上 下
14 / 24

14話

しおりを挟む
 デートから数日が経ち、放課後を迎える。
 私はまだ優介から転校の事を聞きだすどころか、触れることさえ出来ていなかった。
 刻一刻と時は過ぎ、早く確認しないと後悔する事は分かっている。
 だけど――。

「優介、またね」
 と、一歩が踏み出せず、優介に触れる事無く、手を振る。

「おぅ、またな」

 優介の返事を聞くと、教室を出る。
 すると廊下を歩く奈緒を見つけた。
 私は近づきながら「奈緒、帰るの?」
 奈緒が足を止め、後ろを振り向く。

「うん」
「そう、じゃあ一緒に帰ろ」
 
 奈緒は手を合わせ「ごめん、今日も駄目なんだ」
「そう、分かった。それじゃまたね」
「うん、またね」
 と、奈緒は返事をして、そそくさと私に背を向け行ってしまった。

 奈緒は最近、こんな様子。
 優介はバイト、ミナミは部活。
 なんだか私一人だけが取り残された気分だ。

「ねぇ、聞いた? 3年生の竜司《りゅうじ》って先輩の話」

 同級生の二人組の女の子が、私の正面から歩いてくる。
 私は邪魔にならない様、端に避けた。

「聞いた、聞いた。また違う女の子に手を出したって話でしょ?」
「そうそう、ヤバくない?」
「ねぇ……背が高くてカッコ良いから、引っ掛かっちゃうのかな?」
「かもね」

 背が高くてカッコイイね……。
 ふと窓ガラスの外に視線を向けると、玄関を出て校門に向かう奈緒を見かける。
 その隣にはゴミ捨て場で奈緒と話していた男の人の姿があった。
 ――まさかね。
 
 ※※※

 次の日の昼休み。
 私は人気の少ない階段の踊り場へミナミを呼び出す。

「話って何?」
「奈緒の事なんだけど最近、彼氏が出来たって聞いてないよね?」
「彼氏? 聞いてないけど、彼氏が出来たの?」
「分からない。男の人と一緒に歩いていたから気になって。ねぇ、ミナミ。3年の竜司って先輩を知ってる?」

 ミナミが明らかに嫌そうな顔を浮かべ「竜司って女たらしと噂されている人?」
 ミナミが知っているという事は結構、有名なのね。

「そう、その人」
「知ってるよ。まさか奈緒と歩いていた人って、その人なの?」
「分からない。私は竜司って人を知らないから。ちょっと確かめたいから、今から教えてくれない?」
「いいよ、行こ」

 私達はそのまま階段を上り、三年の教室へと向かう――。
 一組の教室に着くと、ミナミは立ち止まった。
 ミナミは教室の外から中を見つめる。

「居そう?」
「うぅん、居ないみたい」
「そう」

 ふと廊下の方に視線を向けると、奥の方から奈緒と一緒にいた男の人と、友達らしき人が歩いてくる。
 ミナミも廊下の方に視線を向けると、ハッと驚いたような表情をみせた。
 え?

「美穂、行こ」
「あ、うん」

 ミナミが歩き出したので付いていく。
 私達は踊り場まで戻った――。

「さっき歩いてきた男子二人組がいたでしょ?」
「うん」
「背の高い方が竜司っていう先輩よ」
「え……」
「ねぇ、奈緒と歩いていた人は違う人だよね?」
 
 私は首を横に振り「うぅん、あの人だった」
「え……じゃあ、どうしよう」
「どうしようって……」

 どうにかしたいけど、まだ付き合っているかも分からない。

「ただの友達かもしれないし、わたし聞いてみる」
「分かった」

 そうだ。念のため釘をさしておかないと……。

「ミナミ、この事は内緒ね」
「うん」

 ミナミと奈緒の間で話が拗れてしまうのは避けておきたい。
 さて……どうやって切り出そうか。

 ※※※

 その日の放課後。

「奈緒、ちょっと良い?」

 帰ろうと廊下に出る奈緒を呼び止める。

「なに?」
「最近、一緒に帰ってくれないけど――もしかして彼氏でも出来た?」

 奈緒は私から視線を逸らし、俯く。

「――うん。ごめん、照れ臭くてなかなか言えなくて」
「うぅん、大丈夫だよ。相手って、3年の竜司先輩?」

 奈緒が顔を上げ、驚いた表情で「え、何で知っているの?」

「昨日、一緒に帰るところを見かけたから」
「あぁ……そういうこと。実はね、この後も一緒に帰る約束をしているの。だからそろそろ行きたいんだけど」

「ごめん、もう少しだけ待って。あのさ――奈緒は竜司先輩の噂、聞いたことある?」

 奈緒は眉をひそめ、一気に表情を曇らせる。

「――あるよ、でもそんなの噂じゃん。それじゃ、行くね」
 と、奈緒はそれ以上触れて欲しくないようで、私に背中を向けて歩き出した。

 どんなマジックを使ったのか知らないけど、奈緒は噂を知っていても先輩を信頼しているようね。

 今日はもうこれ以上、話は出来ないな……続けたらきっと、喧嘩になってしまう。
 私はその場で立ち尽くし、奈緒の背中を見送るしか出来なかった。

 ※※※
 
 数日が過ぎ、週末を迎える。
 昼休みに入り、私達は弁当を食べ終わると、世間話をしていた。
 なんだか奈緒の様子がおかしい。
 ミナミが話しかけているのに、生返事で心ここにあらずという感じだ。
 もしかして竜司先輩と何かあったのかもしれない。

 奈緒、ごめんね。
 ちょっとだけ過去を見させて。
 私は心配になり、奈緒の手の甲に手を乗せる。

「奈緒、どうしたの?」
「え、どうしたのって?」
「ボォーッとしているから」
「え? ボォーッとしてた?」

 ミナミが黙って頷き「していたよ」
 奈緒は両手を合わせ「ごめん」
 奈緒の様子がおかしい訳が分かった。
 私はスッと手を離す。

「夜更かしでもしていたの?」
「うん、そんな感じ」

 奈緒……デートに誘われて、夜遅くまで先輩と話していたんだね。
 大丈夫かな……。
 私は同級生が先輩の噂をしていたあの日から、『手を出した』って言葉が、ずっと気になっていた。

 本当かどうかは定かではないが、あれから嫌な噂も耳にした。
 もしそれが浮気以上を含んでいるなら――。

 キーン……コーン……と、教室内に予鈴が響き渡る。

「あ、もうこんな時間か」
 と、ミナミは行って立ち上がる。
 奈緒も立ち上がり「じゃあ、戻るね」

「うん」

 二人は椅子と机を戻し、自分の席へと戻っていく。
 ――デートの日と待ち合わせ場所、そして時刻は分かった。
 奈緒には申し訳ないけど、様子だけでも見に行ってみようかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...