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序
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【BLUE BLOOD BLOOM】
0,
BLUE ROSE (英) 一、奇跡。 二、この世に存在し得ないものの総称。
濁った緑の曇天から降るのは酸の雨。酸に溶かされて、侵入者の少年が築き上げた魔界の兵士らの死体が湯気と腐臭を放つ。淀んだ空気を気にもせず相対する少年と少女は得物を構えたまま、睨み合う。
少年はボロ布を適当に継ぎ合わせたような生成りの上着と黒い袴姿。ざっくりと適当に切られた白髪、海のように青い瞳には憂いが浮かぶ。
対する少女はオレンジ色に金の飾りが付いたエキゾチックな踊り子の如き衣装とゆったりとしたシルクのパンツだ。ショートボブの栗毛は緩やかに波打ち、少年とは対照的に青い瞳は氷のように冷めきっていた。どちらも幼さを残した風貌のまま、酸雨に服が焼けるのを気にもかけずに脇差を少年に突きつける。
先に口を開いたのは少年だった。
「……どうして何も訊かないの? ユーリ」
「話など必要などないからに決まっているじゃない。それとも大義名分が欲しいの? たった一人の同胞を斬る為に――ノラ?」
少年は細身の体躯にはおおよそ似つかわしくない大薙刀を握り直す。くつりと笑ったのは口だけ。透き通った青の双眸は哀しく揺れていた。
「そう、だったね……」
中途半端に伸びた前髪が悲しく揺れる瑠璃色に近い青の双眸を覆い隠してしまう。
自嘲の笑みが消えると同時にノラは地を蹴った。
瞬時にゼロになる二人の物理的な距離――なのに心は曇天の空よりも遠い。
ユーリと呼ばれた少女は、手にしていた脇差でノラの刃を滑らせて勢いを殺す。
まともに受けたらユーリの脇差など一撃で真っ二つになってしまうほどに、ノラの一閃が重い。
ぬかるんだ地面に手をついたせいで左手の皮膚が酸に焼かれて痛みを放った。
「――……っ!!」
「どうした、命じろ」
武器と性別のハンデはやはり大きい。ノラの疾風怒濤の追撃を弾くだけで精一杯のユーリの影からよく通るバリトンの声が聞こえてきた。
「駄目!! 全員待機よ……これは私達二人の戦いなんだから!!」
「彼でしょ? 呼びなよ。ボクは全員相手でも構わない」
影に声を荒げるユーリに薙刀の刃と同じ視線をしたノラがぽつりと呟いた。
「嫌」
「強情だな……後悔しても、知らないから」
酸の雲よりも濁った瑠璃の双眸が、同じ色の瞳を圧倒する。風切り音を立てて振りかぶった薙刀は、一切の容赦なくユーリに振り下ろされた。
to be continued...
0,
BLUE ROSE (英) 一、奇跡。 二、この世に存在し得ないものの総称。
濁った緑の曇天から降るのは酸の雨。酸に溶かされて、侵入者の少年が築き上げた魔界の兵士らの死体が湯気と腐臭を放つ。淀んだ空気を気にもせず相対する少年と少女は得物を構えたまま、睨み合う。
少年はボロ布を適当に継ぎ合わせたような生成りの上着と黒い袴姿。ざっくりと適当に切られた白髪、海のように青い瞳には憂いが浮かぶ。
対する少女はオレンジ色に金の飾りが付いたエキゾチックな踊り子の如き衣装とゆったりとしたシルクのパンツだ。ショートボブの栗毛は緩やかに波打ち、少年とは対照的に青い瞳は氷のように冷めきっていた。どちらも幼さを残した風貌のまま、酸雨に服が焼けるのを気にもかけずに脇差を少年に突きつける。
先に口を開いたのは少年だった。
「……どうして何も訊かないの? ユーリ」
「話など必要などないからに決まっているじゃない。それとも大義名分が欲しいの? たった一人の同胞を斬る為に――ノラ?」
少年は細身の体躯にはおおよそ似つかわしくない大薙刀を握り直す。くつりと笑ったのは口だけ。透き通った青の双眸は哀しく揺れていた。
「そう、だったね……」
中途半端に伸びた前髪が悲しく揺れる瑠璃色に近い青の双眸を覆い隠してしまう。
自嘲の笑みが消えると同時にノラは地を蹴った。
瞬時にゼロになる二人の物理的な距離――なのに心は曇天の空よりも遠い。
ユーリと呼ばれた少女は、手にしていた脇差でノラの刃を滑らせて勢いを殺す。
まともに受けたらユーリの脇差など一撃で真っ二つになってしまうほどに、ノラの一閃が重い。
ぬかるんだ地面に手をついたせいで左手の皮膚が酸に焼かれて痛みを放った。
「――……っ!!」
「どうした、命じろ」
武器と性別のハンデはやはり大きい。ノラの疾風怒濤の追撃を弾くだけで精一杯のユーリの影からよく通るバリトンの声が聞こえてきた。
「駄目!! 全員待機よ……これは私達二人の戦いなんだから!!」
「彼でしょ? 呼びなよ。ボクは全員相手でも構わない」
影に声を荒げるユーリに薙刀の刃と同じ視線をしたノラがぽつりと呟いた。
「嫌」
「強情だな……後悔しても、知らないから」
酸の雲よりも濁った瑠璃の双眸が、同じ色の瞳を圧倒する。風切り音を立てて振りかぶった薙刀は、一切の容赦なくユーリに振り下ろされた。
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