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第4章
23.注意すべき者①
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調査員達を送り出した後、リーリアがエイクに話しかけた。
「先ほどからテティス様がお待ちです。エイク様とお話しをしたい事があるとのことです」
「そうか、俺も彼女に頼みたいことがあった。ちょうどいい直ぐに通してくれ」
エイクは、そう指示した。
部屋に入って来たテティスに、エイクが声をかけた。
「話したい事というのは何についてだ?」
「はい、カテリーナとジュディアについて、エイク様が知っている事を教えて欲しいと思って来ました。
今までの行いとか、人となりとか、そういったことです」
「なぜ今更?」
「仮にも彼女達を束ねるなら、やはりそういった事も知っていた方がいいかと思いまして」
(リーダー役を真面目にするつもりになってくれたのかな?
だとすれば、俺にとってはありがたい話だ。俺が知っていることくらい伝えても問題はない。もっとも、たいしたことは知らないが)
エイクはそんなことを考え、テティスに答えた。
「そうか。まあ、俺も別に彼女達のことに詳しいわけじゃあないが、いいか?」
「構いません、お願いします」
「それじゃあ、そうだな……」
エイクはそう言って語り始めた。
「ありがとうございました」
エイクの話しが一通り終わったところで、テティスがそう告げた。
「ところで、エイク様も私に御用があったと伺っていますが?」
そして、更にそう続ける。
「ああ、お前達に受けて欲しい仕事がある。炎獅子隊の妖魔討伐の補助だ」
そういってエイクはその依頼の概要を説明した。
それをフィントリッドと話したことも、フィントリッドがこれに対応して妖魔の様子をうかがうつもりであることもあわせて伝えた。
「討伐側に参加することで、何らかの情報を得られるかも知れない。それは俺にとってもフィントリッドにとっても有益なことだ。
それに、お前たちの強さに見合った敵と戦える可能性も十分にあるだろう」
そしてエイクはそうまとめた。
「そうですね。おっしゃる通りだと思います」
「それからもう一つ、今回の妖魔討伐作戦は相当に大規模で、チムル村も作戦の範囲に含まれている。俺が前に妖魔から救った辺境の村だ。
せっかく一度救って、今後は拠点にする予定もある村に被害が出てもつまらない。
チムル村を任務地にする形で、この仕事を受けて欲しい。そして出来るだけ村人たちに被害が出ないようにして欲しい」
チムル村は、王都アイラナと迷宮都市サルゴサのおよそ中間地点にある。
一般にチムル村までが王都アイラナの管轄範囲で、その北にある辺境の村はサルゴサの街の管轄範囲とされていた。
今回予定されている妖魔討伐作戦は、炎獅子隊だけではなく王都の衛兵隊も大動員され、更にサルゴサの街の守備隊や冒険者とも連携して行われる。
炎獅子隊及び王都の衛兵隊が管轄する地域の最北端であるチムル村も作戦の範囲に含まれており、拠点の一つとされる予定だった。
エイクはその結果チムル村に被害が生じる事を危惧していた。
「私は全く構いません。その依頼を受けておくことにします」
「そうか。頼んだ」
「……ご用はそれだけですか?」
「ああ、そっちは他に何かあるのか?」
「いいえ。それでは失礼します」
テティスはそう告げて退室した。
(拍子抜けでしたね)
エイクの下を辞したテティスはそう思った。
彼女はエイクが用があると言っていると聞いて、また体を求められるかと思っていたのである。
だが、これは考えすぎだった。
エイクは、今は早く剣の鍛錬をしたいと思っていた。預言者やフィントリッドに比べれば、自分はまだまだ弱小の存在に過ぎないと考え、一刻も早く強くならねばならないと思って、また焦りにも似た感情を持ってしまっていたからだ。
テティスは、気持ちを切り替えて別の事を考え始めた。自分が率いている冒険者パーティ“黄昏の蛇”のメンバーの事だ。
彼女がわざわざエイクの話を聞きに来たのは、その事について考えるためである。
テティスはパーティメンバーを統率することが、最初に考えていたよりも面倒な事になりそうだと思っていた。
(カテリーナは問題ないわ。彼女の行動は理解できる)
テティスはカテリーナと何度か直接話しており、彼女の事情についてエイクよりも詳しくなっていた。
例えば、エイクは、カテリーナは下級貴族の出だが、堅苦しいのを嫌って実家を飛び出したらしいと語った。しかしテティスは、事情はもう少し深刻で、カテリーナの実家に対する反感は相当に強い事を承知していた。
カテリーナは実家に対する強い反発心から、あえて貴族が忌避する古語魔法を学んだ。
そして、実家に対する当てつけのように非行をなし、あえて、冒険者などの恋人となり、自らも冒険者として働くようになった。
その恋人としたテオドリックが、闇信仰にまで手を出す、極悪人と言えるほど人間だとは最初は思っていなかったようだが、結局カテリーナはテオドリックに引きずられるようにして、落ちるところまで落ちてしまったのである。
その行いは愚かとしか言いようがないものだし、結局犯罪組織に馴染んでしまっていたあたり、カテリーナ自身もやはり悪人だと言わざるを得ない。
しかし、それは流された結果であり、確固たる信念があって悪を為していたわけではない。愚かな行いではあるが、異常な行いとまではいえない。
そんなカテリーナは、テティスにとって理解しやすい存在であり、むしろ扱いやすい相手だ。
テティスは他のメンバーの事に考えを進める。
(ルイーザには注意がいるわ)
テティスはルイーザの事を警戒していた。彼女から何か底知れない不気味さを感じる事があったからだ。
しかし、幼いころから闇教団に育てられ、英才教育を受けていたという身の上を考えれば、それはむしろ当然とも思える。
そして、今のルイーザは、エイクに対して従順そのもので、テティスのいう事もよく聞いていた。
闇教団によって、教主に服従するように教育されていたためだろう。エイクのことを教主に代わって服従すべき相手と認識しているようだ。
一応注意を怠るべきではないが、当面問題はない。
(一番の問題は、やっぱりジュディアね)
そして、テティスは最後のメンバーについて考えた。
ジュディアの行動は普通とは思えなかった。
「先ほどからテティス様がお待ちです。エイク様とお話しをしたい事があるとのことです」
「そうか、俺も彼女に頼みたいことがあった。ちょうどいい直ぐに通してくれ」
エイクは、そう指示した。
部屋に入って来たテティスに、エイクが声をかけた。
「話したい事というのは何についてだ?」
「はい、カテリーナとジュディアについて、エイク様が知っている事を教えて欲しいと思って来ました。
今までの行いとか、人となりとか、そういったことです」
「なぜ今更?」
「仮にも彼女達を束ねるなら、やはりそういった事も知っていた方がいいかと思いまして」
(リーダー役を真面目にするつもりになってくれたのかな?
だとすれば、俺にとってはありがたい話だ。俺が知っていることくらい伝えても問題はない。もっとも、たいしたことは知らないが)
エイクはそんなことを考え、テティスに答えた。
「そうか。まあ、俺も別に彼女達のことに詳しいわけじゃあないが、いいか?」
「構いません、お願いします」
「それじゃあ、そうだな……」
エイクはそう言って語り始めた。
「ありがとうございました」
エイクの話しが一通り終わったところで、テティスがそう告げた。
「ところで、エイク様も私に御用があったと伺っていますが?」
そして、更にそう続ける。
「ああ、お前達に受けて欲しい仕事がある。炎獅子隊の妖魔討伐の補助だ」
そういってエイクはその依頼の概要を説明した。
それをフィントリッドと話したことも、フィントリッドがこれに対応して妖魔の様子をうかがうつもりであることもあわせて伝えた。
「討伐側に参加することで、何らかの情報を得られるかも知れない。それは俺にとってもフィントリッドにとっても有益なことだ。
それに、お前たちの強さに見合った敵と戦える可能性も十分にあるだろう」
そしてエイクはそうまとめた。
「そうですね。おっしゃる通りだと思います」
「それからもう一つ、今回の妖魔討伐作戦は相当に大規模で、チムル村も作戦の範囲に含まれている。俺が前に妖魔から救った辺境の村だ。
せっかく一度救って、今後は拠点にする予定もある村に被害が出てもつまらない。
チムル村を任務地にする形で、この仕事を受けて欲しい。そして出来るだけ村人たちに被害が出ないようにして欲しい」
チムル村は、王都アイラナと迷宮都市サルゴサのおよそ中間地点にある。
一般にチムル村までが王都アイラナの管轄範囲で、その北にある辺境の村はサルゴサの街の管轄範囲とされていた。
今回予定されている妖魔討伐作戦は、炎獅子隊だけではなく王都の衛兵隊も大動員され、更にサルゴサの街の守備隊や冒険者とも連携して行われる。
炎獅子隊及び王都の衛兵隊が管轄する地域の最北端であるチムル村も作戦の範囲に含まれており、拠点の一つとされる予定だった。
エイクはその結果チムル村に被害が生じる事を危惧していた。
「私は全く構いません。その依頼を受けておくことにします」
「そうか。頼んだ」
「……ご用はそれだけですか?」
「ああ、そっちは他に何かあるのか?」
「いいえ。それでは失礼します」
テティスはそう告げて退室した。
(拍子抜けでしたね)
エイクの下を辞したテティスはそう思った。
彼女はエイクが用があると言っていると聞いて、また体を求められるかと思っていたのである。
だが、これは考えすぎだった。
エイクは、今は早く剣の鍛錬をしたいと思っていた。預言者やフィントリッドに比べれば、自分はまだまだ弱小の存在に過ぎないと考え、一刻も早く強くならねばならないと思って、また焦りにも似た感情を持ってしまっていたからだ。
テティスは、気持ちを切り替えて別の事を考え始めた。自分が率いている冒険者パーティ“黄昏の蛇”のメンバーの事だ。
彼女がわざわざエイクの話を聞きに来たのは、その事について考えるためである。
テティスはパーティメンバーを統率することが、最初に考えていたよりも面倒な事になりそうだと思っていた。
(カテリーナは問題ないわ。彼女の行動は理解できる)
テティスはカテリーナと何度か直接話しており、彼女の事情についてエイクよりも詳しくなっていた。
例えば、エイクは、カテリーナは下級貴族の出だが、堅苦しいのを嫌って実家を飛び出したらしいと語った。しかしテティスは、事情はもう少し深刻で、カテリーナの実家に対する反感は相当に強い事を承知していた。
カテリーナは実家に対する強い反発心から、あえて貴族が忌避する古語魔法を学んだ。
そして、実家に対する当てつけのように非行をなし、あえて、冒険者などの恋人となり、自らも冒険者として働くようになった。
その恋人としたテオドリックが、闇信仰にまで手を出す、極悪人と言えるほど人間だとは最初は思っていなかったようだが、結局カテリーナはテオドリックに引きずられるようにして、落ちるところまで落ちてしまったのである。
その行いは愚かとしか言いようがないものだし、結局犯罪組織に馴染んでしまっていたあたり、カテリーナ自身もやはり悪人だと言わざるを得ない。
しかし、それは流された結果であり、確固たる信念があって悪を為していたわけではない。愚かな行いではあるが、異常な行いとまではいえない。
そんなカテリーナは、テティスにとって理解しやすい存在であり、むしろ扱いやすい相手だ。
テティスは他のメンバーの事に考えを進める。
(ルイーザには注意がいるわ)
テティスはルイーザの事を警戒していた。彼女から何か底知れない不気味さを感じる事があったからだ。
しかし、幼いころから闇教団に育てられ、英才教育を受けていたという身の上を考えれば、それはむしろ当然とも思える。
そして、今のルイーザは、エイクに対して従順そのもので、テティスのいう事もよく聞いていた。
闇教団によって、教主に服従するように教育されていたためだろう。エイクのことを教主に代わって服従すべき相手と認識しているようだ。
一応注意を怠るべきではないが、当面問題はない。
(一番の問題は、やっぱりジュディアね)
そして、テティスは最後のメンバーについて考えた。
ジュディアの行動は普通とは思えなかった。
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