21 / 63
螺旋状の殺意
第21話
しおりを挟む
事件現場の非常階段に、何時もの鷲鼻の警部がやって来る。
「……全く、これで何度目だね? まさかこの学校では授業で人殺しの方法でも教えてるんじゃないだろうな」
警部は到着するなり渋面を作ってぼやく。
「警部、状況を報告します」
オールバックに眼鏡の若手刑事が早口で警部に話し掛ける。
「南校舎三階の非常階段で、三年生の梶原海斗が殺されているところを二年生の木本ことねが目撃。その悲鳴を聞きつけた将棋部の白旗誠士郎らが犯人を追って非常階段を降りていくと、一階で二年生の遊部優吾が首から血を流して死んでいるのを発見。梶原の左目を刺した兇器の鋏は、遊部の右手の中にあったそうです。事件当時非常階段一階付近にいた土井和彦と手塚寧々のカップルの証言では、犯人を追っていた白旗より先に階段を降りてきた人物はいなかったとのことです」
「……要は梶原を殺したのは遊部で、逃げた先で自殺したということだな」
警部が納得したように頷く。
「いえ、それがどうもそう単純な事件でもないようでして……」
「……どういうことだ?」
「犯人が階段を駆け下りたときに、階段に点々と血が落ちた跡が残されていたのですが、それを鑑識課に調べさせたところ、AB型とO型の二種類の血液が混ざっていたというのです」
「……ちなみにそのAB型とO型の血というのは?」
「梶原がAB型で遊部がO型ということでした。混ざった血の持ち主はこの二人で間違いないでしょう」
「……ふむ」
警部は右手で顎を触って、頭の中で一度状況を整理する。
「つまり、犯人が逃走した時点で兇器の鋏には梶原と遊部の二人分の血が付いていたということになるな。だが、そこまでおかしなことではないと思うがね。遊部が梶原を襲った際にもみ合いになって、うっかり鋏で自分を傷つけたのだろう」
「……いいえ、それが遊部には致命傷となった首筋の傷以外に外傷はありませんでした。警部の推理では死体の状況と矛盾が生じてしまいます」
「……ええい、だったらどう考えればいいんだ!?」
「逆に考えてみてください、警部」
そこへ背の低いベリー・ショートの髪の女子生徒、小林声が現れる。
「小林君、まさか君にはもう事件の真相がわかったというのかね?」
「ええ。梶原を殺した犯人は遊部ではありません。犯人は遊部に梶原殺しの濡れ衣を着せ、自分はまんまと容疑者の圏外へ逃げ果せたのです」
「……梶原殺しの犯人が遊部じゃないだって!?」
「警部、非常階段三階に事件の関係者を集めてください。そこでこの殺人事件に仕掛けられた罠についてお話し致しましょう」
小林はそう言って、邪悪な笑みを浮かべていた。
「……全く、これで何度目だね? まさかこの学校では授業で人殺しの方法でも教えてるんじゃないだろうな」
警部は到着するなり渋面を作ってぼやく。
「警部、状況を報告します」
オールバックに眼鏡の若手刑事が早口で警部に話し掛ける。
「南校舎三階の非常階段で、三年生の梶原海斗が殺されているところを二年生の木本ことねが目撃。その悲鳴を聞きつけた将棋部の白旗誠士郎らが犯人を追って非常階段を降りていくと、一階で二年生の遊部優吾が首から血を流して死んでいるのを発見。梶原の左目を刺した兇器の鋏は、遊部の右手の中にあったそうです。事件当時非常階段一階付近にいた土井和彦と手塚寧々のカップルの証言では、犯人を追っていた白旗より先に階段を降りてきた人物はいなかったとのことです」
「……要は梶原を殺したのは遊部で、逃げた先で自殺したということだな」
警部が納得したように頷く。
「いえ、それがどうもそう単純な事件でもないようでして……」
「……どういうことだ?」
「犯人が階段を駆け下りたときに、階段に点々と血が落ちた跡が残されていたのですが、それを鑑識課に調べさせたところ、AB型とO型の二種類の血液が混ざっていたというのです」
「……ちなみにそのAB型とO型の血というのは?」
「梶原がAB型で遊部がO型ということでした。混ざった血の持ち主はこの二人で間違いないでしょう」
「……ふむ」
警部は右手で顎を触って、頭の中で一度状況を整理する。
「つまり、犯人が逃走した時点で兇器の鋏には梶原と遊部の二人分の血が付いていたということになるな。だが、そこまでおかしなことではないと思うがね。遊部が梶原を襲った際にもみ合いになって、うっかり鋏で自分を傷つけたのだろう」
「……いいえ、それが遊部には致命傷となった首筋の傷以外に外傷はありませんでした。警部の推理では死体の状況と矛盾が生じてしまいます」
「……ええい、だったらどう考えればいいんだ!?」
「逆に考えてみてください、警部」
そこへ背の低いベリー・ショートの髪の女子生徒、小林声が現れる。
「小林君、まさか君にはもう事件の真相がわかったというのかね?」
「ええ。梶原を殺した犯人は遊部ではありません。犯人は遊部に梶原殺しの濡れ衣を着せ、自分はまんまと容疑者の圏外へ逃げ果せたのです」
「……梶原殺しの犯人が遊部じゃないだって!?」
「警部、非常階段三階に事件の関係者を集めてください。そこでこの殺人事件に仕掛けられた罠についてお話し致しましょう」
小林はそう言って、邪悪な笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発
斑鳩陽菜
ミステリー
K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。
遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。
そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。
遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。
臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
桜子さんと書生探偵
里見りんか
ミステリー
【続編(全6話)、一旦完結。お気に入り登録、エールありがとうございました】
「こんな夜更けにイイトコのお嬢さんが何をやっているのでしょう?」
時は明治。湖城財閥の令嬢、桜子(さくらこ)は、ある晩、五島新伍(ごしま しんご)と名乗る書生の青年と出会った。新伍の言動に反発する桜子だったが、飄々とした雰囲気を身にまとう新伍に、いとも簡単に論破されてしまう。
翌日、桜子のもとに縁談が持ち上がる。縁談相手は、3人の候補者。
頭を悩ます桜子のもとに、差出人不明の手紙が届く。
恋文とも脅迫状とも受け取れる手紙の解決のために湖城家に呼ばれた男こそ、あの晩、桜子が出会った謎の書生、新伍だった。
候補者たちと交流を重ねる二人だったが、ついに、候補者の一人が命を落とし………
桜子に届いた怪文の差出人は誰なのか、婚約候補者を殺した犯人は誰か、そして桜子の婚約はどうなるのかーーー?
書生探偵が、事件に挑む。
★続編も一旦完結なので、ステータスを「完結」にしました。今後、続きを書く際には、再び「連載中」にしますので、よろしくお願いします★
※R15です。あまり直接的な表現はありませんが、一般的な推理小説の範囲の描写はあります。
※時代考証甘めにて、ご容赦ください。参考文献は、完結後に掲載します。
※小説家になろうにも掲載しています。
★第6回ホラーミステリー大賞、大賞受賞ありがとうございました★
深淵の迷宮
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。
葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる