異世界陸軍活動記

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クオルシゼリー(偽)

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「どうぞごゆっくり」

 俺が案を出し、オヤスが完成させたコーヒーゼリーならぬクオルシゼリーが、テーブルの上に置かれた。

「真っ黒だねぇ」
 今日は女性の姿をしている天使ネクターが、少し嫌そうな顔でスプーンでゼリーを突っつく、だがその仕草も愛らしい。

 見た目羊羹ようかんみたいな姿をしたクオルシゼリーの皿の横には、小瓶に入った白い色のシロップが置かれている

「この白いシロップを掛けて食べるんだよ」

「ふーん」
 ネクターは小瓶を取るとダバダバとクオルシゼリーの上に掛けた

「美味しそうには見えないんだけど」
 白と黒のゼリーを見てネクターの眉間にシワが刻まれる

 この世界には黒い色の食べ物が無い、始めて見るであろう物体に、ネクターは先ほどの高めのテンションが急降下し、クオルシゼリーに対し懐疑的だ。

 見た目羊羹だな‥‥
 
 長方形の形をしたクオルシゼリーが、「ドン」っと皿に横たわっていた
 
 もう少しオヤスに形を変えてもらうように言った方がいいかな?

 羊羹に似た形のクオルシゼリーにシロップを掛けながらふと思ったが、この世界にも豆は存在する、なら、砂糖を入れて煮込んでみたら小豆の様な餡が出来ないかな? そうすれば本物の羊羹だって‥‥駄目か‥‥羊羹の作り方自体知らない、材料は小豆と何だろう? 小豆を型に入れて固める? ‥‥‥違うな。

 作り方さえどこかでチラリとでも見たことがあるんなら禁断の魔法『回想』で思い出せるんだけど、間違いなく見てはいない、羊羹は無理でも餡を使ったお菓子なら‥‥、もしかしたらカカオ豆に似た豆もあるかもしれない、そうすればチョコレートも‥‥チョコレートはどう作るんだっけか?、焙煎してから油と搾りカスに分離して‥‥で?どっちがチョコレートでどっちがココアだっけ?、チョコレートはどこかで見た記憶があるから『回想』で何とかなるか。

 カカオっぽい豆はあるかどうか分からないから後回しにして、取りあえず小豆っぽい豆かな? 例のごとくオヤスに丸投げしょうか

 などと考えていると

「うわぁ~、見た目と違って美味しい」
 ネクターの可憐な声が俺の耳に届いた、とても心地の良い声で、もしできればネクターの声を録音し、寝る時にそれを聴きながら寝たい、きっと夢の中にネクターが出て来てくれるだろう

 世界一可愛いネクターの笑顔を見ながら俺もゼリーを口に運ぶ

 ?????? ん?

 口に入れた瞬間俺の舌が大混乱に陥った、思っていた味とは全く別の味に仕上がったクオルシゼリーがそこにあった。

 フルーティー‥‥

 何かの果汁が入れられている、しかもかなりの量

 ここまで来たら普通の果物のゼリーだよ、クオルシ必要ないじゃん、しかもクオルシの味が一切しないし。まぁ、でも、美味しい? って聞かれたら‥‥美味しいけど。

 釈然としないまま、クオルシゼリー(笑)を完食した、トロン茶で一息つきつつ後でオヤスにクオルシゼリ―(グース仕様)を作ってもらおうと交渉することにする。

 目の前に一輪の花ならぬ、一面の花畑のような笑顔の天使ネクター(女)に聞いておこうと思ったことを聞いてみる。

「あのねネクター、この前会った時にいた人達の中に2人、勇者の子孫がいたんだよ」
 
 ベルフ・ラーベ、そしてトルリ・シルベ、この2人の先祖は初代グースを天使ネクターと一緒に討伐したとされている、この世界に来て長いこと生活するようになり、この世界の歴史にも興味を持つようになってきた、グースと対峙した天使ネクターと200人の人間の勇者、その当事者が今ここにいるんだから実際に起こった出来事を聴きたくなってしまった。

「勇者? ‥‥‥‥‥あ、あー勇者ね、それがどうしたの?」
 ネクターは思い出すのに意外と時間がかかった

「ほら、初代グース先輩をネクターと勇者達が協力して倒したんでしょ? その時の話とか聞きたいんだけど」

「協力なんかしてないよ」
 ネクターはカップに入った甘いお茶をすする

「ん?」

「人間の間では協力したってなっているけど、僕はその人達と会ったことないもん」

「んん゛?」

「協力しなくたって僕にはグースだけに効く威圧があるからね、あの時は威圧して近づいて消して終わりだったよ」

「200人の勇者達は?‥‥」

「さあ? 食べられたんじゃないの?」



 ‥‥‥‥聞いてはいけない事を聞いてしまったみたいだ

 俺としては、明智光秀って何で信長に謀反をしたの? 秀吉はそのことを知っていたの? みたいな歴史の裏側、語られなかった真実を知りたかったんだけど、知ったら消される程の危険な真実を聞いてしまった、正直ここまで本当の事を聴きたくは無かった。

 歴史の真実を知って、1人だけ優越感に浸りたかっただけなのに‥‥‥‥

「あーでも足止めくらいは出来たんじゃないの? 出来たとしても1分から2分が限界かな?」

 勇者‥‥‥‥

 言えません、これは言えません、他には言えない、勇者の子孫は自称も含めて結構いるらしい、この話を知ってしまったら彼らはどう思うだろうか?、正直たやすく想像出来る、お墓に持っていく荷物がまた一つ増えた

「そうだ、グースで思い出したけど、あの時いたもう1人のグースはどうしたの?」
 ネクターは射貫くような目で俺の目を見る

「もう1人?」

「そう、グースの反応が二つあったんだよ‥‥」

 やだ怖い、俺の他にもう1人だなんて‥‥、先輩? 初代グース先輩がそこにいたの?

「あの時あの場所では俺しかいなかったよ、俺を含めたハルツールの兵士が4人、マシェルモビアの兵士が4人後は‥‥魔物が2体と物凄く巨大なヒュケイだったかな?」

「それだけ? 何か気づいたことはない?」

 気づいたこと‥‥あ
「そういえば、魔物が魔法を使っていたな、アレは変わっていたな~」
 
 人の形をした人形の様な魔物、魔物は魔法を使うことが出来ない、なのにアイツは使っていた、しかも探知にも反応しなかった‥‥

「魔物が魔法を使ったの?」

「うん、魔物って言ってしまうのはアレだけど、正体不明の敵でね、それでやたらとしつこく俺に攻撃してきたんだよね」

「‥‥もしかして、その魔物を喰った?」

「喰ったね」

 ネクターはずっと俺の目だけを見つめていた、先程までの可愛らしい顔ではなく、敵と対峙している様な顔つきになっていた
「君の中のグースの力が強くなっているんだよ、以前会った時と比べて格段にね」

 力が強く‥‥
「もしかして威圧とかまた出てる?」

「大丈夫それは出て無いよ」

「それなら一安心だね」

 ネクターは少しだけ考えるそぶりをした後
「母上に聞いてみるか‥‥、いいかい? グースの力っていうのはとても危険なんだ、全てを無にするからね、あまりその力をむやみに使ったりしたらだめだよ」

 ちょっとだけ首を曲げ、まるで幼い子に言い聞かすような言い方で‥‥ああ! 可愛い! ネクター可愛いい、全ての仕草が愛おしい!

「‥‥ねぇ、何で顔がにやけてるの? 僕、真面目な事を言っているんだけど?」

「うん、真面目な事を言っているのは分かっているよ、でもねネクター、ネクターも真面目な事を言うかもしくは可愛い仕草をするかどっちかにして欲しい、両方やっちゃうとか卑怯だよ」

「え? いや、可愛い仕草とかしてないんだけど」

「そうか、なら無意識でやってるんだね、流石世界一可愛い天使」

「‥‥僕そんなに変な動きしてたの?」

「うん、最高に可愛かった」
 なにやら軽くショックを受けている様だが、その様子もぐっとくる

「と、とにかく、グースの力をあまり出したら駄目だよ、危険なんだからね」

 危険なんだからね☆

「グースの力なんか使ったら僕にはすぐ分かるんだから、その都度注意しにくるからね」

 何だって!!
「え!? 力を使ったら毎回会いに来てくれるの!」

「え?」
 
「分かった! 自在に使えるように練習しておくよ」
 今日から毎日練習することにしよう

「ねぇ、話‥‥、僕の話‥‥」

 俺に新しい日課が加わった、一日でも多くネクターに会うため、グースの力を制御する訓練をすることになった。
 


 ・・・・

 ・・・・


 新作メニューを食べ終わり店の外に出ることにする、店の外にはネクターが来店したとの情報を聞きつけ沢山の人達が駆けつけていた

「はい、ごめんなさいねー通してねー」
 ネクターに祈りを捧げている人たちを掻き分け、人がいない場所へとネクターの手を引き移動した

 ここらへんでいいかな?

 空いているベンチに座り

「ネクター、実はプレゼントがあるんだ」

「プレゼント?」

 『収納』に仕舞っておいた紙袋をネクターに手渡す、戸惑いながらも少しだけ嬉しそうな顔をしてくれた

「中を見てもいいかな?」

「どうぞどうぞ」

 紙袋から中身を取り出し自分の膝の上に乗せる

「布? へー服なんだ‥‥、ねぇ、ちょっと」

「何だろ? 気に入ってくれたかな?」

「女物なんだけど」
 ネクターの手に持つのは、肩がガバッと空き袖の長い服と、丈の短いにもかかわらずスリットまで入っているスカート

「絶対に似合うと思うよ」

「いや、あの、だから僕は‥‥」

「大丈夫下着の方もちゃんと用意しておいたし、靴だって服に揃えてあるからね、下着も靴もサイズはピッタリのはずだよ」

「そういう訳では無くて‥‥え? 待って! サイズ? 下着のサイズって言った? 何でそこまで知ってるの?」

「それはね俺の召喚獣が教えてくれたんだ」
 教えてくれたのはデュラハンのデュラ子、いつも自身に割り当てられた部屋で俺の事を覗いている彼女は、ネクターの事ももちろん知っていた、そんなデュラ子には変わった特技があり、詳しく図ったりしなくても物の大きさなどが分かるという、もちろん人の身長も含むスリーサイズなど、流石に重さまでは分からないみたいだが、そんなデュラ子がネクターの服のサイズで困っていた俺にそっと教えてくれたのだ

「ネクターってほら、上の下着付けない派でしょ?」

「待って、待って、何でそこまで知ってるの?」
 ネクターは左手で若干だが胸を押さえるような仕草をする、うん、ほんの少しではあるが心の女性化が進んでいる様だ、順調順調

「だって‥‥ちょっと揺れてるし」
 そう、歩いている時など僅かではあるがプルンプルンと揺れていた、俺は目のやり場に困る事なんかは無く、ネクターの揺れる胸を常に凝視していた。
 それに服装が男のままだし、逆に男の時に上の下着を付けているとしたらそれは少し問題があるが

 女は視線に敏感とは言うが、ネクターはどちらかというとまだ男よりの心を持っており俺の視線には全く気付いてはいなかった

 ネクターの雰囲気がガラリと変わる、これはあれだ、威圧を出そうとしている兆候だ、しかし出される前にあらかじめ考えていた作戦を実行する。

「一応プレゼントなんだけど、別に着なくていいよ」
 少しだけ笑いつつネクターに告げる

「えっ? え?」
 意外な言葉にネクターのピリッとした感じが薄れる

「ネクターは俺の事をグースとしてしか見ていないだろうけど、俺はネクターの事が好きだ」

 ネクターは驚いた顔から少しだけ目を見開いた

「今は断罪者とグラースオルグで食事をしているだけの仲だけど、俺の本心はネクターと一つになりたい、もしこの先ネクターがその服を着てもいいと思う日が来るまで俺は待ってる、だからそれまで悪いんだけどその服は預かっていて欲しい」

 俺の顔を見ていたネクターだが、視線を徐々に下の方にずらしていきそのまま俯いてしまった、そして小さく消えるような声で‥‥
「‥‥‥‥うん‥‥分かった‥‥」
 

 よし来たー!!
 まさに計画通り、昨日デュラ子と二人で一生懸命考えた甲斐があった、贈った服は着なくてもいい無理強いはせず、あくまでも選択肢の一つとしてネクターに選ばせる、どうしてもネクターにだと俺はがっつく様に接してしまう、だけど今回はちょっとだけ距離を取って見た、これはデュラ子に指摘されたこと

「主はあまりにも欲望に忠実すぎます、もう少しだけそれを押さえてみてはどうでしょうか?」

 なるほど、と思ってしまったそして一晩中デュラ子と考え、作戦を決行した訳だけど‥‥

 下を見てモジモジしているネクターを見ていると今すぐにでもガッツキたい、可愛い、可愛くて俺の欲望が今にもあふれ出しそうだ、でも我慢しろ! ここが正念場だ

 呼吸が荒くなりそうな所を何とか深呼吸で押さえつける

 普通に渡したら返品されたであろう服をネクターに渡すことに成功した、第一段階は無事に終了


 ・・・・・

 ・・・・・


「今日はもう帰るよ‥‥」
 一度も俺の顔を見ず、ずっと下をむいたままのネクターは小さな声でそう言うと、背中に羽を広げ飛び去って行った。

 俺の後ろに黄色い魔法陣が浮かび上がる
「流石です主よ、見事なお手並みでした」 
 
 そう言って魔法陣からデュラ子が出てくる、頭を脇に抱え、鎧ではなく買ってあげたセクシーな服を着ていた。

 ん? あれ? 呼び出しては無いんだけど‥‥
「まあな、この作戦が成功したのもデュラ子のおかげだ」

「めっそうもございません、主のあの迫真の演技があればこそでしょう、感服いたしました」

「そうか‥‥、そうだな、まあ、ネクターがチョロいって事もあるけれどな、ところでデュラ子、今回成功したのもお前の力が大きい、何か望みとかはあるか?」

「いえ、特に望み‥‥」
 デュラ子は言葉を止め、考えるそぶりをし
「でしたら、その‥‥あの‥‥主と先ほどの喫茶店で食事などを‥‥」
 顔をほんのり赤くして言ってきた

 何と可愛いことか‥‥、このままだとネクターと一つになる前にデュラ子と一つになってしまいそうだ

「わかった、ただ、さっき食事したばかりだから行くのは夕方にしような」

「ハイ!」
 と嬉しそうにデュラ子は返事を返して来た

 でもデュラハンのデュラ子が食事‥‥、食べた物はどこに行くんだろうか?
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