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もう会わない人とこれからも合う人
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駅まで送ると言う高木に、大丈夫だと伝えて撮影スタジオの前で別れた。
卯花は変わらず胡散臭い笑みを顔に貼り付けていて、侑は内心ペッと唾を吐きかけていた。
「やまち、あの編集長どう思う?」
「僕が?あっちが、じゃなくて?」
「え?」
「あの人、僕のこと嫌ってるよねぇ」
朗らかに、いっそ歌うように言う大和に侑は呆然と立ち尽くした。
あっくん?と不思議そうに振り返る大和にかける言葉が見つからない。
「知って、た?」
「うん、あからさまだもん」
行こう、とまた二人で駅まで歩き出した。
侑は隣を歩く大和の様子を窺うが特に変わった様子はない。
大和のことだから謂れのない悪意を向けられれば泣いてしまうかと思ったのに。
電車に乗っても大和は変わりなく、夕飯なにが良いかなぁとのんびりしていた。
今日の当番は大和だ、何事にも真面目な大和は料理もなんでもできる。
得意なのはイタリアンで、よくわからない煮込み料理などを振る舞ってくれるのだ。
「あっくん、なに食べたい?」
「んー、昨日はおにぎりだったから今日は肉が食べたいかなぁ」
「牛カツレツにしようか」
「トマトソースのやつがいい」
「いいねぇ」
帰りにスーパーへ寄って牛赤身とトマトを買って帰る。
インタビューでは、刺繍のことやこれから作ってみたい作品や苦労した話などを聞かれたと大和は言った。
もう一人の男は森部といって、高木の先輩にあたる編集者で高木のお目付け役らしい。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングから聞こえてくるいつもの周平の声、だけどいつもと違うのは今朝投げつけた靴が玄関にあったこと。
スニーカーをえいやと脱ぎ捨てた侑がドタバタと駆けていく。
あっくん揃えなよー、と大和は追いかけながら言う。
「なんであんた、またいるんだ!」
「あ、おかえりなさい」
リビングで座椅子に座っていた武尊はスーツではなく、スウェット姿だった。
手には鉛筆を持っていて、真っ白なノートにはイラストがたくさん描いてある。
「どしたの?あっくん」
「ペー助!なんでこいつまた入れちゃうの!こいつ、今朝俺らになんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
「ムラムラしない?って言ったんだよ!!ふざけてるだろ!」
周平はあははと笑って、そりゃ怒るわと武尊の隣に座る。
あっくんもやまちも座ってと言われて二人も怪訝そうな顔ながらも座った。
「武さんね、フェロモン過多症なんだって」
「「 なにそれ? 」」
「簡単に言うと俺と逆ってこと」
「ペー助と逆ってことはフェロモンいっぱい出ちゃうってこと?」
「それがなんだよ」
「まぁまぁ、あっくん、怒らないで」
周平はフェロモン過多症はオメガの発情を強制的に促してしまうこと、それにずっと悩まされていたことをざっと説明した。
だから、ムラムラしない?というのに他意があったわけではなく、あくまで大和と侑を案じてのことだと言う。
「じゃ先にそれ言えよっ!」
「言う前に追い出したんだろ、どうせ」
「話はわかったけどさ、その…ペー助ずっと嗅がれてるのは平気なの?」
周平が話している間、その背後に回った武尊はずっとその匂いを嗅いでいた。
「俺の傍にいれば武さんのフェロモンが抑えられるんだって。だから、まぁ、仕方ないかなぁと」
「ペー助、お人好しすぎるぞ」
「『眠眠破壊』みたいなドリンクってさ、あんま飲みすぎるの良くないんだよ」
「だからって」
「でかい置物だと…」
「思えるかっ!」
なんでも受け入れすぎだ、侑はそう思った。
高校の時に当て馬にされたとターキーから聞いた時は呆れ返った。
明らかに馬鹿にされている、そう思うのに当の本人はそういうこともあるんじゃない?と気にしていないようだった。
結婚したい理由も祖母に見せてやれなかった晴れ姿を祖父に見せるためだ。
その祖父も祖母の後を追うように一年足らずで亡くなった。
無理して相手を探さなくてもいいんじゃないか?とも思う。
大和の作る牛カツレツはパン粉と粉チーズが絶妙でとても美味しい。
表面はサクサクで薄く伸ばした肉なのに食べ応えがある。
三人分しか用意していないので周平は武尊に半分やり、きんぴらやひじき煮などの常備菜を出した。
「インタビューどうだった?」
「緊張したけど楽しかったよ」
「あの編集長、やまちのこと嫌ってる」
やっぱり、と周平はあの料亭で初めて会った時のことを話した。
「また連絡するって言ってたけど、連絡なんて高木さんからしかないし。あと、笑ってるように見えて目が笑ってないよね。インタビューの時も睨まれてるの気づかないフリするの大変だったよ」
「やまちはそれでいいのかよ」
「だって、もう会わないじゃない。今日だってほんとは編集長が来る必要なかったんだって、高木さんが言ってた」
「じゃ、なんで来たんだろ」
「名目はまた高木さんが失礼なことしないように、ってことらしいけど、そんなこともうないけどなぁ」
「会わないならもういいじゃん」
侑の言葉にそれもそうか、と松竹梅は納得し残された一人はなんのこっちゃと首を傾げていた。
そしてこの日を境にまだ雑誌に掲載もされていないのに、大和の作品は次々に売れていった。
※武尊のスウェットはペー助の父親のものです。
卯花は変わらず胡散臭い笑みを顔に貼り付けていて、侑は内心ペッと唾を吐きかけていた。
「やまち、あの編集長どう思う?」
「僕が?あっちが、じゃなくて?」
「え?」
「あの人、僕のこと嫌ってるよねぇ」
朗らかに、いっそ歌うように言う大和に侑は呆然と立ち尽くした。
あっくん?と不思議そうに振り返る大和にかける言葉が見つからない。
「知って、た?」
「うん、あからさまだもん」
行こう、とまた二人で駅まで歩き出した。
侑は隣を歩く大和の様子を窺うが特に変わった様子はない。
大和のことだから謂れのない悪意を向けられれば泣いてしまうかと思ったのに。
電車に乗っても大和は変わりなく、夕飯なにが良いかなぁとのんびりしていた。
今日の当番は大和だ、何事にも真面目な大和は料理もなんでもできる。
得意なのはイタリアンで、よくわからない煮込み料理などを振る舞ってくれるのだ。
「あっくん、なに食べたい?」
「んー、昨日はおにぎりだったから今日は肉が食べたいかなぁ」
「牛カツレツにしようか」
「トマトソースのやつがいい」
「いいねぇ」
帰りにスーパーへ寄って牛赤身とトマトを買って帰る。
インタビューでは、刺繍のことやこれから作ってみたい作品や苦労した話などを聞かれたと大和は言った。
もう一人の男は森部といって、高木の先輩にあたる編集者で高木のお目付け役らしい。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングから聞こえてくるいつもの周平の声、だけどいつもと違うのは今朝投げつけた靴が玄関にあったこと。
スニーカーをえいやと脱ぎ捨てた侑がドタバタと駆けていく。
あっくん揃えなよー、と大和は追いかけながら言う。
「なんであんた、またいるんだ!」
「あ、おかえりなさい」
リビングで座椅子に座っていた武尊はスーツではなく、スウェット姿だった。
手には鉛筆を持っていて、真っ白なノートにはイラストがたくさん描いてある。
「どしたの?あっくん」
「ペー助!なんでこいつまた入れちゃうの!こいつ、今朝俺らになんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
「ムラムラしない?って言ったんだよ!!ふざけてるだろ!」
周平はあははと笑って、そりゃ怒るわと武尊の隣に座る。
あっくんもやまちも座ってと言われて二人も怪訝そうな顔ながらも座った。
「武さんね、フェロモン過多症なんだって」
「「 なにそれ? 」」
「簡単に言うと俺と逆ってこと」
「ペー助と逆ってことはフェロモンいっぱい出ちゃうってこと?」
「それがなんだよ」
「まぁまぁ、あっくん、怒らないで」
周平はフェロモン過多症はオメガの発情を強制的に促してしまうこと、それにずっと悩まされていたことをざっと説明した。
だから、ムラムラしない?というのに他意があったわけではなく、あくまで大和と侑を案じてのことだと言う。
「じゃ先にそれ言えよっ!」
「言う前に追い出したんだろ、どうせ」
「話はわかったけどさ、その…ペー助ずっと嗅がれてるのは平気なの?」
周平が話している間、その背後に回った武尊はずっとその匂いを嗅いでいた。
「俺の傍にいれば武さんのフェロモンが抑えられるんだって。だから、まぁ、仕方ないかなぁと」
「ペー助、お人好しすぎるぞ」
「『眠眠破壊』みたいなドリンクってさ、あんま飲みすぎるの良くないんだよ」
「だからって」
「でかい置物だと…」
「思えるかっ!」
なんでも受け入れすぎだ、侑はそう思った。
高校の時に当て馬にされたとターキーから聞いた時は呆れ返った。
明らかに馬鹿にされている、そう思うのに当の本人はそういうこともあるんじゃない?と気にしていないようだった。
結婚したい理由も祖母に見せてやれなかった晴れ姿を祖父に見せるためだ。
その祖父も祖母の後を追うように一年足らずで亡くなった。
無理して相手を探さなくてもいいんじゃないか?とも思う。
大和の作る牛カツレツはパン粉と粉チーズが絶妙でとても美味しい。
表面はサクサクで薄く伸ばした肉なのに食べ応えがある。
三人分しか用意していないので周平は武尊に半分やり、きんぴらやひじき煮などの常備菜を出した。
「インタビューどうだった?」
「緊張したけど楽しかったよ」
「あの編集長、やまちのこと嫌ってる」
やっぱり、と周平はあの料亭で初めて会った時のことを話した。
「また連絡するって言ってたけど、連絡なんて高木さんからしかないし。あと、笑ってるように見えて目が笑ってないよね。インタビューの時も睨まれてるの気づかないフリするの大変だったよ」
「やまちはそれでいいのかよ」
「だって、もう会わないじゃない。今日だってほんとは編集長が来る必要なかったんだって、高木さんが言ってた」
「じゃ、なんで来たんだろ」
「名目はまた高木さんが失礼なことしないように、ってことらしいけど、そんなこともうないけどなぁ」
「会わないならもういいじゃん」
侑の言葉にそれもそうか、と松竹梅は納得し残された一人はなんのこっちゃと首を傾げていた。
そしてこの日を境にまだ雑誌に掲載もされていないのに、大和の作品は次々に売れていった。
※武尊のスウェットはペー助の父親のものです。
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