異世界陸軍活動記

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勇者 ③

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「うわっ━━ガッ!」
 足元が爆ぜ、仲間の一人が吹き飛ばされる。
 吹き飛ばされた者の横に居た者は悲鳴を上げ身を低くする、間一髪で難を逃れたと思ったが、その後に来る痺れるような痛み、その顔には金属の欠片が食い込み、細かな穴が開けられていた

「み、見えない‥‥」

「目をやられている、回復持ちはこっちに来てくれ!」

「こっちの方が先だろう! 意識が無いんだ!」
 『癒し』を持つ者は吹き飛ばされた方に駆け寄る

 
 マシェルモビア軍は逃げるハルツール軍を追撃する為、三個小隊を向かわせた。
 だが、追撃には困難を極める、様々な罠が仕掛けられており追撃を妨害され、既に一個小隊が脱落し、尚罠による被害を受けている。
 追いかけているとはいえ、不自然なくらい自分達が移動する場所に限り罠が仕掛けられており、行く手を阻まれていた

 しかも

「これは‥‥駄目だ、ここでは回復させられない」

「どうして!」

「‥‥金属の破片が深く入り込み過ぎていて、『癒し』を掛けるとそのまま傷が塞がってしまう、治すなら『抽出』魔法で取り除いてからか、もしくは患部を根こそぎ取り除いてするしかない」

 対人用の罠としてこの世界で一般的なのが『地雷』になる、戦闘の場所が都市ではなく、野戦が主戦場になり、その場の殆どは木々が生い茂げ、足場の悪い場所になる。
 地雷はその環境にあっており、仕掛けやすくなっている

 地雷はまず地面に窪みを作り出し、そこに魔法を敷く、これは『氷』魔法である事が多い、そして少しだけ間を開け、『土』魔法で蓋をする。
 そうする事により、その魔法で出来た土を踏むことにより氷と接触し爆発を起こす事とになる、それが地雷の作り方だが、今仕掛けられている地雷は更に面倒な事があった

 それは『金属』金属の欠片も一緒に仕掛けられており、地雷が爆発すると同時に金属が一斉に飛び散り、広範囲にわたり被害を及ぼしていた

 それまで見た事の無い地雷の使い方に、マシェルモビアの兵士は混乱し、恐怖した

「グースの野郎、狡い手を使いやがって」
 マシェルモビア軍の元召喚者、ルイバ・フロルドは負傷した兵士を見て軽く舌打ちをする

 地雷の対処方法はまずは踏まない事、これは当たり前だが、最も安全なのは地面に対し魔法を放つこと、これにより地雷を爆発させることが出来る、だがそれは同時に魔力を奪っていく事となる。
 仕掛けられた地雷もかなりの数で、フロルド達は追っているにもかかわらず逆に消耗させられていた

 くそっ! どうするよ、このままじゃあグースの奴を逃がしちまう

 罠が仕掛けられているという事は、確実に敵がこの場所を通っている、道しるべにもなるが同時に危険な道でもあった。
 ここで時間を取る訳にはいかない、今を逃せばもうグースと会敵かいてきする事も無いかもしれない。
 フロルドは焦っていた。
 『次は無いかもしれない』と

 自分一人で追うか? とも考えたが、グースとさらに補給部隊を叩いた敵部隊を相手にしなければならないのは、流石にフロルドもためらう、相手の数がどれ位なのかも実際の所は分かっていない、補給部隊が攻撃を受けた時、いくらか敵兵士に傷を負わせた事は聞いているが、その負傷した敵兵の数は? そして攻撃してきた敵部隊の何割がまだ戦闘可能なのか? 

 色々な事が頭の中を駆けまわる中、彼の中で葛藤は続いたが、無意識のうちに右手に召喚者殺しを召喚していた。
 穂先の輝きでそれに気づき、その輝きをじっと見つめる
 そして自分の召喚獣を犠牲にした事、何の為に、誰の為にそこまでしたのかをゆっくりと思い出す。 
 フロルドにとって答えは既に出ている、その答えを実行する為、行動する為、フロルドは自身を洗脳する為にその輝きを見つめた

 『やれ!』と
 
 ゆっくりとその光を遮る用に目を閉じた。もう十分だと
「ティンパー‥‥そうだ、そうだったな」
 『召喚者殺し』を強く握りしめ

「悪いが、カーネロを貸してくんないかな?」
 別部隊の召喚者に貸してくれと持ちかける

「え? それは‥‥」

「俺っちが先行するから、そのための足を貸して欲しい」

 フロルドは単独でもグースを追う決意をする、だがフロルドの隊長はそれには反対した
「まて、フロルド流石にそれは━━」

「このままだったらグースに逃げられちまう、今しかないんだよ奴を仕留められるのは」

 隊長は少し渋ったが、止めても無理だろうと思い
「分かった、もう止めはしない、済まないが召喚獣をフロルドに貸してやってくれないか?」

「構いませんが‥‥本当にそれで‥‥?」

「ああ、頼む‥‥フロルドちゃんと戻って来いよ」

「問題ねえよ」
 フロルドが頷くと、召喚魔法陣からカーネロが現れる
「他の奴は後で追って来てくれ、俺が先に行って奴の足を止めておく」
 そう他の兵士に言い、カーネロに乗ろうとすると‥‥

「‥‥お前何乗ってんだ?」

「あたしも行くよ」
 カーネロの背には、既にフロルドの恋人であるアンナが乗っていた

「お前なぁ、相手はグース━━」
「あたしも行く」

 アンナはたまにテコでも動かない時がある、フロルドはこれに結構悩まされていたが、流石に相手はグース、アンナを連れてはいけない‥‥

 普段ならそうしたであろう、だがこの時フロルドは焦りを覚えていた。今グースを捕えないともう二度とないと‥‥だからフロルドはアンナの我儘を了承した

「分かったよぉ、でも無理はさせねぇからな」

「それはルイバもでしょ?」

 
 ・・・・

 ・・・・


 木々が立ち並ぶ中、二人を乗せたカーネロは疾走する、元召喚者として魔力量は人よりも多いフロルドは、カーネロが走る前方に魔法を当て続け、地雷を除去する

 いくつもの地雷を除去しているが、よくもこれだけの地雷を設置出来るものだと感心する、しかも自分達が通る場所を狙って

「フロルド、何でこんなに地雷があるのよ!」
 カーネロが走る中、アンナは大声で叫ぶ

「しらねぇよ、大量に設置したんだろうよ!」

「それにしても当たり過ぎじゃないの?! この多さは異常よ!」

 フロルドもグースを追っていた直後からそれは感じていた。何故か自分達の進行方向に地雷が集中していると‥‥

 グースの野郎なんだってんだ! 未来でも見ることが出来るのか?

 時折飛んでくる金属の破片を、アンナがフロルドの前に乗り自身の盾で防ぐ、フロルドが地雷除去に集中できるように彼を守る、だがカーネロを守れるほど盾も大きくなく、少しずつではあるがカーネロにダメージが蓄積されていた。

「ごめんねカーネロ、もう少し耐えて!」

 フロルドも魔法で飛んでくる金属を防ごうとするが、この地雷、一度爆発を起こすと次々に連鎖するように仕掛けてあり、フロルドでも完全に防ぐ事は難しかった

 そしてフロルドの魔法が前方の地雷を探し当て、地雷を爆破させた時

 カン!

 アンナの持つ盾に当たり、はじけた金属片が宙に舞った時だった。
 フロルドはゆっくりと宙に舞った金属に目を取られる、それは本当に偶然だった

 上空から何かが落ちてくるのを見たのは

 何か落ちて‥‥マズイ!

「カーネロ止まれ!」
 アンナの腰を抱き振り落とされないようにし、召喚獣を急停止させ、落ちてくる物にフロルドは魔法を放つ、放たれた魔法は落下物を狙い、直撃した

 空気が荒れその余波がフロルド達にも到達、少し離れていたにもかかわらず大きな爆発だった

「グースの野郎! 仕掛けはあれかよ!」
 上空には一羽の鳥が飛んでいる、その鳥が何かを投下したのだ
 
 その鳥は召喚獣、補給部隊を襲ったのと全く同じものだった。

 フロルド達は当初、地雷があるという事は逃走しながら敵兵は地雷を仕掛けていると思っていた。しかし、実際はそうでは無い、いくら敵兵を追っているとはいえ、地雷に当たる確率が高すぎたのだ

 要するに敵兵は設置しながら逃げていたのではなく、フロルド達が向かっている先に地雷を仕込んでいた。
 上空にいる召喚獣、そして確率の高い地雷‥‥このことから敵兵はしんがりを用意し、本隊は別の場所に逃げていると判断する事が出来る、召喚獣に監視され、設置された地雷により自分達は誘導されていた。
 しかもそのしんがりは間違いなくグースだと

「いたぞいたぞ! 見つけたぞ! アンナ喜べ! グースが近いぞ!」
 フロルドは笑みを浮かべ
「しかも敵の本隊は別の場所に逃げてる!」

「それって駄目なんじゃないの? あ、いいのか?」

 上空の召喚獣が投下したのは間違いなく人工魔石、何故上空から攻撃をしたか? それは俺っちが近くまで来たから、やむなしの攻撃

「グースはしんがりをやっている、今だ! 今こそ奴を討ち取るんだよ! アンナ後方本隊に信号弾を打て!」

「了解!」
 アンナは後方の本隊に向け、信号弾を放った。

 その信号弾は、『敵、発見』の合図だった。
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