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第3章
64.反撃1日目の結果①
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エイクが王都に帰還し、そして早速ゴルブロ一味への反撃が行われた9月18日。
その日エイクは日中は自分の屋敷で諸々の準備を行い、夜半からは“イフリートの宴亭”に詰めていた。
貴族街の端にあるファインド家の屋敷よりも、地理的に王都の中央に近い場所にあり、日頃から冒険者が出入りしている“イフリートの宴亭”の方が、情報を集約するのに好都合だったからだ。
エイクはゴルブロ一味の動向に関する情報を集め、ゴルブロの姿が確認されたら直ぐに駆けつけるつもりだった。
エイクは、ゴルブロ本人だけはなんとしても自らの手で倒したいと思っている。
そして、一騎打ちのときの感触から、それは不可能ではないと判断していた。
もちろん確実に勝てるといえるほど生易しい相手ではない。
だが、強敵と戦い自らを鍛えあげる事こそがエイクの望みである。
敗北し命の危険に瀕したエイクだったが、それでもなおその気持ちは全く変わってはいなかった。
もしもエイクが、死にかけたからという理由で、それ以降は危険な戦いを避けるようになる人間だったならば、そもそも13歳で初めてゴブリンと戦って死にかけた時点で、以後は戦いを避けて、強くなることも戦う者として生きる事も諦めていた事だろう。
しかし、エイクはそうではなかった。
彼の強くなりたいという強固な願望と、強くなる為には危険な戦いにも身を投じなければならないという信念は、死の危険を経てもいささかも変わらなかったのだ。
今エイクが目指しているのは、ゴルブロという強敵と全力で戦い、打ち勝ち、そして更に強くなる。という事だ。
また、そうしてこそ、己の強烈な復讐心を満足させる事ができるとも考えていた。
だが、怒りと戦意を滾らせたまま、まんじりともせずに報告を待っていたエイクだったが、その夜の内にゴルブロ本人に関する情報は得られなかった。
翌19日の朝になり、エイクはそのまま“イフリートの宴亭”で昨夜の戦果を確認していた。
エイクが居る部屋には、アルターとロアンが集まっている。
セレナの姿はなかった。彼女は別の場所で行動している。
その代わりというわけでもないが、エイクは独自に情報収集をしてくれていたアルマンドを呼んでいた。
部屋にはゴルブロ一味の手配書47人分が持ち込まれ机の上に置かれている。
ミカゲの手配書だけはない。彼女はごく最近一味に加わったらしく、ハリバダードの街でもまだ賞金首にはなっていなかったのだ。
その手配書を使って、アルターらが作業をしていた。
「片耳のクリス、チャカ村のリシアン、縮れ髭のヒース」
などと、アルターが何枚かの書付を見ながら名前を読み上げると、ロアンとアルマンドが手配書の中からその名前の人物のものを抜き出し、大きく×印をつけていく。
その作業が終わったところで、アルターがエイクに向かって告げた。
「以上、全部で28人を昨夜の内に殺すか捕らえるかすることに成功しました。
この中で一番の大物はテティス殿達が捕らえたマンセルという男です」
ゴルブロ一味への襲撃は、腕に覚えのある幾つかの冒険者パーティによっても行っていた。
“黒翼鳥”やセレナの配下の者が得られた情報を速やかに多くの冒険者の店に流していたし、そもそもゴルブロ一味は身を隠すようなことをまるで行わず、自ら目立つように振る舞っていたため、即座に動くことが可能で、自信があるパーティが早速賞金稼ぎに動いたのだ。
その結果も含めて28名が倒されたわけである。
ゴルブロ一味は全員で48名。その数は一夜にして半数を割っていた。
「テティス達はよくやってくれたな」
エイクはそんな感想を口にした。
エイクは、自分に敵意を持っているだろう、カテリーナ、ルイーザ、ジュディアの3人をゴルブロ一味との戦いに投入しても、彼女たちが自分を裏切る可能性はほぼないと考えていた。
彼女たちが自分に従っているのは、犯罪者にされてしまう事を嫌っているからだと理解していたからだ。
彼女たち3人はそれぞれエイクに歯向かえば犯罪者とされてしまう立場だ。
そして、犯罪者として生きる事を嫌っているからこそ、エイクの下から逃げようとしていない。
その彼女たちが、よりにもよって犯罪者そのものであるゴルブロ一味に味方してエイクと敵対するとは考えられない。
彼女たちの裏切りを心配しなければならないのは、彼女たちの身分を保証できるような国の有力者と敵対するようになった場合だろう。
エイクはそう考えていた。
エイクの感想に対してアルターが答えた。
「全くです。見事な働きをしていただきました」
そして、その場にいる者全員に向かって語り始めた。
「それでは改めて昨夜の戦果を報告させていただきます。
まず、先ほど申し上げた通り、数の上では48人中28人を倒す事に成功しています。
ですが戦闘能力という面に関しては、数ほどには削れていません。
主力とも言うべき強敵が多数残っているからです。
中でも最も注意すべき強敵は言うまでもなく頭目のゴルブロ。エイク様とも互角に戦う恐るべき相手です。
次に、戦闘の強さではゴルブロに次ぐといわれている副頭目のバルドス。
この者の強さは冒険者で言えば軽戦士として上級上位、それもかなり上の方ではないかと推測されます。
優れた精霊魔法の使い手であるザンサルス。
この者もまた上級上位といえるほどの精霊魔法の腕前を持つようです。
それから手配書はありませんが、ミカゲという女。
エイク様の見立てでは、この女も戦士として上級中位ほどの力量とのこと。
また、エルデンという名の男も中級上位に値するほどの魔術師のようです。
これも注意すべき戦力といえるでしょう。
この他にも、軽戦士として上級下位程度の力量の者が、4・5人残っています」
アルターが口にした者達の手配書を、アルマンドが壁に張り付けていく。
「バルドスに対しては、昨夜上級下位の者を中心とした冒険者パーティが攻撃を仕掛けましたが、返り討ちにあっています。
相手が軽戦士だけなら、格上相手でも倒せると見込んだのでしょうが、見込み違いをしてしまったと言わざるを得ません。
エルデンという魔術師もバルドスに同行していた事も、その冒険者パーティが破れた原因のようですが、いずれにしても侮れない相手といえるでしょう」
アルターはそう補足説明をした。
エイクが感想を述べる。
「やはり、テティス達をそちらにはぶつけなくてよかったな」
「誠にそのとおりですな。テティス殿達でも危なかったでしょう。
ゴルブロ自身と、ザンサルスとミカゲは、昨夜も一昨夜も街に繰り出してはいなかったようです。
結果として主要メンバーの多くが残っています。
戦闘能力に関しては、せいぜい3割程度削れたかどうかと認識すべきだと考えています。
ですがそれ以上に重要な戦果があります。
マンセルとその直接の部下達、そしてコルコクトという闇司祭とその弟子達を討てたことです」
アルターはそう言って、×印をつけた手配書の中から、マンセルとコルコクトの物を抜き出して説明を続けた。
「セレナ殿やドロシー殿からの情報、そして手配書の記載を参考にする限り、ゴルブロ一味の中で、もっとも斥候としての技術に長けていたのはマンセルです。そして、彼の直接の配下にも優れた斥候が揃っていた。
逆に言えば、その者たち以外は斥候としての能力はさほど高くはない。
また、コルコクトとその弟子の内2人は回復魔法の使い手です。
ゴルブロ一味の中で彼らの他に回復魔法を扱うのは、精霊使いのザンサルスのみと思われます。
つまり、この両者とその直接の配下を全て倒した事により、ゴルブロ一味の、索敵・諜報・防諜・回復の全ての能力を大幅に低下させたわけです。
これは非常に価値のある戦果です。
この影響は時を経るにしたがって大きくなっていきます。
ゴルブロ一味全体の総合的な能力は、控えめに考えても半分以下になっていると見積もって差し支えないでしょう。
一晩の戦果としては悪くないものと言ってよいと判断いたします」
アルターは一先ずそうまとめた。
「概ね作戦通りの戦果だな。アルターのおかげだ。助かった」
エイクに声をかけられたアルターは「恐縮です」と述べて頭を下げる。
倒すべき敵の優先順位をはかり、マンセルに“黄昏の蛇”をぶつけ、コルコクトにはセレナの伝手を利用して闇信仰審問官達とドミトリをぶつけたのは、アルター立案の作戦だった。
また、この作戦はエイク自身がその目で見て感じた、ゴルブロ一味の概ねの強さも踏まえて立案されている。
ゴルブロ一味全員が待ち構える闘技場に入り込んでしまったのは、紛れもなくエイクの犯した大失態だった。
だが、やってしまったからには、せめて出来る限りの情報を得ようと考えたエイクは、ゴルブロ一味の者達の強さを見極めるように努めており、その結果をアルターやセレナに伝えたのだ。
そうしてアルターは、手配書の内容も踏まえて敵の力量をある程度把握して、かなりの成算を持って作戦を立てることが出来たのだった。
アルターは更に戦果の説明を続けた。
「ですが、全て計画通りとは行きませんでした。
生き残ったゴルブロ一味がどこに身を隠したのかは把握できていません。残念ながら、隠れ家の特定に成功した冒険者たちはいませんでした。
バルドスに仕掛けた冒険者パーティは壊滅状態で、引き上げるバルドスたちの後を追うどころではなかったようです。
また、他の冒険者パーティがゴルブロ一味の片割れを攻撃した際には、殿として残って体を張って仲間の逃走を助けた一味の者もいたとの事。
盗賊らしからぬ行いですが、そのようなことをされると予め追跡役を用意してでもおかない限り、逃げた者の後を追う事は困難です。
ちなみに“黒翼鳥”は、自力でゴルブロ一味の片割れを攻撃した際、正に追跡役を予め用意していて、意図的に敵を逃がして追跡するつもりだったようです。
ところが、襲撃役の者達が負けそうになり、追跡役として隠れていた者も戦いに参加する羽目に陥り、結局逃げた者を追う事はできなかったようですな」
「不甲斐ないな」
そう言い放つエイクに、アルターが告げる。
「この場合は、ゴルブロ一味侮りがたしと評価すべきかと愚考いたします」
そして、更に言葉を続ける。
「他の一味の者達は、異変を察知して襲撃を受ける前に身を隠してしまったようです。
もしも、ゴルブロ一味の片割れに勝てる見込みのある戦力を、もう一組用意できたならば、私共でも意図的に逃がして追跡するという手を打てましたが、そこまで手が回らなかったのは止むを得ませんな。
何しろ、情報を収集して冒険者の店などに流し、更にエイク様の下に集約するためにも人手が必要でしたから」
そう言ってアルターは肩をすくめてみせた。
その日エイクは日中は自分の屋敷で諸々の準備を行い、夜半からは“イフリートの宴亭”に詰めていた。
貴族街の端にあるファインド家の屋敷よりも、地理的に王都の中央に近い場所にあり、日頃から冒険者が出入りしている“イフリートの宴亭”の方が、情報を集約するのに好都合だったからだ。
エイクはゴルブロ一味の動向に関する情報を集め、ゴルブロの姿が確認されたら直ぐに駆けつけるつもりだった。
エイクは、ゴルブロ本人だけはなんとしても自らの手で倒したいと思っている。
そして、一騎打ちのときの感触から、それは不可能ではないと判断していた。
もちろん確実に勝てるといえるほど生易しい相手ではない。
だが、強敵と戦い自らを鍛えあげる事こそがエイクの望みである。
敗北し命の危険に瀕したエイクだったが、それでもなおその気持ちは全く変わってはいなかった。
もしもエイクが、死にかけたからという理由で、それ以降は危険な戦いを避けるようになる人間だったならば、そもそも13歳で初めてゴブリンと戦って死にかけた時点で、以後は戦いを避けて、強くなることも戦う者として生きる事も諦めていた事だろう。
しかし、エイクはそうではなかった。
彼の強くなりたいという強固な願望と、強くなる為には危険な戦いにも身を投じなければならないという信念は、死の危険を経てもいささかも変わらなかったのだ。
今エイクが目指しているのは、ゴルブロという強敵と全力で戦い、打ち勝ち、そして更に強くなる。という事だ。
また、そうしてこそ、己の強烈な復讐心を満足させる事ができるとも考えていた。
だが、怒りと戦意を滾らせたまま、まんじりともせずに報告を待っていたエイクだったが、その夜の内にゴルブロ本人に関する情報は得られなかった。
翌19日の朝になり、エイクはそのまま“イフリートの宴亭”で昨夜の戦果を確認していた。
エイクが居る部屋には、アルターとロアンが集まっている。
セレナの姿はなかった。彼女は別の場所で行動している。
その代わりというわけでもないが、エイクは独自に情報収集をしてくれていたアルマンドを呼んでいた。
部屋にはゴルブロ一味の手配書47人分が持ち込まれ机の上に置かれている。
ミカゲの手配書だけはない。彼女はごく最近一味に加わったらしく、ハリバダードの街でもまだ賞金首にはなっていなかったのだ。
その手配書を使って、アルターらが作業をしていた。
「片耳のクリス、チャカ村のリシアン、縮れ髭のヒース」
などと、アルターが何枚かの書付を見ながら名前を読み上げると、ロアンとアルマンドが手配書の中からその名前の人物のものを抜き出し、大きく×印をつけていく。
その作業が終わったところで、アルターがエイクに向かって告げた。
「以上、全部で28人を昨夜の内に殺すか捕らえるかすることに成功しました。
この中で一番の大物はテティス殿達が捕らえたマンセルという男です」
ゴルブロ一味への襲撃は、腕に覚えのある幾つかの冒険者パーティによっても行っていた。
“黒翼鳥”やセレナの配下の者が得られた情報を速やかに多くの冒険者の店に流していたし、そもそもゴルブロ一味は身を隠すようなことをまるで行わず、自ら目立つように振る舞っていたため、即座に動くことが可能で、自信があるパーティが早速賞金稼ぎに動いたのだ。
その結果も含めて28名が倒されたわけである。
ゴルブロ一味は全員で48名。その数は一夜にして半数を割っていた。
「テティス達はよくやってくれたな」
エイクはそんな感想を口にした。
エイクは、自分に敵意を持っているだろう、カテリーナ、ルイーザ、ジュディアの3人をゴルブロ一味との戦いに投入しても、彼女たちが自分を裏切る可能性はほぼないと考えていた。
彼女たちが自分に従っているのは、犯罪者にされてしまう事を嫌っているからだと理解していたからだ。
彼女たち3人はそれぞれエイクに歯向かえば犯罪者とされてしまう立場だ。
そして、犯罪者として生きる事を嫌っているからこそ、エイクの下から逃げようとしていない。
その彼女たちが、よりにもよって犯罪者そのものであるゴルブロ一味に味方してエイクと敵対するとは考えられない。
彼女たちの裏切りを心配しなければならないのは、彼女たちの身分を保証できるような国の有力者と敵対するようになった場合だろう。
エイクはそう考えていた。
エイクの感想に対してアルターが答えた。
「全くです。見事な働きをしていただきました」
そして、その場にいる者全員に向かって語り始めた。
「それでは改めて昨夜の戦果を報告させていただきます。
まず、先ほど申し上げた通り、数の上では48人中28人を倒す事に成功しています。
ですが戦闘能力という面に関しては、数ほどには削れていません。
主力とも言うべき強敵が多数残っているからです。
中でも最も注意すべき強敵は言うまでもなく頭目のゴルブロ。エイク様とも互角に戦う恐るべき相手です。
次に、戦闘の強さではゴルブロに次ぐといわれている副頭目のバルドス。
この者の強さは冒険者で言えば軽戦士として上級上位、それもかなり上の方ではないかと推測されます。
優れた精霊魔法の使い手であるザンサルス。
この者もまた上級上位といえるほどの精霊魔法の腕前を持つようです。
それから手配書はありませんが、ミカゲという女。
エイク様の見立てでは、この女も戦士として上級中位ほどの力量とのこと。
また、エルデンという名の男も中級上位に値するほどの魔術師のようです。
これも注意すべき戦力といえるでしょう。
この他にも、軽戦士として上級下位程度の力量の者が、4・5人残っています」
アルターが口にした者達の手配書を、アルマンドが壁に張り付けていく。
「バルドスに対しては、昨夜上級下位の者を中心とした冒険者パーティが攻撃を仕掛けましたが、返り討ちにあっています。
相手が軽戦士だけなら、格上相手でも倒せると見込んだのでしょうが、見込み違いをしてしまったと言わざるを得ません。
エルデンという魔術師もバルドスに同行していた事も、その冒険者パーティが破れた原因のようですが、いずれにしても侮れない相手といえるでしょう」
アルターはそう補足説明をした。
エイクが感想を述べる。
「やはり、テティス達をそちらにはぶつけなくてよかったな」
「誠にそのとおりですな。テティス殿達でも危なかったでしょう。
ゴルブロ自身と、ザンサルスとミカゲは、昨夜も一昨夜も街に繰り出してはいなかったようです。
結果として主要メンバーの多くが残っています。
戦闘能力に関しては、せいぜい3割程度削れたかどうかと認識すべきだと考えています。
ですがそれ以上に重要な戦果があります。
マンセルとその直接の部下達、そしてコルコクトという闇司祭とその弟子達を討てたことです」
アルターはそう言って、×印をつけた手配書の中から、マンセルとコルコクトの物を抜き出して説明を続けた。
「セレナ殿やドロシー殿からの情報、そして手配書の記載を参考にする限り、ゴルブロ一味の中で、もっとも斥候としての技術に長けていたのはマンセルです。そして、彼の直接の配下にも優れた斥候が揃っていた。
逆に言えば、その者たち以外は斥候としての能力はさほど高くはない。
また、コルコクトとその弟子の内2人は回復魔法の使い手です。
ゴルブロ一味の中で彼らの他に回復魔法を扱うのは、精霊使いのザンサルスのみと思われます。
つまり、この両者とその直接の配下を全て倒した事により、ゴルブロ一味の、索敵・諜報・防諜・回復の全ての能力を大幅に低下させたわけです。
これは非常に価値のある戦果です。
この影響は時を経るにしたがって大きくなっていきます。
ゴルブロ一味全体の総合的な能力は、控えめに考えても半分以下になっていると見積もって差し支えないでしょう。
一晩の戦果としては悪くないものと言ってよいと判断いたします」
アルターは一先ずそうまとめた。
「概ね作戦通りの戦果だな。アルターのおかげだ。助かった」
エイクに声をかけられたアルターは「恐縮です」と述べて頭を下げる。
倒すべき敵の優先順位をはかり、マンセルに“黄昏の蛇”をぶつけ、コルコクトにはセレナの伝手を利用して闇信仰審問官達とドミトリをぶつけたのは、アルター立案の作戦だった。
また、この作戦はエイク自身がその目で見て感じた、ゴルブロ一味の概ねの強さも踏まえて立案されている。
ゴルブロ一味全員が待ち構える闘技場に入り込んでしまったのは、紛れもなくエイクの犯した大失態だった。
だが、やってしまったからには、せめて出来る限りの情報を得ようと考えたエイクは、ゴルブロ一味の者達の強さを見極めるように努めており、その結果をアルターやセレナに伝えたのだ。
そうしてアルターは、手配書の内容も踏まえて敵の力量をある程度把握して、かなりの成算を持って作戦を立てることが出来たのだった。
アルターは更に戦果の説明を続けた。
「ですが、全て計画通りとは行きませんでした。
生き残ったゴルブロ一味がどこに身を隠したのかは把握できていません。残念ながら、隠れ家の特定に成功した冒険者たちはいませんでした。
バルドスに仕掛けた冒険者パーティは壊滅状態で、引き上げるバルドスたちの後を追うどころではなかったようです。
また、他の冒険者パーティがゴルブロ一味の片割れを攻撃した際には、殿として残って体を張って仲間の逃走を助けた一味の者もいたとの事。
盗賊らしからぬ行いですが、そのようなことをされると予め追跡役を用意してでもおかない限り、逃げた者の後を追う事は困難です。
ちなみに“黒翼鳥”は、自力でゴルブロ一味の片割れを攻撃した際、正に追跡役を予め用意していて、意図的に敵を逃がして追跡するつもりだったようです。
ところが、襲撃役の者達が負けそうになり、追跡役として隠れていた者も戦いに参加する羽目に陥り、結局逃げた者を追う事はできなかったようですな」
「不甲斐ないな」
そう言い放つエイクに、アルターが告げる。
「この場合は、ゴルブロ一味侮りがたしと評価すべきかと愚考いたします」
そして、更に言葉を続ける。
「他の一味の者達は、異変を察知して襲撃を受ける前に身を隠してしまったようです。
もしも、ゴルブロ一味の片割れに勝てる見込みのある戦力を、もう一組用意できたならば、私共でも意図的に逃がして追跡するという手を打てましたが、そこまで手が回らなかったのは止むを得ませんな。
何しろ、情報を収集して冒険者の店などに流し、更にエイク様の下に集約するためにも人手が必要でしたから」
そう言ってアルターは肩をすくめてみせた。
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