異世界陸軍活動記

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曳航

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 『ラベル島』

 大陸の西側に存在し、大陸の次に大きな島であり、主な産業は小売り業やサービス業である。
 その理由としては、西の海を抑えるためにその海域一帯をハルツール海軍が完全に抑え、陸軍がその島を完全に要塞化し、かなりの陸軍及び海軍兵士が駐留している為その軍人達を相手にした商売が盛んだからである

 島は軍人や陸軍兵士の家族達が住み、学校や病院など施設なども充実していた。一度赴任すると中々大陸に帰れない事もあり、その為陸軍兵士はラベル島に駐留が決まると家族を呼び寄せ、一緒に住むことが多い。島の防衛の殆どは海軍がする為、陸軍兵士にしてみれば仕事と呼べる仕事が無いので楽が出来ると言われ人気の赴任先である。
 一方、海軍兵士からするとラベル島は陸軍兵士がいるという事で居心地が悪いらしく、あまり人気ではない。中には家族を呼ぶ者もいるが、学校でも陸軍兵士の子と海軍兵士の子で格差があるらしく、その格差でのイジメがあるという


 さて、世界をハルツールとマシェルモビアで真っ二つに割った場合、その島はマシェルモビアの領海に食い込んでいる、キレイに二つに世界を割ったら間違いなくマシェルモビアの領土になるだろう。
 だがそうでは無く、何故ハルツールの領海・領土になっているか?
 
 それはハルツールにしかない魔法『耐壁』のおかげである、受けたダメージを身代わりになってくれるその魔法、巡洋艦から空母、更に搭載されている竜翼機まで、全ての艦や艦載機に魔法が付与された魔道具が搭載されており、そのおかげで船員やパイロットの犠牲を最小限に抑えている

 対するマシェルモビアだが、得意とする『潜伏・隠蔽』の魔法を利用した隠密行動ができるため、奇襲などでハルツールに一矢報いるが、当然攻撃した時点で場所が特定されるため、一度攻撃をすると後は不利となる。
 しかも『潜伏・隠蔽』魔法は、竜翼機には魔道具の装置が大きすぎる為搭載されていない。その為、竜翼機同士の戦いでは圧倒的にハルツールに軍配が上がる

 その事からハルツールの主力は空母であり、圧倒的な竜翼機の数による空からの索敵と攻撃でマシェルモビアを翻弄する。
 そしてマシェルモビアの主力は巡洋艦であり、隠密行動からの一撃離脱が彼らの戦術だった

 『耐壁』魔法のおかげもあり、海での戦いではハルツールが制空権を常に奪っており、我がハルツール海軍は常に優勢であった

 そして陸軍も駐留しているラベル島は、今まで落ちた事の無い海の要塞とし、昨日まで存在していた
 
 そう‥‥昨日までは




 



「ラベル島が‥‥落ちた?」
 その男はよろよろと後ろに下がり、力なく崩れ落ち

「そんな‥‥」
 茫然とするその男はまばたきもせずその場にへたり込んだ

 この男がここまで落胆するのは珍しい‥‥
 多少の事があっても慌てないこの男が

 
 ラベル島が敵の手に落ちたと聞いたのは今日の早朝、昨日の嵐がウソだったかのように青く晴れわたり、風が穏やかに通り過ぎている。
 昨日の夜の嵐で各設備が不調になり、通信どころか艦の維持にも支障をきたしていたらしい。
 この艦に乗船する陸軍兵士達は皆、この天候だから色々大変なんだろうと思っていたに違いない、自分もそうだったし‥‥

 だが実際は通信が途絶え、各種機能が完全に停止し航行不能に陥っていた。依然、推進力は戻っていないのでまだ艦は動く事が出来ない、それどころかあの嵐で船はあらぬ方向に流されていた。
 そしてやっと通信が回復したと同時に伝わったのが
 『ラベル島・陥落』
 である、その事がどれだけ重要で異常なことなのか、隣でへたり込んでいるタクティアを見ればわかるし、ソルセリーを前線から外す為、絶対に落ちる事の無いと言われるラベル島、その駐留にあれこれ苦心したんだと思う

 更に艦長による説明で、先行している他の3隻の艦との通信は今だ無し、しかも一度回復した通信機能がすぐに不能になってしまったと、制御不能の艦の周囲を警戒する為に艦載している竜翼機を飛ばしている、そして制御不能になった艦は大陸に引き寄せられるように動いていると‥‥

 艦長の説明に、無駄に噛みついていくどこかの陸軍兵士、多分どこかの部隊の隊長だろうが、艦長は
「昨日のような天候は我々にも初めての事で」
 と言っていた。
 航行不能になるのを防ぐのが精一杯だと
 
 昨晩は凄い揺れでこのままで大丈夫か? と思っていたが、かなりやばい状況だったらしい。
 それにしても‥‥あの嵐はこの艦にとっても初めての事‥‥と

 天候まで操る『女神』という言葉が脳裏をよぎったが、「まさかそんな」と頭を横に振る。
 艦は何の対処も出来ないまま海の上を漂流する事になる、星の位置から大体の場所を割り出すがそれも確実ではない。
 海の上を漂うだけの時間が過ぎてゆくと同時に、乗船していた陸軍兵士からの苛立ちの言葉が出始め、そして‥‥‥

 漂流してから3日目の事





「なんだかばたばたしてますね、何かあったんでしょうか?」」

 部屋で横になっていると、もうすぐ父親になるノース・ビベルが訪ねてくる。
 ノースは元ハヤト隊のマースとめでたく結婚し、もうすぐ子供が誕生する予定であった。子供が生まれたら母子共にラベル島に呼び寄せ一緒に暮らす予定であったが、ラベル島が落ちた今、それも叶わなくなってしまった

 ノースの言うとおり何となくドアの向こうが騒がしい気がする

「私が聞いてきましょう」
 タクティアが立ち上がりそのままドアを開け出て行った

「いつまでこうしているんですかね‥‥」
 タクティアが出て行った後、NTR兵士ことタバル・ダイアはこの状況にうんざりしているようで不満を漏らす、「なるようになるしかない」のが今の状況だし、本人もそれは分かっているそれ以上の事、つまり海軍への不満はまだ出してはいない

「‥‥‥」
「‥‥‥」
 タバルの独り言のような問いに、同じ部屋にいたむっつりのデディと、最年長のオーバは何も答えなかった。
 二人も同じことを考えているのだろうが、口には出したくなかったのだろう、終わりのない、何事も起こらない時間が経つにつれ、このままだと兵士達の士気が落ちるどころかこのままだと規律にも関わって来るだろう

 そして再び無言の時間だけが過ぎて行った時、大きな靴の音が近づき
 バンとドアが開く

「通信が一部回復し、偵察に出た竜翼機が味方空母と接触出来たそうです! それと艦の推進力が回復しました!」
 この情報を一早く伝えたかったのだろう、タクティアが息を切らせて入ってきた

「よし!」
「やった!」
「ふむ‥‥やっとか」

 安堵の息をつく隊員達だったが、その時俺はまだ暗闇の中から抜け出していないような感覚を受けていた。そしてその予感は的中する


 ・・・・

 ・・・・

「空母スネックは推進力を失っているようです‥‥」
 
 味方空母スネックは、同じく嵐に遭遇し通信や推進力など全ての機能を停止しており、この艦と同じく海の上を漂っていた。他に4隻の随伴艦がいたが、あの嵐でその4隻も推進力や計器の故障もあり、そのまま流され、居場所も分からないのだそうだ。
 それが帰還した偵察機の持って来た情報だった。いまだ全ての機能が回復していないこの艦だったが、空母と合流し曳航する事になる

 艦長は当然ながらラベル島に寄港を取りやめ、スネックを曳航し、この艦と一緒に軍港コントルに戻り修理が必要になるだろうと言っていた。
 海軍本部からも通信が届かない状態で今、指揮の権限があるのは艦長にある、空母スネックの艦長も同じ判断をするだろうとし、推進力を失った空母を曳航する為、推進力を作動させ舵を切る
 
 

「これでラベル島への駐留も無しか‥‥まさかラベル島が落ちるなんて」
 推進力を得て進む艦内では、タバルがため息交じりに言う

「本当にラベル島が落ちたのかまだ疑問なんですが‥‥もし本当だとしたら海軍は‥‥いや陸軍本部でも大騒ぎでしょう」
 軍の経歴が長いオーバは、もちろんラベル島の事も熟知しており、今だに信じていないようだ

「大騒ぎどころで済まないでしょう、誰の責任か軍内部で荒れる事になるでしょうね‥‥しかし、どうやって落ちたのでしょうか、海軍力ではコチラが完全に上なのに‥‥‥」
 ラベル島陥落の情報を聞いた時から、あまり会話をしなくなったタクティア、今も何かを考え込むように自分の握った手を見つめ続ける
 

 ・・・・

 ・・・・

 嵐から6日が過ぎ、味方空母との接触に成功、曳航の為の準備に入る。
 海軍本部からの連絡も届かない中、空母の艦長もこのままでは作戦不可能とし、軍港コントルへの帰港を了承した。  
 空母に随伴していた他の艦だが、この艦と空母とも完全に運航出来ている訳では無いので、本部と通信が繋がり次第、他の艦に救助を要請する事にする。
 もしかしたら離れてしまった随伴艦が運航できる状態まで回復している可能性もある

 ただし、そしてこの艦よりも先にラベル島へと先行していた艦だが‥‥、落ちたラベル島にこの艦よりも近い場所にいたのは確実で安否が気になる。
 無事でいてくれればいいが‥‥‥

 バール‥‥どうか無事で

 ・・・・

 ・・・・

 曳航する為、空母と準備に入った時
 ガン! と何かに金属が当たった様な音がし、最初「艦同士ぶつかったのかな?」と思ったが━━

「━━『耐壁』の音だ! タクティア確認を! 皆はここから出るな!」
 『耐壁』持ちだったらすぐにわかる、魔法が攻撃を弾いた音だった。俺は部屋から飛び出し、タクティアと共に外へ、そして、外に出て最初に見たのは

 ドン! という何かが発射された音と同時に空母の耐壁を破ろうとする爆発、そして空母スネックから緊急発進をしようとする無数の竜翼機だった
 
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