような視線が一致しない。

「あの、松下君のサイトに商品が無くて、それで体調でも悪いのかと・・・」

大和を気にするなんてどういう風の吹き回しだろう。
卯花はうろうろと視線を彷徨わせ、それもチラチラと武尊を気にしている。
こんな卯花は初めて見たな、と周平は思った。
いかにも上流のアルファ然としていて、ゆったり構えていた卯花はどこへいってしまったのか。
武さんがなにかした?いや、どう考えても卯花の方が格が上っぽいしなぁと、周平は武尊を見たがニコニコと笑ってるだけ。
よくわからないけど、今は大和の元へ早く行きたい。

「まぁ、立ち話もなんですから中へどうぞ」
「シュウ!アルファなのに家に入れるの!?」
「それ武さんが言う?」

ごもっともな話である。




ところ変わって、柳楽の爺が入院している総合病院の一室で侑はバナナを食べていた。
食べながら相対しているのは、詰襟の制服を着た高校生である。

「だれれふか?」

先手必勝、相手になにか言われる前に侑はもごもごとバナナを口に入れたまま問うた。
バナナは爺への昼食についてきたものだ。

「おじいちゃん、この人誰?」
「爺、これ孫か!?」

ごくんとバナナを飲み込んだ侑は高校生を上から下までまじまじと眺めて、爺に頬をグーでぐりぐりとされた。
いひゃいいひゃい、と言う侑を無視して爺は孫に声をかける。

和明かずあき、一人で来たのか?」
「いや、父さんと」
「そうか、もう帰れ」

「随分な言いようだな。入院だって家族の保証人がいるんだぞ」

現れた男は爺の息子と名乗り、最初に侑を周平と間違えた。
それくらい息子の明は実家と疎遠だった。

「医者と話した。高血圧以外は問題ないそうだ。明日、退院できる」
「そうか」
「これ以上、近所に迷惑かける前に施設に入れ」
「馬鹿言うな」
「どっちが馬鹿だ。梅園君が気づかなかったら孤独死だって有り得たんだぞ」
「お前にゃ迷惑かけん」
「今!現在!かけてるだろう!」
「頼んでないだろう!」

やんややんやと言い合う二人を見ながら侑はバナナを食べ終わった。
高校生の孫、和明は無言だがその視線は明らかに呆れていた。

「そっくりだね」

「「 どこがだ! 」」

「カッとなってそうやって言い合うとこ」

なあ?と侑は和明に声をかけた。
和明は未だに無言で、ふいと視線を逸らす。

「似てるわけないだろ、親父と俺は血が繋がってない」
「ふうん、でもなんだ」
「小僧、黙っとれ!」
「なんなんだ君は!」

爺も息子の明も真っ赤な顔で侑に向き合った。

「ほら、似てるじゃん」

へらりと笑う侑に、とうとう和明が吹き出して笑いだした。
あっははと腹を押さえながら笑うのに爺と息子が、和明!とまた揃って声を荒らげた。

「僕も、父さんとおじいちゃんは似てると思うよ。二人とも意地っ張りなところとか」

なあ?と今度は和明から笑いかけられた侑は、そうだなと優しく笑った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

専属奴隷として生きる

佐藤クッタ
恋愛
M性という病気は治らずにドンドンと深みへ堕ちる。 中学生の頃から年上の女性に憧れていた 好きになるのは 友達のお母さん 文具屋のお母さん お菓子屋のお母さん 本屋のお母さん どちらかというとやせ型よりも グラマラスな女性に憧れを持った 昔は 文具屋にエロ本が置いてあって 雑誌棚に普通の雑誌と一緒にエロ本が置いてあった ある文具屋のお母さんに憧れて 雑誌を見るふりをしながらお母さんの傍にいたかっただけですが お母さんに「どれを買っても一緒よ」と言われて買ったエロ本が SM本だった。 当時は男性がSで女性がMな感じが主流でした グラビアも小説もそれを見ながら 想像するのはM女性を自分に置き換えての「夢想」 友達のお母さんに、お仕置きをされている自分 そんな毎日が続き私のMが開花したのだと思う

ループ100回目の悪役令息は悪役王子と逃亡します

谷絵 ちぐり
BL
何度も何度も繰り返す─── 命を落とす度に舞い戻り同じことを繰り返す、どうして自分だけが・・・そう強く思っていた時に気づいたのだ。 繰り返すのは自分だけではない。 婚約者の兄もまたこの輪廻に翻弄される一人だった。 二人は手に手を取り合いこの繰り返しに終止符を打つために逃亡する。 けれど、二人が結託してから歯車がどんどん狂いはじめて───・・・ !制裁・ざまぁはありません! ※ループなので死にまつわる話があります。苦手な方はご注意ください。 ※男女共に子を成せる世界です。 ※ご都合主義・緩い設定なところもありますので、苦手な方はご注意ください。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

一番うしろの席にいる奴とは、前世で一生を添い遂げました。

モト
BL
福地千春は高校入学式に出会った長身の男を見て、“この人と前世ツガイだった”ことを思い出した。森の奥地に住むふくろうだったのだ。 (前世で)一生添い遂げた男、盛岡翔真とは同じクラスメイトですぐに仲良くなった。 彼は千春に対してお菓子やら餌付けが癖になっている。そんな翔真のことを千春もすんなり受け止めていた。 翔真は柔道全国大会優勝連覇の猛者で筋肉隆々、やさしくて頼りになる。女性関係が激しいことが玉に瑕。だけど、いっときから遊ばなくなって…… 餌付けしたい攻×鈍感受 攻の執着は初めから見え隠れしていますが、徐々に増していきます。 ムーンライトノベルズにも投稿しております

【完結】愛する人にはいつだって捨てられる運命だから

SKYTRICK
BL
凶悪自由人豪商攻め×苦労人猫化貧乏受け ※一言でも感想嬉しいです! 孤児のミカはヒルトマン男爵家のローレンツ子息に拾われ彼の使用人として十年を過ごしていた。ローレンツの愛を受け止め、秘密の恋人関係を結んだミカだが、十八歳の誕生日に彼に告げられる。 ——「ルイーザと腹の子をお前は殺そうとしたのか?」 ローレンツの新しい恋人であるルイーザは妊娠していた上に、彼女を毒殺しようとした罪まで着せられてしまうミカ。愛した男に裏切られ、屋敷からも追い出されてしまうミカだが、行く当てはない。 ただの人間ではなく、弱ったら黒猫に変化する体質のミカは雪の吹き荒れる冬を駆けていく。狩猟区に迷い込んだ黒猫のミカに、突然矢が放たれる。 ——あぁ、ここで死ぬんだ……。 ——『黒猫、死ぬのか?』 安堵にも似た諦念に包まれながら意識を失いかけるミカを抱いたのは、凶悪と名高い豪商のライハルトだった。 ☆3/10J庭で同人誌にしました。通販しています。

処理中です...