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顔合わせ ①
しおりを挟む長期休暇を貰い7ヵ月程過ぎた。
武器や防具、その他の用事も全て済ませたのが2カ月前、その後も少々自堕落ではあるけれど一応は軽いトレーニングなどをして過ごして来たが、ついにこの日が来てしまった。
そう、首相からの呼び出しが掛かってしまった。
もしかして俺の事を忘れているんじゃないだろうか? だとしたらそのまま忘れていて欲しい、でも給料は入れて欲しい、などとそれまで首相からの連絡が無かったのをいいことにこちらからも連絡はしなかった、そんな時に呼び出された。
いい加減に仕事をしろ! と怒られると思ったけれど
「すまないな急に呼び出したりして、本来ならもう少し休ませてやりたかったんじゃが、事態が少し変わってのぉ」
怒られなかった、それよりもっと休んでも良かったらしい、だったらもっと休ませてよ
「いえ、十分休むことが出来ましたし、必要だったものも全て終わらせることが出来ました」
よく考えたら半年以上も休んでいたのか‥結構凄いな
「うむ、それでじゃな、これもまた急な話になるのじゃが、ハヤト、お主の軍所属が正式に決まった」
「え‥?」
「以前のソルセリーの一件が評価されたのと、お主の威圧が消えたとこ、そうじゃな威圧が消えた事の方が大きいかの、それで軍は正式に軍に所属させることをワシに通達してきた」
今頃か‥‥威圧の事はまぁ、どうしようもないとして、それでも多少は思う所はある
「ただし、軍に所属するのはお主の半分じゃ」
「半分とは?」
「お主に指令を出せるのをワシと、軍で半々で持つ、そしてお主の給金や経費などもワシと軍で半分ずつ持つことになった」
「それは正式に軍に所属するとは言わないのでは?」
「‥‥‥そう言われると‥‥そうじゃな、まぁそれは特には問題ないだろう」
あると思います
「お主は金遣いが荒いからのう、金銭面では苦労したわい」
「‥‥すみません」
「まぁそれは良い、命令のの優先順位は一応軍が優先ワシのはその次、じゃがワシの場合、もし緊急の時はワシの命令が最優先になる」
首相の言葉に頷いて了承する
「お主が住んでいるあの家はそのまま使うとよい」
給料などは今貰っている金額を、軍と折半して支払うということになったと言われた、自分でも自覚してはいるが結構俺はお金が必要になる、武器や装備、備品など、今では召喚獣の装備などもあるので更に金が必要になっていた。
軍に正式に所属と聞いてちょっとだけそこの所が困ったが、待遇は今のままと言われ少し安心する。
「正式に軍に所属することになれば色々と必要な事が出てくる、所属は来月からだが‥‥後10日程か、別に明日でもいいのが、時間があればこの後にでも軍本部の方に寄るとよい、そこでタクティア・ラティウスと言う男に詳しい話をきいてくるといい」
首相にそう言われ、その日のうちに軍本部に向かうことにした。
・・・・・・
・・・・・・
「3年ぶりか、いや、もう少しで4年になるな」
軍本部の敷地内には軍学校もあり、何度もこの門を通った、主に仲の良かったバールと外に遊びに行くときだけど。
「懐かしいな」
学校にも寄ってみたいけど、欧米ズももういないし、あそこには忌まわしき俺の写真が飾ってある、多少後ろ髪を引かれる思いだが、学校には寄らずそのまま軍本部の建物へと移動した。
タクティア・ラティウスに会うため本部の受付に寄る、受付の女性は俺の姿をみるなり駆け寄ってきた
「ウエタケ・ハヤトですね」
「え、あ、はいそうです、あのタクティア・ラティウスという人に会いに来たんですが」
「あいにくタクティアは外しております、ですが話は聞いております、軍所属のための準備をなされに来たということで間違いは無いですか?」
「はい」
「ではこちらへどうぞ」
そのまま受付の女性に案内され部屋に通される、部屋に通されると受付の女性は下がり、別の女性職員が3人、入れ替わりで入ってきた。
賞状を入れるお盆の様な物の上に軍の制服を乗せている人、書類などを持って来た人など、これから必要になる物を持って来てくれたのだろう。
軍学校卒業と同時に本来なら貰えるはずだった軍の制服、卒業して3年以上経ってやっと貰えることが出来た。
ほんの少しだけ鼻の奥がツーンとするのを感じ、色々な事を考えながらそのキレイに折りたたまれた制服を見ていた。
軍の制服には左胸にバッチが付けられるている種類は2つ、一つは軍での階級バッチ、そして、部隊長だった場合黄色の線が入ったバッチ、1本線だったら分隊長、2本だったら小隊長と、規模が大きくなるにつれ、線が増えたり飾りが豪華になったりする
気のせいかな? 胸に付けられていたバッチが曹長の物に見える下から6番目の階級だ、幹部候補生ならこの位置からスタートだけど、俺幹部候補じゃないんですが‥‥いや、きっと見間違いだろうな。
書類を持って来た女性職員が机の上に書類を並べる
「では、隊の名前をお願いします、記入はこちらの書類に」
隊の‥‥名前?
「あのー」
「ああ、そうでしたね、初めてでしたら分からないですね申し訳ありません、大体の方は名前で決めておられます、ただし家柄を大事にされている方は家名にされていますね」
「いえ、隊の名前って何の事ですか? 隊長ってことですか?」
「ええ、そうですが?」
「今、初めてそれを聞いたんですが、何かの間違いじゃないですか?」
首相はそんなことは一言も言ってなかった。
「え? そんな、ちょっと待ってください」
3人の女性職員は書類を確かめ、制服を確かめその制服についている名前を確認する、制服を広げた時に見えたが、階級は間違いなく曹長の物だった、そしてその階級の下には黄色の線が1本入っていた。
「いえ間違いありません、来月付で分隊長になることに決定されています、軍の正規の印も書類にありますから」
「‥‥‥‥そすか」
いきなりの隊長だった。
隊長と言われても何をすればいいのか具体的な事は分からない、とりあえずめんどくさい物だと把握している、挨拶やら報告書やら、その他にも隊員の管理やら、カナル隊長がやっているのを見てて大変だなーと思っていた。
召喚者は隊長にはなれないと聞いていたので、俺には関係ない事だと思っていたんだけど‥‥
隊の名前はハヤト隊にした。ウエタケ隊だと語呂的に合わないし、それにハヤトの方が短くて済む。
小学生の時に同級生に墨野倉・純一郎という子がいた、苗字も名前も長くフリガナを付けろと言われると12文字にもなる、その子はいつもテストの名前の書く所の、フリガナの箇所が枠からいつもはみ出していた。
長すぎて可哀そうだなぁーと子供の頃に思っていた。
中学に入るとその子自身面倒だと思っていたのか、テストの名前の欄に「墨・郎」と短縮して書いて0点を貰っていた。
やっぱり苗字と名前は簡単な方がいい、先祖と親に感謝を捧げる。
階級の曹長は多分ソルセリーの件が評価されたんだろう、首相もそんな事を言っていたし
その後、制服を受け取りサイズを確認、ピッタリ合ってます、そして分隊長になったことで行使できる権利などをまとめた書類を貰い、口頭でも軽く説明があり、これらを全て覚えておいてくださいと女性職員に言われた。
帰る時にもう一度言われた、とても大事な事だったんだろう。
隊のメンバーとは来月、正式に軍に所属する時に顔合わせがあると言われている。
・・・・・・
・・・・・・
家に戻り、受け取った制服を着て姿見の前に立ってみる
「意外とかっこいいな」
無駄に体を斜めにして見たり、敬礼とかしちゃったり、自身の姿を堪能していると、いつの間にか首の付いていない胴体が後ろに立っていた時は腰を抜かすかと思った。
「直接拝見してみたかったので」
最近では好き勝手出入りしてくるデュラ子も、俺の制服姿を堪能しご満悦だった
◆◇
軍に正式に所属する日が来た。今日は同じ隊になる人員の初顔合わせになる、軍本部の部屋の一室で会うことになっていたのだが‥‥
俺はその部屋で泣きそうになっていた
その理由は30分前に遡る
・・・・
・・・・
「ん゛ん゛っ んっ あ、あーあー」
声よーし
手鏡に自分の顔を移す
目ヤニ無ーし
制服に目をやる
汚れ無ーし
最初が肝心だからね、それと第一印象
この日の為だけに買った腕時計に目を向けると、約束の時間までもう少し、約束の時間丁度に部屋のドアをノックするために歩幅を計算して歩く、それが元日本人としてのこだわり
ああ、緊張する
初めて持つ自分の部下と、久しぶりに隊に所属出来る事で物凄く緊張しているし、興奮もしている、なんやかんやで一人で任務をこなしていたのは、やはり自分でも寂しかったんだと思う。
隊に所属出来ると聞いた時から今日までずっと他の事は手に付かなかったし、その事ばかり考えていた。
顔合わせをする部屋の前に立つ、ふとカナル隊と初めて会った時を思い出した
あの時のカナル隊の人達も、今の俺と同じで緊張とかしてたんだろうな‥‥
‥‥いや、それはないか、最初からあの人達飛ばしてたし
フッ、っと小さく笑いがこみあげてくる
ずっと一人だったけど‥‥それも今日で終わりだな。
コンコン
ドアをノックし、そのままドアを開いた
「あれ?」
部屋の中にあったのはテーブルとイス、そして僅かな装飾だけ
あれ?
ドアを一度閉め、その部屋の名前を確認する
「合ってるよね」
腕時計を見る、時間は‥‥
「合ってるよね」
なるほど理解した
「あ、なるほど俺が一番早く来たんだな」
時間道りに来ないのはどうかと思うが、それなら仕方ない、ひとまず中に入ってようか
全く、コレが重要な任務だったらどうするんだ? 時間厳守だよホントに、あとで叱ってやらなきゃ
悪い大人は矯正してやる
全く全く‥‥
・・・・
・・・・
それから30分が経ち現在に至る
いじめ、ですかね?
待てど暮らせど人は来ず、廊下に足音すらない、時折こっそりドアを開け廊下を確認してみるが誰かが隠れていることも無い、疎外感というか、孤独というか
こんな気持ちになったのは久しぶりだ、あれは小学校の時の運動会だったな‥‥
クラス全員参加の競技の時、俺だけ一人クラスの待機場所の椅子にポツンと座っていた。全ての競技に出られないにもかかわらず、何故か半そで短パンとハチマキをして座っていなければならなかった。
「うわぁめんどくせぇー」とか
「早く終わりたいね、わざと負けようか?」とか
笑顔でそんな事を言っているクラスメイト達、しかし競技が始まると皆必死になり結果は一位獲得、クラスの待機場所に戻ってくるクラスメイト達に
「おめでとう」と言って迎える俺
同じクラスなのに「おめでとう」と、まるで他人事のように迎えなければいけない俺、『回想』魔法も使ってないのに思い出してしまい、本気で泣きそうになってしまった。
そんな時
ダダダダ!
バダン!!
「すいません! 遅れてしまいました!」
ドアが勢いよく開かれ、入ってきたのは、栗色の髪が肩下まで伸びた髪を後ろで一本に束ねている男性だった。何故だか右側の髪がくしゃくしゃになって乱れていた。
俺は勢いよく椅子から立ち上がり、とりあえず敬礼する。
理由として、明らかに俺よりも上の階級の人、もう制服を見たら分かる、俺の制服よりもいい生地を使ってそうだし何よりごちゃごちゃしてる、要するにいろんな飾りがいっぱい付いていた。
「はぁ! はぁ!」と、ものすごく息を切らし額から汗が滲んでいる、全力疾走で来たんだろう、その男性はフラフラしながらも椅子までたどり着き、どさりと崩れ落ちるように椅子にもたれかかった。
「はぁ! はぁ! あの、はぁ! ちょっと、はぁはぁ」
ちょっと待って欲しいと言いたいんだろう、「うん」と頷いてみる、とりあえず部屋にあったコップに水を入れてあげ、魔法で氷を入れソッと出してみた。
「はぁ、あ、どうもはぁ」
ゴクゴクと出した水を一気に飲み干した男性は、少しだけ落ち着いたのか呼吸も段々ゆっくりとなってきた。
一生懸命走ってきたのは分かったけど、この男性にそろそろ現実を教えてあげようと思う
「あの、すいません、部屋間違えてませんか?」
「はぁ、はぁ‥‥いえ、間違えてはいませんよ」
男性はまだ少し呼吸が乱れているものの、真っすぐに立ち敬礼をした。
「今日からこの隊に配属になりました、タクティア・ラティウスです、どうぞよろしくお願いします」
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