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勇者 ①
しおりを挟む2度の大きな爆発
グースが放った魔法が本人の手元で爆発する、顔を歪めたグースは大剣を掴む
魔法なんか俺っちには効かねえっつぅの! お前はもう俺の魔法圏内に入ってるんだからよぉ!
「おらぁ!!」
ガン!
パリン!
突き出した『召喚者殺し』が盾によって弾かれる、同時にはじける音。今の攻撃で盾の『耐壁』の一つが剥がれる
「おい、当たれよ! そしてさっさと俺に殺されなよ!」
槍を次々に突き出すがその全てを盾と大剣によって阻まれる、だがしかし、グースはそれで手一杯であり、それ以上の事が出来ない、その証拠に‥‥
「ぐっ‥‥うっ」
籠った声が口から洩れていた。
「ハッハッハァー! どうしたよ? それだけか? お前はそれだけなのか? 多重召喚も出来るんだろう!? とっとと出せよ、ああん!」
出せと言ったが、フロルドはグースに召喚獣を出させる気はさらさらない、むしろ出すのを防ぐため、隙無く攻撃を繰り返す。
フロルドが警戒する召喚獣は2体『ヤタ』と『ニュートン』、それ以外の召喚獣だったら自身が持つ『召喚者殺し』で消失させる事が出来るが、この2体に関しては難しいと判断する
『ヤタ』の場合、膨大で強力な属性魔法での攻撃、フロルドは一時だったら防げると確信している‥‥そう、一時だけだ。
召喚獣『ヤタ』の情報はマシェルモビアはもちろんの事、ハルツールでさえ正確な情報を得ていない、それはグラースオルグのウエタケ・ハヤトが情報を提供していないからだ
ウエタケ・ハヤトは召喚獣『ヤタ』を切り札として認識しており、軍にすらその情報を申告していない、見た目が『凶兆ヒュケイ』と似ている事もあり、本人が出すのを禁忌している所もあるからだ。
そのせいで諜報員も情報を仕入れる事が出来ず、マシェルモビアにも伝わって来てはいない
それに『ヤタ』の姿を見た者で、生き残った者は存在しない。
唯一の情報は、世界にグラースオルグとして認知された、あの時の映像のみとなる‥‥‥
フロルドはその時の映像から『ヤタ』を分析、一時的には防げるとした。だが、その威力と魔法の連射速度から、完全には防げず、自身の魔法範囲を突破されると判断
そして、もう一体の召喚獣『ニュートン』
これもウエタケ・ハヤトは軍に情報を提出しておらず、伝わってきてはいない。
だが、『ニュートン』の場合、目撃者が多数おり、戦闘の状況もマシェルモビアで検証されている
『生命』が宿る物、その全てを上空に打ち上げる召喚獣、おそらく『重力』魔法だろう、そしてその範囲はけして広くは無いが、『ヤタ』よりも広い。
一度上空に打ち上げられた場合、『風』魔法を契約している者でないと助からない、『重力』魔法を契約している場合は、死ぬことは無いが重傷は免れないだろうとされている
フロルドは両方の魔法を契約していないが、独自にその対処方を確立していた。
だが、対処が出来るだけであり、その対処の際に隙が出来てしまう、その事だけを警戒しグースと戦っていた
グースは大粒の汗を流し、フロルドの攻撃を受け続ける事しか出来ない。その時、グースの後方から放たれる魔法、弧を描く様にフロルドの後方に向けて放たれる
チィ、後ろに居る奴らが補給部隊を叩く気かよぉ、そんな事は俺っちにはどうでもいい事だが、そんな訳にも行かねぇか
フロルドは自身の魔法の範囲を広げ、頭の上を通り過ぎようとしていた魔法を妨害する、彼の頭の上を通り過ぎようとした瞬間、その魔法は全て爆発し、消滅した。
フロルドが少しだけ意識を上に向けた事を見逃さなかったグースは、左手に巨大な光る槍を持ち、即座にそれを突き出す
おっと! これはまずい
『召喚者殺し』を回転させ、巨大な光る槍を弾くと同時に後方に飛びのく、するとグースはその少し隙をつきバックステップをし、即座に銃を取り出し、フロルドに対しその銃口を向ける。
それと同時にグースの後方が黄色に光り3体の召喚獣が現れ、その召喚獣は既にフロルドに対し銃口を向けていた。
召喚獣のノームか?
パン!
という銃声が4つ、フロルドは慌てず両腕を交差させ、急所を守る。所詮銃の弾ではこの魔力の通った鎧をどうこう出来る訳は無い、当たり所によっては多少の痛みはあるだろうが、鎧が無い場所さえ守れば対処は出来る、しかも相手の持つ4つの銃は連射が出来ない銃だった
それさえ弾けば‥‥
大きな振動と衝撃、金属独特の高い音、発射された弾丸は全て防いだ
しゃぁ! 防いだ! 次はこっちの番━━
「なっ!」
顔をガードしていた腕を解いた時、フロルドの視界には既に小型魔石砲を手にしているノームの姿が
まぢぃ!
今にも放たれる小型魔石砲、流石にアレを受ける事は出来ない。瞬時に魔法の範囲を収縮、そしてノームが抱える小型魔石砲に対しそれを当てた
それと同時、グースの方から何かが飛んでくるのを視界に収めた
フロルドが魔法でノームの魔石砲を攻撃すると、魔石砲は爆発、ノームの体はその衝撃によって吹っ飛ばされるが、瞬時に魔法陣の中に帰還する
ノームが吹っ飛ばされた時、既にグースの方から飛んできた物はフロルドの目の前にあった
反射的に上体を反らし、『召喚者殺し』を地面に突き立て、体勢が崩れるのを防ぎつつもグースから目を放さない、グースの足元が光った事をフロルドは見逃さなかった。
突き立てた『召喚者殺し』をバネにし、飛んできた物から距離を取る為、体を捻りながら腕の力だけでその場から飛びのく、それと同時にその飛んできた物は炸裂した
飛んできた物が人工魔石、しかも属性魔法が付与してあるのは爆発した事で瞬時に分かった
グースの奴、足元に何か仕掛けをしやがった!
紙一重で躱したフロルドは光った場所に、『収納』から取り出した『ただの』人工魔石を投げつける
ドン!
投げつけた場所が炸裂
やっぱり仕掛けをしてやがった!
フロルドが突っ込んでくる事を想定し罠を張っていた。
そのグースは手に弓を持ち、既に矢を射る体勢に入っていた
「させるかよぉ!」
フロルドはその手に持った『召喚者殺し』をグースに向けて投げつける
「クッ!」
焦りの顔をしたグースは、既に弓を射る体勢に入っていたため、フロルドの投げた『召喚者殺し』に対応できず、その胸に直撃を受ける事になった
パリン!
「ガッッ‥っ!」
ハルツールだけが持つ『耐壁』魔法、それを打ち破り、さらにグースの胸当てにヒビが入る、そのヒビを入れた『召喚者殺し』は既にフロルドの手元に再召喚されている
「距離なんか取らせねぇよ!」
地を蹴り、距離を詰める。そのフロルドに対し、グースは少したじろぐ、右手に大剣を持ったが、剣よりも盾の方が前に出ている事から攻撃よりも守りに入ったと判断、そこを狙い目と考え、立て続けに攻撃する
ガンガンガン!
フロルドの攻撃を受け止めている盾は、もう既にはじける音はせず、徐々に亀裂が生まれる
バゴン!
集中して盾に攻撃を加えた事で限界を超え、遂に盾は音をたて砕けた。
「しゃぁぁぁ!」
飛び散るように砕けた盾、もうグースを守る物は何も無い、そのまま吸い込まれるように『召喚者殺し』を左から振るうように薙ぎ払った
その穂先はそのままグースの体を切るように━━
だが当たったにもかからわずその感触が無い、グースは砕けた盾に『幻惑』魔法を掛け、フロルドを惑わしたのだ。
グースはさらに『身体強化』を使い、フロルドの右側に回り込んでおり、その手に持つ大剣が振るわれる直前だった
だが‥‥‥
「甘めぇぇぇ!」
フロルドは『召喚者殺し』の後ろの部分、石突でさっき投擲した際に砕けた胸の部分を殴りつけた
「ぁ‥‥っっ」
確かに感じた手ごたえとグースの呻き声
フロルドは『召喚者殺し』を構える際、左手を前にして構えていた。
一方グラースオルグのウエタケ・ハヤトは、右利きでありフロルドの側面に飛び込む際、大剣で切り伏せるのに最短距離である自身の左、つまりフロルドの右手に飛び込んだ。
だがその場所は体を捻っているフロルドの真正面にも当たる。
薙ぎ払うのをキャンセルし右手を引き、左手を突き出したことによって石突で胸を砕かれてしまった
もしこれが右手に飛び込み、フロルドから見て左側面だった場合、胸を砕かれる事は無かっただろう、フロルドは自身の左側に回り込まれないよう、左から『召喚者殺し』を振るったのだ
これが戦闘センスの違い、いくら訓練を重ねても決して超えられる事のない壁だった
「当たった! 当たったよな! そのまま苦しんで死ねぇ!」
今この時間を楽しんでいるかのよう、笑顔を浮かべたフロルド、続けざまに連続で突きつける
「大丈夫かフロルド!」
後ろから聞きなれた声、同じ部隊の兵士の声だった
チッ!
この場を邪魔されたという憤りと同時に、仲間の部隊がここまで来たという事は、自軍が押している事を察した。
その時、自分が使用する魔法の範囲に何かを感じた
「ッ! こっちに来るな!」
フロルドは味方に対し叫んだが━━
「ギャッ!」
味方は足を弾き飛ばされたように倒れる
投擲武器か!
フロルドがその主の方を振り向くと同時に爆発が起こる
「うおっ!」
投擲武器を放った敵兵は爆発で飛ばされそうになるが、回転しながら足を入れ替えその場に留まっる
「属性魔法は使うな!」
グースが叫び、その言葉で一瞬だけグースの方に目をやった敵兵士は、2度フロルドに向け手を振るった。
「くっ!」
また投擲武器か!
フロルドは自身の前に魔法を集めると同時に、目の前での爆発、そしてすぐに投擲武器を放った兵士に対し魔法攻撃を仕掛けようとするが‥‥
「おっ!?」
既にその場には兵士の姿はなく、更に‥‥
白い召喚獣の首に捕まり、グースが撤退をしようとしていた
「待ちやがれ! グースがぁぁぁ!」
フロルドは『召喚者殺し』を投擲しようとしたが
「な、何だこの霧はぁ!」
突然現れた霧、それは白い召喚獣から吹き出すように現れ、グースを隠すように覆って行き‥‥
完全に姿を見失ってしまった
「あぁぁぁぁ! くそぉぉぉ!」
フロルドはグースが逃げたであろう進路に、何度も『召喚者殺し』を投げ放った。
自身の召喚獣を犠牲にして『召喚者殺し』を手にしたフロルドだったが、同時に移動手段を失ってしまった。
逃げたグースを追うことが出来ず、怒りが収まらないフロルドは何度も地面に『召喚者殺し』を叩きつけた。
「くそ! くそ! くそぉぉ! また逃がしちまったぁぁぁ!!」
◆◇
「隊長、大丈夫か!?」
ハヤト隊の最年長、オーバ・パイルプスが早足で掛けながら問う
「ああ‥‥助かったよオーバ」
召喚獣のコスモに乗り、ハヤトは少し重く感じる胸を手で抑え、舌打ちする
「リプケン隊はどうだ?」
「皆無事に撤退出来た。死亡した者はいないだろうが、けが人は出ているだろう」
「だろうね、全く‥‥最初の補給部隊への攻撃を防がれたのは予想外だった。あれさえ通っていれば反撃なんか‥‥」
ハヤトは重く感じる胸に目をやり
「くそっ、折れたか?」
負傷した事で苛立ちを覚え、先程対峙した敵兵の事を思い出す
「何でアイツがいるんだよ‥‥ストーカーかよ」
「無事だったか隊長、オーバ」
ハヤト隊のエクレールが駆けつけてくる、そして胸を抑えるハヤトを見て
「怪我をしているのか? だったらすぐに━━」
「俺の事はいい、骨が折れただけだ。それよりもリプケン隊の負傷者の手当てに当たってくれ、そうしないとここから帰還出来ないぞ、ここは敵の領土なんだ、直ぐに追われる事になる」
「あ、ああ、わかった」
エクレールはハヤトの険しい形相に押され、急いでリプケン隊の負傷者の元へと向かった
「全く、タクティアの奴、なにが「敵の補給部隊を叩く簡単なお仕事」だよ、アイツがいるなんて聞いてないぞ」
「さっきの兵士だな? 隊長は知っているのか?」
「ああ、巨大なオーガと戦った後に出て来た兵士だよ」
ハヤトの額には大きな脂汗がにじみ出ていた
「あいつには魔法攻撃が通用しないし、そのせいでコテンパンにやられたんだ。その時エクレールの顔を吹っ飛ばしたのもアイツだ。オーバの魔法攻撃も放った瞬間に爆発しただろう?」
「確かに、いきなり爆発して驚いたが‥‥そうか、アレが‥‥‥」
竜騎士とも言われるハヤトが、唯一負けた相手として軍には知れ渡っていた。オーバはそれを思い出す
「何となくアイツは追ってきそうな気がする、早く安全な場所まで退避しな‥‥‥」
「どうした? 隊長」
「いや、なんか‥‥胸が苦しいというか‥‥あれ? ちょっと、い、息が苦し‥‥いかも」
「隊長?」
「あ、ちょ‥‥‥助け‥‥‥息が‥‥‥あ‥‥‥」
「た、隊長! しっかり! エ、エクレール! エクレール!」
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