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気に入らないあいつ

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平日の午前、通勤ラッシュもとうに過ぎた今は程よく空いていて、そこに大和と侑は腰掛けて流れる車窓を見つめていた。

「俺たちがペー助を守らにゃならん」
「うん。あの人やっぱりちょっとおかしい人だったんだよ」
「ペー助はしっかりしてるけど、ちょっと馬鹿だからな」
「あっくんがそれ言う?」

昨日今日会ったばかりの奴に、ムラムラしない?と聞かれて良い気分になる奴がいるだろうかいやいない。
二人は今、とある撮影スタジオに向かっている。
大和の作品の撮影見学とインタビューの為だ。
駅に着くと高木が待っていて、案内されたそこは真四角で一見しただけでは何の建物なのかわからなかった。

「少々お待ちください」

高木はそう言ってどこかへ行ってしまった。
ロビーの硬いソファは存外座り心地がよく、観葉植物の緑が照明にぴかりと光っていた。

「あっくん、インタビューって何を聞かれるんだろ」
「んー?そうだなぁ、あっ好きな人のタイプは?」

侑は手をグーにして大和に向ける。
なにそれ関係ないでしょ、と笑う大和にほらほらと侑がマイクに見立てたそれを押し付けた。

「僕より大き…くなくてもいいから、同じくらいの人」
「でた、やまちの大きい人信仰」
「だって、ぎゅってされたいじゃん」
「俺とペー助がしてやる」

そう言って侑は大和に抱きついてよしよしと頭を撫でた。
あははと笑いあっているとコホンと咳払いが聞こえ、慌てて居住まいを正してそちらを見やると卯花だった。

「失礼、準備ができましたので」
「っはい、すみません。騒いでしまって」
「いいえ、今日もご友人と一緒なのですね」
「いけませんでしたか?高木さんには了承を得たのですが」

卯花は侑を一瞥してから不安げにそわそわとする大和に、大丈夫ですよと柔和な笑みを浮かべた。

「良かったね、あっくん。プロが写真撮るの見たがってたもんね」
「うん」
「写真に興味がおありなんですか?」
「やまちのサイトに載っけてるやつ、俺が撮ってるんで」
「では、今日は良い機会ですね」

ですねと侑が言った時、高木がパタパタと駆けてきて、大和はインタビューへ、侑は写真撮影へと引き離された。

大和の手は周平や侑に比べるとやや大きい、指の長さも手のひらの部分も。
けれど、その手で紡ぐ刺繍は繊細で美しい。
花は鮮やかに、鳥は今にも羽ばたきそうなほどだ。

「すごく綺麗です」

プロが撮った写真は侑が撮ったものと何もかもが違う。
自分もこんな風に撮れたらいいなと思わされる。

「スマホでも、コツさえ掴めば上手く撮れるよ」
「本当ですか?」
「あぁ。教えてあげよう」

侑は壮年のカメラマンから写真の撮り方を教わった。
光は自然光を、背景は白を、フラッシュは使わない。

「縁側があるんだけどそこで撮ってもいいですか?」
「うーん、あまり光が強いとね、変に影が出来たり白飛びしたりするからね」

侑にしては珍しく熱心に話を聞き、有意義な時間となった。
帰りに薄手のカーテンを買おうと決意して、カメラマンにお礼を言って別れた。


カメラマンが言うには、三階に打ち合わせに使う小部屋がいくつかあるらしい。
軽い足取りで階段を登っていき、廊下に顔を出すと人影が見えた。
顎に手を寄せた厳しい横顔は何を見てるんだろう。

「卯花編集長?」

廊下の先の卯花に声をかけたみたが、気配を殺したわけではない小声でもない、なのに卯花は振り返らず眉間に皺を寄せていた。
無視かよ、と思いながら侑は卯花に近づきながら、途中ガラス張りになっている部屋をひとつひとつ覗いてみた。

「卯花編集長」

ビクリと肩を上下させた卯花はゆっくりと振り返った。
表情はもう既に取ってつけたような笑みを浮かべている。

「あぁ、終わりました?」
「やまちが気に入りませんか?」
「え?」

厳しい表情の視線の先、そこには大和が高木ともう一人知らない男と談笑していた。
頬はうっすらと赤みがさしていて、にこにこと笑う様はふわふわと丸い。
その大和に刺すような視線を投げかけていた卯花。
自分より背の高い卯花を睨めつけ、侑は再度問い詰めた。

「気に入りませんか?」
「彼の作品はどれも素晴らしいと思ってますよ」
「作品のことなんて聞いてねぇよ、やまちが気にいらねえのかって聞いてんの」

「ああ、気に入らないね」

詰め寄る侑に卯花は顔を歪めて吐き捨てた。



その頃のマナベ──

武尊が周平と同じエプロンを着て品出しをしていた。
時折、カウンターの周平を見てへらっと笑う。

「ペー助!あれなんなの!?」
「無給でいいって」
「はぁ!?」
「武ちゃん、おいなりさん食べるかい?」
「つる婆、俺も食べる」
「もちろんあるわよ」
「婆ちゃん!なに馴染んでんの!」
「たっちゃん、細かいこと気にする男はね、モテないのよ?」
「ターキー、これからよろしく」

しわくちゃのシャツから伸びた手にターキーはもう涙目だった。
よろしく、なんてされたくない。



※あっくんだってゆり花を卒業してるので敬語を話せたりします。ただ直ぐに血が上ってしまうのです。
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