102 / 260
最後の晩餐
しおりを挟む「あれは攻撃能力とか全く無くて、本当に家事しか出来ないんです!」
必死に無害だと訴える
「わかったわかった、ワシからも言っておくから」
「ありがとうございます、絶対ですよ!? 絶対にお願いします!」
チン
通話機を静かに置いた。
「ふぅ‥‥何とか大丈夫そうだ」
口からは安堵のため息が出る
「申し訳ございません、私の為に」
召喚獣のラグナが深々と頭を下げた。
「もう謝らなくてもいいってば」
俺が必死になっている理由
それは一昨日にラグナに買い物を一人で行かせたことが原因になる、考えればわかる事だった。それ以前に何となくこうなる事は知ってた。
でもその日は色々な意味で疲れてしまって、そのまま行かせてしまった。
本来ならラグナと一緒に買い物に行って
「この姿だけど無害ですよ」とアピールし、近辺の住人がラグナの姿に馴れてから一人で行かせるべきだった。
どう見ても新種の魔物にしか見えないラグナ、しかもラグナの背中には小さな人の死体が張り付いている、そう通報されたラグナは町一体を混乱に陥れ、軍本部から兵士が派遣されるなど大変な騒ぎになった。
「私は召喚獣で魔物ではありません」
兵士に囲まれたラグナはそう主張した。しかし、その異様な姿に中々信じてもらえなかったうえに、ラグナのような姿の召喚獣はいない、数時間前までは存在しない召喚獣だったのだ。
言葉を話し、自身を召喚獣と名乗る目の前の化け物に、出動した部隊の隊長はラグナを取り囲んだまま、様々な方面に連絡を取り事実を確認したところ、今日、タスブランカの『ネルコ』の召喚魔法陣の施設でそのような形の召喚獣が契約されたと説明が受けられた。
そこで、ラグナを取り囲んでいた兵士の一人が
「もしかして、おもしろ召喚者の‥‥」
で、俺の所に連絡が来た、最初は「やっぱりなー」と軽い気持ちでいたが、いざ現場に行って見るとこんな大事になっているとは思っても見なかった。
取りあえず頭を下げてから、その後は普通にラグナと買い物をした
「ほっほっほっ、旦那様も神経が太いですね」
なんてラグナは言っていたが
そこで思い出したのが召喚獣を使った移動を禁止する都市条例、俺を狙い撃ちにしたこの条例は非常に迷惑でありとても不便である
もし、今回の騒ぎで「召喚獣を使った買い物を禁ずる」なんて条例が出来てしまったら、たまったものではない、それに対して先手を打つべく俺は動いた。
イディ主席や現タスブランカ代表に陳謝した上で、そんな条例が出来ないように圧力を掛けて欲しいとお手紙を出し、軍本部にはタクティアを通じてお願いした。
「ハヤト隊長は意外とやらかしますね、出来ればあまり仕事を増やしてほしくないのですが」
メンゴメンゴと謝り何とかしてもらう手はずは完了、そして今、ゴルジア首相に直談判が終了した所だった。
「ひーぃっひっ、なにやらお疲れですねぇ、お茶をいれてきましたよぉ」
カチャカチャカチャカチャ
お茶がこぼれるんじゃないか? というくらいカップを鳴らして持ってくる、みすぼらしい服装の魔女風の婆さんメイド、付けた名前は『ふぅ』。
3人の婆さんメイド達は、ノームと違って見分けがつきやすい、まずは笑い方、それぞれ笑い方に特徴があるのと、受け持つ仕事が大体わかれている
「ひーぃっひっひっ」と笑うのが『ひぃ』で主に衣服関係の家事をしてくれる
「ひーぃっひっ」が今お茶を入れて来てくれた『ふぅ』で食事などに関して
「ひっひっ」と笑うのが『みぃ』、家の掃除をやってくれる、あと何だか一番気持ち悪い、なんとなーく性的に狙われている気がする。
そしてこの3人の老婆に共通していることが
「ここにお茶置いときますね」
ふぅは机の上にお茶を置くと、その手で俺の手を触りさすってくる
この老婆達3人は事あるごとに俺の体を触って来ていた
ゾワワワ!
触られた瞬間、背中に寒気を覚える
「ひーぃっひっ!」
笑いながらふぅは部屋を出て行く、何かにつけて俺の体を触ってくる、ホント堪忍して欲しい
ラグナとこの3人の老婆のしている仕事、特に洗濯は『洗浄』魔法があるから毎日同じ服でも構わない、要は俺一人でも十分足りている、昨日それをラグナに伝えたら
「それだと『ひぃ』仕事は無くなってしまいますね、でしたら夜のお相手に回しましょう」
などと、とんでもない事を言いだしたので、服は脱ぎ散らかすようにしている
本体? でいいんだろか、ラグナの方は庭の手入れと調理を担当している、それと将来的には買い物。
天才料理人だったラグナナさんから貰ったレシピを参考に、ラグナに作ってもらったが、まだまだその味には追いついていない、ゆっくりでいいからラグナには精進してもらい、あの天上の味をまた味わってみたいものだ。
部屋を出ていくふぅの後ろ姿を見て思った、貧乏くさいと、服を用意しようかな?
「ラグナ」
「はいなんでしょうか?」
「あの3人の服を買いに行こうか、流石にあれは無いわ」
ボロボロの粗末な服を着ている3人を見ていると、何となく老婆をこき使っている悪い主人みたいで嫌だ。
「それでしたら、ひぃが服を作成できますので、布や糸などを用意していただければよろしいかと」
「自分で作れるの?」
「はい」
便利だな
「今日はどのみちオヤスの所に行かなければならないし、ついでで後で買ってこようかな」
「でしたら私が購入してきましょう」
「いやそれは駄目」
一昨日騒ぎが起きたばかりだから無理だろう、ほとぼりが冷めないうちは。
・・・・
・・・・
昼が過ぎ買い物や用事を済ませに外出した。
まずは買い物、必要な布などを購入、老婆だからあまり明るい色は似合わないだろうと考え、暗い色の生地を選んでいく、選んだ色は赤・緑・茶の出来るだけ暗い色、エプロンも必要なので白の生地、その他色々買い込んだ後目指した場所は、召喚獣の研究所、新しく契約したオロチとラグナを紹介
「3人の小さなお婆ちゃん‥‥‥いいかもしれない!」
などと言っていた変態達をスルーして、次に向かったのはオヤスの食品工場。
オヤスからは会議がある時は、時間があったらでいいので出てほしいと前々から言われていた。
そして今日、初めて会議に参加する、もう会議の予定時刻は過ぎているので始まっているだろうけれど
お菓子を食べていた事務の女性に挨拶をし、会議室に通される。会議室と言ってもプレハブのような事務所なので大して広くもなく、会議に参加する人数も俺を含めて6人しかいない
「遅れてごめんねぇー」
ガチャリとドアを開けると
「だから言ってるでしょう! もうこっちは限界なんだよ!」
ドアを開けるといきなり怒声が響いてきた
「だったら人をもっと増やせばいいだろう」
「増やしても直ぐに使えるわけないだろ! それくらいは親父も知ってるはずだ!」
おおっとぉ、修羅場ですよ
オヤスとその息子で工場長のモランが怒鳴り合っていた。
この親子が言い争っている原因は既に知っている、オヤスは新工場の設立を目指し、息子のモランは、新しく工場を建設しても人材が足りず、尚且つ、やっと今の工場の機械が不具合などを克服出来てイイ感じに動き始めたばかりなのに、新しい機械を導入したりすると安定してきた生産が落ちる、だからもう少し時間を欲しいという事だった。
俺が入ってきた事も知らずに二人は言い争う中、本店の喫茶店を任されているウエールは苦笑いしながら
「どうぞ」
と椅子をすすめてくる同じくオヤスの息子ウエール、その隣には喫茶店の2号店を任されているオヤスの娘婿と、俺の前の席には、モランの息子でオヤスの孫に当たるトリスが座っていた。
トリスは前まで働いていた会社を無理やり辞めさせられ、自身の父親であるモランの下で働かされていた。
まだ働いて半年くらいのはずだが、父親のモランと同じように憔悴しきった顔をしている、実家がブラック企業だとはトリスも思わなかっただろう。
会社が儲かり、大きくなるにつれてオヤスは金に執着するようになってきた。そのうち脱税とかしそうだ。
俺はオヤスとモランの喧嘩が終わるまで、椅子に座り待っていた
◆◇◆
「どうぞ、空いてますよ」
「お邪魔するぞー‥‥‥っと、凄い書類だな」
ベルフがドアを開けると、そこには書類に埋もれたタクティアがいた。
「ええ、中々終わらなくて、しかもハヤト隊長が昨日仕事を増やしてくれましたから」
「召喚獣の事だろう?」
「ええ、新しい都市条例が出来ないように軍からお願いするようにしてくれと‥‥ベルフは知ってたんですか?」
「その日に召喚の契約に立ち会ったし、報道でもどうやら召喚獣らしいて言っていたしな、ハルツール全体ではどうかは分からないが、サーナタルエに住む者だったら、ああ、なるほどなって思うんじゃないか?」
「それもそうですね、そうだベルフも見ますか? ハヤト隊長の新しい記号です」
「記号? ああ、その他のやつか」
「はい、ハヤト隊長が自分で考えて、これにしてくれって言ってきたんですよ」
机の隅に置いてあった一枚の資料をベルフに差し出した
「前から気にしてたからなあいつ」
ベルフは差し出された資料を受け取り、それに目を通す
「これは‥‥花か何かか?」
「隊長がいた世界にある花らしいですよ、結構有名な花みたいです」
「何で花なんだ? あいつはそんなに乙女だったのか?」
「さあ? でもこの記号は通りましたから今度からはこれに代わりますね」
「その他って、もうからかう事が出来なくなるな」
ベルフとタクティアは、あの時の泣きそうになっていたハヤトの顔を思い出し思わず笑ってしまった。
「それで、今日俺を呼んだのは? 今日じゃ無ければダメだったのか?」
「そうですね、次の任務に付く前にこの場で話した方がいいと思って」
「ふむ、それで内容は?」
一呼吸おいてからタクティアは話し出した
「今後の隊列と、戦闘での役割についてです」
「‥‥‥‥続けてくれ」
タクティアは机の上に一枚の紙を出す
「まず隊列はこのように」
それは最初タクティアが考えていた隊列だった
「そして戦闘ではハヤト隊長とライカを組ませようかと思っています」
ライカは魔法が使えない為、必ず誰かの補助が必要になる、今まではベルフがその役割を担っていたが
「俺では役不足だと?」
「そこまでは言っていません、確かに以前ベルフが言ったように、ハヤト隊長には自由に動いてもらう方がいいでしょう、そちらの方が実力を発揮できると思います。
一方でライカも補助があればどんな場所でも斬り込んで行けます、‥‥ですがベルフ、そのせいで貴方にはかなりの負担が掛かっています」
「‥‥それを役不足と言うのではないのか?」
少し考えたのち
「‥‥そう、かもしれませんね、ただ、このままではベルフは━━」
「大丈夫だ! 俺にも意地があるし曲げる事は出来ない、ライカの補助は俺がやる」
「・・・・」
「・・・・」
ベルフとタクティアは真剣な顔で、お互いを暫く見ていたが
「ふぅ‥‥わかりました、ではベルフには引き続きライカの補助をお願いしましょうか」
最終的にはタクティアが折れることになった
「問題ない任せてくれ」
「ライカには私もあまり突出するなとは言っておきますが‥‥私の話は以上です、すみませんね呼び出したりして」
「いや、大丈夫だ他の用事もあったからな」
ベルフはその髭面でニコッと笑った間からは白い歯が見える
「そうだベルフ、隊長行きつけの喫茶店に行きませんか? 最近仕事のせいで全く行けなかったんですよ」
「おっ! いいな、最近家族サービスで行けなかったからな、ならハヤトを呼ぶか? 優先席に入れて貰えるしな」
「ハヤト隊長は顧問をしている会社の会議に出たり忙しいみたいです、なので無理でしょう」
「うーん、そうするともしかしたら並ばなければならないかもな」
ハヤトがいた場合、彼は顧問をしているので並ばなくても直ぐに個室に通してくれていた。しかし、ハヤトがいなかった場合、時間によっては並ばなければならなかったりする
「任せて下さい! これでもしょっちゅうハヤト隊長と行っていますから、結構顔を覚えられているんですよ、もしかしたら個室に通してくれるかもしれませんよ?」
「そうか! なら時間はどうする?」
「今すぐ行きましょう、今日は私も店じまいしますよ、ちょっと待っててください直ぐに片づけますから」
書類を片付け、ウキウキで出かけたベルフとタクティアだったが、店に行って見るとそこにはソルセリーとエクレールがいた。
二人に気が付いたエクレールは
「助かった!」という表情をする
二人はそれですべてを察した。
ソルセリーはまだ自分達に気が付いてはなく、前を見ているが、その顔は間違いなく機嫌が悪いと‥‥‥
タクティアの顔を覚えていた喫茶店の店員は個室の方に通してくれたが、一緒にソルセリーとエクレールもくっついてきてしまった。
ちゃんと味わって食べる事が出来るだろうか?
個室に通してくれた店員さんを少し迷惑に感じつつ、ベルフとタクティアは不安になっていた
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
この称号、削除しますよ!?いいですね!!
布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。
ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。
注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません!
*不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。
*R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる