剣魔神の記

ギルマン

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第3章

39.調査対象①

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 9月11日。

 エイクはよりいっそう焦りのような感覚を覚えていた。

 今日以降エイクは予定らしい予定を入れていない。
 しかし、調べたい事柄は多くなってきている。

 フェルナン・ローリンゲン新侯爵のこと。
 カーストソイル発生の原因と、それについての仮説である下水道跡近くの地下空間の有無。
 ケルベロスやヘルハウンドに変身する者達による襲撃の背後関係。
 反ルファス公爵派の動向。
 といった事などだ。

 だが、今の情勢ではセレナやアルマンドらを、そのようなことを調べる為に使うことは出来ない。
 ゴルブロなる強敵が接近して来ている可能性が高く、いよいよレイダーとの決着がつきそうだという状況だからだ。
 
 特にセレナは非常に多忙になっているはずである。
 近日中にグロチウスを直接尋問できるかも知れないという情勢になっているからだ。
 昨夜の内にそのような報告がエイクの下に届けられていた。
 なんでも、今もハイファ神殿に囚われているグロチウスに接触するための、有効な伝手を得たとのことだった。

 エイクは可能なら自ら内密の内にグロチウスを尋問したいと伝えたが、セレナの使いである少女が言うにはそれは無理とのことだった。
 セレナが得た伝手を使っても、正体を隠した者をグロチウスに引き合わせることは不可能だというのだ。
 そして、エイクが正体を明かせば、今やそれなりの有名人であるが故に騒ぎになってしまい、結局相対でグロチウスを尋問することは無理だろう。
 
 やむを得ずエイクは、グロチウスに問いただしたい内容をセレナの使いに伝えておくことにした。
 いずれにしても、そんな工作も行っているセレナに、更なる情報収集を行う余裕があるはずがない。


 
 エイクは自分自身で実行可能な情報収集として、フィントリッドにオフィーリア女王即位前の貴族の反乱の真相について聞いてみたいとも考えていた。
 それを知れば、ルファス公爵家とトラストリア公爵家の対立の背後関係を知る事ができるのではないかと考えたからだ。
 しかし、それはフィントリッドに借りを作る事になると考えて止めておくことにした。

 情報提供に関するフィントリッドとの交渉は、エイクが情報を渡す代わりにフィントリッドが“精霊の泉”で料理人として働く、という事で決着していた。

 エイクはこの結果を妥当なものだと思っている。
 料理人云々と最初に口にしたのは自分の方からだったし、ロアンによればフィントリッドの調理の腕は本当に最高級で、まともに賃金を払うなら月に数万という額になるだろう、とのことだった。
 この金額だけでも情報の対価としては十分といえる。

 加えてエイクは、とてつもなく強大な魔法使いで、しかも本人曰くこの国の歴史上の重要人物であるなどという人物が、ひそかに王都に暮らしているという事自体が重要な情報であり、その情報を自分が独占しているという状況も都合がよいと思ってもいた。

 いずれにしても、双方納得してそのような話が決まっている以上、エイクがフィントリッドから何らかの情報を得ようとすれば、それは既存の契約以外の頼みという事になる。
 フィントリッドがその頼みに応えたならば、それは借りを作った事になってしまうわけだ。

 自分の秘密を探ろうなどという、エイクにとって不都合な意図も持っているフィントリッドに、不用意に借りを作るべきではない。
 まして、大昔の真実を知るなどという、現在の状況に直接的な影響を持っていない事柄で借りを作る等もっての他だ。

 エイクはそう考えて、現状でフィントリッドに何かを依頼することは避ける事にしたのだった。
 


 結局のところ、今エイクがするべきことは、少しでも強くなる為に鍛錬を積むことだろう。
 だが、それはそれで、日常的な鍛錬を繰り返しているだけでいいのか?との思いも生じてしまっている。
 強敵との実戦経験を積みたいとの思いも、やはり抱いてしまっていた。
 といっても、この情勢で強敵を求めて遠征するなどということも、やはりありえない。

 このような、時間の余裕はあるが中々思うように行動できないという状況が、エイクを焦らしているのだ。

 なお、代わりにというわけでもないが、テティスたち“黄昏の蛇”一行は明日から5日間の日程で魔物討伐に出かけることになっていた。

 そんなエイクの下に、“イフリートの宴亭”から連絡があった。“ラテーナ商会”からの依頼あり、との連絡だった。
 それはつまり、盗賊ギルド“黒翼鳥”からの連絡ありということである。
 エイクは何か情勢の変化でもあったのかと考えて、“イフリートの宴亭”に向かった。



 “黒翼鳥”からの連絡は、率直に言って期待はずれだった。
 それは、レイダーがゴルブロと連絡を取ったという、3日前にセレナから伝えられたのと同じ情報だったからだ。内容もセレナからもたらされたものと変わりはない。
 更にその対策案も、まずはゴルブロ達をこの国でも賞金首にして迎え撃つべきだ、というセレナと同様のものだった。

(セレナの方が役には立つな。まあ、“黒翼鳥”はギルド全体のことを考えて行動しているのに対して、セレナはレイダーの動向を集中して調べているわけだから当然かも知れないが、だとしてもセレナは十分に役に立ってくれている。最初に期待していないなどと言ってしまって悪かったな)
 エイクはそんな風に思った。

 エイクは“黒翼鳥”の使いに、自分は政府とも伝手を得ているし、人を用意することも出来る。だから、手配書を用意してゴルブロたちを賞金首にするための手はずはこちらで整えると伝えた。“黒翼鳥”に無駄足を踏ませるまでもないと考えたからだ。
 そして、ゴルブロが実際にアイラナまでやって来たときには、自分が中心になって戦とも伝えた。
 “黒翼鳥”の使いは、それで満足したようだった。
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