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3.大人の魅力
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思ったよりも本格的なのか、それともただのコスプレ喫茶なのか。
メイドが奥のテーブル席へ案内してくる。
歩きながら店内を見渡すが、当然と言うべきか、来店している客はどうみてもカップルと呼べる二人組がほとんどだった。中にはニルヴィア族のカップルもいる。それらカップルの席は全てにはピンク色のテーブルクロスが引いてあり、見ているだけで胸焼けしてしまいそうなほどだった。
何故か私達が案内された席だけは茶色いテーブルに白いテーブルクロスのシンプルな様式であったが、あんな席に案内されたら恥ずかしさで死んでしまうので、個人的にはありがたい。まあ本音を言えば少しだけ残念だったが……。
二人で席につくと、お互いに向かい合う体制になる。改めて全貌を見せる自分好みな男の顔に、恥ずかしくなって視線を反らす。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って不思議そうな顔でこちらを見る秋島先生。
あんまり見ないでくれ。恥ずかしいから。
「とりあえずメニュー見ましょうか」
彼がメニューを開きながらこちらに渡してくる。メニューにはケーキ以外にもパスタやスープなどの食べ物も存在していた。
意外としっかりしたものもあるんだな……。まあ少なくとも今日はそれらの匂いが一切しないが。
というかこの雰囲気でケーキ以外を頼むのは相当な度胸が必要そうだ。
「えっと……」
何かを言いよどむ秋島先生。その表情はまるで合格発表を見に行く子供のような緊張が見てとれる。
「何か?」
「い、いえ、せ、せっかくですし、これ、頼んでみますか!?」
彼が指差した先には『カップル限定プレミアムシフォンケーキ!』の文字があった。写真には大きなケーキに白い雪のようなチョココーティングがされたものが写っており、私の食欲を刺激する。
いや、問題はそんなことではない。これが"カップル限定"というところだ。
「…………」
言葉が思い付かない。心臓の鼓動が花火でも爆発しているようにうるさい。これを食べたいということは、
ーー何を隠そうここのケーキは恋愛成就のケーキなのです
今は亡き高垣先生の言葉が思い出される。
待て待て、流石にそれは飛躍しすぎだ。そんな都合の良い話があってたまるか。
「だ、駄目ですかね?」
「秋島先生は……」
いや、ここは大人の余裕を見せろミリア。少しでも大人の女であることをアピールするんだ。
「私と、これを食べたいんですか?」
…………何? 何を言っているの私は。そんなもんどう答えられたら正解なんだ。自分で質問しておきながら答えが分からない。
「…………はい」
「へ?」
あまりに素直な答えに間の抜けた声が私の許可なく排出される。
えっと、それは私とカップルと思われても良いと言うことで、それはつまり……、
「だってリルア先生、ケーキ好きなんですよね? どうやら期間限定みたいだしせっかくなら」
言われた通り、ケーキには期間限定の文字が書いてあり、しかも日付は丁度今日が最後であった。高垣先生のことを考えると何とも悼まれない。
そんな親切な理由に少しだけ、本当に少しだけ傷つく。我ながら心の狭い女だ。分不相応なのはわかっているだろうに。
「あ、あぁ、そういう……」
全く、何を考えているんだ私は。ニルヴィア族を恋愛対象に見る人間なんて基本的にはいない、そんなの分かりきったことじゃないか。
先程までの熱量が急激に冷めていく。ある意味で緊張が溶けてよかった。
「じゃあこれ頼みましょうか。カップルじゃないですけど」
わざわざ嫌味を言う自分が憎らしい。
というか今さらだけどこれ頼んで良いのだろうか。でも本当に美味しそうなんだよなぁ。
近くを歩く店員さんを呼ぶと、メニューを指差し注文する。
「この…………カ、『カップル限定プレミアムシフォンケーキ』お願いします」
改めて名前を読むと何とも恥ずかしい。
「え!? こちらのプレミアムシフォンケーキをですか!?」
読むのそこだけでいいのかよ。
「た、大変失礼しましたー!」
店員は何故か突然謝りだし、厨房奥へと姿を消した。一体何事だ。
「どうしたんでしょう?」
彼も私も何が何だか分からない。お互いに顔を見合わすと首を傾げる。
それから少しすると、先ほどの店員が焦った様子で戻ってきた。その腕にはピンク色のクロスが抱えられている。おいおいまさか。
「も、申し訳ありません。私、人間とニルヴィアのカップルを見るのは初めてでして……!」
言いながらテーブルクロスを引き直し、他のテーブルと同じ様にカップル仕様にしてくる。いや、これは中々に恥ずかしい。とはいえあのメニューを頼んだ以上は止めるわけにもいかない。
「すぐにケーキの方お持ちしますので!」
また急いで厨房の方に戻ってしまう。世話しない店員だ。
改めて机を見ると、ピンク色のテーブルクロスが眼前に広がっていた。他の席は遠くてよく見えなかったが、テーブルクロスの真ん中には看板と同じエルフと人間のキャラクターが描かれており、その真ん中にこれまた大きなハートがあった。
「ちょっと恥ずかしいですね……」
照れるように身体を縮こませる秋島先生。実際ちょっとどころかかなり恥ずかしい。こういうことを平然とやってる若い世代が素直に羨ましい。
「すいませんね……。私なんかで」
脳内で留めておくつもりだった言葉が漏れ出す。ハッとなり急いで自分の口を封じるがもう遅い。
まずい、絶対今の嫌味に聞こえたよな。というか実際嫌味だしな……最悪すぎる。
激しい自己嫌悪。そんな様子の私を見て、優しい表情になりながら語りかけてくる。
「リルア先生は、どうしてそんなに自分を卑下しているんですか?」
「え、だって私はニルヴィア族で…………あなた達にとっては子供と変わりなくて……」
自分で言っていてどんどん声が小さくなる。ニルヴィア族に産まれたことを後悔しているわけではない。ただ、やはりそれでもこの肉体はハンディが強いと思ってしまうのだ。主に異性関係で。
「でも僕はリルア先生を大人だと思ってますよ。生徒にしっかり接しているし、お酒だって飲める、女性としての魅力も…………僕はあると思います」
「へ!?」
今何かとんでもないこと言わなかったか!?
言った本人も自覚はあるのか、頬を赤らめ視線を反らす。
「そ、それは……」
「大変お待たせしました!」
私と彼の話を遮り目の前にプレミアムシフォンケーキが出現する。
いや、目茶苦茶美味しそうなんだけど! 今は違う! 話の続きを!
「改めて本当に申し訳ありませんでした!」
店員が頭を下げて謝ってくる。その声からは心の底から謝罪しているのが感じ取れた。それだけに心が痛い。
「い、いえいえ、お気になさらず……」
実際カップルではないしな。そこまで申し訳なさそうにされるとむしろ罪悪感が沸いてくる。
というか教師的にはアウトじゃないか?
いやいや、そもそも『恋愛成就』が売りの店なのだからカップル未満の男女が食べても良いだろう!
そんな風に自分を正当化する自分が凄い嫌だ。
「では、どうかごゆっくりお楽しみください……」
「ありがとうございます」
店員が離れたのを確認すると、先程の話を続けようとするが、
「ではいただきましょうか」
笑顔で言う秋島先生に圧され、言葉を発せなかった。
「え、あ、あぁ……そうですね」
ま、まあ食べた後でいいか。
メイドが奥のテーブル席へ案内してくる。
歩きながら店内を見渡すが、当然と言うべきか、来店している客はどうみてもカップルと呼べる二人組がほとんどだった。中にはニルヴィア族のカップルもいる。それらカップルの席は全てにはピンク色のテーブルクロスが引いてあり、見ているだけで胸焼けしてしまいそうなほどだった。
何故か私達が案内された席だけは茶色いテーブルに白いテーブルクロスのシンプルな様式であったが、あんな席に案内されたら恥ずかしさで死んでしまうので、個人的にはありがたい。まあ本音を言えば少しだけ残念だったが……。
二人で席につくと、お互いに向かい合う体制になる。改めて全貌を見せる自分好みな男の顔に、恥ずかしくなって視線を反らす。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って不思議そうな顔でこちらを見る秋島先生。
あんまり見ないでくれ。恥ずかしいから。
「とりあえずメニュー見ましょうか」
彼がメニューを開きながらこちらに渡してくる。メニューにはケーキ以外にもパスタやスープなどの食べ物も存在していた。
意外としっかりしたものもあるんだな……。まあ少なくとも今日はそれらの匂いが一切しないが。
というかこの雰囲気でケーキ以外を頼むのは相当な度胸が必要そうだ。
「えっと……」
何かを言いよどむ秋島先生。その表情はまるで合格発表を見に行く子供のような緊張が見てとれる。
「何か?」
「い、いえ、せ、せっかくですし、これ、頼んでみますか!?」
彼が指差した先には『カップル限定プレミアムシフォンケーキ!』の文字があった。写真には大きなケーキに白い雪のようなチョココーティングがされたものが写っており、私の食欲を刺激する。
いや、問題はそんなことではない。これが"カップル限定"というところだ。
「…………」
言葉が思い付かない。心臓の鼓動が花火でも爆発しているようにうるさい。これを食べたいということは、
ーー何を隠そうここのケーキは恋愛成就のケーキなのです
今は亡き高垣先生の言葉が思い出される。
待て待て、流石にそれは飛躍しすぎだ。そんな都合の良い話があってたまるか。
「だ、駄目ですかね?」
「秋島先生は……」
いや、ここは大人の余裕を見せろミリア。少しでも大人の女であることをアピールするんだ。
「私と、これを食べたいんですか?」
…………何? 何を言っているの私は。そんなもんどう答えられたら正解なんだ。自分で質問しておきながら答えが分からない。
「…………はい」
「へ?」
あまりに素直な答えに間の抜けた声が私の許可なく排出される。
えっと、それは私とカップルと思われても良いと言うことで、それはつまり……、
「だってリルア先生、ケーキ好きなんですよね? どうやら期間限定みたいだしせっかくなら」
言われた通り、ケーキには期間限定の文字が書いてあり、しかも日付は丁度今日が最後であった。高垣先生のことを考えると何とも悼まれない。
そんな親切な理由に少しだけ、本当に少しだけ傷つく。我ながら心の狭い女だ。分不相応なのはわかっているだろうに。
「あ、あぁ、そういう……」
全く、何を考えているんだ私は。ニルヴィア族を恋愛対象に見る人間なんて基本的にはいない、そんなの分かりきったことじゃないか。
先程までの熱量が急激に冷めていく。ある意味で緊張が溶けてよかった。
「じゃあこれ頼みましょうか。カップルじゃないですけど」
わざわざ嫌味を言う自分が憎らしい。
というか今さらだけどこれ頼んで良いのだろうか。でも本当に美味しそうなんだよなぁ。
近くを歩く店員さんを呼ぶと、メニューを指差し注文する。
「この…………カ、『カップル限定プレミアムシフォンケーキ』お願いします」
改めて名前を読むと何とも恥ずかしい。
「え!? こちらのプレミアムシフォンケーキをですか!?」
読むのそこだけでいいのかよ。
「た、大変失礼しましたー!」
店員は何故か突然謝りだし、厨房奥へと姿を消した。一体何事だ。
「どうしたんでしょう?」
彼も私も何が何だか分からない。お互いに顔を見合わすと首を傾げる。
それから少しすると、先ほどの店員が焦った様子で戻ってきた。その腕にはピンク色のクロスが抱えられている。おいおいまさか。
「も、申し訳ありません。私、人間とニルヴィアのカップルを見るのは初めてでして……!」
言いながらテーブルクロスを引き直し、他のテーブルと同じ様にカップル仕様にしてくる。いや、これは中々に恥ずかしい。とはいえあのメニューを頼んだ以上は止めるわけにもいかない。
「すぐにケーキの方お持ちしますので!」
また急いで厨房の方に戻ってしまう。世話しない店員だ。
改めて机を見ると、ピンク色のテーブルクロスが眼前に広がっていた。他の席は遠くてよく見えなかったが、テーブルクロスの真ん中には看板と同じエルフと人間のキャラクターが描かれており、その真ん中にこれまた大きなハートがあった。
「ちょっと恥ずかしいですね……」
照れるように身体を縮こませる秋島先生。実際ちょっとどころかかなり恥ずかしい。こういうことを平然とやってる若い世代が素直に羨ましい。
「すいませんね……。私なんかで」
脳内で留めておくつもりだった言葉が漏れ出す。ハッとなり急いで自分の口を封じるがもう遅い。
まずい、絶対今の嫌味に聞こえたよな。というか実際嫌味だしな……最悪すぎる。
激しい自己嫌悪。そんな様子の私を見て、優しい表情になりながら語りかけてくる。
「リルア先生は、どうしてそんなに自分を卑下しているんですか?」
「え、だって私はニルヴィア族で…………あなた達にとっては子供と変わりなくて……」
自分で言っていてどんどん声が小さくなる。ニルヴィア族に産まれたことを後悔しているわけではない。ただ、やはりそれでもこの肉体はハンディが強いと思ってしまうのだ。主に異性関係で。
「でも僕はリルア先生を大人だと思ってますよ。生徒にしっかり接しているし、お酒だって飲める、女性としての魅力も…………僕はあると思います」
「へ!?」
今何かとんでもないこと言わなかったか!?
言った本人も自覚はあるのか、頬を赤らめ視線を反らす。
「そ、それは……」
「大変お待たせしました!」
私と彼の話を遮り目の前にプレミアムシフォンケーキが出現する。
いや、目茶苦茶美味しそうなんだけど! 今は違う! 話の続きを!
「改めて本当に申し訳ありませんでした!」
店員が頭を下げて謝ってくる。その声からは心の底から謝罪しているのが感じ取れた。それだけに心が痛い。
「い、いえいえ、お気になさらず……」
実際カップルではないしな。そこまで申し訳なさそうにされるとむしろ罪悪感が沸いてくる。
というか教師的にはアウトじゃないか?
いやいや、そもそも『恋愛成就』が売りの店なのだからカップル未満の男女が食べても良いだろう!
そんな風に自分を正当化する自分が凄い嫌だ。
「では、どうかごゆっくりお楽しみください……」
「ありがとうございます」
店員が離れたのを確認すると、先程の話を続けようとするが、
「ではいただきましょうか」
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