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第4章
52.大精霊使い自慢の者達
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そんな風に、静かに様子を伺いつつテーブルに至ったエイクに向かって、フィントリッドが声をかけた。
「早速だが、約束どおり私の配下の者達を紹介しよう」
その様子は、とても嬉しそうに見える。
エイクが想像したとおり、自慢の部下達を紹介したくてしょうがないのだろう。
フィントリッドは、左手をストゥームヒルトの方に向け、紹介を始めた。
「まずは、既に紹介済みだが、私の左に立つのはフェンリルのストゥームヒルト。氷水を司る最上位の精霊王、氷界の白き王だ」
そう呼ばれたストゥームヒルトは特に挨拶をするでもなく、無表情なままで、視線だけをエイクに向けた。
フィントリッドはストゥームヒルトの態度に対して特に何も言わなかった。
そして、傍らに立つ女児の頭に右手を置きつつ紹介を続ける。
「この子はギィレレララという。ミュルミドンの特殊個体にして統率者だ。私は蟻兵王と呼んでいる」
ギィレレララと呼ばれた女児は僅かに頭を下げた。だが、視線はエイクから逸らさなかった。かなり警戒しているらしい。
頭を下げられたからには答礼をと考え、エイクも頭を下げる。
続いてフィントリッドは、右手をその隣の女の方に向ける。
「その隣は、セフォリエナ。私の妻の1人にして、この城の警備責任者だ。
アルラウネの特殊個体で、赤き花の王の異名を持つ」
そのように紹介された赤色に身を包んだ女は、一応はエイクに向かって頭を下げた。
しかし、一言も発せず、非常に厳しい表情を浮かべている。警戒心どころか、敵意すら持っているかのように見えた。
エイクは平静な様子で、ただ礼を返すためだけに頭を下げた。
だが、内心ではその紹介に若干の不審を感じていた。
(本当にアルラウネなのか?)と思ったのである。
アルラウネというのは、人の姿を取る植物の魔物である。
通常は髪が葉や花になっているなど、身体の一部が植物的になっているのだが、セフォリエナと紹介された女は完全な人間型だ。
更に、エイクは植物と動物のオドの違いを感知することが出来るのだが、セフォリエナからは、動物のオドが感じられていた。
(単純にフィントリッドが嘘をついている可能性もあるし、強大な力を身につけた植物の魔物は、動物のオドを身に宿すのかも知れない。
だからこそ“特殊個体”なのかも知れないしな。だが、一応注意しておこう)
エイクはそう考えていた。
フィントリッドは、続けてテーブルの横にいる者の紹介を始めた。
左手を男の方に向けて告げる
「この者はディディウス・クラウソン。ノーライフキング、即ち、命無き者の王だ」
その紹介を聞き、エイクは思わずディディウスと呼ばれた男の方に顔を向けた。
余りにも強大なアンデッドのオドからある程度察してはいたが、それでもあっさりとノーライフキングと告げられたことは、やはり驚きだった。
「代々我が家に仕えている一族の者だ。今も諸々の雑事は彼が主になってこなしてくれている。
通称“裏切り者”のディディウスだ」
「ふふ」
フィントリッドがそんな紹介をすると、ディディウスの隣に立つ女が、小さく笑い声をあげた。
主人の口上の最中に笑うとは無礼な態度である。
実際、ストゥームヒルトとセフォリエナが、その女に向かって鋭い視線を向けた。
だがフィントリッド自身は気にとめていないようで、説明を続けた。
「裏切り者と言っても、私を裏切るという意味ではない。むしろいたって誠実な者だぞ。
なあ、ディディウス」
「恐れ入ります」
ディディスと呼ばれた者は、フィントリッドにそう返して頭を下げた。そして、エイクの方に向きなおる。
「ご紹介に預りました、ディディウス・クラウソンと申します。以後お見知りおきください」
そして、そう告げると、エイクに向かっても軽く頭を下げた。
「こちらこそ」
エイクも一応そう答えて会釈をする。
そして同時に、エイクは、ディディウスという名に聞き覚えがあることを思い出していた。
(最初にフィントリッドと会談した時に、俺との連絡役として王都におくつもりだったと言っていたのが、ディディウスという名の者だった。
フィントリッド本人も、冷静に考えれば非常識極まりない話しだったと言っていたが、考えるまでもないだろう。
一国の王都にノーライフキングが住み着くなど、悪夢そのものだ)
エイクは、そんな事を思わずにはいられなかった。
ノーライフキングは、古代魔法帝国の最上位の魔術師が、バンパイアを手本に至高の魔術を用いて自らをアンデッド化させた存在である。
当然ながら最上級の古語魔法を扱う。1体で国を滅ぼすに足る魔物だ。
そして、バンパイア同様に生き血を啜り、眷属を増やす。要するに人食いの魔物なのである。
そんな者が一国の王都に住み着くなど、確かにその国にとって悪夢以外の何物でもない。
フィントリッドは、驚くエイクを無視して最後の1人を紹介する。
「ディディウスの隣にいるのは、サーラ・クラウソン。ディディウスの妻だ」「ご紹介に預かりましたサーラ・クラウソンと申します」
サーラと呼ばれた女は、フィントリッドの言葉にほとんど被せるようにそう発言した。これもまた、無礼な態度というべきものだ。
実際、フィントリッド自身は相変わらず気にしていないようだが、ストゥームヒルトとセフォリエナは、更に激しい怒気すらはらんだ視線をサーラに向けた。
しかし、エイクですら慄然とせざるを得ないほどの怒気に晒されながら、サーラは気にも留めずににこやかな笑顔のままに言葉を続ける。
「ディディウスのつれ合いでございます。通称は、と…」「根っこの女だ」
そんな言葉によって、サーラの発言が遮られた。遮ったのはセフォリエナだった。
発言を邪魔されたサーラは、それでもにこやかな表情のまま、セフォリエナの方に顔を向ける。両者の視線がぶつかった。
一瞬にらみ合うようになったが、サーラはいっそう笑みを深めると視線を切り、またエイクの方に向き直って言葉を続けた。
「根っこの女のサーラです。
今後は是非、親しくお付き合いさせていただきたいと思っています」
そしてそう告げて、頭を下げた。
「こちらこそ」
エイクは、また会釈を返しつつそんな答えを返したが、内心では(親しく付き合いたいとは、とても思えないな)と、考えていた。
一連のやり取りやサーラの笑みに、かなり不穏当はものを感じていたからだ。
そもそもノーライフキングの妻というだけで、到底尋常の存在とは思えない。
バンパイアやノーライフキングへ生贄として捧げられる乙女が“花嫁”と呼ばれる事もあるが、この場合はそういう主旨ではないだろう。
この女が見た目どおりの存在ではない事は明らかである。
(そういえば、他の連中の正体は簡単に明かしているのに、この女の正体は言っていない。
多分、この場にいる中で、最も注意すべきなのは、やはり、このサーラとかいう存在だ)
エイクは、サーラから感じられる桁外れのオドも踏まえ、そんな事を考えた。
フィントリッドは、セフォリエナとサーラの剣呑なやり取りなど気にも留めていないように紹介を再開する。
「ストゥームヒルト、ギィレレララ、セフォリエナ、ディディウス、この4人が、私の最有力の部下達だ。
他に、大陸の東方と中央に1人ずつ、大将帥と呼んでいる同格の者を配置している。
その2人もあわせて、私はこの者達のことを、内四王外二帥と呼んでいる。これが我が配下の最高幹部というわけだ」
「冒険者をしているエイク・ファインドという」
フィントリッドの紹介を受けて、エイクも簡潔に自己紹介をする。そして、軽く頭を下げた。
(サーラという女を最高幹部とは言わないのはどういうわけだ? 強さを隠すつもりか?)
エイクはそんな事を考えていたが、フィントリッドから直ぐに答えが述べられた。
「それから、サーラはディディウスの妻で、大変重要な存在だからこの場に呼んだが、私の部下というわけではない。そう承知しておいてくれ」
(なるほど、部下の妻は部下ではない、というわけか。そういうことなら、あの態度も分からなくはないな。
部下ではないから、フィントリッド自身はサーラの礼儀作法に拘らない。だが、ストゥームヒルトとセフォリエナは、それでもサーラの態度が気に食わない。ということか)
エイクはそんな事を察していた。
(それにしても、幹部一人ひとりに異名をつけて、その上全体としての呼び名すら決めている。
誰かに紹介する気満々じゃあないか)
そして更にそんな事も考え、辟易とした気分になっていた。
「早速だが、約束どおり私の配下の者達を紹介しよう」
その様子は、とても嬉しそうに見える。
エイクが想像したとおり、自慢の部下達を紹介したくてしょうがないのだろう。
フィントリッドは、左手をストゥームヒルトの方に向け、紹介を始めた。
「まずは、既に紹介済みだが、私の左に立つのはフェンリルのストゥームヒルト。氷水を司る最上位の精霊王、氷界の白き王だ」
そう呼ばれたストゥームヒルトは特に挨拶をするでもなく、無表情なままで、視線だけをエイクに向けた。
フィントリッドはストゥームヒルトの態度に対して特に何も言わなかった。
そして、傍らに立つ女児の頭に右手を置きつつ紹介を続ける。
「この子はギィレレララという。ミュルミドンの特殊個体にして統率者だ。私は蟻兵王と呼んでいる」
ギィレレララと呼ばれた女児は僅かに頭を下げた。だが、視線はエイクから逸らさなかった。かなり警戒しているらしい。
頭を下げられたからには答礼をと考え、エイクも頭を下げる。
続いてフィントリッドは、右手をその隣の女の方に向ける。
「その隣は、セフォリエナ。私の妻の1人にして、この城の警備責任者だ。
アルラウネの特殊個体で、赤き花の王の異名を持つ」
そのように紹介された赤色に身を包んだ女は、一応はエイクに向かって頭を下げた。
しかし、一言も発せず、非常に厳しい表情を浮かべている。警戒心どころか、敵意すら持っているかのように見えた。
エイクは平静な様子で、ただ礼を返すためだけに頭を下げた。
だが、内心ではその紹介に若干の不審を感じていた。
(本当にアルラウネなのか?)と思ったのである。
アルラウネというのは、人の姿を取る植物の魔物である。
通常は髪が葉や花になっているなど、身体の一部が植物的になっているのだが、セフォリエナと紹介された女は完全な人間型だ。
更に、エイクは植物と動物のオドの違いを感知することが出来るのだが、セフォリエナからは、動物のオドが感じられていた。
(単純にフィントリッドが嘘をついている可能性もあるし、強大な力を身につけた植物の魔物は、動物のオドを身に宿すのかも知れない。
だからこそ“特殊個体”なのかも知れないしな。だが、一応注意しておこう)
エイクはそう考えていた。
フィントリッドは、続けてテーブルの横にいる者の紹介を始めた。
左手を男の方に向けて告げる
「この者はディディウス・クラウソン。ノーライフキング、即ち、命無き者の王だ」
その紹介を聞き、エイクは思わずディディウスと呼ばれた男の方に顔を向けた。
余りにも強大なアンデッドのオドからある程度察してはいたが、それでもあっさりとノーライフキングと告げられたことは、やはり驚きだった。
「代々我が家に仕えている一族の者だ。今も諸々の雑事は彼が主になってこなしてくれている。
通称“裏切り者”のディディウスだ」
「ふふ」
フィントリッドがそんな紹介をすると、ディディウスの隣に立つ女が、小さく笑い声をあげた。
主人の口上の最中に笑うとは無礼な態度である。
実際、ストゥームヒルトとセフォリエナが、その女に向かって鋭い視線を向けた。
だがフィントリッド自身は気にとめていないようで、説明を続けた。
「裏切り者と言っても、私を裏切るという意味ではない。むしろいたって誠実な者だぞ。
なあ、ディディウス」
「恐れ入ります」
ディディスと呼ばれた者は、フィントリッドにそう返して頭を下げた。そして、エイクの方に向きなおる。
「ご紹介に預りました、ディディウス・クラウソンと申します。以後お見知りおきください」
そして、そう告げると、エイクに向かっても軽く頭を下げた。
「こちらこそ」
エイクも一応そう答えて会釈をする。
そして同時に、エイクは、ディディウスという名に聞き覚えがあることを思い出していた。
(最初にフィントリッドと会談した時に、俺との連絡役として王都におくつもりだったと言っていたのが、ディディウスという名の者だった。
フィントリッド本人も、冷静に考えれば非常識極まりない話しだったと言っていたが、考えるまでもないだろう。
一国の王都にノーライフキングが住み着くなど、悪夢そのものだ)
エイクは、そんな事を思わずにはいられなかった。
ノーライフキングは、古代魔法帝国の最上位の魔術師が、バンパイアを手本に至高の魔術を用いて自らをアンデッド化させた存在である。
当然ながら最上級の古語魔法を扱う。1体で国を滅ぼすに足る魔物だ。
そして、バンパイア同様に生き血を啜り、眷属を増やす。要するに人食いの魔物なのである。
そんな者が一国の王都に住み着くなど、確かにその国にとって悪夢以外の何物でもない。
フィントリッドは、驚くエイクを無視して最後の1人を紹介する。
「ディディウスの隣にいるのは、サーラ・クラウソン。ディディウスの妻だ」「ご紹介に預かりましたサーラ・クラウソンと申します」
サーラと呼ばれた女は、フィントリッドの言葉にほとんど被せるようにそう発言した。これもまた、無礼な態度というべきものだ。
実際、フィントリッド自身は相変わらず気にしていないようだが、ストゥームヒルトとセフォリエナは、更に激しい怒気すらはらんだ視線をサーラに向けた。
しかし、エイクですら慄然とせざるを得ないほどの怒気に晒されながら、サーラは気にも留めずににこやかな笑顔のままに言葉を続ける。
「ディディウスのつれ合いでございます。通称は、と…」「根っこの女だ」
そんな言葉によって、サーラの発言が遮られた。遮ったのはセフォリエナだった。
発言を邪魔されたサーラは、それでもにこやかな表情のまま、セフォリエナの方に顔を向ける。両者の視線がぶつかった。
一瞬にらみ合うようになったが、サーラはいっそう笑みを深めると視線を切り、またエイクの方に向き直って言葉を続けた。
「根っこの女のサーラです。
今後は是非、親しくお付き合いさせていただきたいと思っています」
そしてそう告げて、頭を下げた。
「こちらこそ」
エイクは、また会釈を返しつつそんな答えを返したが、内心では(親しく付き合いたいとは、とても思えないな)と、考えていた。
一連のやり取りやサーラの笑みに、かなり不穏当はものを感じていたからだ。
そもそもノーライフキングの妻というだけで、到底尋常の存在とは思えない。
バンパイアやノーライフキングへ生贄として捧げられる乙女が“花嫁”と呼ばれる事もあるが、この場合はそういう主旨ではないだろう。
この女が見た目どおりの存在ではない事は明らかである。
(そういえば、他の連中の正体は簡単に明かしているのに、この女の正体は言っていない。
多分、この場にいる中で、最も注意すべきなのは、やはり、このサーラとかいう存在だ)
エイクは、サーラから感じられる桁外れのオドも踏まえ、そんな事を考えた。
フィントリッドは、セフォリエナとサーラの剣呑なやり取りなど気にも留めていないように紹介を再開する。
「ストゥームヒルト、ギィレレララ、セフォリエナ、ディディウス、この4人が、私の最有力の部下達だ。
他に、大陸の東方と中央に1人ずつ、大将帥と呼んでいる同格の者を配置している。
その2人もあわせて、私はこの者達のことを、内四王外二帥と呼んでいる。これが我が配下の最高幹部というわけだ」
「冒険者をしているエイク・ファインドという」
フィントリッドの紹介を受けて、エイクも簡潔に自己紹介をする。そして、軽く頭を下げた。
(サーラという女を最高幹部とは言わないのはどういうわけだ? 強さを隠すつもりか?)
エイクはそんな事を考えていたが、フィントリッドから直ぐに答えが述べられた。
「それから、サーラはディディウスの妻で、大変重要な存在だからこの場に呼んだが、私の部下というわけではない。そう承知しておいてくれ」
(なるほど、部下の妻は部下ではない、というわけか。そういうことなら、あの態度も分からなくはないな。
部下ではないから、フィントリッド自身はサーラの礼儀作法に拘らない。だが、ストゥームヒルトとセフォリエナは、それでもサーラの態度が気に食わない。ということか)
エイクはそんな事を察していた。
(それにしても、幹部一人ひとりに異名をつけて、その上全体としての呼び名すら決めている。
誰かに紹介する気満々じゃあないか)
そして更にそんな事も考え、辟易とした気分になっていた。
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