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脅し
しおりを挟む「おう、やっと戻ってきたか」
ベルフが笑顔で迎えてくれるが、その目は俺が右手で持っている包みにくぎ付けになっている、その嗅覚がもう獲物を捕らえているのだろう
「ただいま、はいこれ、お土産のチョコレートだよ、こっちが普通のチョコレートで、こっちが新作のお酒が入った‥‥‥‥」
あれ? 酒入りのチョコレートの数が減ってるような‥‥気のせいかな
「酒の入ったチョコレートか!」
俺の出したチョコレートに、ワラワラとアリのように群がる我が隊員達、その中には既に食べたタクティアまで参戦していた。どれだけ好きなのか?
タスブランカでのごたごたが終わり、手伝いに駆り出されていたタクティアも無事お役御免になり、俺と一緒にこの敵から奪い取った砦に戻ってきた。
俺と一緒にサーナタルエに戻ったソルセリーだったが、俺がタスブランカに出発した後、暫くはタクティアの仕事を手伝っていたけれど
「私、そろそろ戻るわ」
手伝いが飽きたのか、早々とこっちの砦に戻っていた。そして今一緒にチョコレートに群がっている
「この酒入りのチョコレートはいいな!」
「ベルフはそればっかり食べているが、その内酔っぱらうんじゃないのか?」
「こんなので酔っぱらったりしないさ、酔っぱらうとしたらチョコレートに酔っているんだよ」
何だか酒飲みが言う様なセリフを吐いているベルフ、他の隊員も幸せそうな顔でチョコレートを頬張っていた。
ただ、そのチョコレート美味しい? 俺は不味すぎて食えなかったんだけど、ひたすら甘いチョコレートにアルコールって‥‥
一つ食べたけど口に入れた瞬間「うっ!」となってしまった位、俺には合わなかった。やっぱりこの人達は進化の途中で、おかしな方向に味覚が発達したのだろう
不意にチョコレートの真上に現れる小さな黄色の魔法陣、そこからごつい腕が出て来て酒入りのチョコレートをかっさらう
正体はノームだ。
まぁ~器用な事をする
タスブランカで俺が気を失っている間、色々と活躍したのは聞いているので、多少多めに見てやってはいるが、いい加減にしろよ! と、そろそろ言ってやらないといけないかな?
チョコレートの上からごつい手が降り注ぐなか、たまに降りてくる白くシルクのような美しい腕、正体はデュラ子だ。
ノームが食べているから気になったんだろう、ま、デュラ子なら仕方ないか
空中から降りてくる手に驚くことも無く、隊員達は自分の口にせっせとチョコレートを運ぶ、そんな事を気にする暇もないのだろう
‥‥3日分くらいはある筈だったのに、無くなりそう
発売前の新商品だけあって皆そっちばかり食べている、その中でもエクレールがかなり気に入っているみたいで、ハムスターのように口いっぱいに含み、ほっぺがパンパンに膨れ上がっている
チョコレートはそうやって食べる物ではないんだけど‥‥鼻血でるよ?
エクレールならぬハムレールになった彼女は、俺の無くなった左手が視界に入ったのか、チラリと見た後2度見し、自身の右手を光らせ、目で『やる?』的な軽い視線を送ってきた。
『癒し』の魔法を発動させたようだ。
なんか言えよ!
「いや、前のキャンプ地でもう今日の分はやってもらって来た」
その言葉で「うん」と頷いたあと、チョコレートを口に詰め込む作業に戻る、相当気に入ったんだろう、食べるのに夢中になっていて、いつもの礼儀正しい彼女とは別人のようだ。
ライカとソルセリーも俺の左手に気付く、ライカはチラッと見た後すぐに食べる作業に戻り、ソルセリーは食べる作業を止め俺の左手に注視する
「うぉい、はやあと‥‥‥‥モグモグ、手わどうした」
エクレール程では無いが、口一杯のチョコレートがこぼれないように上を見ながらベルフが聞いてきた
汚い!
「食い終わってからにしなよ」
「おお、そおだなぁ」
モグモグと咀嚼し、ゴクンと飲み込んだ。そしてまたチョコレートに手を伸ばす
え? 箱ごと全部食い終わってから喋る気なの!?
ものの数分でチョコレート2箱を完食してしまった
・・・・
・・・・
「それで? 本部に何しに行ったんだ? ソルセリーに聞いても教えてくれないんだよ」
「要人の護衛だよ、手の怪我もその時ね」
「要人の護衛? なんでお前がやらなきゃいけないんだ?」
「タクティアの指名でね」
「タクティア、どういうことだ?」
ベルフの目が俺からタクティアに移る
「それはですね、ハヤト隊長が一番━━」
「タクティア! 鼻血、鼻血!」
「ああっ‥‥」
手で鼻を抑えるが、結構大量に流れ、色々な場所に付着する
チョコレートの食べ過ぎだ。そしてエクレールに回復魔法を掛けてもらい、そのまま俺の所にきた
『洗浄』魔法を掛けろって? ハイハイ分かったよ
流れた血がキレイに跡形もなく消える
「一番適任だったからです」
「それだけ?」
「後は時間稼ぎとか、その他色々ですね」
「誰の護衛だったんだ?」
「結構大きな事があって未だに調査の途中ですから、その内詳しく報道されることでしょう」
「手の怪我もその時だな?」
「ついつい油断しちゃって」
「タスブランカで、次期代表の誘拐騒ぎがあったようですが‥‥、まさかそれですか?」
「そう言えばここでもそんな噂があったな、ハヤトお前その当事者なのか?」
ライカが気づき、ベルフとエクレールが俺に視線を向ける、その横でソルセリーが何故か得意げな表情をしていた。
こんな時タクティアは、自分に聞かれている訳でもないのに、しゃしゃり出てペラペラ喋り出すのだけど、何も言わずニコニコしているだけなので今は話せるような内容は無いのだろう、俺もニコッとほほ笑み、話を濁す
「まあ、それはその内━━」
「そうなんですよ! 私はハヤト隊長しかいないと思って推薦したんですが、やはりハヤト隊長でした、無事に次期代表候補をお守りするどころか、犯行の証拠となる証言何かを全て引き出してきましたからね!」
うーん、喋っても良かったようだ。
タクティアはその後も俺の報告した内容や、魔道具に記録されていた物事を、まるで自分が体験したかのように話し出した。
俺が気を失って居た時の魔道具の映像は、俺自身見ておらず、『こんな事があった』程度にしか聞いてはいない、タクティアはそれも詳しく話してくれたので、
「そうだったんだー」と、その時初めて詳しい内容を聞く事が出来た。どうやら本気でノーム達は頑張ってくれたようだ。
ただ一方で、リテア様にかなり悲しい思いをさせてしまい、あの時、気を失ってしまった自分を不甲斐なく思う
タクティアの話は続き、俺が意識を戻してからグースになった所までも話していたが、途中で
「それで意識を取り戻したハヤト隊長が、次期代表候補にですね━━あっ!!」
しまった! と言った様な顔になった。
ベラベラ喋るから言わなくてもいい所まで話そうとしたんだろう、うっかり屋だな。
タクティアはソルセリーを気にするようにチラチラと見て
「ま、まあ、後は報道何かで機会があったら見て下さい、ではハヤト隊長、中隊長の所に行きましょうか?」
「そうだね」
「中隊長に何かあるのか? ああ、帰還の報告か」
「それもありますが、今後の事で」
「気を付けろよ、今中隊長はかなり機嫌が悪いからな」
ベルフが言うには、俺がサーナタルエに戻っている間に色々と暴れていたらしい、どうやったら砦を落とせるか? その足掛かりもつかめず、砦に向かい撃退される日々を繰り返していた。
丁度その頃、俺が本部に呼び出され、タクティアもいない中、中隊長はこう思ったらしい
「破壊の一族を使って砦を破壊しよう」と
本来破壊の一族の力を使うためには、緊急時以外は、軍本部の命令がなければ使用が不可とされている、にも関わらず中隊長はソルセリーの力を使おうとした。
が、俺と一緒に帰っていたソルセリーは当然その場にはいなかった。そしてようやく戻ってきたと思ったら
「嫌よ」
の一言でバッサリと切られた。ソルセリーには破壊の力を使う事に対し本人に拒否権があり、軍本部で指示があってもソルセリーは断る事が出来る、尚且つ、この場で一番階級が高いのがソルセリーで有る為、この部隊を取り仕切っている中隊長でも従わせる事は出来ない
軍本部の許可なく、破壊の一族の力を使おうとした中隊長の行動は、明らかに違反行為となる。
実際使わなくても、ソルセリーに打診しただけでも違反とみなされる
全てにおいて上手くいかず、今の中隊長は機嫌が悪いという、俺からして見たらただの馬鹿である、よくこれで中隊を任されているなと思った。
こんなのの下で働いているドルバが可哀そうになってくる
「へぇー、それはいい事を聞きました」
ベルフの話にニッコリのタクティア
この隊を仕切る中隊長は人の話を聞かない所があり、タクティアが本部に戻される前、あの砦をどう攻め落とすか話し合いが行われた。
タクティアがあの砦周辺の地形や規模、そしてもっとも近いハルツール軍、マシェルモビア軍のその他の砦や拠点などの距離を含め、案を出したのだが、それを全く聞かず正面突破しか無いと言い張っていた。
その考えは俺も分かる、『歴史シュミレーションゲーム・家康の野望』でも俺は常に正面突破だった。
外交? 調略? めんどくさい! 弱い所から飲み込んで行くんだよ!
しかし現実は違う、そんな事をしていたらどれだけの兵士が犠牲になるか
「あの中隊長は駄目ですね‥‥‥」
その時、ボソッとタクティアが俺に言った言葉
タクティアの方が階級が上だが、作戦の決定権は中隊長にある為、結局何度も正面突破をする羽目になってしまった。
タクティアが本部に戻った後、何度も他の分隊長達が作戦の変更を訴えたが聞き入られなかった。
「良い事を聞きました」と言ってフフフと悪い笑顔を浮かべているタクティア、何を企んでいるのか? と気になったが、よくよくその笑顔を見ていると、普段浮かべている笑顔と一緒だった。
てことは、いつも悪い事を考えているのだろうか?
・・・・
・・・・
結果
タクティアがこの部隊の全権を任せられる事になりました。
「間接的に部隊の行動に関わるのではなく、直接部隊を指揮するというのは何だか新鮮ですね」
笑顔で嬉しそうに話す
ソルセリーに力を使う事を打診したという違反行為、それに付け込むようにタクティアは中隊長を脅した。
本人は
「あれは脅したのではなく、私がやりましょうか? と交渉したんですよ」
なんて言っていたが、俺には脅しにしか聞こえなかった
「これは明らかに違反行為で━━」
「今後の昇進に━━」
「中隊長の解任も━━」
「罰則━━」
等々‥‥‥
「ウチの中隊長はもっと昇進したいみたいで、何となく功を焦っている所があるっすね、そのせいか‥‥‥ウチの部隊は正面突破ばっかりなんです、毎回の負傷者も半端ないっすよ」
後輩ドルバが言っていた。
中隊長からしたらタクティアの言葉は、地獄に叩き落されるような言葉に聞こえただろう
そして攻略部隊全員に出した、タクティアの初めての命令は
「皆さん、しばらくはゆっくりしましょうか」
全員待機の命令だった。
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