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衝突
しおりを挟む「今だ! 攻撃を頭部に集中しろ!」
地上にいたリクレク隊が一斉に攻撃を始める、大型のオーガは耳元での爆発音で耳をやられ、それにより平行感覚が失われた。
自分に群がるハルツールの兵士達を手で払いのけようとするが、思うように体が動かないオーガのその太い腕は全て空を切る。
今のこのオーガの状態は一時的なもの、直ぐに回復するだろう。
だったらその前にとどめを刺す!
「下に降りろ! 今度こそ耳の穴に槍をブッ指して頭の中掻きまわしてやる」
コスモは素直にオーガの元に降りるが、その途中、耳がピクリと動き停止した
「お、おい、どうした!? ‥‥ん? 何を見ている?」
コスモはその場で停止したまま砦の西側、森の方を見ていた
「なにか聞こえたのか?」
「オーガがこちらに集まってきます!」
リクレク隊の一人がそう叫び、地上に目をやると、まだ生き残っている通常のオーガが大型のオーガに向かっていた。
リクレク隊に攻撃を仕掛け、リクレク隊の攻撃をかわしたオーガは、大型のオーガを守るように立ちふさがる。
「お前らのボスを守ろうってか!? そうはさせねぇーよ!」
リクレク隊と周りにいる兵士達は、迫ってくるオーガと大型のオーガ、その両方を相手する
コスモの耳がまたピクリと動いた。
敵の攻撃を避ける時など、コスモは目や耳でそれを見て聞いて判断しているわけではない、召喚獣特有の感覚なのか? 直感で動く。
目や耳は補助的な物であり、ほとんど当てにしていないと言ってもいい、そのコスモの耳が俺には聞こえないような音を捉えている、ここまで音に反応するコスモは始めて見た
「あそこに何かいるんだな?」
鼻を鳴らす短い反応をした
オーガを操っている奴がいる‥‥という事か、どうする? 俺だけで狙うか?
‥‥‥‥駄目だ、この後来るマシェルモビアに備えなくては、無理に突っつけば余計な者達も引きずり出してしまうかもしれない。
それに、多分オーガは逃げるだろう
「ウガァァァァァァァ!!!」
まだ足元がおぼつかない巨大なオーガは、目の前にいる自分を守っているはずの通常のオーガを薙ぎ払うと、空中に留まっている俺とコスモを睨みつけた。
だがまだ回復してはいないのか、頭が少し揺れている、一睨みした巨大なオーガは、コスモが反応した方向めざし走り出した。
◆◇
「オーガが逃げます! アレを逃がしては今後甚大な被害が出ます! カシ中隊長追いますか!?」
「まて、竜騎士は‥‥‥動かないか。‥‥オーガは追わない、次に来るマシェルモビアの攻撃に備える、負傷した者は砦に運べ、休める者は今のうちに休んでおけ」
「はい!」
カシ・ヒタミアは破壊され丸裸にされた砦を見つめ
「駄目だな‥‥持ちこたえられない」
誰にも気づかれないよう息を吐いた。
部隊の半数を失い、戦闘続行不可能と言えるほどの損害を出してしまった。無敵のリクレク隊と呼ばれたこの部隊も、兵の半数を失ってしまってはその実力を出す事など出来ない、本来なら即撤退が普通だ。
カシ・ヒタミアは崩壊した壁の下敷きになってしまったリクレク隊の隊員、その遺品となりうる物を集め出した。
瓦礫をどかし遺体を回収するのは不可能だろう、なにせ時間が無い。ならば一部でも家族の元に届けてやりたい。
さっきまで確かに生きていた隊員の遺品を自身の『収納』に入れていく
「竜騎士は‥‥‥どうしているか?」
上空を見上げるとその姿はさっきまでいた場所には無かった、彼は更に高度を上げその場に停止していた。
◆◇
「あのまま走って帰るのか?」
オーガの頭が豆粒のように小さくなる、巨大な体での一歩は当然大きくあっという間に小さくなってしまった。
あれが見えなくなってしまったらマシェルモビアの軍が来るんだろう
上空から破壊されてしまった壁を見下ろす、上から見ると一目瞭然、北側の壁は全く機能しておらず無いに等しい。
もうすぐ軍団が来ると言うのに、これではまるで野戦をしているのと大して変わらない
「援軍は‥‥‥」
来ないのは分かっているが、南側に目を向ける
「間に合わないか、まぁ‥‥来てもらっても軍団規模の兵を相手にするんだから‥‥」
無駄だ
例え壁が完成していたとしても、今回は最初から負けが決定している、マシェルモビアの軍団は大陸東部の東地区、海沿いから来るだろうと予想してしまったハルツールの負けだ。
ただ、これは誰も攻める事は出来ない、ハルツールの軍人誰もが同じ考えをしただろう
更に高度を上げ双眼鏡で北の方角を除く
「んー、あれは~」
倍率を上げもう一度覗いて見る
「姿を隠す気も無いか」
木々の隙間から明らかに移動する者達
信号弾を取り出し、それを砦にいる全ての兵士達に分かるよう撃った
「竜翼機も一緒とは‥‥‥準備がよろしい事で」
移動する者達の上空をホバリングするように飛んでいる、敵の竜翼機が飛んでいる以上、空からの援護は難しい
「砦に降りてくれ、報告しないとな」
・・・・
・・・・
砦に降り、マシェルモビアの軍が迫っていることを報告、敵の数は不明、敵竜翼機上空に待機しており確認不可。
それに対し、ハルツール側はこのまま砦の防衛を続行、ここを落とされると今までの領土を大きく割り込むことになる、敵の数も判明していない為、うかつに撤退は出来ない
「だそうです」
報告終了後すぐに砦北側に移動した。そして持ち場が近いのでリクレク隊への報告を受け持った。
「当然と言えば当然だが‥‥竜騎士よ、大体の数は分からないのか?」
「ええ、不明です、ただ『潜伏・隠蔽』の魔法は使っていなかったですね」
「使う必要も無いという事か、やはり軍団で間違いなのだろうか‥‥」
「時間的にもうすぐここに━━」
「マシェルモビア兵確認しました!」
リクレク隊の兵士の一人が叫ぶ
「━━来たみたいですね」
「そうだな。軍本部からお前は出させるなと連絡を受けているが‥‥済まない、お前も前に出て欲しい」
タクティアからも前には決して出るなと言われているが、仕方がない、それに俺の持ち場だった壁の上がもう無いし
「了解しました」
「ただし無理はしないでくれよ、砦の防衛より撤退まで時間を稼げればいい」
・・・・
・・・・
マシェルモビア兵の姿はギリギリ目視可能な距離まで詰めていた。
さて、どの道今回は負け戦、無事に家まで帰る事が出来ればそれで任務は成功だ。無事に帰る為にやる事はきっちりやっとかないとね。
召喚、オロチ
地面から輝く魔法陣が浮かび上がり、巨大な草と見間違える程よく似ている召喚獣が姿を現す
『ヤマタノオロチを地面に植えました』 その言葉がピッタリとよく合う
「出来るだけ近づけさせるなよ、ただし、召喚者殺しを発見したら即座に魔法陣に戻れ」
命令すると8本の首は一斉に北側を向いた。オロチは口から衝撃波を放つことが出来る、相手が近ければ近いほど威力が増すし、遠くてもそれなりの威力を持っている。
8本の内の1本が口を大きく開け、マシェルモビアの兵に向け衝撃波を放つ、反動で後ろに首が反り返る。放たれた衝撃波はまだ距離があったが、それでも戦闘にいた兵士を吹っ飛ばした。
大したダメージは無いだろうが、見えないものが飛んでくるという恐怖は結構なものだろう
「へぇ~、この距離で当てるのか、すごいねぇ」
いつの間にか軍学校の一個上のカップル先輩が隣にいた。
「この距離だと倒すまでにはいきませんけどね、所で先輩はなんでここに?」
「中隊長の命令だよ、ハヤトを守れってね」
「それは頼もしい」
「それ本気で言ってる?」
「もちろん、なるたけ近づけさせないようにするんで、それでも近づいてきた時はお願いします」
「任せてよ、後輩にいい所を見せたいしね、撤退まで善処してみせるさ」
先輩が近くにいてくれることで、自分の周りを気にせず攻撃をすることが出来る、目の前でうろうろされるとこっちも困るが、同じ先行隊を卒業した先輩だからそんな事を言わなくても分かてくれる。
実際頼もしい
「ハヤト‥‥やっぱり軍団規模かな?」
木々の間から次々と開けた場所にマシェルモビアの兵士がその姿を現す
「う、うーん、どうでしょう?」
周りの兵士にもざわつきが出始めた。以前大陸深部でアリの姿をした魔物に襲われたことがあるが、あの時の事が脳裏に浮かんだ。
倒しても倒しても数が減らないというあの時の記憶が‥‥‥‥
「先輩、全部任せていいですか?」
「ちょっ! 何言ってるの、ハヤトはどうする気だよ」
「ウチの隊員と一緒に逃げようかな‥‥‥と、えへへ‥‥‥」
「ま、待って!」
がっつりと腕を掴まれた
「今後ろに下がったでしょ!? 本気で言ってる? ねえ! 本気で逃げようとしている!?」
その間にも、オロチは8本の首がフル稼働で衝撃波を放つ
「いやー、あれは無理ですって、他の人だって後ずさりしているし、ほら後輩にいい所を見せて下さいよ、そもそも撤退する俺がその姿を見る事は無いでしょうが」
「何を言ってるんだ、逃げたりなんかしたら敵前逃亡になるぞ!」
「俺の隊はたった二人でも独立した部隊なんですよ、もう一度言いますよ? 独立した部隊なんです。逃げるも引くも俺の考え方一つなんです、第一何かあったら逃げろと本部からも言われているんで、あっ! でも先輩は駄目ですよ、カシ・ヒタミア中隊長が撤退と言わなければ、それ以前にこの砦の士官が撤退を号令しなければ逃げられませんからね」
姿を現すマシェルモビアの兵を見て、俺は戦意を失った。
俺だけではなく他の兵士達も同じだろう。
実際どのくらいの兵数なのかは分からない、軍団とは3万人以上の兵士で編成される。この3万という数字、スポーツのスタジアムの収容人数が大体その位だったと思う。
テレビで満員のスタジアムを見た事はあるが、その時は何万と言っても大して凄いとは思わなかった。
だが、テレビで見るのと実際に見るのとでは違う、生まれて初めてこれほどの人を一か所に集まっている人の姿を見た。
目の前を埋め尽くすほどの人をただ見て終わりではない、今からこの人数と殺し合いをするのだ。一刻も早くここから立ち去りたかった。
「だから待つんだ。敵は必ず包囲するだろう、それから南側を爆破して敵を巻き込み混乱している状態で退却をするんだよ、そっちの方が退却が成功する確率が高い」
「ん! んんー‥‥‥‥」
確かに、今エクレールを連れて撤退したら追手が掛かるかもしれない、でも爆破で巻き込めば仲間の救護を優先して追って来ては来ないかも
「そうかもしれませんね‥‥‥‥」
「だろう! ほらハヤトの召喚獣もさっきから頑張っているんだ、もう少しの辛抱だから」
「すいません先輩、取り乱しました」
俺としたことがとんだ醜態をさらしてしまった。
確かにそうだな、一緒に逃げれば敵に狙われる確率が減る、外敵から身を守る為にイワシが団子になって泳ぐように‥‥仲間を犠牲にして自分が助かるし、口には出さないが、俺とエクレールだけ無事ならそれでいいし
「さあハヤトの得意な魔法で牽制してくれよ、もう射程範囲に入っただろう」
先輩の事を少し甘く見ていたようだ、こんな時でも冷静でいるなんて
「ええ、任せて下さ━━」
冷静さを取り戻した俺は魔法を放とうとしたが
「「うわぁ・・・・」」
俺も先輩も今まで見た事の無い密度の魔法が迫ってくるのを見て、口をあんぐりと空いていた
『ドット絵』
その表現が一番合う、敵から放たれた魔法は比較的射程が長い魔法、主に『火』『土』だが、それが弧を描くよう空全体を覆いつくす。
互いに触れ爆発しないよう、少しだけ隙間を空けて放たれた魔法はまさにドット絵だった。
魔法だったら俺はこの世界で一番だと豪語している、大げさではなく実際そうだと思っている、魔力量から連射速度、そして何より契約出来ない魔法は無い、つまり手数が多い。
そんな俺でも、これだけはどうしようもないと本気で思ってしまった。
個の能力よりも数の暴力、どう考えてもこればかりはどうしようもない、防ぎようがない
「戻れ! オロチ」
一度オロチを引っ込める
「召喚! ヤタ!」
最後の切り札だった筈のヤタを召喚した
「うっ! ヒュケイ」
凶鳥と言われたヒュケイ、その姿そっくりのヤタに先輩と俺の近くにいた兵士達はたじろいでしまう
「あれを撃ち落とせ!」
飛んできた魔法の迎撃を命令する、ヤタは攻撃範囲が狭いので、飛んできた魔法全てを撃ち落とす事は出来ない、範囲から外れた場所にいるハルツールの兵士達は何とか持ちこたえて欲しい
大きな羽を広げ、ヤタは空に向かって吠える
目を覆い耳を塞ぎたくなるような光と音、ヤタの持つ全属性の魔法が迫りくる魔法を狙い撃つ、一斉に放たれた魔法は敵兵の魔法とぶつかり爆発、それが更に誘爆を生み、その部分だけ切り取られたかのように上空はクリアになった。
ヤタは魔法を放出するとすぐ魔法陣に戻って行った
「オロチ!」
そしてすぐさまオロチを召喚、召喚されたオロチは敵兵に向け8本の首から衝撃波を放つ、俺もオロチ召喚と同時に魔法攻撃に移る、俺の魔法からほんの少し遅れてハルツール側からも魔法が放たれた。
ただ放たれた数が異様に少ない、最初の攻撃でやられてしまったか?
いままで魔法を使った攻撃をする時、どことなく力を抑えていた。理由は簡単、今日までそれほどやる必要が無かったというのもあるし、周りを気にしながら行動をしていたから
しかし今は違う、全力で撃たないとこっちがやられる、ドット絵の様なマシェルモビアの第一波は防げたが、次から次へと手を休むことなくマシェルモビアは魔法攻撃を仕掛けてきた。
「は、ハヤト! まだ行けるか!」
先輩は魔法を放ちながらも俺を気に掛けるが、俺はそれに答えられる余裕すらない。使用する魔法を『火』魔法に絞り、ショットガンの様に放つ、自分だけでなく他の兵士のカバーに入る魔法の使い方、正直自分の直撃コースだけを相手したいが、もし味方が倒れた場合魔法の弾幕が薄くなり、最終的には俺自身にも被害が及ぶ、なので味方も同時に守るしかない。
更に連射をし耐えようとするが、放たれる数が数であるから徐々に押され始める。攻撃を喰らうのを覚悟した時、敵が放つ魔法の勢いが消えた。
「ハヤト、敵の牽制が終わった! 次は突っ込んでくるぞ!」
牽制が終わったという事は、ある程度ハルツール側に被害が加える事が出来たからだろう、先輩は槍を取り出し、同時に召喚獣も呼び出した。
牽制どころか、それだけで壊滅しそうだよ、撤退の合図はまだかよ!
砦の方を見るが、撤退の合図はまだない
「━━ッ! おい、待てハヤト! 何をしている!」
怒りに任せて砦に魔法攻撃しようとしたのを先輩に止められた
「こっちから合図を出してやろうと思ってね」
「流石にそれは不味い、止めるんだ。いや、だからやるなって! お前ってそんな性格だったか!?」
久方ぶりに頭に来た俺が、砦の中にいる士官様達に怒りをぶつけようとしていると、マシェルモビアの前衛が動き出した。
大剣を取り出し、重装甲用のアタッチメントを装着する
「お、おお‥‥」
一瞬で重鎧になった姿を見た先輩が感嘆の声を上げる。
ハルツール軍が近づけさせまいと魔法を放つが、何分手数が少ない。マシェルモビア軍はそれをものともせず接近し、そして衝突する。
衝突した直後から既に押されている、もうこうなっては勝負はついたものだが、撤退の合図は未だに無い。
これではただ単に損害を増やすだけだ。
その中で一騎、薄くなったハルツールの前衛を振り切り、召喚獣に乗り俺がいる場所に急接近してくる者がいる
「先輩、カーネロがきます」
「確認した」
多方向に忙しいオロチの首を2本だけ接近してくるカーネロに照準を合わせる、マシェルモビアの召喚獣カーネロは、繰り出される衝撃波を紙一重で躱し更に接近。
するとそこから一人飛び降りてきた
「ここまででいい、助かったぜぇ」
槍を手にした男だった。
カーネロは召喚主らしい人物を乗せ逃げるように去っていく、どうやら2人乗りできたようだ、それにしても、いくらマシェルモビアが優勢とはいえ、壁が無いと言ってもこの場所はハルツールが抑えている、それをたった一人で来るなんて、よほどの自信家だな。というか、ここまで来たカーネロも凄いが
その男は槍を手にしたままゆっくりと近寄ってきた
「よぉよぉ~、お前がこのでけぇ召喚獣を出してくれてたおかげでよぉ~、あっさりと見つける事ができたぜぇ? ひゃひゃひゃ!!」
気味の悪い笑いかたをする男だった
「ひさしぶりだなぁ~、あいたかったぜぇ‥‥‥‥腐れグースがぁ!!!」
その男の持つ槍の穂先は、黄色に輝いていた
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