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復帰の章

指名クエスト

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「……そういうことかい」
 全てを聞いたディッチは呆れた。シュウがいるかもしれないというのに、何をのんびりやっていたのだと問い詰めたくなるが、カナリアがそういう体験をして来ていないことを考えると、ジャッジを責められない。
「そういうことなら一言、俺たちに連絡を入れてもらえれば助かった」
「……すみません」
 カナリアがしょんぼりとしていた。
「兄貴、もう少ししたらガレの辺境の村で屋台クエなかったっけ?」
 スカーレットが助け舟を出してきた。
「ある。というか、指名クエストがガレ連邦共和国政府から来た」
 その言葉に全員がディッチを見た。
「『初心者の町』を出たPCが次にたどり着く集落の一つが、この辺境の村なんだ。だからPCも装備品が少なく、『死に戻り』を繰り返すPCが多い。そういったことからガレにたどりつくPCが少ない。それを解消して欲しいという依頼だ」
 もう一つはソフィル王国の要塞都市「シルレンド」である。こちらは要塞都市というだけあって、装備品もそれなりに手に入る。
 そのため「死に戻り」も少ないのが特徴だ。
「大半がネットでそれを見て、次に行く場所を決める。だと、通常であればシルレンドに向かうPCが多いし、実際長く拠点にすることもある。……かくいう俺もそうだったし」
 その言葉に古参のメンバーも頷く。ずっと「初心者の町」から動かなかったのはカナリアくらいだ。そのあと入ってきたメンバーは、適当にディッチの車で移動しながらクエストをこなしてきた。
「パワーバランス上、それでいいというのがソフィル王国側だが、ガレ連邦共和国としては面白くない。それで屋台クエストを月に一度行う。そうすることによって、辺境の村においていない装備を購入することが出来る」
「だと、今回の指名クエストは……」
「そう、初級のプレイヤーでも使える武器防具、それからアクセサリーを永年間屋台で出すことだ」
「永年!? ……でもさ、無理だと思うけど。辺境の村をさっさと出て、次の町に行くに一票」
「同感」
「同じく」
 スカーレットの言葉にベテラン勢が同意する。
「俺も思った。だから俺としてはまず今回は屋台として出す。そのあとからは定期的に残り物で作った武器防具を辺境の村に卸す。カナリア君のアクセサリーも、と思ったけど一番低価格で流通している『銀の腕輪』はあの町以外に卸すつもりはないんだろう?」
 その言葉にカナリアはこくんと頷いた。現在カナリアの作る「銀の腕輪」は初心者の町でのみ流通している。そして、以前受けたモンスター襲撃から立ち直るための大事な財源と化している。
「まぁ、最近の売りだからなぁ」
 その提案をするのに、どれくらいの交渉をしたというのか。思い出しただけで疲れたような顔をディッチがしていた。
「本当のこと言うと、ギルド本拠地は首都関連に置きたくなかったんだよなぁ」
「同感。『初心者の町』に置きたかったのにさ。ギルドカウンターで物申したもんね」
 ディッチのぼやきにスカーレットがすぐさま同意してきた。

 結局、カナリア自身がまだリハビリ中ということもあり、出来るときにやる形でおさまった。
 カナリアが全くゲームをしていない間に、パパンたちが適性を見つけていた。パパンは「魔法学者」、ママンは「薬師」、トトは「武道家」、カカは「シーフ」、ユーリが「暗殺者」だった。この中で誰が意外かというと、ユーリだったりする。
「だって、昔からそういったことしかしてませんもの。ディッチさんはどちらかと言えば、魔法職ばかりでしょう? だと一緒に行く私は必然と前衛になるんです」
「酷いな。ユーリが一緒にやってたら、クレリックは選ばなかったけど? ユーリをクレリックにするために多分努力したよ」
 だってユーリに怪我させるくらいなら、俺が怪我してユーリに治してもらいたいからね。あっさりと惚気るディッチと、真っ赤になるユーリがそこにいた。
「言っとくけど、カナリアちゃんたちも兄貴たちと五十歩百歩だかんね?」
 スカーレットに釘を刺された。
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