上 下
37 / 63
喜屋武との対決

第37話

しおりを挟む
 ――午前7時。

 美里みさとふみが将棋部の部室で朝練をしていると、唐突に非常ベルが鳴り響く。

「……朝っぱらから何やねん?」
 棋譜を並べていた白旗しらはた誠士郎せいしろうが顔をしかめて呟いた。

「どうやら始まったようだね」
 将棋部に入部した喜屋武きゃん彩芽あやめがニヤリと笑う。

「……始まったって何がやねん?」

「僕たちの対決ですよ」

 すると、ふみ香のスマホがブルブルと震えだした。着信は小林こばやしこえからだ。

「…………」

 これまで、ふみ香から電話することはあっても、小林から連絡があるなんてことはなかった。

「……もしもし」

「美里、近くに白旗はいるか?」
 小林の少し張り詰めた声。

「……はい、部室に一緒にいますけど」

「なら、これからする話を一緒に聞いてくれ」

 ふみ香は小林に言われた通り、スマホをスピーカーホンに切り替える。

「たった今、校内で殺人事件が起きた。それも三件同時にだ」

「三件同時ッ!?」
「何やてッ!?」

 ふみ香が横目で睨むと、喜屋武がペロリと舌を出していた。

「場所はそれぞれ体育館、西校舎の非常階段、グラウンドの東にある百葉箱だ。全て私が行って回りたいところだが、事件発生から時間が経てばそれだけ手掛かりが消えてしまう可能性が高い。そこでお前たちの手を貸して欲しい」

「…………」

 確かに時間の経過は、それだけで事件の証拠をかき消してしまう要素になり得る。
 たとえば、先日の『空のプール殺人事件』。犯人の不注意でプールの底に松ぼっくりが残っていたことで、小林は見事に真相を導き出すことができた。しかし、もし死体の発見が遅れていれば、折角の証拠は変容して役に立たなかった。
 そうなれば、小林といえども真相の究明は困難を極めただろう。

「私は現在地から一番近い体育館へ向かっているところだ。百葉箱の方は三つの中で最も緊急性が低い。白旗、美里、お前たちは西校舎の非常階段へ向かってくれ。第一優先は現場の保存。可能なら写真で現場の様子を撮影しておいて欲しい。決して無理はするなよ」

「…………!?」

 ――何てことだ。
 あの小林声がふみ香と白旗に協力を仰いでいる。白旗からすれば、憧れの存在である小林からの共闘の申し出。断る筈がない。

「断る!!」
「ええーッ!?」

 ふみ香は思わずズッコケて、スマホを落としそうになる。
 白旗誠士郎。この男、単純なようでいて、中々読めないところがある。

「力を貸せやと? 気に入らんなァ、小林。事件が三つに名探偵が二人。せやったらやることは一つ。ここは勝負やろ!! 勝敗は当然どっちが多く事件を解決したかやッ!!」

 ふみ香は大きく溜息をつく。
 何のことはない。どうやら喜んで協力する気満々ということらしい。

「……全く、素直じゃないんだから」

「美里、何か言うたか?」

「……いえ、何も」

「……ふッ。わかった。その勝負、受けて立とう。だが、相手は腐っても人殺しだ。繰り返すが無理はするなよ」

「ふん、浪速なにわのエルキュール・ポアロ舐めとったらアカンでェ!!」

 白旗はかつてない程のハイテンションでそう叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

推理の迷宮

葉羽
ミステリー
面白い推理小説です

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

めぐるめく日常 ~環琉くんと環琉ちゃん~

健野屋文乃
ミステリー
始めて、日常系ミステリー書いて見ました。 ぼくの名前は『環琉』と書いて『めぐる』と読む。 彼女の名前も『環琉』と書いて『めぐる』と読む。 そして、2人を包むようなもなかちゃんの、日常系ミステリー きっと癒し系(⁎˃ᴗ˂⁎)

処理中です...