異世界陸軍活動記

ニボシサービス

文字の大きさ
上 下
147 / 260

勇者 ②

しおりを挟む
 敵の奇襲に持ちこたえたが、輸送任務中に敵部隊に襲われ、一部の荷物が駄目になってしまった。

 だがそれが問題なわけではない、マシェルモビアが支配する緩衝地帯に敵国ハルツールが入り込んでいた。という事が問題なのだ

 それに加え‥‥

「それは本当なんだな? フロルド」

「ああ、間違いねぇ、俺っちはアイツを殺す為に前線を希望したんだ。アイツの顔は忘れねぇ」

 フロルドは自身が遭遇した敵兵の中にグースがいたと証言、フロルドの所属する部隊どころか、砦全体の兵士が動揺する。
 話を聞きいた内の一人で、フロルドに加勢しようと近づき、足を投擲武器により弾かれた味方兵士は卒倒し、先ほどから倒れたままになっている。
 フロルドと戦っていた敵兵が、まさかグースだとは思っても見なかったのか、知った瞬間口から泡を立てて倒れてしまった

「あの中にグースが居たなんて‥‥」
 小隊長が青い顔をし俯く

「もちろん追撃するんだよなぁー、補給物資は届けたんだ。このままあの野郎を追っかけようじゃねぇか」

「ば、馬鹿な事を言うな、グースなんかと戦えるわけないだろう、あんなのと戦ってもしも‥‥」

 死んだら魂を喰われるってか? くだらねぇ‥‥

「なぁ小隊長、敵が領土に入って来てくれてるのに見逃すつもりか? わざわざあっちから来てんだよ、こっちが出てやらなくてどうすんだよ? もっかい言うぞ、ここはマシェルモビアの領土なんだ。ハルツールの軍がここまで来てんだ、戦わないでどうすんだよ」

「し、しかしだな‥‥相手はグースだ。もしも隊員の命が━━」

 この腰抜けが‥‥
「別にお前みたいなヘタレが相手しろとは言ってないだろぉ?」

「おい! フロルド、お前隊長に向かって!」

「うっせぇな! ならお前がグースの相手をすんのか?」

「うっ‥‥そ、それは‥‥」

 どいつもこいつも‥‥
「なぁ隊長よぉ、俺っちが前線を希望してる理由は知ってんよな?」
 フロルドはすっかり黙り込んでしまった隊長に顔を近づける

 隊長は少し気圧され
「あ、ああ」

「グースはなぁ、俺っちの獲物だ。他の奴には渡さねぇ、俺っちがこの手であの首を取るんだよ」

 ティンパーの仇は必ず取らなければならない、だからフロルドは前線を、グースが出没したとされる場所に志願したのだ

「グースの相手は俺っち一人でやる、他の奴は周りの奴らを抑えて欲しいんだよ、助けはいらねぇ、アイツを倒さないと俺っちは終われないんだよ‥‥‥なぁ、頼むよ、ティンパーの‥‥親友の仇を取らせてくれ、次は必ず奴を‥‥‥」

 隊長を見つめ真剣な顔で訴えるフロルドの頬には、本人も気付かないうちに一つの雫が零れ、手の平に爪が食い込むほどきつく握りしめられていた

「フロルド‥‥‥」
 その流れた後を見た隊長は
「‥‥‥援護は出来ないぞ」

「ああ! それでいい! 俺っちが負けたらそのまま捨てて行ってもかまわねぇ、他の雑兵を抑えてくれればそれでいい」

「‥‥わかった。だがこの小隊だけでは戦力的に足りない、他の━━」
「ウチの隊が加勢しよう」

 小隊長が応援を打診しようとすると、砦にいる別部隊の隊長が手を上げる
「グースの相手は流石に隊員にはさせられない、それでもいいなら我が隊が加わろう、それでいいんだな?」

「ああ、恩に着る」
 滅多に人に頭を下げないフロルドは、深く頭を下げた

「良かったね、ルイバ」
 横からアンナが飛びつき、フロルドの顔をゴシゴシと拭きだした

「お、おわぁ! 何だよアンナ!」
 自分が涙を流しているとに気づいていないフロルドは、アンナの手を振りほどく

「べっつにぃー、でもこれでグースを討ち取れるね、私も一緒にグースと戦ってやるから感謝しろよ」
 アンナは自分の籠手でフロルドの胸を叩いてくる

「アンナ‥‥」
 名を呼び、フロルドはアンナを見つめた

「えっ、ちょっと、こんな場所でそんなに見つめられたら━━」

「お前ちゃんと話聞いてたか?」

「え?」

「俺っちは一人でやるって言ったんだぞ? お前は少しは人の話を聞け」

「なっ!」
 自分の考えとは違った言葉が返ってきたアンナは‥‥

「ふん!」
 思いっきりフロルドの胸を叩いた。



 ◆◇


「まだ痛むか?」
 
「大丈夫だ、問題ない」
 エクレールに『癒し』を掛けられたハヤトだったが、まだ重く感じる胸に手をやる

「曹長!」
 リプケン小隊の隊長であるリプケンが、ハヤトに駆け寄る
「怪我をしたのか? 動けるか?」

「ああ、なんとか、リプケンそっちはどうだ?」

「うちは‥‥もう戦うどころではない半数が戦闘不能だ、すまない! 最初の魔法砲撃さえ成功させていたらこんな事には」

「いや、リプケン隊のせいじゃない、あの補給部隊には厄介な奴が居たせいだ」
 まだ胸が痛むのか、深く深呼吸するように息を吐く
「それよりも直ぐに安全圏まで撤退しないと不味い事になる、動けない者は動ける者がおぶって行くしかない」

「待ってくれ、それは曹長がいれば追って来られる事は無い、そのはずだっだろう?」

 ハヤト隊の一人でタクティア・ラティウスは、グラースオルグでもあるハヤトが居る事で、敵兵は無理に追って来ない、そう考えていた。
 今回の作戦でタクティアは、そのためにハヤトを、そしてリプケン小隊に随伴させたのだった

 だが‥‥

「いや、アイツは喜んで俺を追ってくる、間違いない」

「アイツ?」

「とにかく、追撃は必ずある負傷者には悪いがすぐに帰還しよう、追撃されて時間を取られたら他の敵拠点からの援軍で完全に退路を塞がれる」

「‥‥分かった、曹長がそこまで言うならすぐに撤退しよう」
 リプケンは少しだけ考えた後、即時撤退をすると判断した

「尻は俺が持つからリプケン小隊は先に行ってくれ、エクレールもリプケンに続いてくれ」

「分かった」
「ああ」

 ハヤトは申し訳なさそうな顔で
「オーバは‥‥悪いが俺と一緒にしんがりだ」

「了解した」
 

 ・・・・

 ・・・・

 リプケン隊とエクレールが先行して撤退し、ハヤトとオーバは少し遅れてその後を追う

「隊長、まだ胸が痛みますか?」
 少し呼吸が乱れている事にオーバは気づく

「ああ、痛むというより息苦しいだけど」

「だったら召喚獣に乗って移動したら」
 なるべく負担が無いようと思い提案、だが

「オーバはカーネロに乗った事はある?」
 召喚獣でトラに似たような容姿の召喚獣である

「はい、一度だけですが」

「乗り心地いいよねあれ、早いし揺れないし‥‥でも俺の召喚獣ってかなり上下に揺れるんだよね、だから走っていた方がマシだったりするんだ」

「なるほど」
 オーバはそれに納得

「それと‥‥いきなり『召喚者殺し』を投げつけられたら対処出来ないからね」
 投げられた『召喚者殺し』に気付かず、そのまま召喚獣に命中する場合もある

「隊長、それは『探知』魔法を使って━━」
 索敵したら‥‥と言いかけたオーバだが

「悪いけど俺、『探知』魔法が使えない状態にあるんだよ」

「えっ?」

「理由は聞かないで欲しい」

 そう言われてしまうとオーバには何も言えないし、それ以上詮索しない
「了解しました」
 とだけ答えた。

 そして隊長であるハヤトは、アイツと言っていた男は必ず追ってくると言っていた。
 放った魔法が直ぐに爆発させられたのもあるが、たった一人で小隊規模もしくは中隊規模に力が届くであろうと言われているハヤト、そのハヤトも追い詰めた人物‥‥オーバはハヤトと共にしんがりを務める事になったが、死ぬ気は無い、死なないためにもアイツと言われた男の情報が欲しかった

「隊長、あの男の情報が欲しいのですが」

「うん」

「まず魔法が効かないのですよね」

「ああ、『水』は発動もしないし、その他の属性魔法の全てが放った直後に爆発を起こす、その事から奴が使える魔法は『水』だけだと思う、何度か戦ったが『水』以外の魔法は見ていない。
 ただし、地中には魔法が発動する事が出来た。地雷を設置したがそれを防がれる事は無かった。
 そして属性以外の魔法は発動可能で通用する、それも確認済み、それと奴は元召喚者だが、召喚獣を犠牲にして『召喚者殺し』を手に入れた可能性がある、『召喚者殺し』を手に入れてから、奴は召喚獣を出していない、そのため奴はたった一体の召喚獣を犠牲にしたと思う、だから召喚獣は出せないと思って構わない」

「なるほど‥‥」

「それと、『召喚者殺し』は投擲してもすぐに手元に戻ってくる、つまり再召喚だ。投擲したと思っても気を抜くな、それに‥‥」

「それに?」

「奴の槍捌きは‥‥ライカの剣技には劣るが、同等と考えておいて欲しい」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...