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第4章
20.大精霊使いの提案
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どうにか欲望を抑えたまま一通りセレナの指導を受けたエイクは、シャルシャーラの魔法で傷を癒してから、次にセレナから罠を発見する方法についても手ほどきを受けた。
これにはシャルシャーラも参加した。彼女の斥候としての技術も、セレナに劣らないものだったからだ。
エイクは元々野伏としての技術に熟達しており、野外における罠の設置や発見の能力はかなり高い。その技術を応用する事も出来たので、短い時間教えを受けただけでも、コツをつかむ程度のことは出来た。
そして、その後フィントリッド・ファーンソンとの会見に臨んでいた。
「魔王すらも預言者の配下か。確かに、ダグダロアは信者に絶対服従を求める神だ。
そのダグダロアの意思を代弁する預言者が現れたなら、他の信者はその者に服従すると考えるのが自然か……。たとえ魔王と呼ばれるほどのものであっても……」
エイクから、魔王は預言者の命に従っていると考えるべきだという話を聞いたフィントリッドは、そう述べて考え込んだ。
そして、改めてエイクの方を見て話を続ける。
「どうやら私は、ダグダロアの預言者の事を軽く見てしまっていたようだな。
私はユアン半島の魔王を簡単に倒せる相手ではないと思っていた。
そんな警戒すべき相手が、何者かの配下に過ぎないとは思えなかった。というか、思いたくなかったのだろう。
だが、言われてみれば、ダグダロアの預言者とはそれほどの存在と考えるべきだった。
しかし、そう考えると、そんな者の意に従った妖魔共が、私の住む森に入り込んでいるというのはぞっとしないな」
「その妖魔共だが、近いうちに大きな動きを見せることになると思う」
「なぜだ?」
「本格的な妖魔討伐遠征が予定されているからだ。
妖魔共がヤルミオンの森の周辺部に屯すことが出来たのは、この4年間、炎獅子隊長のフォルカスが碌な討伐をしなかったからだ。
しかし、隊長が代わったからには、そのままということにはならない。
今の隊長は親父の下で参謀をしていた男で、親父も優秀だと言っていた。間違いなく、フォルカスよりは遥かに勤勉に討伐を行う。
妖魔共も、そのままそこにいることは出来ない」
エイクはそう言って、実際に冒険者の店に妖魔討伐遠征の補助を行う依頼が出されており、その規模が相当大きなものになることを告げた。
そして、更に自分の見解を口にする。
「普通に考えるなら、4年もの歳月をかけて秘かに集結させていた戦力を、削られたくはないし、そもそもその存在を暴かれたくもないだろう。俺なら、森の奥に妖魔共の身を隠させる。
まあ、妖魔が全くいなくなってしまったら不自然だから、雑魚を多少は残しておいて、あえて討伐させるだろうが、少なくとも主力は森の奥に隠す」
「なるほど、私の支配する領域に妖魔が近づくことになるかもしれないわけだな」
「そうだ。もし絶対に妖魔の存在を隠したいと思って、森の奥、あなたの支配領域まで入り込ませたなら、預言者はまだあなたの存在に気付いていないか、或いは気付いているが気にも留めていないということになるだろう」
その言葉を聞いたフィントリッドは不快気に顔をしかめた。
「逆にあなたの支配領域にまでは立ち入らないように注意して行動させるようなら、預言者はあなたの存在を既に知っており、しかも、事を構えたくないと考えているということになる。少なくとも今はな」
エイクはそう続けた。
「妥当な推測だろうな。
前者の場合、大変不愉快ではあるが、私が身を隠して妖魔と接触しないようにしていれば、とりあえずは預言者と敵対する事はなくなる。
ただ、私にも守るべきものも、退けない状況というものもある。妖魔共の振る舞いいかんによっては、預言者との全面対決も覚悟の上で行動に出るしかない。
後者の場合、こちらからも大事にするつもりはないが、預言者が私の存在を認識している事を前提に、今後の事を考えねばならない。
どちらにしても、妖魔共の動きには十分に注意を払う必要があるな。
よい情報を教えてもらった。恩に着る」
「いや、契約を守っただけだし、そもそも普通に冒険者の店に貼りだされていた事だ。俺が何も言わないでも、近いうちにテティスからも連絡があっただろう」
「そうかも知れないが、それでも誠実な態度をとってくれていることには感謝する」
フィントリッドはそう告げ、そして、別の事についてエイクに話しかけた。
「ところで、昨日言いそびれてしまっていたことなのだが、そなたにとっても益になる提案がある。聞いてもらえるかな」
「もちろん聞こう」
「そなたは、腕試しになるような強敵との戦いを望んでいたな?
それにちょうど良い者がいるのだ」
「詳しく教えてくれ」
エイクは興味深げにそう告げた。
「以前、森にはそなたの父君さえ殺せる魔物が5体いると言ったことがあったな。
そのとき私は、その5体のことをよき隣人だと思っているとも言ったはずだ。だが、あの表現は正確ではない。実際には、もう少し関わりが深い。
私はその者達の一部を自分の支配領域を守るのに利用している。
その者達の一部は、確固たる縄張りを持っており、見慣れぬ者が入り込んでくれば確実に何らかの反応を示す。その事を踏まえて私達は防衛線を構築している。
要するに、彼らの縄張りを防衛線の一部に組み込んでいるのだ。
ところが、その中の1体が少し前から通常の縄張りから離れてしまった。
1人のオーガがちょっかいをかけて来たからだ。そのオーガは私が影響力を持っている領域の外からやって来た者で……」
そう言って、フィントリッドは自分の支配領域に関することをエイクに説明した。
フィントリッドが住むヤルミオンの森は、アースマニス大陸の北西、アストゥーリア王国と北方都市連合の領土から西に向かって延びる半島に存在している。
その半島は、そのままヤルミオン半島と呼ばれており、アストゥーリア王国や北方都市連合領と境を接する部分は全て森林地帯になっている。
しかし、広い森林地帯を抜けた先には、草原や山岳地帯もある。そして半島自体は、湾曲するかのように西南方向に向かって更に広がっている。
フィントリッドは森林地帯の一部を自身の支配領域と定義して管理下におき、その周囲に防衛線を張っているのだそうだ。そして、森林地帯を抜けた草原や山岳地帯にもある程度の影響力を及ぼしている。
しかし、半島の湾曲部分より先の地域にはフィントリッドの影響は全く及んでおらず、純然たる魔族領域となっているのだそうだ。
そして、その魔族領域から、森の中のフィントリッドが自身の防衛線と認識している場所に入り込んできたオーガがいるということらしい。
そのオーガと、腕試しの為に戦ってはどうかというのが、フィントリッドの提案だった。
オーガのいる場所はかなり離れているが、効率のいい移動手段もあるので、拘束時間は10日ほどになる見込みだそうだ。
「まあ、通常なら速やかに私自身か幹部の誰かをやって排除してしまうのだが、そなたが強者との戦いを望んでいたのを覚えていたのでな、そなたに声をかけてみようと思ったのだ」
「確かに、強敵との戦いは望むところだ。しかし、親父を殺せるほどの魔物を追い払う者と戦っても、俺に勝ち目はないだろう。
まあ、いざとなれば逃げる算段をつけた上で、あえて挑むというのはありえるかも知れないが、どちらにしても、あなたには無駄に時間を費やさせる事になってしまう」
「いや、そこまで強いわけではないらしい。その魔物が退いたのは、戦うのを煩わしく思ったからだと思われる。
そう思わせる程度にはそのオーガも強いようだが、恐らく実力はそなたの方が少し上だろう。腕試しにはちょうどいい相手のはずだ」
「……」
エイクは少しの間考え込んだ。
確かに強者との戦いは望んでいる。また、いざとなれば自分を殺したり捕らえたりする事も容易であるフィントリッドが、今更罠を仕掛けるとも思い難い。
それに、フィントリッドがあえてエイクにこの話を持ちかけたのも不自然ではない。
フィントリッドはエイクが秘密にしている能力に興味を持っているからだ。自分が支配する領域の中でエイクに戦わせれば、その秘密を暴けるかもしれない。
フィントリッドは、秘密を暴く為に無茶な事はしないと言ったが、エイクが自ら納得して戦った結果、その秘密が明るみになるというのは、無茶な行いではないと考えているのだろう。フィントリッドの思惑はそんなところだと思われた。
(それを踏まえても、話を受ける価値はありそうだな)
エイクがそんなことを考えているうちに、フィントリッドが言葉を重ねた。
「そなたにとっての益は他にもあるぞ。
そのオーガは女で、若干趣味の分かれるところはあるだろうが、大そう魅力的な容姿をしているそうだ。戦って倒したオーガをどうしようと、誰にも責められる事はあるまい」
「……」
エイクは言葉を呑んでしまった。
確かに美しい女に興味があるのは事実だが、それを言われて喜んで飛びつくように話を受けるのは、さすがに躊躇われた。
フィントリッドは更に話を進める。
「それに、私はこの街に住んで、そなたの配下の者達のこともある程度見知っているが、そなたは私の配下をほとんど知らない。
対等な契約者としては、この状況は不公平だと思っていたのだ。
この話を受けてくれるなら、オーガ討伐の前に私の城に招待しよう。そして、その場で私の配下の中の主だったものを紹介しようと思う」
(これは本音のようだな)
何やら楽しそうなフィントリッドの様子を見て、エイクはそう思った。エイクはフィントリッドが静かに暮らしたいなどと言っている割に、相当に自己顕示欲が強い事を感じていたからだ。
(多分、自慢の配下たちを見せびらかしたいんだろう。
だがこれも悪い話ではない。この強大な精霊術師の配下の者達をこの目で見ておいて損はない。
きっとその連中は今の俺より強いだろうから、当面の目標になる。
それに、今後フィントリッドとの関係がどうなるにしても、その戦力の一端でも把握しておくのは大いに有意義だ。
少し気になることもあるが、まあ、受けるべきだな)
そう思ったエイクは答えを口にした。
「受けてもいいと思う。
だが、直ぐには無理だ。俺は近いうちにサルゴサに行く予定がある。4・5日程度で戻ってくる予定だが、その後でよいなら受けよう」
「そうか……。まあ、その程度なら問題はあるまい。よろしく頼む。
ところで、我が城に招くからには食事については相応のものを用意したいと思っている。何か好みの料理などはあるか」
フィントリッドは機嫌良さ気に、そんな事をエイクに聞いた。
「……香辛料を効かせた肉や野菜のスープ。出来るだけ簡単に作れるものがいい」
エイクは、そう答えた。
彼は、かつて“伝道師”に振舞ってもらった、あの懐かしい料理を思い出していた。
「よし、任せておけ」
そう告げるフィントリッドは、やはり機嫌がよさそうだった。
これにはシャルシャーラも参加した。彼女の斥候としての技術も、セレナに劣らないものだったからだ。
エイクは元々野伏としての技術に熟達しており、野外における罠の設置や発見の能力はかなり高い。その技術を応用する事も出来たので、短い時間教えを受けただけでも、コツをつかむ程度のことは出来た。
そして、その後フィントリッド・ファーンソンとの会見に臨んでいた。
「魔王すらも預言者の配下か。確かに、ダグダロアは信者に絶対服従を求める神だ。
そのダグダロアの意思を代弁する預言者が現れたなら、他の信者はその者に服従すると考えるのが自然か……。たとえ魔王と呼ばれるほどのものであっても……」
エイクから、魔王は預言者の命に従っていると考えるべきだという話を聞いたフィントリッドは、そう述べて考え込んだ。
そして、改めてエイクの方を見て話を続ける。
「どうやら私は、ダグダロアの預言者の事を軽く見てしまっていたようだな。
私はユアン半島の魔王を簡単に倒せる相手ではないと思っていた。
そんな警戒すべき相手が、何者かの配下に過ぎないとは思えなかった。というか、思いたくなかったのだろう。
だが、言われてみれば、ダグダロアの預言者とはそれほどの存在と考えるべきだった。
しかし、そう考えると、そんな者の意に従った妖魔共が、私の住む森に入り込んでいるというのはぞっとしないな」
「その妖魔共だが、近いうちに大きな動きを見せることになると思う」
「なぜだ?」
「本格的な妖魔討伐遠征が予定されているからだ。
妖魔共がヤルミオンの森の周辺部に屯すことが出来たのは、この4年間、炎獅子隊長のフォルカスが碌な討伐をしなかったからだ。
しかし、隊長が代わったからには、そのままということにはならない。
今の隊長は親父の下で参謀をしていた男で、親父も優秀だと言っていた。間違いなく、フォルカスよりは遥かに勤勉に討伐を行う。
妖魔共も、そのままそこにいることは出来ない」
エイクはそう言って、実際に冒険者の店に妖魔討伐遠征の補助を行う依頼が出されており、その規模が相当大きなものになることを告げた。
そして、更に自分の見解を口にする。
「普通に考えるなら、4年もの歳月をかけて秘かに集結させていた戦力を、削られたくはないし、そもそもその存在を暴かれたくもないだろう。俺なら、森の奥に妖魔共の身を隠させる。
まあ、妖魔が全くいなくなってしまったら不自然だから、雑魚を多少は残しておいて、あえて討伐させるだろうが、少なくとも主力は森の奥に隠す」
「なるほど、私の支配する領域に妖魔が近づくことになるかもしれないわけだな」
「そうだ。もし絶対に妖魔の存在を隠したいと思って、森の奥、あなたの支配領域まで入り込ませたなら、預言者はまだあなたの存在に気付いていないか、或いは気付いているが気にも留めていないということになるだろう」
その言葉を聞いたフィントリッドは不快気に顔をしかめた。
「逆にあなたの支配領域にまでは立ち入らないように注意して行動させるようなら、預言者はあなたの存在を既に知っており、しかも、事を構えたくないと考えているということになる。少なくとも今はな」
エイクはそう続けた。
「妥当な推測だろうな。
前者の場合、大変不愉快ではあるが、私が身を隠して妖魔と接触しないようにしていれば、とりあえずは預言者と敵対する事はなくなる。
ただ、私にも守るべきものも、退けない状況というものもある。妖魔共の振る舞いいかんによっては、預言者との全面対決も覚悟の上で行動に出るしかない。
後者の場合、こちらからも大事にするつもりはないが、預言者が私の存在を認識している事を前提に、今後の事を考えねばならない。
どちらにしても、妖魔共の動きには十分に注意を払う必要があるな。
よい情報を教えてもらった。恩に着る」
「いや、契約を守っただけだし、そもそも普通に冒険者の店に貼りだされていた事だ。俺が何も言わないでも、近いうちにテティスからも連絡があっただろう」
「そうかも知れないが、それでも誠実な態度をとってくれていることには感謝する」
フィントリッドはそう告げ、そして、別の事についてエイクに話しかけた。
「ところで、昨日言いそびれてしまっていたことなのだが、そなたにとっても益になる提案がある。聞いてもらえるかな」
「もちろん聞こう」
「そなたは、腕試しになるような強敵との戦いを望んでいたな?
それにちょうど良い者がいるのだ」
「詳しく教えてくれ」
エイクは興味深げにそう告げた。
「以前、森にはそなたの父君さえ殺せる魔物が5体いると言ったことがあったな。
そのとき私は、その5体のことをよき隣人だと思っているとも言ったはずだ。だが、あの表現は正確ではない。実際には、もう少し関わりが深い。
私はその者達の一部を自分の支配領域を守るのに利用している。
その者達の一部は、確固たる縄張りを持っており、見慣れぬ者が入り込んでくれば確実に何らかの反応を示す。その事を踏まえて私達は防衛線を構築している。
要するに、彼らの縄張りを防衛線の一部に組み込んでいるのだ。
ところが、その中の1体が少し前から通常の縄張りから離れてしまった。
1人のオーガがちょっかいをかけて来たからだ。そのオーガは私が影響力を持っている領域の外からやって来た者で……」
そう言って、フィントリッドは自分の支配領域に関することをエイクに説明した。
フィントリッドが住むヤルミオンの森は、アースマニス大陸の北西、アストゥーリア王国と北方都市連合の領土から西に向かって延びる半島に存在している。
その半島は、そのままヤルミオン半島と呼ばれており、アストゥーリア王国や北方都市連合領と境を接する部分は全て森林地帯になっている。
しかし、広い森林地帯を抜けた先には、草原や山岳地帯もある。そして半島自体は、湾曲するかのように西南方向に向かって更に広がっている。
フィントリッドは森林地帯の一部を自身の支配領域と定義して管理下におき、その周囲に防衛線を張っているのだそうだ。そして、森林地帯を抜けた草原や山岳地帯にもある程度の影響力を及ぼしている。
しかし、半島の湾曲部分より先の地域にはフィントリッドの影響は全く及んでおらず、純然たる魔族領域となっているのだそうだ。
そして、その魔族領域から、森の中のフィントリッドが自身の防衛線と認識している場所に入り込んできたオーガがいるということらしい。
そのオーガと、腕試しの為に戦ってはどうかというのが、フィントリッドの提案だった。
オーガのいる場所はかなり離れているが、効率のいい移動手段もあるので、拘束時間は10日ほどになる見込みだそうだ。
「まあ、通常なら速やかに私自身か幹部の誰かをやって排除してしまうのだが、そなたが強者との戦いを望んでいたのを覚えていたのでな、そなたに声をかけてみようと思ったのだ」
「確かに、強敵との戦いは望むところだ。しかし、親父を殺せるほどの魔物を追い払う者と戦っても、俺に勝ち目はないだろう。
まあ、いざとなれば逃げる算段をつけた上で、あえて挑むというのはありえるかも知れないが、どちらにしても、あなたには無駄に時間を費やさせる事になってしまう」
「いや、そこまで強いわけではないらしい。その魔物が退いたのは、戦うのを煩わしく思ったからだと思われる。
そう思わせる程度にはそのオーガも強いようだが、恐らく実力はそなたの方が少し上だろう。腕試しにはちょうどいい相手のはずだ」
「……」
エイクは少しの間考え込んだ。
確かに強者との戦いは望んでいる。また、いざとなれば自分を殺したり捕らえたりする事も容易であるフィントリッドが、今更罠を仕掛けるとも思い難い。
それに、フィントリッドがあえてエイクにこの話を持ちかけたのも不自然ではない。
フィントリッドはエイクが秘密にしている能力に興味を持っているからだ。自分が支配する領域の中でエイクに戦わせれば、その秘密を暴けるかもしれない。
フィントリッドは、秘密を暴く為に無茶な事はしないと言ったが、エイクが自ら納得して戦った結果、その秘密が明るみになるというのは、無茶な行いではないと考えているのだろう。フィントリッドの思惑はそんなところだと思われた。
(それを踏まえても、話を受ける価値はありそうだな)
エイクがそんなことを考えているうちに、フィントリッドが言葉を重ねた。
「そなたにとっての益は他にもあるぞ。
そのオーガは女で、若干趣味の分かれるところはあるだろうが、大そう魅力的な容姿をしているそうだ。戦って倒したオーガをどうしようと、誰にも責められる事はあるまい」
「……」
エイクは言葉を呑んでしまった。
確かに美しい女に興味があるのは事実だが、それを言われて喜んで飛びつくように話を受けるのは、さすがに躊躇われた。
フィントリッドは更に話を進める。
「それに、私はこの街に住んで、そなたの配下の者達のこともある程度見知っているが、そなたは私の配下をほとんど知らない。
対等な契約者としては、この状況は不公平だと思っていたのだ。
この話を受けてくれるなら、オーガ討伐の前に私の城に招待しよう。そして、その場で私の配下の中の主だったものを紹介しようと思う」
(これは本音のようだな)
何やら楽しそうなフィントリッドの様子を見て、エイクはそう思った。エイクはフィントリッドが静かに暮らしたいなどと言っている割に、相当に自己顕示欲が強い事を感じていたからだ。
(多分、自慢の配下たちを見せびらかしたいんだろう。
だがこれも悪い話ではない。この強大な精霊術師の配下の者達をこの目で見ておいて損はない。
きっとその連中は今の俺より強いだろうから、当面の目標になる。
それに、今後フィントリッドとの関係がどうなるにしても、その戦力の一端でも把握しておくのは大いに有意義だ。
少し気になることもあるが、まあ、受けるべきだな)
そう思ったエイクは答えを口にした。
「受けてもいいと思う。
だが、直ぐには無理だ。俺は近いうちにサルゴサに行く予定がある。4・5日程度で戻ってくる予定だが、その後でよいなら受けよう」
「そうか……。まあ、その程度なら問題はあるまい。よろしく頼む。
ところで、我が城に招くからには食事については相応のものを用意したいと思っている。何か好みの料理などはあるか」
フィントリッドは機嫌良さ気に、そんな事をエイクに聞いた。
「……香辛料を効かせた肉や野菜のスープ。出来るだけ簡単に作れるものがいい」
エイクは、そう答えた。
彼は、かつて“伝道師”に振舞ってもらった、あの懐かしい料理を思い出していた。
「よし、任せておけ」
そう告げるフィントリッドは、やはり機嫌がよさそうだった。
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